第231話 津波 ⑩
「なんですとぉっ?!」
猪突猛進で突っ込み、一番最初に戦いの口火を切ったメ・コムがまさかの瞬殺。それを目撃したア・ザドが頓狂な悲鳴染みた叫びを出す。
「ア・ザド殿、連携をすべきだ」
ク・ザムが憂いた表情の顔面を前面にし、驚愕のまま固まったア・ザドに提案する。
「ぬ? ク・ザム殿?」
メ・コムは考え無し、ア・ザドはワンマンアーミー、ク・ザムは考えすぎ、そういう特徴があってお互いでお互いを補い合うような戦い方というやり方を一切した事のない三神将。そもそも連携など力弱き愚かな下等生物が、自分よりも強大な相手を倒す為の方法だ、と見下した考えもあって連携をするという発想その物がそもそも無かった。
「認めよう。彼らは我らより格上である」
「ぬうぅっ」
鎧袖一触。こちらの攻撃を一切かすらせもさせずに、切り捨て御免とすれ違い様に一閃。それだけでワゲニ・ジンハンが誇る三神将が一角、猛将メ・コムが手も足も出ず沈んだ。その事実が自分達の方こそ狩られる立場、哀れな獲物に過ぎないとク・ザムは慢心を捨てる。
「こちらの手の内を全て向こうは知っておる」
「ぬうぅっ」
どういう
「我らの命も無限にあるわけではない。そう何度も復活は使えぬよ。巫女殿の祈祷も限りがある」
「ぬうぅぅぅぅっ……」
異常性癖で何かと面白いちゃらんぽらんな性格をしているア・ザドであるが、暗黒星団ワゲニ大帝国原初の一体、豊穣母体コザーラ・ミヒテが最初に産み出したワゲニ・ジンハンである。豊穣母体がまさに母だとすれば、ある意味ア・ザドは国父と言っても過言ではない。
だからか、ア・ザドは面白い言動をしながらも、ワゲニ・ジンハンとしてかなりプライドが高い。ク・ザムの言葉に苦悩するのも無理からぬモノがあるのだろう。
「致し方無しですぞ!」
「うむ、賢明だ」
ややヤケクソ感が溢れる同意ではあったが、ア・ザドが念動を使いク・ザムの複数のリングをコーティングする。ク・ザムもニチャリと笑った顔を前面にした。
「さあ、強き者よ。ここで滅びよ!」
ク・ザムが操作する複数のリングが、ア・ザドの念動を受け、激烈な勢いでツヴァイク・レイズ・ナルヴァスの群れに突っ込む。
『フレキシブ・バトルアーム展開。ハイパーモード』
『『『『了解』』』』
どうやらこいつらは二体で連携して戦うようだ。頭数を三隊に分け対応するという形で挑み、先にさっくり対処して見せた奴らに負けられぬと、臨時に指揮を任されたリーダーが気合いを入れた声で指示を出す。すでに先陣を切って勝利した連中はいないが。
がごん! と音を立て船体の腹側からアームが展開。アームの先端に付けられた筒状の装置から、轟音を響かせ深紅のレーザーが吐き出される。
『シクるなよ。そんな事したらスプリング師匠に殺されんぞ』
『『『『おうっ!』』』』
フレキシブ・バトルアームを使う特殊な部隊と言うことで、実は彼らもカオスと一緒にスプリングの修行という名の拷問を受けていた。
カオス程の適正は無かったが、それでも一端の剣士であるというお墨付きを師匠から頂戴しており、事レーザーブレイドを扱わせる技術で言えば、ライジグスでも上位に入る腕前ばかり。そんな連中が横陣形一列に並び、全く同じ構えで突っ込む様はかなり威圧的だ。
『動転、せんさへんげん』
『『『『おうっ!』』』』
レールガンの如く念動をカタパルトに使用したリングの体当たり攻撃を、彼らは真っ向から迎え撃つ。横一列に並び飛翔していたかと思えば、全く同一のタイミングで上下にフラリと、まるで酔っぱらったような動きで分かれ、またフラリと一瞬合流するかのように動いて再び上下に分かれる。そんな動きを繰り返し、リングが突っ込んでくるタイミングに合わせたように再び合流を果たす。
まるで巨大な鮫が、その自慢のアギトを閉じるが如く、深紅の輝きが上下から閉じるように駆け抜けた。
「なんとぉっ?!」
「ああ、面倒臭いっ!」
深紅の煌めきが飛翔した複数のリングをスパンと切り裂いた。ア・ザドの念動を圧倒的破壊力で斬って捨てたのだ。これには自分の念動という力に絶対の自信を持つア・ザドも驚愕する。
『ハイパーは過剰だな。ショックブレイドに切り替え』
『『『『了解!』』』』
操縦桿に伝わった感触から、最高出力で展開するハイパーレーザーブレイドは必要ないと判断し、省エネモードに切り替える。戦いはまだまだ続くのだ、自分が持つリソースの消耗は押さえてこその一人前の兵士と、節約を心がける。
「これはもう詰んだな」
「ク・ザム殿っ?!」
ク・ザムは相手の戦力を確実に見抜いていた。
自分が戦った浮遊する物体を操る奴らも大概であったが、目の前の奴らも大概だ。そして彼らが乗る船はどう見ても統一された規格の船だ。これがどういう意味を持つのか、ク・ザムは理解した。
敵の戦力、自分達が敵対している日の出と妖精と剣のマークを持つ奴らは、この程度の戦力をゴロゴロ所有している、その事実をク・ザムは正確に見抜いたのだ。
「これはもう、巫女殿に直接連合体中枢部近くへ転生させて貰わねば命を無駄に散らすだけだな」
憂いの顔面を前面にし、ク・ザムは陰鬱そうな口調で呟く。それを聞いたア・ザドはギョッとした表情でク・ザムを見る。
「何を仰られるか! まだまだ念動は使えますぞ!」
ア・ザドが金切り声を出して喚く。それをク・ザムは哀れんだ瞳で眺めた。
ク・ザムはもう一つの可能性にも気づいた。本来、超能力系統の攻撃というのは防ぐにも破壊するにも、同系統、つまりは超能力には超能力でしか対応が出来ないハズだった。そう、目の前の敵は、念動という能力でコーティングしたリングを斬ったのだ。これはつまり、メ・コムならば衝撃を、ア・ザドならば念動を、自分なら操作する能力そのモノを斬られる可能性が高まる。つまりは詰みだ。
ポイント・ジーグで一番最初に戦った相手、特に目印となるようなマークは無かったあの艦隊相手だったら自分達も無双は出来よう。だが、日の出に妖精と剣のマークを刻んだ相手では無理だ。こちらが弱者となり駆除される未来しか見えない。
「こちらの様子は見られているだろう。巫女殿が賢明な判断を下す事を願うしかないな」
クルンと哀しい表情の顔面を前面に、複数のリングを自分の周囲に展開しながらク・ザムが呟くと、ア・ザドは尚も言い募ろうとして自分の状況に気づき、慌てて自分の体を数十層からなる念動でコーティングした。
『逆転、まぼろしのきゅうかん』
『『『『おうっ!』』』』
いつの間にやら三隻一塊の状態に陣形を作り、こちらへと突っ込んでくる戦闘艦。ア・ザドはこれを耐えて殲滅と息巻き、ク・ザムは無駄だろうなという諦念を抱きながら、その光景を他人事のように眺めた。
ゆっくりと時間が進むような錯覚の中を、アームが轟音を上げて振るわれる。ぶふぉん! と激烈な音と共に蛍光イエローの何かが吹き出し、自分のリングとリングが産み出す障壁を易々切り裂いて、自分の体をも切り裂いた。意地で頭部を動かし何とか真っ二つになる未来だけは回避し、途切れそうになる意識でア・ザドを確認する。
ああ、やはりか……
ク・ザムの悪い考えは的中する。ア・ザドが全力で纏う念動を、まるで紙切れのように斬って捨てる蛍光イエローの煌めきが見えてしまう。自分の全力攻撃ですら一枚も破壊出来ないそれを、奴らは軽々斬ってしまった。
ク・ザムは消え行く意識の中で、巫女に願う。我らが生き残る道筋は、実に細く不安定で、綱渡りになりました。我らが復活させるべき場所を見誤らぬように、と。
『おし! 隊長達の雑魚狩りへ合流する。行くぞ!』
『『『『了解!』』』』
自分達はやれる。確実に成長して、ちゃんと戦力として戦える。そんな自信をくれた敵に少しの敬意を払い、ツヴァイク・レイズ・ナルヴァスは激烈な加速で雑魚掃討を行っているカオス達へ合流をするのであった。
○ ● ○
柔らかで小さな肩から豊満ではち切れそうな胸、そして女性なら誰もが嫉妬するレベルでくびれた腰へと掛けたタスキに、王立ライジグス清掃会社お助けメイド隊、という大きな文字を翻しながら、麗しきライジグスメイド長は、ヴィクトリアンスタイルのロングスカートを下品にならない程度で揺らし、手に持つホウキでせっせとダイオウグソクムシっぽい化け物を吹っ飛ばしていた。
「めいどちょーさま! すらむのおそうじかんりょうしまちた!」
「こちらもうちゅうこうのおそうじ、かんりょうちまちた!」
「はい、ご苦労様ですの」
誉めて誉めてと瞳を輝かせるクマメイド達の頭を撫で付け、ガラティアはだらしなくデヘヘと笑う。しかし手に持つホウキは勝手に動き、わらわらと向かってくるダイオウグソクムシをぶっ飛ばす。吹っ飛ばした先には別のメイドが控え、流れ作業のようにハタキで化け物を叩いてサラサラの砂粒へと変える。そしてその砂粒を、クマメイド達がわちゃわちゃ群がって掃除機っぽい装置で回収していく。見事なまでの流れ作業が完成していた。
「なかなか数が減りませんの」
支持を出して、わーと目的地へ散っていくクマメイド達に手を振りながら、ガラティアは困った様子で頬に手を当てる。その間にも逆の手は勝手に動き、やはりダイオウグソクムシをぶっ飛ばし続けているが。
「どうも本隊の方で感知していない場所からも、あのウニが飛翔してくる感じみたいですね。ルータニア様からそのような通信が入りましたから」
「全く、面倒臭いですの」
「同感です」
先程までラサナーレを慰め、あまりに憔悴が激しくて少し薬の力を使って眠らせた事を思い出しつつ、ガラティアはその元凶となった化け物達へ鋭い視線を向けつつ、溜め息を吐き出す。
「まぁいいですの。一体誰に喧嘩を売ったのか、その体と魂に刻み込むだけですの」
ぐいっと拳を握りしめ、むんとガッツポーズのような動きをしたガラティアを見て、声を掛けた副メイド長は、心の中で敵へわりと本気の哀悼を示す合掌を送った。こうやって軽く言っている時のメイド長が一番怖い事を、彼女は良く知っている。これは結構な本気度であると。マジでやりかねないと。
「それはさておき、今は掃除が先ですの」
「はい」
断続的に聞こえてくる、ウニが外壁へ取り付く音を、忌々しそうに見上げながら、ガラティアはグッと手に持つホウキに力を入れる。
「ライジグスメイド隊の本気をお見せしますの。さぁ! 行くですのっ!」
「「「「畏まりました、メイド長」」」」
ガラティアは急ぐ訳でもなく、慌てる様子もなく、ただ静かに下品にならないようロングスカートの裾を翻し、ゆっくりとダイオウグソクムシへと向かう。
副メイド長や他のメイド達からは、その背中がまるで死神のように見えている事を、化け物達は知らない。
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