第25話 意気消沈

 「よくこんなオシャレな所知ってるよな」


 「まぁ、私の情報網を舐めないでほしいな」

 

 待ち合わせ場所から歩いて数分のところに、目的のカフェはあった。オープンしてまだ数日ということで、店内はかなり満席に近い状態だったが、幸運にも少し待つだけで座ることができた。


 「………どれが良いのかさっぱりわからん」


 「あーじゃあ、これが気になるから飲んでみてレビューしてみてよ!私は既に決めてるから!!」


 なるほど、気になるメニューが複数あるけど全部行くと太る……かもしれないから俺に味の感想を教えてほしいってことね。まぁ優柔不断な俺にとってはこれのほうが悩まなくて良いから好都合だけども。


 しばらくたわいもない話をしながら待つと、とてもオシャレで美味しそうなドリンクが出てきた。


 ──意味がわからないくらい美味しい。なんだこれは、俺はひょっとしてかなりの甘党なのかもしれない。


 灯花もとても美味しそうにドリンクを飲んでいた。……というか追加でパンケーキも頼んでいた。わーお、たくさん食べても太らないんだろうな、きっと。


 半分くらい食べた所で彼女が手を止め、少し悲しげな表情をしながら話し始めた。


 「……高校に入学してから、一週間経ったよね。なんかもう、人付き合いに疲れちゃった。完全に意気消沈いきしょうちんって感じ?」


 相談事は俺の想像とは全く正反対のものだった。


 「なるほど、元気とか気力とか諸々が衰えてきてるって感じか」

 

 「そうそう。でも、今更キャラ崩したくないし、もうしばらくは頑張るけどね」


 なにか無理やりに作ったような笑顔が、どうしようもなく悲しげに見えてしまい、聞いている俺まで心が痛くなってしまった。


 「分かった。いくらでも相談相手になるから、とりあえず原因を話せる範囲でいいから話してみて?」


 中々一度も弱みや困っている姿を見せることのない彼女が、重そうな悩みをかかえている。いくら平穏な生活を望んでいるからとはいえ、流石に放っておくなんてことは俺の良心が許さなかった。 

 

 「ありがとう。私が中学の頃から男女構わず人気……だったのは流石に知ってるよね?」


 「流石にそれはな」


 「いつだろう、中学二年生の後半くらいからかな?それまでは何ともなかったのに、男子の視線がいつのまにか、怖くなってきたんだよね。私を推してくれたり良く接してくれてるのはありがたいんだけど、時々過剰な奴とかいたし、結構な人数から告白もされて……なんか……ね、そーいう目で見られるのが増えて疲れてたんだよねあの頃」


 「まぁ、普通に可愛くてスポーツも出来るんだからそりゃ人気にもなるよな。俺のクラスでもファンは結構いたと思うぞ」


 「……しれっと褒めるの、ずるい」

 なんかすごーく小さな声で何か言われた気がしたが、どうせ気のせいだろう。


 「でね、そうなると、必然的に女子同士でよく遊んだりつるんだりするんだけど、ほんと良くしてくれてる子もいたよ。でも、私に嫉妬してたのかな、結構裏で色々言われてたみたいでね、まぁ表面ではそんなこと全然気にしてないように過ごしてたよ。でも、内面じゃ結構傷ついてたんだ。で、高校に入って、何回かクラスメイトとも遊んだけど、やっぱりそういうことを裏で言ってる人間がクラスにもいるのを聞いちゃってね。もう何をどうすればいいんだろうって思っちゃった」


 泣きそうな顔でここまで話す彼女を見るのは初めてだった。明るく元気な笑顔の裏には俺の想像の何倍もの苦労があったのだ。


 「元々あれこれ色々と変に考えすぎちゃうこともあって、少し気疲れしやすい性格だったのかな、小学生の時も、当時は理解してなかっただけでそういうことがあったんだと思う」


 話を色々聞いて、この短時間だけでは、最適解の返答を思いつくことが出来なかった。それくらい、彼女は悩んでいたのだろう、そしてこれをどうにかして力になってあげたいと心から思った。



 「あっ、一つ勘違いしないでほしいから念のため言っておくけど、涼と一緒にいる時間は、なんだかすごく安心できるし、とても楽しいよ?だから、お願いだから、これからも仲良くしてね!」


 「分かってる、俺に出来ることがあるなら、何でも協力するから!」


 俺は今できる最大限の笑顔でそう返事した。もはや、悠々自適な高校生活を送りたいという当初の気持ちよりも、放っておけない、力になりたいという気持ちの方が優っていた。


 

 

 

 

 


 

 


 

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