第299話 デビジョン・ファースト

 妙な形になってしまったアダム・カドモンさん(?????歳)は、もうただただひたすらに、それこそ駄々っ子のように暴れまわっておられます。


「じゃけん! うっせぇわっ!」


 もうね、さっきから自分は最高の神だとか、その力をよこせだとか、濁音混じりで解読不可能な感じだったのをずっと聞いているせいで、理解出来るようになりました王様です。ありがとうございます。迷惑でございまする。


 伸びてくるモミジ、鶏とかの足をそう呼ぶんですよー、をばっさばっさとカラドボルグで切り裂いて、熊の手とかもばっさばっさ切り捨てて、くあーピリ辛のモミジ炒めとか食いてぇー! 熊の手とか下処理して煮込むとうまー! とかそんな事ばかり考えてしまう。はい! 現実逃避でございます!


 いやだってひたすらに面倒臭いんだもん。ただ、油断とかしてまたやらかしたら、今度こそ嫁達に色んな意味でカッスカスに搾り取られそうだから、そこは真面目にやってますよ? もちろん。ただ面倒臭いだけでね。


 それでも自分、頑張っております!


 先ほどデミウスがやってる事を直に見たから、俺もメダリスト三混合やりつつ、ばっさばっさと時代劇の殺陣のようにカラドボルグをブン回して、時間稼ぎをしているが……本当にこいつタフだよなぁ。


「ある意味、馬鹿最強がまかり通るのが神の世界、ダゼ」

「迷惑な馬鹿は嫌いだよ! あたしゃ!」


 うおっと! ちょいちょいこちらの予想しない場所に攻撃が来るから困る。しかし、デミウスの言う通り馬鹿最強だよなぁ。


 どーゆー事かと言うとだね。神と戦う場合、神の芯と言うか、その神が持つ根源の象徴と言いますか、人間で言うところの心が折れました、という感じに持って行かないと消滅しないらしいんだ。面倒臭い事に。


 目の前のこいつは、自分が最高の邪神になる事が根源であり、今まさに自分が最高の邪神になったと絶頂しておられるわけです。実際は最高どころか圏外まで墜落している最中なんですけども。だが本神ほんにんは今まさに我輩最強! と信じておられる状態でして、まずはそこをへし折らないとならないという、えーひっじょうに面倒臭い状況に我々はいるわけでして……


「大丈夫だって、お前の考えはこいつに一番効果ある、ダゼ」

「本当にござるかぁー? うおっと! しゃらくせぇっ!」


 何か妙に攻撃が鋭くなってきたな。慣れやがったか? こしゃくなっ!


本気マジになるなよ? それは一気に折る時までとっとけ、ダゼ。程よく力を出して、真面目に戦う、ダゼ」

「うおん! それが結構なストレス!」

「あいあい、分かるわー分かるよー、全力で能力を使えないってストレス、凄く良く分かりますよー、ダゼ」


 何か妙にイラッと来る言い方だが、言っている言葉には実感があるから何も言えん。


 そうなんです、わたくし本気を出しておりませんの、おほほほほほほ! 俺が本気出せばお前なんか秒だよ秒、と言いたいところですが……これが先ほどの話に繋がります。


 相手の心を折るようにしないと、神ってのは倒せないんです。滅ぼしたように見えて復活しやがるんです神って。退屈ではあっさり死にやがるのに、こういう戦闘という場面だとしぶとく生き意地が汚い、それが神という存在らしいですよ。なので戦神とか軍神とかに分類される神は退屈を紛らす為に、邪神としてちょいちょい現世世界にちょっかいを出して楽しむのだとか……迷惑な話ですな。


 じゃけん、こうして時間稼ぎをしておるわけです。本格的にあいつの心をボッキリと折る為にね。


「まぁ! 今の俺ならマジで二十四時間戦えちゃうからなっ! エリートですから! 超戦士サラリーマンの化身ですから!」


 んふふふふ、正直面倒臭いがそれぐらいはやってやんぜ? アダム・カドモンさんよ……んふふふふ。


 何て影のボスみたいな事を考えてたら、せっちゃんが、また馬鹿な事を考えてるよこいつ、という目線を向けてくる。解せぬ。


「何を言っておるんじゃか……ロック・ロックとの接続問題なく終わったようじゃぞ」


 おっとそれは朗報だな。向かってくる無数の獣達の手を払い除けながら、ちらりとラグナロティアを確認すれば、ロック・ロックに埋まるような形でドッキングした姿が見える。


 効率良くエネルギーを送り込むのと、スティラ・ラグナロティアとパラス・アイギアス連結ジェネレータと融合エネルギーシステムと同期させてうまく動かすのに、どうしてもロック・ロック側の制御が必要不可欠なのでああいう形になってしまったんだけど……あれだ、どっかの宇宙戦争で地球にレーザー撃つ込む長大な砲台みたいに見えなくもねぇな……格好良いたるぅ……


 ちょっと自己陶酔、俺の作ったモンは格好良いぜよ、と少しだけ浸っていると、アビィが跳ねるように上半身を起こして、ぐいっと両腕を伸ばした。


「久し振りに神経使いましたわん。マリオンちゃんは良い仕事をしてくれましたのん。実に綺麗に動いてますわん」


 その擬体でストレッチは必要ないが……いや、中身の事を考えると必要なのか? 精神衛生的に……ま、まあ、それは今度確認しよう、うん。


 切り替えて行こう! したらば確認しましょう!


「スーちゃん、シェルファから何か連絡は?」

「かー様からは、全てのシステムが順調に動いてるから、このまま問題がなければ三分程度でオーバーチャージまで進められるって」

「さんきゅっ!」


 よしよし後三分な。がんばるぞい!




 ○  ●  ○


 ガイツの特務艦隊からスティラ・ラグナロティアへ移され、そこでより高度な医療ポットでの治療を受け、出撃不許可で安静にしている事を条件に、マルトとカオス達は展望室でその戦いを目撃していた。


「また凄い世界に突入したんじゃねぇか? うちの総大将」


 気だるそうにベットソファーで横たわるノールの言葉に、カオスはやや呆然とした様子で頷く。


「俺達が必要じゃないくらいに遠くへ行ってしまったかもな」


 どこか寂寥感というか、ただ単純に置いて行かれて不安で泣きそうな感じの子供みたいな感じというか、そんなカオスの様子にミイラ男のように全身を再生シートでグルグル巻きにされているマルトが、あははははと明るく笑う。


「なーに言ってるの。置いてかれたら追いかければ良いだけじゃないか」


 あっけらかんと言い放つマルトに、アーロキやノールは呆れた表情でマルトを見る。


 確実にこの中で一番重症な奴なのに、誰よりもポジティブなのはさすがというかなんというか……聞いた話では、一歩間違ったら蒸発していたような状況から生還して、こうも何事もなかったように振る舞えるのは、図太いを通り越したナニかだろう。

 

「……そうだな、うん。確かにそうだ……」


 しかしカオスは素直に受け止めたようで、ぐっと体に力を入れると、瞬きを忘れたようにタツローの戦い方に集中を始める。


 まだまだ強くなろうとするカオスに、恐ろしいモノでも見るような目を向けながら、ノールはアーロキの方へ視線を向ける。


「……もう十分俺ら化け物の領域にあると思うんだよ、そうだよな?」

「そうだな……と言いたいところだが、今回は危うく、死にかけたからやっぱり足らなかったんじゃねぇかな」


 ノールの言葉に同意すると見せかけて、力無く首を横に振るアーロキは、色々な感情を込めて自分の弟ともしかしたら嫁になるかもしれない女性を見て、しみじみと呟く。


「相手が悪すぎんだろ?」


 いやいや、そうじゃないだろ? としつこくノールが言うが、アーロキはどこかすっきりした表情を浮かべてノールの言葉を切る。


「死んだ時にそうやって言い訳出来ればいいけどな……俺もまた再訓練し直さないと」


 今度は守れるように、そもそもピンチなんかに陥らないように、そう決意を固めるアーロキに、ノールは俺も良いひと見つけっかなぁ、と肩を竦めながら呟く。


「ぐうの音も出ねぇ正論あんがと」


 こいつら本当にクソ真面目だからなぁ、呆れたように呟きながら、それでも再訓練俺もしないとなぁ、等と思ってる時点でノールも実にクソ真面目である。


 そんな感じでタツローの超絶戦闘機動を見て勉強していると、唐突に展望台の窓が黒いシールドのようなモノを展開し始めた。


「何だぁ?」


 他の化け物が寄ってきてそれの防御の為にシールドでも張ったのか? と警戒していると、ぐおおぉん! と腹の底から響くような轟音が船尾から船首へ向かっていくように響き始める。


「いやマジでどうしたよ?!」


 ノールがワタワタ周囲を見回し、アーロキがさっと弟とフラタを抱き寄せ、カオスもリアとミクを守るように抱き寄せ、マルトだけはのんきに戦闘を眺めていると、艦内放送が入った。


『船首主砲の発射準備に入ります。通常チャージでは無く、限界までチャージをするオーバーチャージ状態での発射となりますので、艦内クルーは対ショック防御と閃光防御、騒音防御を忘れずに行って下さい。なお展望室は独自の防御システムが作動してますので展望室にいるクルーは必要ありません。繰り返します――』


 いや何か凄い恐ろしい事を言ってる! と艦内放送に戦慄を覚えていると、カウントダウンが始まってしまった。



 ○  ●  ○


「マヒロちゃん!」

「イエスシェルファ、大丈夫です問題ありません」

「ふぅ……キツかった」


 ありとあらゆるシステムの調整とアシストを同時に支えていたシェルファは、達成感を覚えながら額に浮かんだ汗を乱暴に手で払う。


「ここから先は私には理解不能の領域だけど……まぁ、旦那様が大丈夫と言うなら大丈夫なんでしょう」


 説明をしてもらったが、あまりに内容がぶっ飛び過ぎて脳が理解を拒否した事をやろうとしている。シェルファはその事がおかしくて、ついつい含み笑いを浮かべてしまう。


「さあ、ちゃんと上手く行ってよ」




 ○  ●  ○


「はぁっ!? 狙いはここって?! えっ!? ちょっ!? シェルファ?!」


 スティラ・ラグナロティアの火器管制のアシストに入っていたファラは、カウントダウンが進む中、主砲でどこを狙っているのかを見て絶句する。


「マジでここでいいのっ!?」

「ダメです! ロック解除出来ません! あ、マヒロちゃんからそれで良いと通達が来ました」

「ええぇっ!? マジで!」


 ファラはてっきりラグナロティアの主砲で全てにケリをつけるモノだと思っていたので、余計に混乱する。


「一体何を考えてるの?!」


 絶対こっちを無視して秘密で何を進めていたんだ、タツローめ、意識不明の重体の時も合わせて覚悟しろよ、とファラは妖しく笑うのであった。




 ○  ●  ○


「カウント十! 九! 八! 七!」

「ミリュの待避は?」

「大丈夫です。帰艦してます」

「よし。だが……」


 オペレーターのカウントダウンを聞きながら、主砲がロックしている方向を見てゼフィーナは苦笑を浮かべる。


「一体何を企んでいるのやら」


 自分達に内緒で事を進めていたのは明白、これは後でどういう事かゆっくり語り合わなければならないなぁ、とゼフィーナが考えていると、カウントがゼロになった。


「主砲発射っ!」


 焼き付きから守る為に明度を極限まで下げたスクリーンがその瞬間、真っ白に焼けた。




 ○  ●  ○


 白い輝きと緑の輝き、そしてキラキラと輝くブルーを乗せて、その極太のレーザーはアダム・カドモンを掠めるように放たれた。


 最初から当てる気がないようなそれは、アダム・カドモンの肝を少しだけ冷やしたが、必殺の一撃を外しやがったと自我無き邪神が本能的な部分で感じ取り、嘲笑するように笑う。


 邪神の嘲笑を置き去りに、レーザーはそのまま一直線にラヴァム・ウォブァへと向かう。


(フェリオ様、約束、守らなくても良いのでご一考下さい)

(大丈夫よ、もう先方からはちゃんと守るって言質は貰ってるから)

(……ありがとうございます)

(がんばりなさい)

(はい)


 ラヴァム・ウォブァにはキラキラとエメラルドグリーンに輝く粒子が、綺麗な真円になってくるくると回っていた。その粒子、教団の枢機卿の一人であったベルは、神の慈悲に無限の感謝を捧げながら祈祷を始める。


 エメラルドグリーンがライトグリーンへと変化して輝きを増し、円運動をする粒子の動きも加速していく。その中心へとスティラ・ラグナロティアが放ったレーザーが吸い込まれるように到達した。


(さぁ、解放の時です。行きなさい、囚われの戦士達よ)


 神に選ばれた巫女の祈り、その身を捧げる自己犠牲、そして次元すら切り裂く絶大なエネルギーにより奇跡は行われた。


 裂けた空間より無数の戦闘艦が、軍艦が、ありとあらゆる船が勢い良く飛び出してくる。


(……どうか約束を忘れないで……)


 ベルはその光景を嬉しそうに見つめながら、その役割を終えて消滅した。キラキラと輝くエメラルドグリーンの煌めきは、名残惜しげに空間を漂い、誰も向かった者がいない宙域の方向へと力無く向かって消えた。

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