第304話 祭りの後の寂しさ

 ビジュアルディスクや物語であったのならば全てが終わったら、めでたしめでたしでさっくり何事もなかったように日常へ戻るのだろうが、現実はそうならない。実に残念ながら……ええ、実に残念ですよ、本当に……


 はい、ライジグスで宰相などをやっておりますレイジと申します。名実共に、ライジグス一の苦労人の称号をいただき、現在復興作業に勤しんでいるところでございます。


 え? パパンはどうしたか? えー、残念ながら我らが英雄であり、我らが偉大な王は、現在腹に大穴をこさえて意識不明の重体になった罪を償う為に、新しく加わったお嫁さん方に連れられ、約現実時間で二週間、時間加速装置換算だと一千万年の贖罪の旅に出掛けており不在です。なので復興作業の一切合切をわたくしが仕切っている、という状態なのです……このクソ忙しい時にあのクソ親父はもう……


 こほん! ええー、それではざっくりと顛末を。


 まずはアダムうんちゃら、あれは然るべき存在が責任を持って回収していかれました。はい、わたくし始めて神という存在と対面しましたが……案外ざんね……げふん! げふん! いえいえ、実に親しみのある方でしたね、はい。


 この世界の創造主であられる女神フェリオ様によれば、無限の更に先にある虚無の空間で色々とやらされるようで、もう今回のような事をしでかすような力を持つ事はないだろう、と確約をいただきました。なのでアダムうんちゃらはご退場と、相成りましたね。


 次、突然戦場に現れたレガリアだらけの集団に関して。これは国王がバッサリとアダムうんちゃらを一刀両断した瞬間に消えてしまいました。お礼をしたかったのですが、国王曰く『先の話になるけど、出会う事になるからその時にでも言えばいいんじゃね?』などとのたまわっていたので、覚えていたらお礼をしたいと思います。


 まぁ……なぜか数人、トト様とルミ様等々の技術系の方々は残って、技術開発部のラボで色々な事をなさっておりますが……これ以上の変態は必要ないので、ちょっとお引き取り願いたいところではあります。


 ……いやまぁ、あれでも神様らしいので、お取り引きとか言って神罰でも喰らったら洒落にならんので、面と向かっては言いませんけども……


 ああそうそう、パパンから色々聞きまして、神様どうこうもしっかり把握しておりますよ。はははははは、しっかりわたくしも眷属にカウントされているらしく、お陰で死後の就職先も決まっておるとか……あのクソ親父、いつかシバく……


 こほん! あー失礼しました。


 次はアリアン様、アリシア様、ミリュ様の事ですが、前の話題からも分かったかと思われますが、父タツローとの結婚が決まりました。はい、暴走していたわたくしのミスなどもあって、頭を丸める覚悟をしていたのですが、許されましたね。もちろん、再び同じような事をしないように、嫁達にも諌めるようお願いしてます……どうしたんだい? そんなパシンパシン拳を手のひらに打ち付けて? ん? 拳を守って攻撃力を上げる武器を新調したと? ははははは! そんなので殴られたら死んでしまいますやめてください。


 けふけふ! えー失礼しました。話が逸れましたね。ではアルペジオの話でもしましょうか。


 アルペジオはアダムうんちゃらの一撃を受けて、外部装甲が凹んだ程度で済みましたが、中枢部にはそれなりにダメージを受けており、またファルコンのメインフレームにも甚大な被害が出ていました。これのせいで通信関係がおかしくなりましたしね。これに関してはトト様が新しいフレームと、諸々の修繕をして下さったので問題はありません。


 問題はありませんが……あんなに可愛かったファルコンが、ムキムキマッチョな中性的な少年の擬体に入れ換えられてしまって……まぁさすがに許容出来なかったメイド隊から猛抗議を受け、直ぐに元通りに戻りましたけど……あのインパクトは凄かったです。


 フルチャージ! ライライジャー! はい、これもやってくれましたクソ親父! 案件ですな。映像等を確認し、彼らがどれ程アルペジオの治安維持と救命活動に貢献したのかは理解しております。何より、子供達からの支持もあって、今後は災害救助活動専門のレスキューチームとして活躍してもらおうかと画策しております。


 特にめざましい活躍をしていたクラウド氏には、既に国としてスカウトしまして、現在レスキューチームのリーダーとなる為の訓練をしてもらっております。ひいひい言いながらも訓練には食らいついているので、素晴らしい指揮官になってくれる事でしょう。


 災害復興の話と国の枠組みの話をば。


 フォーマルハウトと神聖フェリオ連邦国、そして帝国がライジグスに加入しました。晴れてライジグス大同盟国という超国家が誕生してしまいました。後日、ア・ソ連合体とネットワークギルドも加入するとの事で、銀河丸々一つの超巨大国家が誕生する事に相成りました。


 まぁ無理も無いでしょうな。こちらからレンタルした軍艦の能力を見た後で、それと同等か以上の能力を持つ船を用意し、軍事力を保ちなさい、なんて無理難題をクリアーするよりも、素直に軍門に降って庇護下に入った方が楽ですからなぁ。


 まぁ、フォーマルハウトは元から既定路線としてライジグスの傘下に入る予定であったらしいですし、神聖フェリオ連邦国は鎖国状態の現状に限界を感じていて、ミリュ女王の嫁入りをきっかけに、という感じでしたが。


 えー帝国はですね……皇帝の母という方がフラリとやって来てですね、皇帝を叱りつけてそのまま教育の旅とやらに出ていってしまったんですよ……あはははははは! 何を言ってるか分からない? それを目前で見ていたわたくしも理解を頭が拒絶しましたから分からん。


 まぁ最高意志決定機関その物である皇帝が不在とあって、帝国の官僚、主にスーサイ殿に泣きつかれまして、ライジグスへ降ると、そうなりました。


 棚ぼた的な感じではありましたが、この傘下へ入る行為には利点がかなりありまして、もうライジグスその物なので、最新の国家機密である技術を隠して、わざわざ使い古された枯れた技術を使わなくても良い、つまりは自重しなくて良い状況は復興の速度を上げて推し進めてくれましたので、その点は楽が出来て嬉しいです、はい。 

 

 ああそうそう、ワゲニ・ジンハンの扱いもありましたね。


 コラーザ・ミヒテ様とワゲニ・ジンハンの巫女であるミチカ様、そしてシレッと復活していた三神将に、普通にそこに居たルック・ルックとフランク・カリオストロとその部下達には、アルペジオ近郊にある居住可能惑星を提供しました。


 この決定をしたのは国王陛下で、何でも彼らは女神フェリオが祝福した種族だから、こちらが何かされるような事もあるまい、という判断でした。彼らは恐縮していましたが、まぁあれだけ活躍したのですから誰も文句はありませんでしたよ。それに、アダムなんちゃらが保有していた魂が解放された影響で、問題なく同胞を復活させられるそうですので、国の存続も問題なさそうです。


 話が逸れましたが復興の話。


 ライジグスでの死者は奇跡と言っても過言では無いゼロ人。帝国の死者は億に届いたようで、フォーマルハウトは十数人、神聖フェリオ連邦国は立地的な条件もあってゼロ人、そんな感じの死者数だったのですが、実は帝国の死者数ですらマシなレベルだったんです。


 これは復興作業中の確認によって判明したんですが、いやぁ出るわ出るわ違法建築されたコロニーやステーションがわんさとね。どうやら一部の貴族が極秘裏に建造していたらしく、甘い汁を吸うためだけに用意したようで。その規模やらを単純計算すると、合計で数百億人の死者が出たのではなかろうか、という試算が出まして……あれだけ肉塊やら怪奇生命体が沸き出すわけですよ、本当に何してくれとんねん! という気持ちになりました。


 残念ながらそれらは完全にコロニーやステーションとしての機能を失っており、生存者も発見出来ませんでした。これが宙賊共も一掃出来たから儲けと考えるか、それとも自分達の怠慢が招いた悲劇であると後悔するかは難しいところ。ですが、そのほとんどの違法建築物は旧帝国領に作られていたので、スーサイ殿にチクチクとは文句を言っておきました。胃痛に苦しんでおられるようだったので、わたくしの会社の胃薬もグレートグロス単位で支給しておきましたよ。これからもよろしくねー! 無茶振りすっからー!


 こほん! 次、共和国のお話。


 共和国はほとんど全滅した、と判断しても良いレベルで滅茶苦茶に荒らされていたので、数少ない難民を受け入れて、共和国領域はどのように扱うかをこれから協議していく形に落ち着くかと思われます。ライジグスとしては、そこそこ規模が大きな極地がチラホラと点在しているので、実効支配してしまっても良いのですが、まぁそこは共和国で一番偉い人が存命ですので、そこを踏まえて協議でしょうか。たぶん、我々で面倒を見る事になるでしょうが。


 あの大騒ぎの後の片付けはこんな感じですかね。あんな面倒臭い狂乱騒ぎでも、終わってみれば寂しく感じるのですから、人間という奴は業が深いですね。


「何しんみりした顔してんだ?」

「っ!? あれっ! まだ二週間過ぎてませんよ?!」

「おう、しっかり償ってきたぜ?」


 このパパン、一体ナニをしたんだろうか? 妙にテラテラしてるけど……


「聞きたい?」

「遠慮します」


 ニヤリと笑ってそんな事を口走るので、ノータイムで拒絶すれば、ちぇーつまんねぇー、と口を尖らせる。いやなんというか、妙に幼稚というか若くなったような……


「まぁいいか、レイジきゅんのお嫁さん達に話せばいいだけの事だし」

「やめろよなっ! 絶対に話すなよっ! 凄い悪い予感しかしないっ!」


 そこのわたくしの嫁達よ、そんなキラキラした目でこのクソ親父を見るな! そこ! してやったりの顔で邪悪に笑うな!


「んで、何をそんなにしんみりしてたんだ?」


 クツクツと笑って聞かれたので、あんな狂乱騒ぎでも終われば寂しく感じると話す。


「まぁ、一種の祭りみたいなモンだったしな。命の危険があったからこそ、燃えるみたいなところもあるし」


 分かる分かるよー、パパンも感じます、なんて訳知り顔で頷きやがる。


「そんな事を言ってる場合じゃないのは分かるんですけどね」


 終わっちゃったという感覚は、結構ダウナーな気分にさせる。寂しいだけじゃなく、こう妙に精神を引っ張られるような気分にさせられると言うか……そんな事をつらつら語れば、パパンは朗らかに笑ってわたくし、あーもういいか、俺の肩をパンパンとかなり痛く叩いた。


「バッカだなぁ、終わっちまったならまた始めればいいんだよ」

「え?」


 ライジグス国王タツロー・デミウス・ライジグスは、すっと立ち上がるとニヤリと笑って親指を立てた。


「祭りは終わりがあるから楽しい。なら終わった後でまた新しい祭りを考えて実行すりゃいい。終わっても終わっても、その度に新しい祭りを産み出し続ければ良いのさ。それが多分、ライジグスの歴史って奴になるんじゃねえの?」


 この人は、全くもぉ……


「なら仕事をちゃんと手伝って下さいよ」

「うえぇぇ、マジかよ」


 照れ隠しにそんな反撃をすれば、父はうんざりした表情で項垂れた。これからもきっと自分はこの人に振り回され、時々は振り回して、この国の歴史を作り上げていくんだろうなぁ、と思った。


「次の祭りか」


 これからもきっと楽しい毎日が待っているんだろう。いや多分忙しくてそれどころじゃなくなる可能性が微レ存……


「あ、ここに居た。ガラティアが探してたわよ」

「目を離すと直ぐに姿を消すんですから」

「こっちですよー旦那様ー」


 そんな事をつらつら考えていたら、一気に賑やかになってしまった。


 母達に囲まれてニヤける父の姿を見て、ああやっと日常に戻って来れたと、そんな安心感を覚える。多分、これが次の祭りなんだろう。自分はこれからもこの御輿を担いで、楽しく生きていくんだろうなぁ、とそう思ったのだった。




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