第303話 ばーにんぐ・きんぐ

 アダム君、激おこです。


「ちょあっさーっ!」


 今日から本気を出した系国王のタツローです! そして本気出した瞬間から激おこになったアダム君に攻められてます! なじぇぇ?


 あっちこっちにある大きいつぶらな瞳から、びゃーびゃーとレーザーを発射しやがりまして、さっきから忙しないったらありゃしないっ!


「そんな時にはてれれてってれー! カースーミーうーけー」


 我らがデミウス君が産み出した技術。シールド効率に意図した偏りを作って、シールドが固くなった場所に敵のレーザーを誘導して、弾くような感じにかすらせながらレーザーを潜り抜けて行く技術だ! ひゃっはー! 熟練者同士の戦いだと、まるで宇宙船同士のガンカタみたいに見えるぞー!


 接近戦闘においては絶対に必須とされる技術で、これが出来ないとまともに対人戦闘は出来ないぞ。レッツ! 練習!


「あやつには同情すうのぉ」

「普通に煽ってるだけですものねん」


 せっちゃんとアビィが何か言ってるような気がするが、あーあー聞こえないー。


「とー様すごーぃ!」

「とと様かっくいー!」

「どやぁ」


 ふっふっふっふっ、娘達には父の凄さが分かってしまうようだ。よーし! パパ、もっと張り切っちゃうぞぉ!


 無数に降り注ぐレーザーの雨を、カスミ受けだけで切り抜け、レーザーを三連射。まったく見当違いの方向へ射たれたレーザーを見て、アダム君が馬鹿にしたような嘲笑を浮かべるが……ところがぎっちょん!


「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!?」


 戦っている宙域へ、ただ単に捨てるように放出しただけのミサイルへレーザーが命中し、それがアダム君の死角から飛来して目の一つを潰した。


「新人類狙撃!」


 これもデミウスが産み出した技術。いわゆる置きレーザーや置きミサイルとも言われ、俺が今やったのは発展型の孔明の罠と呼ばれる技術だ。ちょいと歌舞いて奇門遁甲の陣なんて呼ばれ方をしたりもする。


「ほらほらほらほら! オメメは沢山あるだろう? まだまだ行くよ!」


 別の場所に置きっぱなしのミサイルにレーザーが命中して、再び死角から目を潰され、またまた別の場所に置きっぱなしのミサイルにレーザーが命中して――とレーザーを三連射して、三つのミサイルが予期せぬ場所からやって来て、アダム君のつぶらなオメメを三つ程潰した。


 怒り狂って無数の手をブンブン振り回して近寄ってくるアダム君。その腕の一つが直撃コースをたどって、コックピットに当たりそうになったタイミングで、シールド効率をちょちょいのちょいっといじってやれば――


「しぃぃぃぎゃやぁぁぁぁぁぁっ!?」

「使い方は違うが、バニッシュメント、と」


 シールド効率をいじって、船首にシールドの突起物のようなモノを産み出し、その突起で思いっきり直撃コースの腕を殴ってやれば、何の腕を模倣した奴か分からん奇妙な形をしている腕が千切れて吹っ飛んだ。


 本来は、船尾の補助翼の先端に同じような感じでシールドを高質化、それで相手のシールドをぶっ叩いて相手のシールドを割る、という使い方をします。この間の自船シールドが消えている状態なので、これを最初にやったプレイヤーにはもれなく狂人の称号が与えられた技術ですのよ。誰が最初に始めたのか記憶の彼方だが、確か地味で目立たない感じの堅実系プレイヤーだったはず。


「しゃああああああああああっ!」

「おっと」


 俺の方へ無数の瞳を向けて一斉にレーザーを放出し始めた。何々? 数打ちゃ当たる精神ですかい? ぬーふーふーふーふー! ならば見せてやろう! ライジグス国王の力をっ!


「すぅぅぅぅぅぅ……無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄っ!」


 フィールドは甘え! この程度ならばさばききれる!


 俺はコンソールへ指を走らせ、向かってくるレーザーに合わせてピンポイントに小型で高質化したシールドを、タイミング良く当てて行く。


「レッツ! パリィィッ!」


 意味が違う! でもパリィをしているのは本当!


「アシストするが?」

「大丈夫! ありがとう!」


 どこか呆れた様子のせっちゃんの申し出を断り、俺はひたすらアダム君のアイレーザーをパリィで弾きまくる。


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」


 ええぃ! しつこい! 足を止めてひたすらパリングしていると、今度はその攻撃の中に消化液、オレンジ色したゲ○……字面が酷いな……オレンジのレインボー……意味が分からんな……ええい! 吐瀉物じゃ! 何でも溶かす面倒臭い液体をこっちへ飛ばしてくる。


「マカロニっちゃん! ちょっと技術を借りっぜ!」


 素早く主砲を動かし、適当に狙いをつけて、たたたたたたんと素早くトリガーを引く。最低出力で発射されたレーザーが、まったく同じ場所へ連続して命中し、オレンジ色のあんちくしょうはめでたく霧散した。


「これぞチェーンよ!」


 中間距離戦闘の勇マカロニが得意としている技術で、全く同一の場所にフレーム単位の速度で連続して攻撃を命中させる技術だったかな確か、それをチェーンと呼ぶ。我らが上司は、これをパクって完チェーンという上位互換的技術を使ったりするが、さすがにそれは俺にも出来ん。


「まだまだいっくよー!」


 俺がニヤリと笑えば、アダム・カドモンがビクリと怯えたように怯んだのを感じた。




 ○  ●  ○


 周辺の幽霊船団を片したプレイヤー達は、何かに導かれるように、タツローとアダム・カドモンとが戦っている宙域へと近づいて行く。


『誰の船だよ、あの馬鹿デカい戦闘艦は。駆逐艦位はあんぞ?』


 アダム・カドモンの苛烈な攻撃を見て、すぐに手出しは出来ない事を判断したプレイヤー達は、完全に観戦モードでその様子を見ていた。


『あんな動きをする変態となると……デミウスか?』

『いや、遊戯人の宴の船は見てねぇぞ?』

『あっちの厳つい船も見た事ねぇしな。何隻かは似てる船はあっけど、シルエットも武装も違うしなぁ』


 プレイヤー達はやいのやいのと盛り上がり、完全にイベントの終盤に差し掛かったような雰囲気で、そのあり得ない戦いを眺め続けた。




 ○  ●  ○


 マリオンのハンマーシリーズと共に、アリアンやアリシアの艦隊のメンテナンスを行っていたTOTOは、送られてくる映像を見て、楽しげな声を出す。


「ほっほっほっほっ、これはまた大型新神しんじんが現れたモノじゃな」


 笑いながらも神業のような動きで次々と軍艦を直して行く手腕を見せられ、マリオンは困ったような苦笑を浮かべる。


「そんな手元を見て学べと言われても、目が追い付かないですよ」

「ほっほっほっほっ、追い付かないだけで見えてない訳じゃないのじゃろ? なら上等じゃよ。わしの本気の動きを見えているだけでも凄い事じゃよ?」

「あまり嬉しくないんですけど」

「なぁーに、将来の予行演習という奴じゃよ。出来ないより出来る方が後々役立つじゃろ?」

「それはそうですけども」


 完全に弟子状態に置かれているマリオンは、助けて旦那様と思いながらも、これからも厄介事に巻き込まれる事は多くあるだろうという、妙に確定事項的な予感があるためTOTOの申し出を無下に出来なかった。むしろ、本能的な部分では受け入れろと言われている気がしているので、必死に食らいついている。


「それにの、この技術をモノにするとじゃ、もれなく――」

「もれなく?」

「マルチタクスで作業が出来るから、タツローの活躍を見ながら仕事が出来るようになるぞ? 半分オートで」

「しゃぁっ! 次はどうすればよろしいでしょうか! 師匠!」

「ほっほっほっほっほっ! この夫にしてこの妻ありじゃな」


 飼い犬は飼い主に似るとは言うが、似た者夫婦という感じじゃろうか、TOTOはそんな事を思いながら、やる気を出したマリオンへ

遠慮泣く指示を飛ばすのであった。




 ○  ●  ○


「やるにゃータツローきゅん」


 おでん艦のコックピットからタツローの戦い方を眺めていたデミウスは、まるで猫のようにニマーと笑い、また猫のように瞳を細める。


「あんな戦いを見せられたら、戦いたくなっちゃうにゃぁ」


 不敵な笑顔を浮かべ、ペロリと唇を舐めながら、しかし直ぐにハッと正気に戻って、いかんいかんと首を横に振る。


 仕事仕事、と自分に言い聞かせるように呟きながら、意識を集中させて語り掛ける。


「それはデビジョン・セカンドでの楽しみにして、っと。アルテミス、アポロ、アフロディテ、ゼウスのとっつぁん、ヘラ母ちゃん、準備はよかんべ?」


 デミウスの呼び掛けに、シャラシャラシャラと涼やかな音が空間に鳴り響く。


「準備は万端と。後は部下の頑張りを信じるだけですにゃ」


 着実にアダム・カドモンを追い詰め、その根元を叩き折るところまで追い詰めて行くタツローの姿に、デミウスはフフンと自慢気な笑顔を送るのだった。




 ○  ●  ○


「しゃあああああああぁぁぁぁっ!」


 おかしい。


 実におかしい。


 何でこいつはこんなにも簡単にこちらを圧倒するのだろうか?


 無数のレーザーを叩き込まれ、無数のミサイルにあぶられ、その痛みで自意識が戻ったアダム・カドモンは、自分を追い詰める白銀の船に持ってはいけない感情を持ち始めていた。


 おかしい。自分は最強で最高位の邪神へと駆け上がったはずなのだ。


 多くの魂を喰らい、多くの憎しみを産み出し、多くの悲しみを澱ませ、多くの絶望を循環させた。そしてこの世界は自分の遊び場として、自分の思うがままに操れる状態へと持っていけたハズ……だというのに、何だろうか、この孤独感のような感覚は……


「びどべばびっ!」


 認めない! 当たり前だ! この世界の主は自分であり、この世界の絶対神はこのアダ――


「ばべ?」


 アダ――ア――あ――あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ……


 わたしはだれだ?


「○!※□◇#△!」


 わたしはだれだ? だれ? だれだ? だれだれだれだれだれだだだだだだだだだだだだだだだだだだ……


「○!※□◇#△!」


 こわい! こわい! こわいこわいこわいこわこわこわこわこわこわここここここここここここここここここここ……


「やかましい!」

「っ!?」


 あれはじぶんをほろぼすちからだ。あれをたおさなければほろびる。あれをたおせ。あれをちかづけるな。あれをころせ。あれをあれをあれをあれをあれあれあれあれあああああああああ……


「じでじでじでじでじでじでじでじでじでじでじでじで!」

「うるせぇっ! うるせぇっ! うるせぇっ! うるせぇっ! うるせぇっ!」


 おおきなつるぎでからだをきられる。なんかいもなんかいもなんかいもきられる。いたい。とてもいたい。いたい……いたいってなんだっけ……




 ○  ●  ○


「きたぁっ!」


 バグッて妙な事を口走り出し、周囲で暴れている化け物共がチリとなって消えていく。ひたすら、あ、を叫び続ける口に、だ、を叫ぶ口、こ、を呟き続ける口と良い感じにおかしくなり始めやがった。


 ここが勝負所!


「カラドボルグからエクスカリバーへチェンジ! ここで決めるぞ!」

「モード『カラドボルグ』からモード『エクスカリバー』へ。次元連結ジェネレータ、フルドライブじゃ」

「シューレスト・ストライカーシステム、サポート強度最大値へ。モーショントレースアシスト、完全解放ですのん」

「われたちきるはばんまのじゃしん」

「コマンド確認完了! とー様!」

「あいよ!」


 何か色々ちょっかいを出してくれてありがとうよ! お陰で退屈しない最高の生活を送れたぜ! これからもずっとずっと面白おかしく生きて行くから、お前はここで――


「終わっとけえぇぇぇぇぇぇぇっ!」


 親友の為にでっち上げた、俺が最初に作り出したなんちゃって聖剣と同一の刃は、狙いを外さずアダム・カドモンの体を真っ二つに切り裂いた。


 これまで溜めてきた諸々のエネルギーを放出しながら、アダム・カドモンは萎んでいく。ちょっと同情しちゃうなこの後は……


 なんちゅうか、アダム君がどうなるかは……言わぬが花って奴かもしれんよ。周りが凄い怒ってたから、それは凄い事になるんだろうねぇ、怖い怖い。

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