メイド道5 くまくまメイド

「メイド長、彼女達をどう教育なさるので?」


 メイド・オブ・メイドと呼ばれる才妃に聞かれ、普段からは考えられない、デレッデレな表情を浮かべたガラティアは、えへえへえへとだらしない口許で言った。


「このままで良いんじゃないのですの?」

「……」


 ガラティア直下の十人いる副メイド長の一角を任されている彼女は、そのあまりにあんまりな言葉に、色々悟り色々と切り捨てる決意を固めて言った。


「では、もうメイド長は口出しをしないで下さいね?」

「何故ですのっ?!」

「使い物にならないからですよ。正常な判断を下せる副メイド長達でカリキュラムを考案いたします」

「下克上ですのっ?!」

「馬鹿言ってないで仕事して下さい」

「のー! のー!」


 抱っこしていたクマっ子を奪い取り、ゲシゲシと足蹴にして追い出すと、あわわわと怯えてしまったクマっ子達に優しい笑顔を向ける。


「はい、それでは研修を始めます。皆さん、立派なメイドになれるよう頑張りましょう」

「「「「あ、あいっ!」」」」

「返事は、ハイ、ですよ。それではこちらについて来て下さいね」

「「「「はい!」」」」

「良いお返事です」


 完全に使い物にならないメイド長や、子グマの琴線に触れてしまった同僚を排除して行われた研修は、かなりの波乱の幕開けとなったのであった。




 ○  ●  ○


「んで? 関われなかったからガラティアが落ち込んでると?」

「いんや、接触禁止令が出てな。きっちり厳しくすべきところで厳しく、きっちり誉めるべきところで誉める、っていう大原則を邪魔するから、一切合切の接触を禁止されたんだそうな」

「しょーもなっ! マジでしょーもなっ!」


 俺は、きゅっきゅっきゅっきゅっ、という足音が聞こえて来そうな動きでティーセットを運ぶメイドクマ(子グマ)に視線を送り、ついでテーブルに撃墜しているガラティアを見て呆れる。事情を教えてくれたゼフィーナも、困ったものだと肩を竦める。いや、お前はまずその胸の中のメイドクマを離せ、思いっきり訓練の邪魔をしておるわっ!


 俺は手早くメイドクマを奪い取り、優しくリリースしてやる。


「おてすうおかけします! へいかー」

「頑張れ!」

「あい! がんばりましゅっ!」


 まぁ、ついつい抱き締めたいのも分かる。まるでどっかの変態のように、抱き締めたいなぁっ! クマメイド! とイケメンボイスで叫びたくなるくらいには可愛いからな。


「それで? 彼女達の適正というのはどんな感じなんだ?」

「最上級です。何より威圧感を与えないというのは最強ですね。彼女達が成長して大きくなったとしても、親しみやすさは残りますし、ライジグスを代表するメイドの一角を担う事でしょう」


 副メイド長大絶賛だった。俺は助け出したメイドクマが持ってきたお茶を受けとりながら、あちらこちらで花咲く笑顔を眺める。


「お茶、あんがとね」

「どういたましてっ!」

「そこは、お気になさらず、ですね」

「あう、そうでちた」

「……くっそ、可愛いな、おい……」


 彼女達が立派なメイドになる道はまだまだ遠いなぁ、だが周囲を笑顔にしているのは満点だな。うん。


 俺達は子グマの訓練風景を眺めつつ、優雅な一時を楽しむのであった。まぁ、約一名ピクリとも動いてなかったけどな……




 ライジグスを語る上で、このメイドクマがライジグスを代表するメイドイメージとなる。その事が原因でメイド長たるガラティアが、大真面目にメイド服をきぐるみにすべきか否か悩む事になるのだが、それはまだまだ遠い未来の話だ。しょーもねー話だけどなっ!

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