第270話 魂を燃やせ ②
フレシキブ・バトルアームからバチバチと蛍光イエローの輝きをスパークさせながら、アルス・クレイ・ナルヴァスの純白の船体が、継ぎ接ぎだらけのランサー3へと襲いかかる。
『そろそろパターン変化させた方がいいぞー。どこぞのバトル漫画じゃねぇけど、SIOプレイヤーに三回同じ技術を見せたら学習されて返り討ちだ』
「ちっ!」
ランサー3に乗るルック・ルックの忠告を素直に受け入れ、カオスはフッドペダルの踏み込む力加減を絶妙に加減し、まるで瞬間移動したような挙動でランサー3から離脱する。
『ひゅー! 縮地かよ。すげぇな、そいつはあのハーレム勇者しか出来なかった技術なんだぜ』
「その勇者と魂を共有していたヤツと大親友でねっ! しっ!」
アルペジオに戻った時に、絶対汎用性があるから覚えた方が良いとマルトから教え込まれた技術を使い、縮地による一撃離脱を繰り返すカオス。縮地が踏み込みに近い感触もあって、フレキシブ・バトルアームを使用した剣術と噛み合い、かつてない一体感のような操縦感覚を覚える。だがそれでも、こちらの船よりも圧倒的にスペックが劣るランサー3を追い詰められない。
何度も攻撃がかするのだが、削られても問題無い場所へ誘導されているような、こちらの動きをコントロールされている気持ち悪さを感じながら、それでも攻撃を繰り出すしかない。
この状況を打破する為にも、欲を言えばダイレクト・トレース・ファイティングシステムを使用して、もっと体感的な操縦をしたいのだが、残念ながら相手は三神将と自分を呼称していたお笑い芸人より油断が無く、船を変形などさせようモノなら的にされて終わるだろう。
「そのボロ船どうなってやがる」
『へっへっへっへっ、俺ら犯罪系プレイヤーは生産職と取引が出来ないからな、略奪品の組み合わせでどうにかしなけりゃならなかったんだ。その組み合わせってヤツでどうにかするってのが、俺たち犯罪系プレイヤーの腕の見せ所ってヤツよ』
「自慢するような事じゃないが」
『どこの世界にもはみ出し者ってのはいるってこった』
どうにもやりにくい、カオスはそんな想いを舌打ちに乗せる。
目の前のスキンヘッドの悪党面、どうにも空気感がタツローが纏うそれに近い。厳密にはタツローの気配はカラッと晴れ渡る太陽だが、目の前の男は静かな月のような気配というかそんな感じがするのだ。どちらも懐が深いという意味では同じで、独特な気配がどうしてもやりにくさを覚えさせる。
「面倒臭い」
『お互いにな』
シニカルに笑う巨漢に、カオスはますますやりにくさを募らせる。そんなややぎこちなさを挙動に混じらせると、相手は容赦無くそこへ攻撃を入れてくる。
「フィールド損耗率上昇!」
「なんですのっ!? どうしてそう的確に一番弱い場所を狙えるんですの!」
二人のオペレーターの悲鳴に似た報告を聞きながら、カオスはちっと舌打ちをする。
ランサー3の武装はそれ程怖い威力のモノはない。ないが、問題はそれを扱うパイロットの技量だ。いや、正確にはパイロットが積み重ねてきた体験と経験が問題といえる。
ルック・ルックが言っていたように、彼らは困難な状況であろうと、絶望的な場面であろうと、わずかでも活路があれば全力でそこを狙ってくる。そういう限界ギリギリを越えた先を何度も経験してきた自負、矜持のような確固たる意思、そんな絶対に折れない信念のような意地を感じさせるから質が悪い。どう見ても悪党なのに。
『カオス! 敵の増援が来る!』
「っ! くそがっ!」
『あーあ、フランクまでこっちに回されたか……そんで、コピー人形の俺の部下とフランクの部下まで突っ込むと……そりゃぁそうするわな、アダム・カドモンも多少は頭を使うか』
ルック・ルックの心底つまらなそうな呟きを聞きつつ戦況を確認すれば、まずい事に次々と防衛隊戦力が潰されていき、ガイツの特務艦隊も被害を受け始めているのが確認出来る。
『ここはゲームの世界じゃねぇから、死んだら終わりなんだぜアダム・カドモンよ……んあ? おいおいおい、さすがプロフェッサーの変態技術、人死には出てねぇのかよすっげぇなぁおい……しっかし全く、お呼びじゃない存在ってのは神の世界でもいるんだなぁ』
どのように感じてるのか、どうやら潰されていく防衛隊の安否確認が出来るらしいルック・ルックが呆れたようにタツローを誉め、うんざりした表情でアダム・カドモンがいる方向へ視線を向ける。
『どちらかと言えば、アレは確実に爪弾きにされたタイプだと思うけどね、私は』
そこに新しいウィンドがポップアップし、胡散臭い笑顔を張り付けた壮年の男性が、歪んだ笑いを浮かべながらルック・ルックの言葉に突っ込みをいれる。
『よぉ、俺とおそろか?』
『君のようなむさ苦しい男とお揃いとか、どんな罰ゲームかね? だが非常に残念ながら同じだよ』
オーバーなリアクションで肩を竦めようとして、操縦桿から手が離れない事にイラとした表情をうかべながら、男はそれでも皮肉を百倍濃縮したような笑いを口の端に浮かべる。
『おっとこれは失礼。お初にお目にかかる。詐欺、恐喝、タカりに強請、なんでもござれの犯罪ギルド、悪の花道ギルドマスターをしておりましたフランク・カリオストロと申します。出来れば貴方には、是非に我々をぶち殺して頂きたいのですが……難しそうですな』
「誠に遺憾ながら、ってヤツだがなっ!」
恭しいと言うには頭が高く、慇懃というには態度が舐めきっている、確実にこちらをキレさせて冷静さを失わせる事を目的にした挨拶をしてくるフランクを、カオスは軽く流しながら襲いかかる彼らの部下達を斬り捨てる。
『ふむ、縮地にこれは……剣聖スプリングの技術ですかな?』
『だよなぁ、本当あの「遊戯ひま人の宴」ってクラン、化けもんだよなぁ』
動転せんさへんげん、流転ゆめまぼろしがごとく、縮地、縮地、縮地、チャージしていたレールキャノンをぶちこみ、襲ってくる敵の数を減らす。そんなカオスを完全なる見世物扱いをしつつ、ルックとフランクがのんきに会話を続ける。
『界隈では遊戯神と言われてましたよ。確かに全力で誰よりもSIOという世界を堪能してましたけどね』
『ある意味勤勉な奴らだったな。俺らとは大違いだぜ』
ともすれば二人の会話に意識が持っていかれそうになるが、カオスは高い集中を維持しつつ、連携をして圧力をかけてくる二人の部下を捌いていく。
『ええまぁ、実に体の良い、自分の感情の捌け口としか思ってませんでしたしね』
『それもおっちんだ今となっては良い思い出ってのが笑えるんだが』
『生きてたら確実に家族に泣かれてましたよね。もしくは勾留されて牢屋行きですか』
『そんだけの事はしたからな』
はははははと笑い合う二人。そんな空気感もタツローが時々見せる雰囲気に似ている。本当にやりにくい。
『おっとそろそろ俺らも突っ込むみたいだぞ。頑張って撃墜してくれや』
『あんな化け物に操られ続けるというのも業腹ですからな、お頼み申す』
「簡単に言ってくれる!」
彼らが本心から倒される事を望んでいるのは理解出来る。だがそれを実現するには、あまりにも二人の技量が高過く、カオスの額にイヤな感じの汗が浮かぶ。
『ひぃぃはあぁぁぁぁーっ!』
「っ!」
その状況を切り裂くように、通信から唐突にそんな奇声が聞こえ、カオスは直ぐ様その場から離脱する。そこへ到来するのはロウ・スラフのスレイブ・ブラスト、レールキャノンの連射だ。
アルペジオへ戻ってすぐ、ノールが技術開発部に頼み込んで新しくつけた機能である。
『おいおいおい、そのレベルのレールガン連射って頭おかしいつうか、エネルギー回りどうやってクリアーしやがった?!』
『本当にもうビックリ箱ですな。自分で操縦できない事がこれ程残念に思った事はありませんよ。ちっ、あの腐れ邪神が……』
一番密集した場所へ、戦闘艦が扱うレベルの威力を凌駕した砲撃が駆け抜け、多くの船達を破壊し消滅させていく。その瞬間こそが絶好のタイミングと、カオスもダイレクト・トレース・ファイティングシステムを起動させ、船の変形を完了させる。
『当たり前のように変形すなっ!』
『おーもー、これは確実に遊戯神の系譜、血統ですワ』
妙に楽しげな二人の声をさらりと流し、カオスが背を向けて逃げるような動きを見せる。
『おいおい……ちっ! 誘いって分かるだろ馬鹿か! ってこいつら劣化コピー人形だったわ』
『ここらへんは初期のAIっぽい馬鹿さ加減ですな。まぁAIの方がもうちょい柔軟性がありますが』
カオスの背中を追いかけるように部下達が一斉に動き、見事に一塊の集団となったところへ、直上から大出力のレーザーが降り注ぎ、キレイさっぱり集団を蒸発させた。
『すまん、遅れた』
「むしろナイスタイミングだ」
アーロキのシオン・シグティーロが、巨大な持続型圧縮超重複合レーザーの砲口をバチバチとスパークさせながら、アルス・クレイ・ナルヴァスの横へ並ぶ。その反対側にはいつのまにかロウ・ステフがちゃっかり位置取っている。
『いいねぇ……実に良いチームワークだ』
『ええ、直に戦いたいレベルのチームですな。本当にクソ忌々しい』
二人は何度も体を揺すり、どうにか自分の体を自由に出来ないか抵抗をするが、やはりそれは無駄に終わる。
『ちっ、やっぱりダメか』
『分かってませんな、実に分かってません』
二人の様子に、アーロキとノールが困惑した目をカオスへと向ける。そんな二人へ、カオスは特大の溜め息をプレゼントしながら、口を開いた。
「見ての通りやりにくい。だが油断も手抜きも許されない。レベルは完全にオジキの下位互換。悪辣さ、搦め手、底意地の悪さだけを取ればオジキを上回る」
『『うわぁ、面倒臭い』』
二人の心底イヤそうな表情に笑いが浮かび、それが良い具合に肩の力を抜いてくれる。
気持ちに余裕が生まれ、冷静に周囲を確認すれば、メビウスが受け持っていた方面の圧力が弱まっているのが見えた。
「マルト、そっちは?」
モニターに映るマルトは、疲れを滲ませた雰囲気だったが、どこかやりとげたような笑顔を浮かべて力強く頷いた。
『カオっちゃんがそいつら引き付けてくれるなら、ボクと数隻だけなら突破出来そう』
「上等! 聞いたな!」
『『おうよ!』』
プラティカルプスの他の隊員達は、完全に防衛隊のお守りが忙しくて動かせない。状況は悪いままだが、マルトがアベルのところへ向かえば、少しは状況が改善するだろう。カオスはそう思い込みながら、神経を研ぎ澄ます。
「斬り捨てる!」
カオスが一直線にルックのランサー3へ突撃し、アーロキとノールが完璧なタイミングで、ルックのフォローへ回ったフランクの出鼻を叩いた。
『ひゅーっ!』
『ぐっ!? 上手い!』
それまでのカオスの動きとは隔絶したスピートについていけず、ルックのランサー3のメインスラスターが斬り裂かれる。そして、フランクのランサー3はアーロキとノールのレーザーを受けて、船首を歪に溶かしながら、切り揉み回転してふっ飛ばされた。
『たかだかメインスラスターの一つや二つ、って叫ぶんだろうが……さすがにメインやられたらまずいんだがよ』
『こっちも一発で損耗率レッドですか。いやはや、降伏して投降したい気分ですな』
二人の言葉とは裏腹に、二隻のランサー3は戦いをやめない。
「悪いな」
『へ、よせやい。因果応報の自業自得ってヤツだ』
明らかに動きが鈍ったルックのランサー3のコックピットへ向け、カオスの深紅のレーザーブレイドが振り抜かれた。
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