第283話 ????
抵抗してもタコのように絡み付くルミ姉さん、いやさ、アルテミスにちょっとうんざりしてきました俺です。嫁に同じ事をされると嬉しいのだが、ほぼ他人の美人にやられても嬉しいとは感じない不思議。俺が特殊なだけかもしれんが。
「お前、そろそろいい加減にしとけよ? そいつ、一度でも嫌になると、とことんまで行くぞ?」
そんな俺の内心に気づいたデミウスが、別にお前が嫌われようがどうでも良いけどな? と愉悦に歪んだ笑顔で言えば、光の早さでアルテミスが俺から離れた。
はぁ、やれやれ。これで本題に入れますぞ。
「それで、思い出爆弾劇場は何でしたのん?」
ゲーム時代のキャラクターネームはアーローン・ポーで今アポロ。アポロンって呼ぶ? と聞いたら、母上に呼ばれてるみたいで嫌だから、アポロで頼むと言ってきたイケメンに聞いてみる。したら、無視して放置された状態のアルテミスが、いじけ始めたが無視だ無視。俺のセンサーが面倒臭い地雷的な反応を示してるから、関わらない方向で行く。
「君もその嗅覚を持ってるのか……妹も悪気は無いんだが、いかんせん距離感音痴と言うか、ここまで未婚で来た弊害というか……アテナと二大巨頭でね? 許してやって欲しい」
「前向きに善処致します。それで?」
俺がばっさり切り捨てると、アポロは苦笑を浮かべながら望み薄っぽいぞ? 妹よ、等と心が全く籠ってない言葉をアルテミスに投げ掛け、こほんと咳払いをする。
「一番旧い神、この場合デミウル――」
「デミウスだ」
デミウルゴスっていいと思うんだけど、と思っていると、デミウスがキッと俺を睨み、アポロにも何かが飛び出してきそうなレベルのガンを飛ばす。おーけい、気をつけようとアポロはおどけながら苦笑を浮かべて続ける。
「おうけいおうけい、デミウスな。まぁ彼が生まれてから……あれ?
「
「まぁ、そのくらいの年月が過ぎ去ってるわけだけど」
「プロフェッサー、いやもうこちら側だから敬意と友情を込めてタツローと呼ばせてもらうけど、タツローのように純粋な人が、神へと至る資格を得られるという、似たような感じの人間が全くいなかったわけじゃない」
いやまぁ、無限を越えるような年月を生きてりゃ、そりゃぁ数百人は生まれるでしょうよ。地球でも偉人が神になったなんて逸話があるくらいだし。デミウスの話を聞く限りでは、そういう話ってどこか別の世界で発生した出来事の概念が伝わるみたいな感じだしね。
俺がそんな事を考えていると、アポロがいやいやと首を振る。
「君が考えている以上に狭き門だよ、人から神になるという事はね……その理由が、タツローも体験した実際に過去へと戻って分岐点の選択をさせる事にあるんだ」
「……そんな事で試練になるの? 誰だって切り抜けられるレベルじゃんよ、あれ」
俺の言葉にデミウスはゲラゲラ腹を抱えて笑い、アポロは嬉しそうな表情で苦笑を浮かべるという複雑な事をし、アルテミスは呆れたような視線を俺へ向けてくる。なんだよ?
「……今まで、人から神へ、かの挑戦に挑んだ人間の数は十人。その中で神へと至れたのは君一人だよ、タツロー」
「……へ?」
うっそだろおい? そんなに難しい事か? だって自分の記憶にあるんだぞ? その段階で変えようが無いじゃんよ。
俺がそう考えていると、アポロは実に君らしいね、と苦笑を浮かべながら説明を続ける。
「自分が変質した、もしくは自分が一番否定したかった部分、もしくは変えてしまいたかった出来事を前に、全く欲望を出さずに記憶にある通りの行いを出来る強い魂を持つ人間というのは、これまで一人としていなかった。だから君が初めてだよ」
お前はコネリーさん家のショーンさんかっ! と思うくらいに、かの有名なハリウッド的大俳優っぽい肩の竦め方をしながらアポロが言う。イケメンは何をしてもイケメンやねぇ、と感心したいところではあるが……無限大より長い年月でたったの十人? しかも俺だけとか……そんなに過去を変えたいか? ちょいと理解不能なんだが……
困惑しっぱなしの俺に、デミウスがケケケケケケと嬉しそうに笑いながら口を開く。
「俺の一番最初の弟子にして、アダム・カドモンを逃がした挙げ句に放置していた馬鹿ヤオダバオトも、お前は絶対に試練をクリアー出来やしないと思っていた。俺とアポロとアルテミスは、天然でクリアーしそうだな、とは予想していたがな」
ヤオダバオトっちゅう神があの試練を用意したらしい。しかも一番難しい奴。何してくれとんねん……デミウスもデミウスでなんちゅう予想してくれとんねん……
「まさか憧れていたおじさん=自分だと気づいた上で、その憧れを持ち続けてくれと願いながら、記憶通りの事をやり抜くとは、さすがに私も思わなかったけどね」
そんな俺の困惑など置き去りに、アポロはびっくりだよねと、俺の試練の結果を面白そうに評価しやがる。面白がるポイント、間違ってますよ? 太陽の神。
「今の自分に繋がってるから、絶対に幸せになれるから変える必要がない、むしろその不幸を糧に百倍どころじゃない幸運が巡ってくるから耐えろ、とか思ってたのも呆れたけどねぇ」
何か、試練とやらを乗り越えたのにボロクソに言われるのは何でやねん。
なんだか納得いかんとムカついていると、深々と溜め息を吐き出したデミウスがとんでもない事を口走り始める。
「まぁ、その後自棄を起こしたどこぞの馬鹿が、それ以上やらなくても良い試練をやらせて自爆したけどな」
「ん? やらなくても良い試練、だと?」
俺がデミウスを睨み付けると、俺じゃねぇよ、あいつだよと指差す。そこにはローマの民族衣裳トーガみたいな服を着た、カエル頭の人物がいた。カエル? 逞しい人間の胸板があるから男だろうけど……なぜにカエルの頭?
俺が困惑しまくっていると、カエル男はずずいっと一歩前に出て、フフンと不敵……カエルの表情が分かるってのは異次元の感覚だが……に笑いながら口を開いた。
「ヤオダバオトげこ。今回の事は誠に申し訳ないげこ」
これ謝られてるのか? それとも煽られてるのか? むしろ清々しいレベルで馬鹿にされてんのか? そう思うくらいには居丈高に、胸を張ってふんぞり返りながらそんな事を言うカエル頭。そして瞬間的にデミウスの顔が真っ赤に染まる。ついでに右腕も真っ赤に燃えた。
「やっぱお前、下級神からやり直してこいやぁっ!」
「ちょっ師匠! やめてげこ! 先輩は後輩に厳しくするって教えたのは師匠げこ!」
「時と場合を考えろや! んなだから邪神は使えないとか評判が立つんだぞ馬鹿弟子が!」
「げ、げこーっ!」
どんな対応すれば正解なんだろうか、真剣にそんな事を考えていたら、デミウスが瞬間的にカエル頭へと肉薄すると、抉り込むような燃える右の拳を顔面へと叩きつけ、どこかへ吹き飛ばしてしまった。
「いやマジですまん。俺が弟子にした神の中でも群を抜いて阿呆な奴なんだアレ」
「……下級神落ち何百回目だっけ彼?」
「さぁ、一々数えてないわよ。関わり合いになりたくないもの」
デミウスがペコペコ謝り、アポロが呆れたように呟いて、アルテミスが興味無しと切り捨てる。な、何か憐れな神やね、カエル君。
「こ、こほん。思い出爆弾の事は理解した。んじゃ、某筋肉自慢的なアトラクションは?」
俺が話題を切り替えるように聞くと、デミウスがポリポリ頬を掻きながら、バツの悪そうな顔で説明する。
「まぁ、試練を何度も何度も繰り返し、それをほとんどベストな形で終了させたわけだ。となれば、神としての格も相応に高くなるわけで、そうなるといくら身体強化調整して、物質的に強靭な肉体を持っていたとしても、精神と魂は受け入れきれないんだわ」
「そこで魂と精神を鍛えるために負荷をかけつつ、今ある肉体と馴染ませる訓練が必要になってくる。それが君が挑んでいたアトラクションの正体で、アトラクションの効果だったんだ」
おうおうおうおうおう! つーことはあれか! そういう事なんかぃ!?
「……つまりはあのカエルの責任という事でファイナルアンサー?」
「「「正解」」」
俺の同情を返せカエル野郎!
俺が拳を握り込み、奥歯をギリギリと鳴らしていると、アポロがまあまあとなだめる。
「まぁ、遅かれ早かれやる訓練ではあるから、今の段階でやれたのは行幸だったと私は思うけどね。やたらと面倒臭いから」
「……精神的に来るよね、あれ」
分かる分かる、下級神の時代は常にあれをやらされるから面倒臭いんだよね、とアポロが同意する。その様子は、日々のノルマに苦しめられるサラリーマンのような哀愁に満ちていた。そんな姿を見せられたら怒りもすっと引いた。
「まぁタツローは感覚が身に付いたから、もう一度やれって事はないと思うよ」
「よう分からんけど、そうなの?」
アポロに言われても半信半疑、一体何を身に付けたのか理解不能だ。そんな俺にデミウスがケタケタ笑って言う。
「常に神の力なんて発揮してどうするよ。お前はまだこの世界の理に支配されている人間だぞ? そういうのは寿命を迎えて純粋な神になってから気にしろよ」
「そういうもんか?」
「そういうもんだ」
そういうもんらしい。良く分からんが。
「さて、これでネタばらしは終わりかな……んでな? 正体がバレたから改めて聞くんだが……」
ハンドパワーとか手から何かしらのパワー的サムシングが出るかも、とポーズをキメながら手を突き出していると、デミウスが改まって聞いてくる。
「どした?」
デミウスに向き直り、妙に真剣な表情を浮かべている親友へ視線を向ければ、奴は何度か口を開いたり閉じたりして、言いずらそうにしていた。
「何だよ?」
言い淀むとかデミウスらしくないな、そう思いながら促せば、デミウスはキリリとした表情で聞いてくる。
「ドタバタしちまったけど……俺は……いや、俺達はお前に第二の人生を楽しんでもらいたかった……んでよ、その、なんだ……楽しかったか?」
妙にオドオドしながら聞いてくる親友。その様子をどこか心配そうに見ているアポロ。答えなんて決まってるじゃない、と訳知り顔で見るアルテミス。アルテミス正解。
俺はニヤリと笑って、デミウスの肩を思いっきり叩いた。
「お前が用意してくれた最高の世界、楽しくないわけがないだろ? 最高に楽しいぜ? それは今もだけどさ」
俺が照れながら言えば、デミウスはキョトンとした顔を一瞬し、次にはニヤニヤと笑って数回頷いた。
「そうか」
妙に万感の籠った一言に、俺は笑顔で答えた。
「そうだよ」
二人で顔を見合わせ、どちらともなく吹き出し、二人して思いっきり大声で笑い合った――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます