第281話 ??????
「まぁ、SIOの話に戻るとな?」
この野郎、ヘタレうんぬん流しやがったぞ。
俺がじっとり睨み付けると、奴はわざとらしく咳払いをしながら、真面目な顔で言う。
「ヤバかったねん」
「何が?」
主語を抜くな主語を。お前の悪い癖だぞそれ。俺の呆れた表情を見て、デミウスはこほんと再び咳払いしながら、実はなと続けた。
「アダム・カドモンに乗っ取られそうになっててん、ゲームってか、この世界」
「はあっ!?」
「つーか、俺ら力とかを限定し過ぎて何も出来ずにアボンする可能性すらあったんだよ、実は最初期」
「……そうだったか?」
俺もいっちゃん最初のサービス開始の時点から居たけど、何か不穏な気配ってあったっけ?
そんなんあったの? という表情を向ければ、デミウスはジト目で俺を見ながら、心底呆れ果てた口調で語る。
「どこぞの生産馬鹿が、ギッチギチに限定された生産機能の穴を突いて、その当時に絶対出来ないはずの生産をひたすらねちっこくやってたのがブレイクスルーになってな?」
「……」
「最初期に金属の合金なんて作れないはずがよ、なーんでか仕様の穴を突いて作れたのを発見した生産馬鹿がおってな? そいつがレベルが上がるしスキルもガンガン育つぜ、うははははは、とか言いながら暴走してん」
「…………」
「お・ま・え・じゃ! お・ま・え!」
俺の額を指先で突っつきながら、リズミカルに連打をかますデミウス。いやだって、不便なUIしてんなぁって思って、色々試してたら出来ちゃったんだもんよ。試しに作ったら、その一回でレベルが三も上がったんだぜ? しかもスキルに至ってはいきなり十も上がったし、こりゃやるっきゃねぇ! ってなるやん。VRMMOやぞ? ただですらレベル上げに時間を必要とするゲームで、効率的な方法見つけたらやるべや。
「それを永遠と二週間近く工房に引き籠ってやらなきゃな?」
「ぐっ!?」
俺の内心を読んだのか、わざとらしく重たい溜め息なぞを吐き出しながら、呆れてモノも言えんぜ、的に肩を竦める。お前は外人か! あ、神か。
「まぁ、あれのお陰で初期のリソースをアダム・カドモンから奪い返せたから、第一回目のメンテナンスで正常に戻せたんだけど」
「ああ、急にUIがまともになったのってそういう」
「UIが便利になった、わーい、とかって感じでまたもやらかすんだけどな?」
「ん?」
デミウスは苦虫を噛み締めたような顔で、あの時はマジで大変だったぜ、と呟く。
「当初の予定ではな、SIOって基本となる拠点の惑星を中心にした冒険探索ゲームだったんよ」
「ん?」
あれ?
「プレイヤーが乗れるのはせいぜいが四人か五人乗り程度の宇宙船がメインで、拠点惑星から飛び出して、バウンティハンターやったり未開拓惑星で古代の遺物を発見したり、っていう感じだったんだよ」
「んんんんん?」
あれれれれ?
「どっかの生産馬鹿が、本来なら出来ないはずの宇宙船の改造をやり始めて、挙げ句の果てにはシップメーカーの船よりも高性能なモノを作り出すわ、基本となる宇宙船の概念を破壊するわ、大型の船を作り始めるわ、ステーション程度なら可愛いもんで、気がつけば惑星改造なんて手段を発見するわで、何回俺ら
あれれれれれれー? おかしいぞー?
「おかしいのは貴様の脳内じゃっつうねん! どんだけ仕様の抜け穴を見つけりゃ気が済むねん! マジで一回神の権能戻して完璧なシステム組んで、コイツにゲームやらしてみようぜ、みたいな流れになったからな?」
「いやだって、そういうゲームなのかなぁーって」
「普通にやれよ普通に……まぁ、そのお陰でアダム・カドモンが完全に封じられる形になって、その後は平和な時間が過ぎたわけだけども」
結果オーライというには俺達の負担がでかすぎたぜ……見えない汗を拭くような仕草をしながら、デミウスがカラカラ笑う。
「まぁ、その後はお前というパイオニアが先頭ぶっちぎって走っていき、その後追いとかが現れて、こっちの世界が全盛期を迎えるんだ。ある意味、お前は世界を一つ救ったんだわな」
「おおー」
「だがここで俺達も見逃してしまったんだが、予想外の事が起こる。世界が全盛期を迎えて一気にプラスマイナスのエネルギー、この場合は知的生命体の感情的な高まりだな、それが爆発的に増えた事でアダム・カドモンが力を取り戻してしまったんだわ」
「おーのー」
「そこでいつものように派手派手に登場でもしてくれりゃ、こっちもゲーム的なシステムを使ってミッションにして滅ぼす、みたいな事も出来たんだが、クソ忌々しい事に潜伏しやがったんだわ」
わりと知恵が回るんだな、あの真っ黒黒助。あ、神か一応。
「問題は、奴は潜伏しながらゲームのシステムを介して、基幹軸の地球のリソースにちょっかいを出し始めたんだ。これにはガイアも対応せざるを得ず、少しずつラブコメ勇者に力を渡してたんだ」
「ほへー……気になってたんだが、なんでいそっぷ君が選ばれたん?」
こいつ、初対面からいそっぷ君を勇者って呼んでたよな。何でだ?
「いわゆる、かむなき、って奴だ。かなーり旧い歴史ある家でな、そん中でも歴代最強レベルで素質があった感じだ。全く役に立たんかったがな」
「あは、あはははははは……」
いやあれ、お前も悪いからな? 事有る事に勇者だって言い張るから、すっかり掲示板とかで勇者(笑)、勇者(憎)、勇者(もげろ)ってすげぇ書かれまくったからな? そりゃぁいくら人間出来てる好青年ないそっぷ君だって拒絶反応起こすよ。
「んで俺らは地球の事には干渉しない約束だから、アダム・カドモンの事はガイアに任せる形になったんだ。この段階で俺らは完全にアダム・カドモンの問題に手を出せなくなる」
「何で?」
「そういうルールがあんだよ。何でもかんでも自由に出来たら、世界なんてあっという間に神々の遊び場になるぞ」
「……十分に遊んでんじゃねぇか」
「げぶんげふん」
暇を潰すゲームを作るから世界丸々一つデリバリーとか、色々と好き勝手やってると思うのは俺だけか? そんな気持ちを込めて胡乱な瞳を向ければ、ポンポツの時にもやってた下手クソな口笛を拭いて誤魔化しやがる。全くこいつは……
「ま、まあ、それでいよいよゲームのシステムもこっちの世界もメンテナンス入れないとヤバイって感じになって、じゃぁ大型アップデートって感じに区切って、これまでのデータを活用した新しい形へ整えますかってなったら、そのタイミングでアダム・カドモンが現れたって訳だ」
「……そこが分からんのだけど、何でそのタイミングだったんだ?」
俺の問いかけにデミウスが瞳を泳がせる。こいつがこういう反応する時は、全部分かってる時だな。
「言うてみ? おっちゃん怒らないから」
「それ絶対怒るパターンの奴だろ!」
「ほれほれ、言ってみ? ん?」
ニヤニヤしながら言えば、デミウスは観念したように息を吐き出すと、頬をポリポリ掻きながら、少し頬を赤らめて言う。
「お前が生きたいって言うからよ……生きてまた皆と遊ぶ為に治療を受けるって……だから俺らはちょっと嬉しくなって、神の力が漏れた……それをあいつが取り込める力だと勘違いして襲って来たんだよ……」
「……」
何も言えねぇ……マジか、つまりは死にたい死にたいって言ってた俺が、こいつらと一緒に居たいからって治して来るって言った事が嬉しくて、はしゃいだって事だよな? いやいやいや、それは責められないよ。つーか、喜んでたのかアレ。あっそう的な反応だったと思ったんだが?
「うっせーよ! そんな素直に喜べっか! お前みたいなひねた奴は何がトリガーになって拗ねるか分かんねぇんだよ!」
こちとら神の力封印している状態で、貴様の心なんか読めないっちゅうの! と真っ赤な顔して叫ぶマイフレンド。いやいや、こっちが恥ずかしいんだが?
「うっせ! あとはお前の記憶通りだ!」
その事はいいんだよ! と叫んで、切り替えるようにわざとらしい咳払いをする。
俺がニヤニヤ笑ってると、シャアと威嚇音を出して片手を挙げる。照れるなよ、という気持ちを込めてうんうんと頷けば、デミウスは面倒臭そうに頭をかきむしり、話しをつづけるぞと溜め息を吐き出す。
「はあ……んでだな、アダム・カドモンが滅びて問題が発生する。まず一番問題だったのは……お前だ」
「俺?」
「そうお前だ。お前はあの時、まだ人間だったんだよ、完全に普通の人間。ただの人間が末端も末端だが神を滅ぼした。これは一番旧い俺でも記憶にないレベルの快挙だ」
「へ?」
「問題二つ目、アダム・カドモンが地球のリソースにちょっかいを出していた事とガイアを倒した事も重なり、地球が滅びた」
「はああぁぁぁっ!?」
「問題三つ目、こっちの世界もその余波を受けて滅びた」
「はあああぁぁぁぁぁぁっ!?」
とんでもない事をまたポンポン出しやがってからに……
頭が追い付かねぇぞ、という目でデミウスを睨めば、まあ聞けと手を挙げて続ける。
「達郎が神を滅ぼした事に関する報奨という意味で、神々が時間を巻き戻す事が決定する。本来なら神と神の戦いで、手段はどうあれ勝った方の神が正義なんだが、あの場合の勝者は間違いなく達郎だったし、お前なら絶対にそういう願いを口にするだろうって思ったからな」
「……」
いやまぁ、生きてたら元に戻せや、くらいの文句は言っただろうなぁ、とは思うが……時間を巻き戻すって。
「んで時間を巻き戻して、まずは地球を元通りに、次にこの世界を元通りに、さぁ達郎を元通りにしようって段階でアダム・カドモンが逃げた」
「はぁぁぁぁぁ……そんな気はした……」
俺の言葉にデミウスは苦笑を浮かべて、すまないな、と軽く謝る。
「その段階で、こっちの世界のリソースをごっそり持っていきやがって、俺らも地球とこっちの世界を安定させる必要があって動けなくなった。したらお前の魂がこっちの世界へ流れて行きやがって、慌てて俺の分体にお前の魂を宿した」
その説明で凄い納得した。こっちの世界に来た時は、声と目の色以外は全部デミウスっぽかったしな。
「だからいっちゃん最初、まんまお前の姿してたんだな」
「そんな簡単に流して良い事ではないんだけどな。気づいてないか? 分体とは言えお前は神の体に魂を宿したんだぜ?」
「ん? あれ?」
おお!? あれ!? 凄いヤバイのでは?
「あのままだとお前の魂が消滅する危険があって、本当に一か八かの勝負だったんだけど、まさか記憶を少し失っただけで済むとか……お前おかしいからな? 挙げ句は精神力で自分の魂を力業で定着させたと思えば、自我の力だけで完全に自分自身を取り戻すんだもんよ……神殺しもそうだけど、規格外すぎひん?」
「んな事言われましても……」
ただただ時間加速装置に籠って訓練していただけだよ?
「いやまぁ、少しは何かの足しになるかもって、一番最初に傷口にソーマぶっかけたり、次の自傷の時にはネクタルぶっかけたりして応急処置はしたけど、それにしたってお前」
「待て待て待て待て待て! ソーマ!? ネクタル!? あれか! 何か良さげな白昼夢の後!」
「へへ、効いたろ?」
「馬鹿野郎! 燃えたろ? 的に言うんじゃねぇよ!」
器用に指先に火を出して、わざわざ吹き消しやがってからに!
「まぁ、それだけじゃないのが達郎、いやタツロークオリティ」
「まだ何かあるんかぃ……」
話しは続くよどこまでも――
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