第189話 問題が! 全然! 終わってねぇ!(神聖国編)
オスタリディ王国。それは先日突然に出現した国。かつて旧き時代にあって、英雄が築き上げた王国の、その流れを受け継ぐ一つの血統オスタリディによって復活を果たした国家である。
オスタリディは神聖フェリオ連邦国の成り立ちから関わり合いがあり、それは神聖国樹立にも関係してくる。
かつて地方の一豪族的な立ち位置であった始祖達は、日に日に力を増す帝国の統治を嫌い、それから逃れようと当時の辺境を目指して開拓団として旅立った。その開拓団を援助してくれたのが、オスタリディなどの旧王家の有力者達であり、その時の恩義からかなり旧王家とは友好的な関係を築いて来たはずだったのだが、どういうわけか彼らは神聖国へと侵略してきた。
まぁそれはライジグスの介入もあり、何とかなったのだが、今回の事で国の上層部もさすがに悟った。こりゃ航宙軍をしっかり組織しねぇとダメだ、と。
「助かるのだがなぁ……」
「それはええ、でも……」
「そうだ、でも、だ」
神聖フェリオ連邦国技術工廠ヘリオポリスにおいて、先の戦闘でライジグスが所有権を放棄したオスタリディ艦隊の艦船が運び込まれた。最初は技術工廠の上級職員達にもプライドがあって、ライジグスとかっていう新興の歴史も伝統も無いような国の奴らが来る前に、こんなもの解析してやらぁ、と意気込んでいたのだが……全く歯が立たない。あーでもないこーでもないと言っている間に、神聖国領宙域に惑星が出現しそこから無差別ウィルス攻撃が始まった。これにいち早く動いたライジグス主力艦隊の戦いを目撃してしまった彼らは、ポッキリ心が折れてしまったのだ。それはもう見事にバッキリと。
更に更に、その惑星丸ごと一つを超巨大戦艦による自国領宙域への曳航してしまうという偉業。これで上級技術士官達の魂までも見事に砕けた。全員が真っ白に燃え尽きてしまったのだった。
まぁ惑星の曳航に関しては、神聖国で交渉のテーブルについた上級外交官が、かなり上から目線と口調で煽ったらしく、これに思いっきりキレたライジグス側の暴走だった事が後に判明して、女王自ら上級外交官の罷免命令を出して、ペコペコライジグスへ謝るといった事態になったのだが割愛する。
そんな感じで、見事に真っ白になってしまったところへ、ライジグスの技術士官がやって来たわけだ。しかもその技術士官、すでに小国家郡での技術指導の経験もあってか、物凄く分かりやすい指導をしてくれたのだ。
ここに神が誕生した。ライジグス様という神が……
「これ、大丈夫なんでしょうか?」
「ダメだろう、絶対」
色々と話を聞いて状況は理解していたが、実際に現場を見ると、こりゃダメだと女王と侍女長は頭を抱える。
「ライジグス様! こちらのここですが!」
「はい。ああ、それはですね。お渡ししたマニュアルの、このページを確認してもらえますか? もしここで理解が難しいようでしたら、少し戻ってもらって、ここを読み直して貰えると理解が進むと思いますよ」
「ライジグス様! このエネルギーラインなんですが!」
「ふむふむ。良く出来てます。そうですね、ラインの最初と最後の部分が少し甘い気がしますので、そこを再度チェックして、マニュアルのこことここの画像と見比べてチェックすると良いかと」
「ライジグス様っ!」
「ライジグス様っ!」
「ああ、大丈夫ですよ。ちゃんとしっかり指導しますから」
こんな感じである。ここにタツローがいたらアイドルのコンサートかしらん? とでも呟いた事だろう。
だが、確実に技術水準は上がっている。それも超加速度的に。プライドなぞドブかトイレにでも捨てろ、んなもん必要ねぇ! という状態が良かったのか、はたまた指導員として派遣された人間の能力か、そこは素直に喜ばしい。実際、全く目処が立たずにゴミの山と化していたオスタリディ艦隊の残骸が、凄い速度で修繕、改修されているのだから。
「共和国の新体制もキナ臭い、という情報もあるから、これはこれで良いのだが」
「彼らの信仰が、女神フェリオからライジグス様に改宗されなければ良いですね」
「……もう手遅れなような気がするのじゃが……」
「同感です」
揃って溜め息を吐き出した二人は、これ以上見るのは精神的にヤバイと判断し、早々にその場を立ち去るのであった。
「「「「ライジグス様!」」」」
「はーい、ただ今」
○ ● ○
女王ミリュと侍女長は、技術工廠から抜け出すと、ヘリオポリスの一角へと向かう。そこは、昔々にこの場所へ国を作ろうと、始祖達を決意させた秘密があるのだ。極秘施設という訳じゃないが、他国に公開している場所でもない。だが現在はライジグスの技術士官達が勢揃いで、その場所を調査していた。
この調査であるが、女王自らゼフィーナに申し入れた事で、こちらのパワードスーツを解析する時の交換条件の中に入れた一つでもある。
「これは女王陛下」
「うむ、進捗はいかがかな?」
「ええ、中々面白いですよ」
この施設の調査団の責任者である中年男性が、キラキラと少年みたいにはしゃいだ様子で微笑み、これまで判明している事柄をまとめたデータパレットを女王へ手渡した。
「……やっぱり、この設備は」
「工房ですね。動力源が枯渇して停止してしまってますが、状態はすこぶる良いですよ。まぁ、レガリアを産み出す施設が多少の経年で劣化するわけがありませんが」
「……」
そう、こここそが神聖フェリオ連邦国が決闘主義という戦い方を選択する事となった、その力を手に入れた場所なのだ。始祖達がここにたどり着いた時はギリギリ動いていて、その時に闘士達のパワードスーツを受け取ったと記録に残されている。誰もが信じていなかった伝説であるが。
「して、その動力源とやらは?」
「レガリアに使用する精錬したパワーセル系統のエネルギー結晶体であれば問題無く稼働できます。ただ、稼働させた程度では意味がありませんが」
「ふむ、それはどうして?」
「材料がありません」
「……それもあったか……」
女王は思わず親指の爪を噛む。ここ最近のストレスで、年若い頃の悪癖が顔を出しているのだが、その程度でストレスが紛れるならば、と侍女長は見て見ぬふりをしてくれる。ここで注意などされれば、ますますイライラするだろうから、その事はとても助かると思う女王だった。
「どのような資材が必要だろうか?」
「それは稼働して、ここの量子コンピューターの記録を確認しない事には明確な答えは用意できません。ここ以外にも動いていない過去の遺物はあるんですよね?」
「ああ、少なくともあと三つはあるのぉ」
「合わせてそちらも調査した方がよろしいかと。ここは最終組立工場ですから、他に資材の製錬する工房、製錬した物を加工する工房等があるはずですから、ここだけ動かしただけでは意味があまりありませんから」
「はあ、道は長そうじゃのぉ」
先の戦いで、闘士の多くがウィルスによる無効化をもろに食らってしまった。だからこそ新しいパワードスーツの入手は必須事項なのだ。航宙戦力ももちろん重要であるが、闘士というのは神聖フェリオ連邦国にとって武の象徴。今さら蔑ろにするわけにはいかない。こちらもしっかりテコ入れをしなければならないのだ。
「我が国でもAMS、アーマードモジュールスーツという装備が開発されましたので、宰相様と交渉して、何とか技術的な供与を受けられればとは思いますが……そこは政治的な話なので、女王陛下にはがんばってと応援しかできませんが」
「はははは……はぁ……あの御仁、何であんなに小さいのに、あそこまで肝が据わってるんじゃろうのぉ」
「最初期からのライジグス参加メンバーは、全員が全員ヤバイので、私からは何とも」
どこか誇らしげに語る男性に、女王は羨望の眼差しを向けながら、調査が進む施設を見上げる。
「間に合うかのぉ」
共和国がキナ臭い、その事が妙に引っ掛かるのだ。これはオスタリディが攻めてきた時にも感じたが、オスタリディ以上の何かが起こるような気配を感じている。
「……仕方があるまいなぁ、後でゼフィーナ殿とリズミラ殿に頭を下げて、国を救う手立てを確立せねばなぁ……」
何よりも、神聖国へ流れてくる難民が止まらない。これはライジグスでもそうらしい。つまり本質的な問題は何一つ解決されていないという事だ。まだまだ事件は起こるだろうし、再び不測の事態というのは発生するだろう。このまま神聖国が停滞すれば、今の時代の流れだと、容易く歴史の闇に消える。それが分かっているだけに、あらゆる事に躊躇などしている暇などない。
「安穏と、文句を言いながら、退屈で面倒な書類仕事に早く戻りたいものじゃのぉ」
そうなったらそうなったで、今回の事を懐かしんだりするんだろうが、そんな事を思いながら女王は調査員達に小さく頭を下げ、早速、頼みの綱に頭を下げに向かうのであった。
○ ● ○
「どーよっ!」
「クルシュウナイ! タイギデアッタ!」
「「「「ばんじゃーい! ばんじゃーい! ばんじゃーい!」」」」
燦然と輝く常夏の太陽。真っ白いゴミ一つ落ちてない美しいビーチ。寄せては返す青い宝石のような海。
ふっふっふっふっふっふっ! ウェーイ系クラン拠点リゾート惑星ゼダンふっかーつ!
「いやー、これは凄いわ」
「うむ。確かにこんなに見事な惑星改造は、私も見た事ない」
「ええー本当にー」
嫁達もご満悦のご様子。頑張ったよ、マジでヤバかったんだ。ジェネラルが孵化しそうで、相当予定を前倒しで早めた。何とか間に合って心底良かったっす。
「クーンちゃんのおうちはー?」
「ん? ほら、あそこ」
「ほおおおおおー! おしろー!」
「ウム! テンカフブジャ!」
「何故に信長よ? つか何処と戦うんだ君は?」
「テンカタイヘイ!」
「そっちでお願いね? マジで」
なーんかこの幼女、時々物騒な単語を口走るから怖い。言っているだけだとは思うが、マジで有言実行できる能力があるから油断出来ん。これからもちょくちょく見守らないとなぁ。
「あの城にジェネラル達の卵を安置してるの?」
「うん、ちゃんと孵化装置にセットして、監視員っつうか保母役の技術士官にも待機してもらってるよ」
「これで後は、あの娘が解放されれば一連の被害者は救えた、となるか」
「シェルファが頑張ってるから、何とかなるでしょ。俺もちょいちょいお手伝いしてるし」
あれから眠り姫自体の本体強化を目的としたシステム構築が始まり、シェルファとうちのAI達が色々とやっている。何とかなりそうだとは聞いているから、俺としても是非にあの娘は助けたいから、何かと協力はしている。
いや、何か、すんごい頻度で夢を見るんだ。例の企業家クリソツな人物の夢をさ。何度も何度も助けてくれって、それはもう呪いかっ! ってレベルで夢に出てくるので、いい加減何とかしたい。主に俺の安眠の為にも。
ま、それはそれとしてだ。
「さーて、海に入って遊んでいいぞー! ただし遠くに行くなよー! 年少組はメイドさんの言う事をちゃんと聞けよー」
「「「「はーい!」」」」
まだ問題は色々あっけど、今は遊びましょう。北と南の奴らもまだ動いてるし、帝国中枢も動いてる。これからまだ色々と動くだろうし、遊べる時に遊んで、休める時に休まないとね。
俺は気持ちを切り替えて、嫁達の眼福な水着姿に鼻の下を伸ばしながら、ゆったりとした時間を過ごすのであった。後日、シェルファに死ぬほど叱られたけどなっ!
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