第300話 遊戯人達の宴 ①
俺がまだ目覚めなかった、つまりは夢みたいな場所でデミスウと色々な事を話していた時、デミウス達の悩みも合わせて聞いていたんだわ。
「このままアダム・カドモンと決着がついて、問題なくプレイヤーの魂を元に戻したとしてだ、ちょっと悩ましい事があるんだにょ」
「どんなよ?」
「デビジョン・ファーストのグランドフィナーレ終わってない問題にゃ」
「……うわぁ」
「しかも現実世界で既に一年以上続報無しでにぇ。SIOプレイヤーが集団で自殺したんじゃないかっていう都市伝説まで生まれてしまいましてにゃぁ……」
「ちょっ!? マジかよ!」
「マジですガチです本気ですにぇ」
デミウスの事だから話盛ってるんじゃねぇの? とアルテミスとアポロに視線を向ければ、二人は神妙な顔して頷きやがったんだなこれが。大問題じゃないですかやだー! と叫んだ俺悪くない。
「上手い事誤魔化して魂を戻したとしても、一年以上は現実世界での記憶が抜けちゃった状態だからね。俺は一体どうしてしまったんだ状態にはなるかもねん、あははははは」
「あははは、じゃねぇよ! 十分大問題じゃねぇか!」
「もうちょい彼らの魂が回復してれば、こちらの巻き戻しにも耐えられるんだけどにゃ」
何て言う話を聞き、どうしたら魂が回復するんだい? となったんだわ。
「まぁ、楽しいとか嬉しいとかって言う感情を爆発させれば一発なんだけどねん。どうしても魂のままじゃ難しいんだよにぇ」
「いやだってお前、イベントの状態のまま保存したんじゃねぇの? なら船とかアバターとかに入ってる状態なんじゃ?」
「まぁ、そうなんだけど……」
「ならこっちに呼び出してだまくらかして、これがイベントの最終フェーズです、みたいにして楽しませりゃいいんじゃね?」
「……」
おや、という感じにデミウスが目を輝かせ、話を聞いていたアルテミス達も、その手があったか、と目から鱗みたいな感じになり、やれるんじゃねぇ? と色々と詳細を詰めるだけ詰めて、んじゃこういう流れでという感じに決めて、俺は目覚めたんだわ。
決めていた俺達がやるべき事は三つ。まずはプレイヤー達が保存されている次元の壁をぶち破る圧倒的なエネルギーを産み出す。これはスティラ・ラグナロティアとロック・ロック、そしてコツコツと製作していた追加パーツやら何やらを突っ込む事で解決出来た。
次にぶち破る壁を正確にピンポイントで貫き、集束させる方法。ちょっと胸糞ではあったけど、それは死して尚贖罪を続けていたアルテミスの巫女の力を借りる事でクリアーする。アルテミスからとある条件を聞いて、それならばと納得したがな。
そして最後、プレイヤー達をだまくらかす準備というか、もろもろの仕組みのでっち上げだ。奴らにはこれがリアルではなく、ゲームだと勘違いさせたまま、しっかり魂を回復させなければならないからね。
ふっふっふっふっ! では見たまえ! これぞ! だまくらかす為に用意した方法です! ドン!
「勇敢なる戦士達よ、最初の試練は終わった。だがまだ戦いは続いている。見よ! 敵は卑怯にも君達のクローンを用意した!」
ガイアになってもらってルルちゃんがノリノリで女神プレイ中である。
さて、あいつらに何をしてもらおうかと言うとだね、アダム・カドモンが呼び出した自分の影を倒させようと画策しました。
本当はアダム・カドモンが呼び出した化け物の相手でもさせようかとも思ったんだけど、彼らの今の装備だとちょっと火力で負けるかな、という懸念があってね。アダム・カドモンのちょっかいが消えている影達だったら、そんなに苦戦しないだろうという判断と、ついでにこの世界の平和に貢献してもらおうじゃないか、っていう下心に基づいたまさしく一石二鳥の妙案です!
そして奴らは絶対に騙される。何たってその為にずっと俺らでカタカタしてたんだからね。さぁ、シェルファさん、やぁーっておしまい!
「ミッション内容は更新されましたね? ふふふふふ、もう見て分かると思いますが運営からのサプライズです。自分の影を倒したプレイヤーにはデビジョン・セカンドでも使えるアイテムを配布致します。そのアイテムの効果はファーストで鍛えたキャラクターのスキルの一つを、レベル十までですがコンバートするチケットの配布です!」
ルルの言葉に雄叫びが上がる。いやぁ、報われる瞬間ですわぁ。奴らの見ている画面は完全にSIOのシステム画面に見えているっていう証左だからね、この雄叫びは。
頑張ったんだ……うん、俺達は頑張ったんだよ。ゲーム画面を思わせるシステムを作り上げて、そこに敵味方認識システムを噛ませて、イベントマップシステムみたいなのをでっち上げて、あいつらのデータを参照してあいつらの影がどこにいるか場所を知らせる仕組みを作って……いやぁ、あんな短い時間で良くもまぁやれたもんだよ。これもせっちゃんとかスーちゃん、それにアビィと上司が居なかった難しかっただろう。
もちろん、あいつらに全く違和感を感じさせずにシステムハックしたシェルファの貢献もデカいけども。
「今回は運営の大判振るまいです。イベントマップと自分のターゲットとなる貴殿方の影の場所もマーキングしてあります。彼らはNPCを経験値だと判断し攻撃を行ってます。もしもNPCに被害が出ればチケットの数は減少します。そうなると影撃破は早い者勝ちになってしまいますが、NPCを守りつつ被害を最小限に押さえれば――」
『全員に配布?』
「はい! それが本イベントの目的です! NPCに被害を出さずにパーフェクトでイベントをクリアーしましょう!」
ルルが美しく微笑み両手を広げて宣言すると、愛すべき馬鹿野郎共が雄叫びをあげて次々にハイパードライブに突入していく。さすがは訓練されたSIOプレイヤー達である。分かってらっしゃる。
「さて、んじゃまぁ、こちらも始めますか」
「あいあい、じゃ俺はあっちに参加してくるわ。適当に見回ってフォローしてくる」
「おう、行ってら」
「行ってきます!」
シュルンと子供形態に戻るルルと入れ替わるようにポンポツの姿が消える。俺も神になったら無機物とかに変身出来るようになるんじゃろか?
「タツロー様? 一部のプレイヤーがアリアン艦隊へ向かっていますが、ですのん」
「へ?」
そんな変な事を考えていたのが悪かったのか、全く予想してなかったプレイヤーの動きを聞かされて間抜けな声を出してしまう。うおっち! あぶねぇ! 船の動きが一瞬止まったところ狙われた! ぶねー!
『なぁーにやっとんじゃい』
そんな俺へ通信が入り、ニヤニヤと笑うTOTOのお爺ちゃんが……って何でいるし?!
『ほっほっほっほっ、これでも神の端くれじゃよ? この程度は出来て当たり前じゃよ』
そして当たり前のようにこちらの心を読みやがる。全くこれだから神という奴は……
『何、わしらは戦闘に参加しようとしてるわけじゃないわい。メンテ関係の手伝いをしにの』
「いやいやいやいや、そっち戦闘中!」
『それの何が問題じゃ?』
……こいつ、神の力を使う気満々じゃねぇか……
『なぁに、お前さんの嫁の中に、将来有望そうな人材がおるからの。まぁ、研修のようなもんじゃよ』
見取り稽古って奴じゃな、などとのたまわって好好爺然に笑うお爺ちゃん。いやもう海千山千過ぎて反論出来んわ。
『それにの? 結構わしらも腹に据えかねてるんじゃよ』
ほほほほと笑いながら、妙にギラギラ光って見える目を向けられて、ちょっと背筋が冷たくなる。
某ゲームだと破壊神カテゴリーだけど、やっぱりそっち方面の属性をお持ちなんだろうか? 今後は絶対怒らせないようにしよう、うん。
『だからの、全力であの馬鹿の根源をヘシ折れ。わしらが許可する』
「お、おう」
嫁達のフォローは任せるのじゃ、そう言って通信は切られた。まさかあのTOTOお爺ちゃんに威圧される日が来ようとは……めっちゃ怖かったわ……
「一番のお気に入りが、やっと自分の意志で前を向いて、更にはずっと一緒に遊んで行きたいからっていう理由で頑張ろうとしていた矢先に邪魔されましたから……あそこまで激怒されたトト様も珍しいですよ?」
アビィがクスクスと笑ってそんな事を言う。つまりは俺の為に怒ってくれている訳で……いやなんちゅうか、本当にありがたいなぁっと思う訳でして……
「だぁっ!? 感動に浸る時間くらいは空気読めやぁっ!」
ジーンとしてると、空気読まないアダム・カドモンが苛烈に攻撃をしてくる。のやろうぉ……良いだろう、始めようじゃないか。
「シェルファ、行けるか?」
『はい、超空間が使えますし、それにマヒロちゃんが間に入ってますから、問題ありませんよ』
「よし、始めてくれ」
『了解しました』
俺がシェルファに合図を送れば、アダム・カドモンの周囲に無数のホロ・モニターが、ぶわぁーっと巨大スクリーンのように展開する。
「ぐがげがぎゃががぐがぁっ!?」
そのスクリーンの映像を見たアダム・カドモンが動きを止め、その肉塊に無数に存在する目を忙しく動かし、怒気を感じさせる声を出す。
スクリーンではSIOプレイヤー達の手によって次々に屠られていく彼らの影の姿が映し出され、彼らの手によって守られる人々の姿も同時に映された。
「お前、こんな事もできねぇの?」
さあ、ショウタイムだ。俺は思いっきり小馬鹿にするようにアダム・カドモンへ語りかける。このためにシルバリウスに外部スピーカーなんちゅう無用の長物を載せたんだからね。
「うっわハズ! え? それで邪神なの? ぷーくすくす! 自称じゃねぇの? ハズいわぁ~、マジないわ~。それでおではさいこうのじゃしんだドヤァ、ってやってたん? いやぁマジねぇわぁ」
口調のモデルはデミウスです。煽り言葉のチョイスもデミウスをトレースしております。いやこれも夢の中でやってみたんだけど、煽りが足りないとダメ出しを食らいまして、最終的にデミウス真似ればええんちゃう? というアポロの案が採用されました。
そんな俺の煽りを聞いたアダム・カドモンはプルプルと震えたかと思えば、巨大な顔を肉塊に作り出すと、がおーと吠えた。
「怒ってる怒ってる。んじゃまぁ――」
深呼吸を一回。そして意志の力で抑え込んでいた力を解放する。この時この場所でのみ使用を許可された
本来ならば仮免許を取得して、それなりの修行をしてから本免許取得を目指し、本免許取得から本格的に力の使い方を勉強する訳だが……俺はあの試練を満点合格でクリアーしてしまった実績から、もうある程度力を自由に使えるようになってしまっているんです。なので普段は力を抑えているんだけど、今回ばかりは全力で戦わねばならんのでね。
「さぁ、遊ぼうぜ? 先輩」
バッキバキに折ってやるから覚悟しやがれ! さんざんうちの家族に手を出しやがって、落とし前きっちりつけさせてもらうぞ!
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