第27話 喜色満面

 「ねぇ、本当に、付き合っちゃう?」

 少し頬を赤らめて、悪戯な小悪魔のような顔で、彼女はこう言った。


 ん???え?は?マジ????

 俺は頭の中が一瞬で真っ白になった。そして徐々に顔が真っ赤に熱っていくのを感じた。


 てか初めて見たけどそんな小悪魔顔反則は???

 ────いやいやそんなことを考えてる場合ではない、冷静にならなくては。



 「……本気……??」


 「……本気じゃなきゃ、こんなこと言わない。涼といる時間が、私が一番素でいられる時間でもあるから」

 顔は笑顔だったが、その目は真剣そのものだった。


 顔の火照りが先程よりもさらに増してきていた。胸の鼓動も次第に速くなってきている。まずい。


 気づけば彼女も先程よりも顔が気持ち赤くなっていた。


 少しの間、沈黙が続いた。



 

 「とりあえず、一旦学校出ない?」

 「とりあえず、帰ろっか?」

 被った。しかも考えてることは同じだった。



 たしかに流石にここじゃ色々と……あれだもんな。今は近くに誰もいないから助かっているが、もうすぐすれば部活終わりの生徒たちが大勢来るに違いない。


 

 二人で帰る帰り道は、よく見慣れた街並みのはずなのに、なぜか新鮮で温かく感じられた。


 「もし、ちゃんと付き合っているってことが多少でも広まれば、私が男子に変な絡みされたり、変な噂立てられたりすることも無くなると……思うんだけど」

  

 いやそれはそうだけど……確かに、彼氏がいるって分かれば男どもは多少なりと手を引くはず。

 でも、それは俺以外の誰かと付き合っても別に同じこと────


 そこまで考えた途端に、なぜか胸が痛みつけられるような感覚に陥った。

 秋風灯花──幼馴染が他の誰かと付き合うのを想像すると、なぜだか無性に胸が──


 

 そうか、この気持ちは────


 薄々勘づいてはいた。

 でも、最初は俺なんかが……という思いしかなかったので、自分の気持ちを無視していた。


 

 ……自分の気持ちに蓋をするのはもう止めるか。



 「決して私の気持ちは遊びなんかじゃなくてね────」


 今度は俺が彼女の言葉を遮って言った。


 「これまでずっと自分なんかじゃ釣り合わないと思って、気持ちに蓋をしてきたんだと思う。気づいたら灯花の事で頭が一杯になるくらい、好きだ。君に釣り合うような人間になるから、良ければ俺と付き合ってほしい」


 かつてないほど顔が熱かった。もはや緊張で自分がどんな顔をしていたかも分からないし、ちょっと言葉もぐちゃっと噛んでしまった。


 「うん、ありがとう……こちらこそよろしくね」

 彼女は精一杯の笑顔でそう答えた。その顔は喜びが包みきれず、表情に溢れ出ているようだった。


 そこからまた沈黙が続いた。

 それは、お互いに相手の顔を見れないくらい照れていたからだった。

 


 「……涼の顔、すごく喜色満面にあふれてる」

 照れと恥ずかしさによる沈黙の間を先に破ったのは彼女の方だった。


 「灯花だって、さっきものすごく喜色満面だったぞ?」


 「嬉しそうな表情が溢れて顔一面に表れてる……今の表情にピッタリだよね。まぁ、これだけ嬉しいことがあれば、ね!」


 「俺もこんな顔出来たんだな、俺自身が驚いてるよ……」


 そうして、お互いに笑い合いながら、仲良く帰り道を歩いていった。

 この時間が一生続けば良いのに、と思うくらいに、この時間は幸せで満ち溢れていた。


 夕焼けの光が二人を祝福するかのように、煌々と照らし続けていた。


 

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