第187話 問題が! 全然! 終わってねぇ!

 深夜のウィルステロ。いやぁ、バットグレムリンウィルスは強敵でしたね。


 惑星ゼダンでのインセクトロンとの戦い。いやぁ、インセクトロンは強敵でしたね。


 霧が出てきたなぁ、すっごい濃い霧がよぉ……


「おーっほっほっほっほっ! ほらほらちゃっちゃと働けぃっ!」

「もう無理っす! 勘弁してつかぁさぁいぃっ!」


 現実逃避をしていたら蹴りを入れられる国王ことタツロー・デミウス・ライジグスでございます。何か呪われてるんじゃなかろうかと思う昨今、いっその事、タツロー☆・デミウス@・ライジグスJPとかに改名したら、星の巡りが運気が上昇するんじゃなかろうかとか思っているところでござんす。


「ほーっほっほっほっほっほっ! ほらほらそこそこっ! ちゃっちゃか手を動してっ!」

「これ以上は無理です! 腕がもげるっす!」

「頑張ってね、バイトリーダー?」

「俺、国王っす!?」


 今現在、自分が何をしているかと言えば、なんやかんやあって保護しました卵ありますでしょ? あれねその後、無事に孵化したんですよ。そいつに問題が発生しましてね、それを解決する事を進めているところでござんすよ。


 ちらりと背後を見れば、ちんまい子供を抱っこして、完全に顔面が崩壊してしまっている嫁達の姿が……


「もう少しで完成しますからね? 大人しくしてましょうね」

「クルシュウナイゾ! ヨキニハカラエ!」


 まあ、あのちんまいのが生まれてきた子なんだけどねぇ……何かね? インセクトロンじゃなくなったのよ。


 え? 何を言っているか分からんって? HAHAHA-俺も分からん(真顔)。


 あの惑星ゼダンの戦いから、約二週間位は経過してるんだけど、神聖国の方でゼダンの所有権の放棄が決まって、あの宙域に置かれると宙賊とかに利用されて困るからって、引き取れ、なんちゅうアホな事を言い出してね。『出来ないでござる? あのライジグスの、技術力最高! って誇っちゃってるライジグスさんが? へー、ほんとうにござるか?』なんて事を遠回しに言いやがって、うるせぇ馬鹿野郎っ! やってやるやってやるぞ! やーてっやろうじゃねぇか! ってラグナロティア持ち出して、絶賛開発中の新技術てんこ盛りの装置を使いまくって曳航に成功した頃に卵から孵化したのよ、限りなく見た目人間ベースな昆虫人間が。


 なんてぇの? 昆虫っぽいプロテクターを着けたコスプレしている人間っぽい? って説明すれば分かるかな、そんな感じのが出てきちゃったのよ。検査すると、インセクトロンとは完全別種扱い確定の新種判定出ちゃうし、見た目が完全に昆虫プロテクター着用の幼女だしで嫁達がメロメロにされちゃって……エボルインセクトって種族名を付けて、クーンという個人名を付けられて、正式にライジグス国民として登録されちゃった(嫁達が嬉々としてやりました)。


 まぁ、そこまでは良い。そこまでは良いんだが……この娘、コロニーでは普通に生活出来ないと分かった。いや出来ない事もないんだけど、体に身体機能制限制御装置付きのスーツを着用してないと日常生活がままならないという事実が判明したのだよ。


 つまり『がぁっ! パワーが違いすぎる!』状態だったのだ。


 この娘、天然で身体強化調整の第十二段階くらいの能力があってパワーお化け。普通に歩くだけでコロニーの床を抜くという喜劇のような事をしやがったのだ。なので嫁の誰かが必ず抱っこして運ぶという事態に……本人はチヤホヤされて喜んでいるが。


 更に問題は加速して、この幼女、出産しやがった。まだ卵状態であるが、スキャン結果は彼女をガードするジェネラル階級の個体が生まれる予定だ。しかも十七体も……どうやら、ゼダンでの変異中に取り込んだ雄個体の要素も持っているらしく、雌雄同体単体生殖可能っていう、ある意味究極生命体になっている不具合……


 国王、悩みました。頭が禿げそうな位に悩みました。そんな国王の横でとある人物が閃いたのです。


 あっそうだ! 持ってきたゼダンを放置してないで改造しよう! ついでだしリゾート惑星に戻して、アルペジオの目玉にしちゃえ! そうだクーンにゼダンを守って貰えばいいじゃん! じゃぁ惑星改造だ! と相成りました。プロジェクトリーダーはリズミラです。発案者も彼女である。やるのは旦那の俺……とほほほほ。


 そうしてこの国王がこき使われ、現在必死にゼダンの改造を行っているわけです。


「うひひひひひひひひひひっ! 新技術がいっぱい! 新発明が盛りだくさん! 知識が増える! もっともっとうひひひひひひひっ!」

「静かに作業しませんか? うるさいですよ、全く」

「あらあらまぁまぁ、賑やかで楽しいじゃない、ねぇ? バイトリーダー?」

「だーかーらー、一応、俺、国王!」


 ライジグス技術開発部門のトップ勢揃いで作業しているんだが、どうしてこう、高い技術や知性を持つ奴らってのは濃いのが多いんだか……少しは俺のような薄味な男を見習えと。


「なんて事を考えてそうな顔してるわよ、あれ」

「ご自分がーそのトップである事を忘れてますねー」

「一番濃いのが親分、って奴だな」

「うるさいよ!」


 クーンをチヤホヤしている筆頭ゼフィーナ、ファラ、リズミラが何やら失礼な事を突っ込んでくるが無視だ無視。


「ふーははははははっ! 気候調整これで大丈夫っ! あはっあはっあははははっ! 小型の人工恒星の周回も大丈夫っ! ほーほほほほほほほっ! 重力制御は?! テリーッ!」

「うるさいですよマジで……はぁ、そちらは初期に調整完了。海の生成はどうです? ヤザリさん」

「やあねぇ、ヤザりんって呼んでって言ったじゃない、いけずねぇもお。そっちも問題ないわ。バイトリーダー? 海洋生物と循環関係、惑星基幹システムはどうかしら?」

「何で俺のウェイトが一番重いんだよ! 終わってるわっ! こんちくしょうっ! それとこんなんバイトでもやらんわ! クソが!」

「「「さすがバイトリーダー!」」」

「うるさいわっ!」


 普通に惑星改造ってぇのは数十年単位で行う。これはゲーム時代(ゲーム内時間だが)も同じであり、こんな突貫作業で行う事じゃない。まぁ、急がなきゃクーンの護衛達が孵化しちゃうからね。さすがに十七人も追加されると面倒見きれん。急がないと。


 だがしかし、ここまで詰め込まんでも良くない? 俺をもう少し大切にしてくれても良いんじゃね? と思わなくも無い今日この頃です……


 まぁでも、もう終わるけどな。この狂った現場から抜け出せるぜ。へへへへっ……


「調整が上手く機能しているかの確認と、海洋生物の順応してるか確認。惑星運営の基幹システムの微調整を行って……ご苦労様です国王様、ここまで来れば後は我々開発部門だけで進められますよ」

「はぁ、やっとかよ……んじゃまぁ、こちらは君らに任せる」

「はい、お任せ下さい。何かありましたら連絡しますので」

「はいはい」


 俺はテリーの言葉に手を振り、そのまま隣の部屋へ移動する。そこではミュゼ・ティンダロスの艦橋と全く同一のシステムを使用した状態のシェルファが、踊るようにコンソールを叩きまくっている。その様子を見ながら、俺は近くの椅子に座った。


「そちらの作業は終わったのですか?」

「お、あんがとタニア。悪いね、メイドの真似事みたいな事させて」

「何をおっしゃってるのやら。貴方はこの国の王、普通は下々の人間にかしずかれる立場なんですけど?」

「はっはっはっはっ、成り上がりの人間に何を求めてるねん」

「困りましたねぇ、もう少し偉そうにしてもいいんですよ?」


 つぃーと空中を滑るように移動して、そっとトレイに載せた湯呑みを渡してくるティターニアが、呆れた表情で笑う。いやぁ、かしずかれるってそんな人間じゃないからねぇ、俺って。


「んでどうよ?」

「かなり手強いようですね。せっちゃんとアビィ、マヒロちゃんにファルコンちゃん、ポンポツ様まで総動員して対応してますが、システムのコアの部分へ直接攻撃を受けたようで、損傷が深刻だそうです」

「……そうか」


 シェルファのシステムにそれぞれ遠隔で、せっちゃん、アビィ、マヒロ、ファルコンがサポートに入り、ポンポツに至ってはシステムに直結して置物と化している。何度見ても笑える姿だ。そして、システムの先にあるのが量子コンピューターユニット、つまりプリンセス・オブ・グレムリン本体……シェルファが取り込んでいるのは彼女の救出作業だ。


 俺はずぞぞぞぞーと緑茶をすすりながら、モニターに映る姫君を眺める。最初にここへ運ばれた当初は、むき出しの胸のコア部分に八本近い鎖のようなモノが突き刺さった状態だった。シェルファ達の頑張りによって、それも二本まで減ったが、問題はその二本が酷く深くコアの最奥まで到達しているという部分で、こいつをただ単純に消しました、では問題の解決どころか、姫君の存在そのモノを消去しかねないという状況なのだとか。


 俺達の惑星改造は、勢いでやったとしてもいくらでも修正は可能だったから、深夜テンションというか徹夜テンションのアゲアゲ状態で駆け抜けたが、さすがにこちらはそうとはいかず、慎重に慎重を重ねて進められている。その合間に、シェルファを労る形で愚痴というか進捗をちょいちょい聞いていたので、俺もある程度こちらの状況を理解している。


「さすがにAI相手で、いつもの身体強化調整でやってやるぜ! って感じにはならんしなぁ」


 湯呑みを回し、中に入っている緑茶を回しながら呟くと、カタカタカタカタと鳴っていた音が止まり、ヴァーチャルバイザーを装着した状態のシェルファが、人形みたいにグリンとこちらを向いた。怖いって。


「今、何と?」

「え? あー、AI相手に身体強化調整してのゴリ押しは出来んわなって言った事か?」

「……はあ……やっぱり私って凡人の枠から出ませんね……」

「いきなりどしたよ?!」


 こっち見たかと思えば、いきなりがっくり落ち込むし、どうしたよマジで。


「せっちゃん、確認です。感情タイプAIの元からあるプログラムに、私達が用意したシステムを入れて、補助と強化をする事は出来ますか?」

『ふむぅ、どのような感じかの?』

「例えばですが――」


 何やらブレイクスルーが起こったようで、シェルファとせっちゃんとその他AI達が専門的な会話を繰り広げている。俺もある程度は理解できんだが、会話が高度過ぎて意味不明な呪文のように感じますな、これは。


「どうです?」

『行けそうじゃな。まずは妾達で試してみて、問題がないようだったら、眠り姫にもやってみる、が安全かの?』

「ではアビィ、マヒロ、ファルコン、基本となる部分の構築の草案を。私は彼女の状態が進行しない処置を引き続き行います」

『はいはーい、お任せですのん』

『イエスシェルファ』

『わんわん!』


 どうやら何かしらのヒントを提供出来たようだ。問題が解決出来そうで何よりである。


「んじゃ、お邪魔になりそうだから、俺はちょっと拗ねてるルルに会いに行ってくるよ」

「あはい、また後でお願いしますね?」

「あー膝枕ね。休み時間が決まったら連絡してくれ」

「はい!」


 バイザーを消したシェルファが超ご機嫌に笑い、ブンブン手を振ってお見送りしてくれた。そんなにいいんかね? 野郎の膝枕なんて……それで元気になるなら良いんだけど。


「さてさて娘ちゃんは、っと」


 ちやほやポジションを少しクーンに奪われてしまい、ちょっとプリプリしているルルのご機嫌取りに、俺は年少組が良く遊んでいるホールへ向かうのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る