第192話 お三方、苦労人二人、あのランド、の三本です。(うがんんっ)

 Side:囚われのお三方


 ジャミハム・ゲーブル・ファリアス。バスド・ロンド・ジゼチェス。パテマド・ザビア・オスタリディ。この三人は大きな大きな貴族の人間である。つまりはプライドが服を着て生きているような存在だ。


 だが、極限状態になった時、それを維持出来るか否かは、個人の資質による、という事が判明したようで、ただ一人この状況下で元気に叫んでいる人物が一人いた。


「聞いているのかっ! このわしを誰だと思っている! このジャミハム・ゲーブル・ファリアスをこのような場所に閉じ込めるなどと、誰の許しを得て行っている!」


 悪党面にドスが効いた低い声、存在そのものがマフィアのボス的な雰囲気のジャミハムが、憔悴してるだろうにそれでも元気に怒鳴り散らす。


「がなるな……空きっ腹に響く」

「全くです……何度怒鳴っても誰も聞いてませんよ……全員、魔薬中毒者ですから、正常な判断など出来る訳もないですよ」


 一方、体力の消耗を少しでも押さえようと、十分に楽になれる姿勢で壁にもたれ掛かり、なるべく動かないようにしている二人。片方は爬虫類を思わせる顔をして、もう片方は頑固一徹親父と言った感じの人物。バスドとパテマドである。


「お前達には旧王家の誇りはないのかっ?!」

「あるわけないだろう。旧王家なのは我々ではなく、あくまで迎え入れた妻達だ」

「愚かな事をしました……なぁんで、こんな簡単な事に気づかなかったのでしょう」

「それな。そもそも今代の継承権は娘が持っているのだから、我々がどう吠えようとどうにもならんのにな」

「ええ、ええ、本当に……なんて無様か……」

「ぐぬぬぬぬぬぅっ! この腰抜けどもがっ!」

「「事実を見ようよ、ジャミ君」」

「ジャミ君言うなっ!」


 肩で息をしてぜぇぜぇと荒い息を吐き出すジャミハム。そんな彼を見る二人の瞳はどこか懐かしさというか郷愁を帯びているというか、ここではないどこか遠くを見ているような感じであった。


「全部が全部、本当に上手く行きすぎたんだよなぁ、そもそも」


 パテマドが昔に戻ったような、かなり砕けた口調で語り出せば、バスドも肩を落として苦笑する。


「全くです。あんなに美しい妻を迎えられて、素直に喜んでいたのに……どこで間違えたのか」

「それは俺も同じだよ。だから娘に蛇蝎の如く嫌われたんだけどな」

「それは私もですよ。本当に、悪魔か邪悪な神に導かれたように全てが上手く進みすぎました」


 諦めモードの二人に、ジャミハムは鼻を鳴らして馬鹿にする。


「肝っ玉の小さい奴らだ。ここからだってわしは成り上がってみせるっ!」

「「現実を見ようよ、ジャミ君」」

「だからジャミ君言うなっ!」


 この三人、実は幼馴染みである。子供の頃からつるみ、良い事も悪い事も三人で経験してきた親友同士であったりする。


 堅実で帝国貴族らしい模範的な両親に育てられ、若い頃は帝国の麒麟児とすら呼ばれていた俊英。だからこそ、彼らの元へ旧王家の姫君達が嫁入りしてきたのだ。実際には彼らの婿入りであるが。


「どこで間違えたんだろうな……なぁ? バス」

「さぁ……私にも分かりませんよ、パッド」

「んだよ、一番の頭脳派でも分からんのかよ」

「分からんのですよ」


 パテマドとバスドは弱々しい笑顔を浮かべながら、空腹を訴える腹を押さえた。


「そうやって反省すれば、誰かが助けに来るか? 馬鹿馬鹿しい。わしは付き合わんぞ」

「「だからね、現実を見ようよジャミ君」」

「だぁーっ! ジャミ君言うなっ! お前らにそう呼ばれるとゾワッとするんじゃっ! お前らとは散々、派閥関係で切った張ったをやり合った仲じゃろがっ! 今更、昔のように戻れるかっ!」


 相変わらず意固地で不器用だな、二人はそう思いながら、少ししゃべりすぎたと目を閉じて休む。水は飲めているが、食事は残念ながら残飯よりも酷いナニかを出されている関係上食べられていない。第三種強化調整を受けているから、水だけでも二・三ヶ月の生存はできるだろうが、正直そこまで精神が保てるか自信がない。


「わしは諦めんぞ! わしこそがファリアス王家の王なんじゃからなっ! 娘などに負けてなるものかっ!」


 だからそれはもう無理なんだって、二人は同時に同じ事を考えたが、言うだけ無駄だと判断し、そのまま気絶するように眠りに落ちた。


 三人のその様子を、しっかり記録しているナノプロープの存在に気づかないまま……




 ○  ●  ○


 Side:アリアン執務室


 モニターに映し出されている映像を見て、アリアンは頭痛でも堪えるような表情で額を押さえた。


「これ? どこから?」

「もちろん、超魔王の配下の、もうすぐ大魔王になるんじゃないの? っていうあの方からですよ」

「……」


 正面に立つスーサイの言葉に、アリアンは言葉無く唸る。モニターには元気に騒いで暴れているジャミハムの姿と、ぐったりとした様子のバスドとパテマドの様子が映し出されている。ちなみにそこがどこであるかも、ご丁寧な事にモニター端に、簡単なミニマップが表示されており、ビーコンのように光点が激しく点滅していた。まるでとっとと救出に行って、煮るなり焼くなり始末をつけろとせっつかれているように感じる。


「まぁ、実際に『手前らで始末つけろや、おうこら、いつまで遊んでるんじゃ、おん?』って感じなんでしょうけど」

「……私の考えを読むな……」

「失礼。自分もそう思ったので、グランゾルト卿もそう感じるんだろうなぁ、って思いまして」

「……」


 確かに状況的に、このタイミングで彼らを確保出来れば、この後の展開的に色々と捗るのは事実だ。旨味は非常に薄味になるだろうが……


 今現在、オスタリディ王国の艦隊は驚異ではなくなってきている。それもこれも、ライジグス王国のテコ入れでレガリア級艦船を造れるようになったのが大きい。一時は帝国滅亡の危機だとすら思っていたが、何とかその危機は脱した感じだ。


 これにより製造したレガリア級艦船の余剰分を北部と南部辺境へ回せた事も大きく、特に押され気味であった北部の盛り返しは凄いモノであり、余程鬱憤が溜まっていたのか、八つ当たりのような攻勢で敵艦隊を撃滅してみせた。


 もちろんフラーメル海での戦いも押せ押せの状態で、場所もオスタリア近くまで移動しており、このままオスタリアを制圧すれば、オスタリディ王国は消滅するだろう。まぁ、国際的に認められた建国ではないから、消滅も何も、最初から国家なんてありませんでした、になってしまうだろうが。


「そうだな……私一人の意見なら、捨て置いても良いとは思っている」

「……理由を聞いても?」

「簡単な事だ。あの三人を断罪してもおいしくない」

「……ああなるほど……」


 アリアンの言葉にスーサイは納得して頷いた。これがアリアン主導の改革が上手く進められておらず、ファリアスやらジゼチェス、オスタリディの派閥貴族が激しく抵抗していたのならば、三人の拘束、弾劾、断罪、処刑というのは必要になったろうが、現状改革は驚くべきスピードで進められている。このスピードに対応出来る程、勤勉でありながら腐った貴族、みたいな矛盾した奴らが居るわけもなく、ガンガン削られて捨てられている現状、彼ら三人を見せしめにしてもあまり意味がない。


「まぁ、少なくともジャミ君とやらが反省するまでは放置で良いんじゃないか?」

「……しますかね? 他二人はどうにも思考誘導系の何かを受けてたような感じがしますが、彼はたぶんあれが地ですよ?」

「するまで放置で。というか、こっちはこっちで仕事が詰まってるんだ。こんな奴らに貴重なリソースを使ってたまるか!」

「ああ、そっちが本命ですか……いやまぁ、自分も全く同じ状況なので納得しますが」


 帝国全ての苦労を背負う男の異名は伊達ではないスーサイは、色々な決済を一斉に提出されている現状てんてこ舞い。アリアンはアリアンで、今回の改革を主導する立場上、全ての書類に目を通して手直ししなければならず、ほぼ寝ている暇がない。そんな苦労人二人は、弱々しく笑い合うと、モニターの電源を落として自分達の仕事せんじょうへ向き合う。


 そう、彼女と彼は何も見ていない、という事で同意したのであった。




 ○  ●  ○


 やぁ、皆、元気かな? ところで獣の特徴を持っている宇宙人というのがいるのは知っているね? そう! ルナ・フェルムのアリシアみたいな人種がそうだ。


 そんな獣の特徴を持つ宇宙人の中で、とある事が要因となって総人口をずっと減らしている種族がいるんだけど、知っているかな?


 その種族は、ズバリ猫にゃー、猫系の獣人なんだ。理由は簡単、愛玩目的。いやもうね、成人しても可愛いんだ彼ら彼女らは。違法奴隷商人達垂涎の商品である。


 人口が激減している理由は、彼らは同族としか繁殖行動が出来ないんだよ。これがアリシアみたいな犬系の獣人だと、他の人種と交配可能で、ちゃんと出産できるんだけど、猫系の獣人達はそれが出来ない。集落丸々潰して村一つをまるっと違法奴隷化、みたいな事を繰り返してたら、そりゃぁねぇ。


 そして、我が国では絶賛違法奴隷は殲滅対象である。サーチアンドデストローイが基本である為、我が国には結構な数の猫系獣人達が生活している。ただ、彼らは大型系、虎とか獅子とかでない場合は、本当に小さいので、普通の仕事というのが中々難しい。何しろうちの年少組より身長が低い。それでも成人しているっていうんだから背の低さが分かるだろう。そして体が小さい分、やはりそれ相応な体力と腕力しかなく、これは強化調整をしたとしてもあまり変化がない。素早い身のこなしとかは凄い上がるけどね。


 彼らが幸せに笑顔で活躍できる、そんな職場はないモノだろうか……国王、ずっと考えてました。そして気づきました……ああ、見た目、キグルミ着てるキャラクターじゃん……あれだ、あのランドを目指せばいいんじゃね? と。


 幸い、それはそれは広大な場所はあります。そう、リゾート惑星。ゼダンだとスーちゃんがすんごいしっぶい顔をするので、最近惑星エデンに改名しましたが、土地はあまっとるんや! ってなったら、後は早かった……いやまぁ、技術部の人間が仕事に飢えててね、あっちゅうまにつくっちゃったんだあのランドっぽい超巨大な遊園地を……


「にゃー! 準備はいいかにゃ? 良ければ元気なお返事を下さいですにゃ!」

「「「「良いでーす!」」」」」

「にゃーっ! 良いお返事ですにゃ! それにゃ、にゃんこ船長のマリンクルーズ開始ですにゃ! 出発しますにゃ!」

「「「「わーい!」」」」」


 んで子供達を引き連れて、その遊園地に着てるんだが……びっくりするくらいそっくりですありがとうございます。


「一度、行ってみたかったんじゃもん」

「いやまぁ、さすがにこっちの世界にあのランドを管理運営している会社はないし、著作権だの肖像権だの文句言う団体はいないだろうけど……やりすぎ」

「勢いでやったのじゃ! 反省はしてないのじゃ!」

「まぁいいけどね」


 プロデュースを絶対やるって退かなかったせっちゃんに任せたらこうなった。いやまぁ、猫系獣人の皆さんも生き生き働いてらっしゃるし、コロニーよりも開拓惑星での生活に慣れ親しんでるらしいから、こっちでの生活は願ったり叶ったりとかで、喜んでるから良いんだけどさ。


「スーちゃんも笑えるようになったしね」

「……うむ、笑顔が一番じゃな」


 ルルや妖精達に混じって、キャーキャー言いながら笑っている青い長髪ツインテールの青い瞳のブルースター。最初は遠慮というか距離感が分からなかったみたいだけど、こうやって遊びに連れ出して構い倒している内に、輝かんばかりの笑顔を見せるようになった。実に良い事だ。


「また忙しくなりそうだからなぁ」

「ああ、西部辺境の極地開拓が順調なのじゃったか」

「うぃ、新素材がわんさかやって来るんです。そいつらの特性とか特色を調べて、また新しい技術の開発とかで、こうやって家族サービスする時間を取れなくなりそうなんですよ」

「まぁ、備えあれば嬉しいな、というヤツじゃし。重要な事じゃからのぉ」

「だね。また幽霊艦隊みたいなのに襲われるかもしれんしねぇ」

「ゾッとする話じゃのぉ」

「ひたすら面倒臭いだけだよ」


 ひとまず今は、元気にはしゃいで楽しんでいる子供達を見て癒されましょう。お父さんの明日の活力の為にも、ね。

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