第29話 光陰矢の如し

 「思い立ったが吉日とも言うし、今日今からここ行かない?」


 土曜日、久しぶりに特に何も予定がない日だったが、朝早くに灯花からお出かけのお誘いが来た。


 待ち合わせ場所は、水族館だった。


 「ごめんね〜朝早くから呼び出しちゃって」


 「いいよいいよ、今日はどうせ予定なかったし……なるほどここね」

 

 付き合うことになってからというもの、まだ遊ぶにしてもカフェやデパートなどが多くそこまで遠出をしてりこういういわゆるデートスポットに行くこともなかった。しかも事前に場所や時間などは決めていた。だから、このケースは初めてだったので、内心俺もいつもよりワクワクしていた。


 「そう!今朝たまたまテレビで水族館の映像見ちゃってね、しかも最近暑くなってきたからさ!!何かしたいと思ったら、その日のうちに動くのが吉って言うじゃん?」


 「まぁ、思い立ったが吉日とはよく言うしな……にしても、ほんと何着ても似合うよな、すごく可愛いと思う」


 彼女は何を着ても似合うと思ってはいるが、涼しげな白のワンピースが非常に似合っていて、思わずどストレートに本音が出てしまった。


 「……いきなり何を言い出すのかと思ったら……会ったばかりなのに照れさせるの、反則すぎるよ」


 彼女は微笑しつつも顔を赤くしていた。あぁ、可愛いやつめ。


 そんな感じで談笑しつつ水族館へと入る。中は珍しく人がそれほど多くなく、スムーズに見て回ることが出来た。どのエリアも非常に涼しく、所によっては仄暗かったり、明るかったりと、雰囲気も抜群だった。そりゃこぞってカップルがデートに来るわけだ。

 

 ……完全なデートということをここに来て思わず顔が赤くなってしまった。とりあえずバレずに済んだが。




 「見て!マンボウだ!!」

 急に灯花が俺の手を握って駆け出した。そういえば、何回か一緒に手を繋いで帰ったことはあったけど、やはりまだ慣れない。どうしても赤面せずにはいられなかった。だって隣にこんな美少女がいたら……ね。たまに見せるこーいう一面もほんと可愛すぎる。




 「イルカショーが見れる頃に、また来ようね!」


 「そうだね、行こう」、

 普通に水族館は楽しかった。やばいくらいに。見たことのない生物というものはどうも男子のテンションを上げるらしい。

 途中から俺も灯花と同じくらいの声色で楽しんでいた。




 「涼」

 

 「どした?」


 帰り道、不意に彼女が振り向いて俺の名前を呼んだ。


 「私たちが学生でいられる時間なんて、ほんと光陰矢の如しなんだから……行ける時に出来るだけいろんな所に行こうね!」


 「当たり前だ。灯花との時間を一ミリも無駄にするつもりはないよ」


 「そう言ってくれて嬉しい。ありがとう」

 彼女は満面の笑みでそう言ってくれた。


 時間を無駄に過ごしてはいけないという一寸の光陰軽んずべからず、という似た言葉もあるように、月日が立つのもあっという間なのだ。だから、彼女と一緒にいられる時間をこれからも大切にしていこうと改めて思った日だった。

 

 

 


 

 


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