第195話 フィーバータイム
「いやぁ、始めて来たけど、あれだね、歴史を感じる街並みって言うのか」
神聖フェリオ連邦国首都エル・ベル・バルムを見回しながら、側を楚々とした様子で歩く豪奢な白黒ドレス、タツロー曰く『ゴスロリ』らしい装いの嫁達を連れ、レイジは嬉しそうに瞳を輝かす。
「そうですね。陛下に凄く感謝をしないと」
「視察と会談が主目的ですけど、新婚旅行ですもんね」
壮絶なじゃんけん大戦を勝ち抜いた勝者二人が、レイジとガッチリ腕を組み、ルンルン気分で嬉しそうに笑う。
「レイジ君、働きすぎだから息抜きついでに神聖国で観光でもしてきなさい、ってポンと大金までくれるんですもん。レイジ君に操を捧げてなければ惚れてまうとこです」
「あのメイド長がメロンメロなのも頷けます」
「「「「ああ、それ言えてる」」」」
「君らね、旦那の前で他の男の話とか」
きゃいきゃい姦しい嫁達に、やれやれと呆れたようにレイジが言うと、嫁達はニヤァッと笑う。
「「「「でもパパン大好きっ子ですやん」」」」
「……うるさいよ」
あまり強く反論出来ないレイジに、嫁達が勝ち誇ったように胸を張る。
「「「「ほほほほほほほほ」」」」
ちょっと面白くないが、口では絶対勝てなくなった嫁達の口撃から逃げて、誤魔化すように視線をさ迷わせれば、一応レイジの護衛という名目でついてきたマルトが、年上のお姉様達に囲まれ、ニコニコ顔で歩いているがの見えた。
「あー、婚約決まってから落ち着いたんだね」
レイジの視線の先を追いかけた嫁達が、マルト達の様子を見て苦笑を浮かべる。
「マルトちゃんは今一理解して無さそうな雰囲気ですけど」
確かに、回りのお姉ちゃん達の瞳にはハートマークが浮かんでいるが、中心にいるマルトは大好きなお姉ちゃんとお出掛け楽しい、みたいな雰囲気である。
「陛下からも、くれぐれもトラウマになるような事をすんな、と釘を刺されてましたけど……大丈夫なんでしょうかね? あの娘達……」
あはははと誤魔化すように乾いた笑い声を出し、レイジはそっと彼らから視線を外し、マルト君の貞操が無事な事を祈りつつ、目的の場所を見上げた。
「今回の会談でタフィム・ゼール開発に踏み切れる」
神聖フェリオ連邦国女王が居住する白亜の城っぽい建物を見上げ、レイジはニヤリと不敵な笑いを浮かべる。
「あまりギリギリのきわっきわを攻める外交はすんな、と陛下から言付かってます」
「失礼な、そんな事せずとも向こうにとって利益になる事しかない会談じゃないですか」
不本意といった顔をするレイジに、嫁達は苦笑を浮かべる。本当に似てきたな、と。考えている事が嫁限定で丸分かりな部分とかが、本当にそっくりだ。
「すんげームカつく事考えてる気がするけど……」
「「「「気のせい気のせい」」」」
本当に最初、あんだけ反発していたのに、どこでどうしてこんなにパパン大好きになったのか。側で見ていてもマブダチレベルの親友っぽい関係で、かなーり嫉妬する部分があって、ちょっと感情を持て余し気味なのは旦那様には内緒である。
凄い誤魔化された、レイジはそう思ったが、口では絶対に勝てないので諦めて大きく息を吐き出し気持ちを切り替える。
「はあ、じゃあ行きますか。とっとと終わらせて、観光旅行を十分に堪能しましょう」
「「「「さんせー!」」」」
上機嫌な嫁達を連れて、レイジは女王が待つ城へと向かうのであった。わりとさっくりマルトの一団の存在を忘れて。
○ ● ○
トリニティ・カームが丈夫な金属、防御向けの触媒、高威力のレーザー触媒の宝庫。ルヴェ・カーナは素材の能力を引き出す諸々の面白アイテムの宝庫。ベイティナ・フィールは特殊な能力というか特性を持つ素材の宝庫。そしてレイジ君が交渉へ向かった神聖国に食い込んでいるタフィム・ゼール、ここはナノマシン関係に使えるモノが多い事が判明している。
「極地って場所場所で違うんだね?」
「そうですね。好んでこんな場所に来る人間なんて居ませんでしたから、開発するようになって違うって理解しました」
レイジ君から、『もう先に開拓拠点の構築を始めて下さい。会談? ははは、決定事項の間違いじゃないですか?』という自信満々な言葉をいただいたので、タフィム・ゼールでもライジグスグレートベルト(ライジグスの領宙域をそう呼ぶのを最近知りました)に近い場所で、とんてんかんとんてんかんと作っている現場に来ています。
皆さんこんにちは。タツローです。色々開発室で物作りしてましたら、モチベが落ちると部下に追い出されました。なんでー?
追い出され呆然としている俺を、根の詰めすぎはよろしくない、とマリオンに連れ出されて、極地巡りをしているところなんですが……うんジャンプ航法やばいね! これまで確実に数日は必要だった距離が、マジで一瞬なんだもん、こりゃ反則だわ。
これのおかげで軍部の編成作業に革新が起こってね、ガイツ君が頭を抱えてた。ゼフィーナがその辺をガイツ君に丸投げしたらしくてね、色々大変らしい。
これまで北部で頑張ってたリーンのおっさんとか、ユーリィとかアルペジオ方面へ回したり、第五と第六艦隊を北部へ移動させたり、色々とお試し中だ。
それはともかくとして、絶賛タフィム・ゼールを眺めているんだが……
「宇宙でもモヤるんだな」
そう極地タフィム・ゼールには霧が発生しているかのようにモヤが漂っていた。俺が呆然と呟くように言った言葉に、俺を案内してくれていた拠点建設責任者が、苦笑を浮かべて説明してくれた。
「あれは極小の粒子が漂っているんですよ。あのもやもやも立派な素材になります。あれがどこから流れてくるのか不明で、大元を現在探索中です。フィールドがあって助かりましたよ。あれ、戦艦レベルの強固な外装を削り取るんですよ」
「ナニソレコワイ」
拠点構築責任者の言葉にドン引きしていると、彼は笑いながら近くに置かれているボロボロの金属板を指差す。
「こうなります」
「……マジで?」
近寄って試しに触れてみると、そいつはボロッと崩れた。
「最初、一般的なステーションを建築するのと同じ手順を守っていたんですが、あれの問題に直面しまして、あわててフィールド装置を稼働させました。いやぁ、かなりの枚数持ってかれました」
あはははとあっけらかんに笑う彼。いや、それって生命の危機とかあったんじゃ? 笑って済ますような事じゃなかろうに。
「たぶん、今現在開発されている合金を安定的に供給していただけるのであれば、フィールドが無くても作れそうですがね拠点。まぁ、ルヴェ・カーナとベイティナ・フィールの素材で開発された新型のジェネレータだったら、フィールドのエネルギーなんて微々たるモノでしょうから、建物の寿命を守る為にもフィールドはあった方が断然良いとは思いますがね……いやはや、現在の我が国は世紀の大発明が短いスパンで発表されているような状態ですから、我々としても新しい技術の確認に苦心してますよ」
ちょっと遠くを見るような責任者の言葉に、俺は笑う事しか出来なかった。
「あは、あはははは……すいません」
「いえいえ、国力が高まるのは良い事ですよ」
「そう言ってもらえると助かります」
俺とマリオン他嫁数人とで建設中の拠点を見て回る。俺がゲーム時代に用いていた方法を基本とした技術開発部考案の新技術、新しい工法がふんだんに取り入られた感じで、なるほどと納得する事が多かった。
いやね、老朽化と言うほどのダメージは受けていないんだけど、アルペジオをはじめとしたコロニー・ステーションもどこかで大々的なメンテナンスは必要だよね、という話は前々からあったんだ。でも既存の方法でしかメンテナンス出来んからやる意味があんまねぇじゃん、となっていた。
だけど、メンテナンスを入れる意味が出来ましたと、技術開発部から報告があってね。確かにこれを見れば、コロニーやステーションの防御面から考えてもやった方が良いな。かなり頑強になる感じだし。
「ふむ、いいね」
「恐縮です」
それから色々解説してもらいながら一通り見て回り、俺達は責任者の人にお礼を言ってブルーエターナルへと戻ってきた。
「おかえりー」
「おかえりーなのじゃ」
「ただいま」
ルルとせっちゃんもついて来たのだが、まぁ見てもあまり楽しいもんじゃないだろうから、こっちで待っててもらっていた。建築現場をワクワクした気持ちで見れるのなんて、男の子くらいだろうからなぁ。
「さて、アルペジオに戻ろうか」
「はい」
さて、帰ったらまた缶詰だな。確認書類関係は先に処理したし、近況で片付けなければならないモノはない、はず。
「帰って何を作ろうかねぇ」
「ルル、へんしんやりたいっ!」
「へんしん? へんしんって」
ルルが唐突にそんな事を言い出し、俺は事情を知ってそうなせっちゃんに視線を向ければ、せっちゃんは端末を操作して、とある画像を見せてくる。
「へんしんって、変身の事ね」
魔法少女的な、ちょっとヒラヒラした感じの洋服に着替えて戦うタイプの、女の子がヒーローしてるアニメのワンシーン。それを見て俺は閃いた。うんなるほど、ここで採取されたナノマシン強化素材を使えば、やれなくはないなコレ。
「おーけー作りましょう」
「ほんとうっ!」
「おう、任せろっ!」
「やったーっ!」
「うううっ、妾も欲しいぞっ!」
「はいはい。ああ、クーンも欲しがるか。スーちゃんも仲間外れにしたらダメだよな。それぞれで色を変えて、ピーチとかレモンとかそう言った感じのモチーフでやるかね?」
「それいいー! とと様それでっ!」
「おうっ! まかせろい!」
よし、何かガチの技術開発部の共同研究的なモノに手を出すと怒られるから、俺は趣味に走ろう。そっちは全然怒られなかったしな。
「作るぞーっ!」
「「やったーっ!」」
○ ● ○
Side:技術開発部
「……何でこうポンポンと改良案が出てくるし?」
「いや、私に言われましても」
「そうよねぇ、こっちなんかエグゾスーツ関連の拡張性向上に使えるし。こっちの基本部分なんて船の基本フレーム、竜骨部分へ流用したら既存理論がひっくり返るわねぇ」
「え? そうなんですかっ?!」
「だから困ってるんじゃないのぉ」
タツローが趣味で作り上げた物品。ガラティア達が着用するメイド服型の新基軸新機能新型AMSと、妖精達が装着する予定の改良型発展系RVFの概要を見て、技術開発室の上級技術者達は頭を抱えていた。
「長官、これ……今、開発を進めているエンジンに使えますよ」
「……あ、本当だ……ええええー、なんでー?!」
「……全く関係の無い、本当に陛下からしたら趣味の範囲の物を作っているだけなのに……恐ろしいくらいに新技術に繋がる」
「不思議よねぇ。ナニかに取り憑かれているのかしらねぇ?」
「神的な?」
「どっちかって言えばぁ、悪魔じゃないかしらぁ?」
実に笑えない。本当に知恵を授ける系の悪魔にでも憑かれているとしか思えない。むしろそれが原因で、色々な騒動に巻き込まれているんじゃなかろうかと思ってしまう。
「追い出して極地の視察に行ってますが、そろそろ帰って来ますよ?」
「いっその事、あたし達でやってる案件を見てもらう? もしかしたらそっちの方が被害が少ないかもしれないわよ?」
タツローがノリノリで産み出したモノが、技術開発部より上を行っている……これによって技術開発部の士気が下がる現象が起こっている。
正確には、タツローが産み出した技術を上手く利用すれば、見つけた発見をより高いレベルで補完出来る、という形になるのだが、これまでの努力の結晶として産み出した技術のダメ出しを受けているようで、ショックを受ける職員が多いのだ。
「あまり大袈裟に捉えるのではなく、ああこんな形もあるんだ、ぐらいで納得すれば良いのでは?」
「ダメよっ! 陛下を越えてこその技術開発部なのよっ! 絶対にあの高みへ登ってやるんだからっ!」
「大変ねぇ、テリーちゃん」
「いわんといてヤザりん」
わいわいがやがや騒ぎに騒いで開発室に戻った一同だったが、そこで行われていたタツロープレゼンツ・ルル&せっちゃん・フィーチャリング・ブルースターの魔法少女ちっくな変身シーンを目撃して、また見事に撃墜されるのであった。
「もうやめてーっ?!」
「いやなんぞっ?!」
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