第22話 才色兼備

 休み時間になった途端、俺は秋風に話しかけられた。 

 

 「ねぇ、私のこと、忘れちゃった?」

 首を傾げながら、秋風灯花は俺に尋ねてくる。


 「……忘れるわけないじゃないですか、秋風さん」


 「──名字じゃなくて、『灯花』って名前で呼んでほしいんですけど」

 

 俺の返答が気に食わなかったらしく、少し不機嫌そうに彼女は言った。


 「……といっても、中学じゃ全然喋らなかったしなぁ、俺と違って君はクラスの人気者で、男女問わずファンがたくさん居たもんな」


 「まぁ、私はいわゆる才色兼備さいしょくけんびってやつだったんだし、人気出ちゃうのも仕方ないよね〜あはは」

 

 「自分で自分のこと才色兼備って言う奴初めて見た……まぁ、勉強もスポーツも両方才能あって、なおかつ容姿も綺麗なのは認めるけどさぁ」


 彼女が才知を兼ね備えた人間ということは否定しようがないので、素直に認めた。

 

 すると、少し前までは笑いながら喋っていた彼女が、俺が綺麗って言った瞬間少し顔を背け赤らめた表情をしたように見えた。


 実際、本当に久しぶりの会話だった。

 

 想像以上に会話が心地よくて、なんだか心が清々しい気分になったのだが────


 「………おい、他の女子たちが何だか話したそうにこっちを見てるぞ」

 二人の空間を外れ、少し外に目を向けると、なんだか視線が俺たちに想像以上に集まっていた。

 中学生の頃の彼女の人気ぶりを思い出せば、それは無理もない話だった。

 

 「じゃ、また放課後にでも喋ろっか!」


 和やかな笑顔で俺に手を振り、クラスの女子たちの方へ向き、すぐ会話に混ざっていった。



 なんだかこの時間、男子生徒の視線が少し痛かった気がするが、深く考えないことにした。


 


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