第205話 スカウトでーす(物理)
いきなりであるが、俺の戦い方というのはファイターと呼ばれる分類になる。これはうちの翼士達もファイタータイプになるよう訓練しているので、ライジグス全体のパイロットがファイタータイプだ。
我が国を代表する猛将ガイツ君、彼はコンダクターと呼ばれる分類となる。これは部隊や艦隊を指揮する事で能力を発揮するタイプだ。上級将校や将官になるタイミングでそこら辺の技術を叩き込むので、それまではファイタータイプのままである。ちなみにファイターもコンダクターもこなす変態がデミウスであった。まぁ、あいつはちょっと色々ぶっ飛び過ぎて比較するのも馬鹿馬鹿しい存在であるけどね。
ではクマ・モート・チーマズという真性ケモナーはどんなタイプだったかというと、あいつはハンターと呼ばれるタイプだった。
ファイターの戦い方は技術と技術の競い合い、いわゆる航空戦闘機のトップガン同士の戦いみたいな感じだ。コンダクターはトップガンを指揮して効率的にパイロットを運用する事で戦いを有利に運ぶ感じ。ではハンターとはなんぞや? と言われれば、負けない戦い方をする感じ、だろうか。
正々堂々? 何それ美味しいの? 罠を使って悪いの? 馬鹿なの? 頭を使えよ。効率良く敵を滅ぼせよ、刈り取れるだけ刈り取れよ、それが狩りってもんだろう? とはクマ公の言葉である。まぁ、あれは本当にやり過ぎキングだったから別枠過ぎるが、他のハンタータイプのプレイヤー全てがド卑怯だったわけじゃないし。
「……開祖クマのイメージが……」
ジルジェやブルグ、ヒグマのリーダー格だったナムラに、ムーンベアのリーダー格だったジバレ、多くのクマ信奉者がおーてぃーえる状態でショックを受けている。
いやだって、開祖クマをご存知だとか! でしたら是非に開祖クマと同じような技術を教わりたいのです! なんて事を言うからさ、お前らはこんな奴になりたいのか? という感じにライブラリィからデータを呼び出して、映像を見せたらショックを受けてしまったわけだ。
仲間を使った囮、エサ釣り。宙賊へ仕掛けを仕込み、わざと逃がして撃滅する、ネズミ捕り。宙賊を捕まえて、仲間をおびき寄せて潰す、友釣り。偽装した商船を襲わせて、そのまま拠点までご案内、オープンセサミ……いや、言葉にすれば効率重視の優れた戦略に聞こえるけど、ヤってる事は超ド外道なド鬼畜感満載の方法なんだよ。人道ガン無視だしね、あいつら……
何かの動画配信でだっけっかな、いくら相手がNPCでもやり過ぎだし、そんな事は許されない、みたいなクレームが入った時も『クマに道理を求められても困るクマー』とかすっとぼけた感じに言って煽ってたしなぁ、あの野郎。
いや、ハンタータイプが悪ってわけじゃないよ? 用意周到、時には罠や搦め手を用意し、負けない戦いをする。うん、実に良い事だとは思う。けどクマ公を見習うのはちとマズい。あいつは本当に吹っ切れてぶっ飛んでたから、あいつを基準とするとハンターじゃなくて、マフィアとかギャングとかそっち系統のアサシン、殺し屋タイプになるからなぁ。そこはちょいと踏み止まっていただきたい。
「これを君らは習得したいんだね? いいよ別に。これはこれで裏方に向いてるっちゃ向いてるよ」
ほーら君達の大好きな開祖クマですぞー、という感じにホロモニターを展開し、重々しい口調で告げれば、ジルジェが勢い良く立ち上がり、直立不動で叫ぶ。
「翼士の訓練をお願いします!」
ほらほら見てごらん、これがクマ公だぞーとしつこくホロモニターでぐりぐりジルジェに押し付けながら、凄い爽やかな笑顔を浮かべつつ、俺は分かる分かると頷く。
「クマ、好きなんでしょ?」
遠慮する事はないんだぞ、俺はそういう気持ちを込めながら言うと、ブルグが飛び上がる勢いで立ち上がり、胸に左の拳を当てるライジグス軍部正式敬礼をして、ハキハキと叫んだ。
「我ら部族ライジグス! 翼士を目指しますっ!」
よしよし、クマ公の戦い方を仕込んだら、確実に軍部の懲罰部隊候補になってたよ。いや、作らんけどね。
俺は満足に頷き、レイジ君に視線を送った。
「じゃ、レイジ君。いつもの」
「はいはい」
変な茶番を見せんなと言わんばかりのジト目で、とてもおざなりな返事をしつつレイジ君はクマ達を連れてシミュレータ区画へと歩いていく。
「さて、マイロード。もうよろしいですか?」
それを待っていたように、ずっと黙って俺の後ろに立っていたマヒロが、それはそれはにこやかーに微笑みながら聞いてくる。俺はブンブンと首を振っていやいやと弁明する。
「いや、よろしくないよ?! だから言ったじゃん! 追い出されたって! クリスタ達はたまたまその場に居合わせて、そしたらベストタイミングでトイルのおっさんが来てて、ア・ソ連合体に仕入れに行くって言うからさ、クリスタがティナさんに聞いてみましょうって感じでトントン拍子に話が進んだんだって」
私怒ってますという感じのマヒロに、自分でも浮気を弁明する旦那みたいだな、と思いつつ説明する。
「まぁまぁ、マヒロちゃん、プロフェッサーのこれは絶対に悪気はありませんのん。ちょっとしたうっかりさんですわん」
アビィがくねくねしながら、わりとまともな事を言ってくれる。ナイスでーす。
「……分かってますが……前回とは違って、我々の同行を難しくする障害はありませんし……なんと言うか、その、えっと」
いや、感情タイプAIの学習能力は凄いね。前まではちょっとお人形さんっぽい感じが強かったのに、かなり人間っぽい表情を作るようになった。怒られているけど、ちょっと嬉しいぞ。
そんなマヒロが感情を言葉に出来ずにいると、ポンポツがタバコ的なモノを口に咥えて、ひゅんひゅん無駄にアルファベットのシー状の手でオイルライターっぽいモノを動かし、しゅぼっと無駄に格好良く火をつけて、たばこ的なモノへ火を近づける。久しぶりに見たわ、それ。
「フゥー……ムカツク、ダゼ?」
「……言葉は悪いですが、はい」
いや、それよりひゅんひゅんに意味は?
「もう、常に監視するしかないですわん!」
「お前、なんちゅう怖い事を」
俺がポンポツを凝視してたら、ファルコンが元気一杯恐ろしい事を言い出した。
「さすがにそこまではやり過ぎだよ。よっと。タツローさん、私達を忘れちゃ駄目だよ」
ヴィヴィアンがヒラリと飛んで来て、よっこいせと俺の頭に座る。いや、君を連れて歩いたら騒ぎになりますやん。君ら伝説の種族なんだぜ? そして俺の右肩に着地したサクナちゃんが、ぺちぺちと俺の頬をグーで殴る。
「ごめんて」
サクナちゃんはぶーと頬を膨らませると、べちょっと俺の首へ抱きついた。君らフルで連れ歩いたら、確実に騒ぎになると思うんだけど。いや、連れてこなかったのは悪いとは思ってはいるんだよ?
「うおー! まえがみえねー!」
「もち! もちつくのじゃ! 妾達もタツローに置いてかれないようにするだけで手一杯だったのじゃ!」
「あ、ちょっといい匂い」
娘ちゃん達にも妖精達が殺到している。今度から忘れないようにしよう。うん。ただ不可抗力っていう場合もあるから、そこはさすがに考慮してもらいたいもんだけど。
「それでプロフェッサー? やる事があるんですのん?」
「おっと、そうだった」
思考が明後日の方向へ行きそうだった、アビィナイスでーす。いや本当、君は本当にいい奴なんだが……そのクネクネは控えねぇか?
「ナニヲスルン、ダゼ? フゥー」
「微妙に紛らわしいから、それやめれ。いや、アロマか? 匂いは良いんだけど」
「チッ、アイエンカハカタミガセマイ、ダゼ」
「……それって愛煙っていうのか?」
ポンポツのセリフやら仕草には色々突っ込みたい事満載だが、今はやるべき事があるからそっちをせねば。
「クマ達の話からな、それぞれの部族に冷遇されて村八分、みたいな扱いを受けているクマさんがいる事が分かった」
「説明していただいた成人の儀式で失敗した人達ですのん?」
「そう、それだ。本当に非生産的扱いを受けているらしくて、なら我が国で仕事してもらおうかなって」
「優秀な人材はいつでも大歓迎ですからね」
「物質的金銭的な部分はどうとでもなるが、マンパワーはどうしても不足するからな」
俺はブルグ達から得た情報で、具体的にどうやってその人々を連れ出すかを相談する。
船のセンサーを使用して、クマ達それぞれのコロニーをスキャンすれば、それなりに内部の様子は調べられる。それを見たマヒロが、かなり呆れた様子で呟く。
「なるほど、本当にコロニー内部の端の方へ追いやられてる感じなんですね」
生体反応を見れば、かなりぎゅうぎゅうな感じに密集している感じだ。なんつーか、話を聞いた限りでは優秀な人材程ハメられるんだよな? こんなに優秀なの村八分にして大丈夫なんか?
俺がクマ達の業の深さに呆れていると、コロニーの強度チェックをしていたアビィが、簡単な計算式を展開しつつ、生命反応が密集している場所近くのポイントを指し示し、うんうんと頷く。
「これなら直に横付けして、簡易エアロックでっち上げて、直にかっさらったら宜しいんじゃないですのん?」
アビィの計算式をチェックすれば、それは確かに出来そうだけど……これは問題にならんか?
「……さすがにそれは国際問題になるんじゃねーのか?」
許されんだろ? という感じに言うと、スーちゃんがテクテク俺の横まで歩いて来て、端末を操作して俺へと突き出す。
『話は聞きましたぞ! やっちゃって下さいっ!』
「……」
なんかニカノールさんが許可をくれた。いやいやいや!
「まずいっしょ?! 内乱的な要素になりません?!」
『大丈夫です。ちょっと事情に劇的な変化がありまして』
「はい?」
『実は――』
何でも掟だの伝統だのを第一に考えていた連中が、それでは駄目だと立ち上がった若者達に排除され、クマ系部族の体制が大きく変化しているのだと。
だが、それでも成人の儀式を重く見ている層というのは若い連中にも多く、このままコロニーに無能のレッテルを貼り付けられた人々を残しても幸せなれない、なら必要としてくれている国へ連れていかれた方がよろしいのではないだろうか? と、そんな感じになているらしい。
……というかいつその話を通した?
「ニカのおじちゃんと、たくさんお話したの」
ニコーと笑うスーちゃんかわいいやったー! じゃねぇ、君かっ!
「……そ、そうか。今度からはニカのおじちゃんと話す内容は、マヒロお姉ちゃんとかアビィとかと相談してから話そうな?」
頭ごなしに怒るってのは違うからね、とりあえずマヒロとアビィに目配せしつつ、一応の釘を刺しておく。
「? うん?」
ちょっと分かってない感じだが、きっと次からは相談してくれるだろう多分……でもそっかー、スーちゃん経由だったかー。つーか、マジでニカノールさん大好きだな。
「キョカデタ、ダゼ?」
「へいへい。ファルコン、簡易エアロックをプリンターで四つ製造してくれ」
「わんわん!」
「あ、強度と安全優先で設計してな?」
「わんわん!」
さてはて、それではスカウト(物理)と参りましょうか!
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