第185話 特撮だと怪獣に飛行戦力は役に立たない。(決戦兵器は除く)

 惑星ゼダンの大気圏へ突入、無事に高高度まで抜けたアベル隊戦闘艦十二隻は、美しい編隊飛行で化け物が暴れている地点へ向かう。


「アヒム、ベンノ、ベアタは右翼。ブルーノ、カール、ビアンカは左翼。デリア、エルケ、ラウラは前方。残りはおれに続け」

『『『『了解』』』』


 大暴れしている化け物の姿を確認すると、綺麗に散開しスピードタイプのイシュタル型を左右に振り分け、バランスタイプのイシス型をやや後方、パワータイプのバステト型を前方に編隊を組む。アベルが乗っているのは、トイボックスを少し改修したトイボックスMk.2である。


「装甲騎兵、待避されたし。これより攻撃を開始する」

『ありがたい。後は頼む』

「任されよう。右翼左翼、足元を狙え。デリア、バステト型全員でスケーター。イシス型全員はおれと撹乱だ」

『『『『了解』』』』


 先に班分けしとけば良かった、などと反省点を記憶のメモ帳に残しつつ、アベルはフットペダルを踏み込む。体全体が後ろへ持ってかれる重圧を感じ、惑星大気圏内で戦う厳しさを実感しながら、考え無しに放たれるソニックブームを潜り抜け、上半身部分へレールキャノンを命中させる。


「きゅうぅぅああぁぁぁぁああああぁぁっ!」

「ちっ!?」


 化け物が痛みの為に悲鳴を出すと、その激烈な振動が戦闘艦を揺らし、本当に一瞬だが操縦桿が固定されたような、そんな重さを感じた。


「チェック。異常はないか?」

『右翼、問題なし』

『左翼、同じく』

『バステト、少し操縦桿が持ってかれたくらいです。今は正常』

『イシス問題無し』


 どうやら化け物に近ければ近いほど影響を受けるようだ。


「やっかいな……デリア、もう少し距離を取れ。尾翼一枚分より少し多く」

『了解。バステト、私に続け』


 こちらの指示に的確に反応し動いてくれる直属の部下。これがかつて、路地裏の暗がりで間抜けな金持ちを狙っていたチビッ子ギャング団だったと誰が思うだろうか。全くもって立派に成長したものだとアベルは苦笑を浮かべつつ、再びフットベダルを踏み込んだ。


「宇宙だと速度が乗るんだが、さて」


 再び上半身へレールキャノンを発射。弾は空気抵抗と重力の影響を受けて少しズレ、命中はせず上半身を掠り、数本の腕を吹き飛ばして彼方へ消えた。


「予想以上に威力が落ちるな……各員、ミサイルに切り替え」

『『『『了解』』』』


 レーザーやレールキャノンでは時間が掛かると判断し、アベルがミサイルを中心とした戦い方へシフトする。右翼と左翼のスピードで勝負するイシュタル型が、次々下半身を支える腕を吹き飛ばし、化け物を中心に円周状に動いているバステト型が連携してミサイルを的確に吐き出し、アベルをリーダーとしたイシス型が上半身を中心にミサイルを当てていく。


 腕が飛び、体が抉れ、肉が吹き飛ばされ、化け物にダメージが蓄積されていく。


「よし、効果あり、だな。このまま削る。デリア、光子エネルギー注入型ミサイルの用意」

『了解。バステト、光子ミサイル準備』

『『了解』』


 的確にミサイルを叩き込み、段々と弱っていく化け物へ止めを刺す準備を開始する。


『アベル様、敵の動きが』

「うん?」


 光子ミサイルを叩き込めば終わりだ、そう思っていたアベルへ、右翼のアヒムから報告が入り、化け物に注視すると、化け物が上半身を地面へ埋め込んだ。


「何をしている?」


 化け物はその姿で何やらモゾモゾ動き、やがて頭を引っ張るような動きをし始めた。


「何がしたいのか分からんが、デリア、やれ」

『バステト、光子ミサイル発射!』

『ふぉっくすつー』

『ふぉっくすつー』

「……なんだそれは?」

『ルル様がようしきび? って言ってました』

「はあ……あの親子は……」


 呆れた様子のアベルを置いて、光子ミサイルは一直線に飛翔し、化け物に突き刺さると、猛烈な閃光を発して戦闘艦をシェイクする程の爆発を引き起こした。


「やっぱ、大気があると伝わり方が違うな」


 妙な感動の仕方をしながら、アベルはレーダーをチェックし反応を調べるが、化け物の反応は綺麗さっぱり消えていた。


「ふぅっ、任務完了か。意外と楽だったな」


 またぞろ大量に幽霊の如く現れてこちらの疲弊を待つ、だとか。謎の力で更に巨大化、星ごと砕くレベルの大暴れ、だとか。そういった妙な事が発生せず、サックリ終了した事に安堵しつつ、アベルが帰投を命じようとしたその時――


 ビービービービー!


「レッド?! 各員さんか――ぐっ?!」


 けたたましい警戒アラートが鳴り響き、咄嗟に散開を命じようとしたが、がががががっという音が鳴り響き、戦闘艦の腹から何かに押し出され、船の制御を失う。


『アベル様!?』

『馬鹿! 散開だ! 高度をもっと上げろ!』

『何こ――きゃああぁぁっ?!』

『上がれ上げれ上がれ!』

『攻撃は地表、いや地下からだ! 高度を上げろっ!』


 ビービービービーという船体の深刻なダメージを知らせるアラートを聞きながら、アベルはきりもみ回転をして地表へ向かう船を、必死に立て直しを図る。その間に、何に攻撃を受けたのかを知った。


 地面から無数の、トリニティ・カームに生息しているという巨大なワームに似た触手状の何かが生えていた。どうやらそいつに船の腹側を叩かれたようだ。


「くそがっ?!」


 エグゾスーツのパワーアシストを全開に使い、思いっきり操縦桿を引き起こすのと同時に、踏み抜かんばかり強さでフッドペダルを踏み込む。がっくんと体がパイロットシートへ押し付けられる重たい圧力を受けながら、アベルは地表へ叩きつけられずになんとか高度を上げた。


「チェック!」

『右翼、何とか全員無事!』

『左翼、ビアンカがイエロー! 他は無事!』

『バステト、全員無事!』

『イシス、少しダメージを受けましたが、アラートは無し。むしろアベル様の船が一番ダメージが大きく見えます』

「だろうな、こっちはレッドだ」


 船の安全装置が働き、戻れ戻れとうるさい。しかし、国王から命大事に、という命令を受けている以上、このまま戦闘を続けるのは不味い。


「装甲騎兵隊、そちらはどうか?」

『何とか生きてるが、ちっ! くそっ! どんどん変なのが増えやがる!』

「……」


 いきなりの状況の悪化。まず不味いのは地表に残されている装甲騎兵部隊だろう。このまま装甲騎兵部隊を見捨てるという選択はありえない。だが、さて、どうしたモノか。アベルが頭を悩ませていると、大型の駆逐艦が上から降りてく来た。


『アベル、ビアンカは一旦帰投。船のメンテナンスを受けろ。アベル隊はこのまま私が指揮を引き継ごう。問題なかろう?』


 唐突に立ち上がった通信用ウィンドウに仁王立ちで笑うゼフィーナの姿が現れる。どうやらこの大型駆逐艦に乗っているらしい。


 アベルはあまりの事に口をパクパクさせたが、諦めの大きな息を吐き出し、ジト目をゼフィーナに向けながら了承する。


「……分かりました。ビアンカ、行くぞ」

『りょ、了解』


 色々と、本当はもう色々と突っ込みたい事満載であるが、ここで問答してても解決に繋がらないと割り切り、アベルは素直に撤退を開始。ダメージを受けていたビアンカの船もそれに続いた。


 大型駆逐艦。スカーレティアの一部である三番艦だ。その艦橋に腕を組んで仁王立ちするゼフィーナへ、オペレーターが報告した。


「トイボックスMk.2とイシュタル型一隻、ゼダンから離脱を確認」

「よろしい。ではアベル隊の諸君、こちらの指示に従って動いてもらおう。良いね?」

『『『『りょ、了解!』』』』


 いきなりの正妃登場に、アベル隊の面々は緊張気味に返事を返す。その様子にゼフィーナは苦笑を浮かべた。


「そんなに固くなるな。それでは戦いに支障を来すぞ?」

『ぜ、善処します!』

「まったく……」


 ゼフィーナは肩を竦め、戦場全体を俯瞰するように見る。


「ふむ……アヒム、エルケ、マテウスは装甲騎兵部隊の援護へ。ベンノ、デリア、テオはインセクトロンの拠点があった地点へ。残りは私に続け。操舵手、シェルファからの指示を受けた地点へ」

「了解」

『『『『りょ、了解しました!』』』』


 ガッチガチに緊張して返事をする少年少女達を、大きな怪我をしなければ良いが、などと優しい瞳で見送りながら、ゼフィーナはシェルファから送られてくる大量のデータに目を通し続けるのであった。




 ○  ●  ○


 戦闘艦が十二隻投入されて、しかも率いているのがあのアベルである事も知らされ、ああこりゃ勝ったな、などと余裕をかましていたら、気がつけばピンチに陥っていた装甲騎兵部隊。


 変なフラグを立てたりしなきゃ良かったぜ! などと妙な事を考えながら、リュカは必死に走っていた。


「こっちだ! あの岩を利用しろ!」

『トリニティ・カーム!』

「そうだ! あのクソワームにそっくりって事は安全な場所も似てるかもしれんからな!」


 トリニティ・カームへ先見隊として派遣された経験のあるイヌイ隊の隊員達は、リュカの指示にすぐさま動く。トリニティ・カームの時は巨大な岩をワームが砕けず、そこだけは安全地帯として利用出来た経験があり、今回ももしかしたらと期待をして移動していた。


「カノエ! 進路上の奴らだけを狙え! 弾がもったいねぇ!」

『りょ、了解!』


 四方八方からにょろにょろ触手が生えてきては、反射的にサリューナがバトルライフルで攻撃していたが、それを止めさせて進行方向だけに集中させる。それだけで格段に移動速度が上昇し、やがて全員で巨大な岩の上へ逃げ込めた。


「どうだ?」


 どうやら賭けには勝ったようだ。リュカは大きく息を吐き出し、空を飛び回る味方の戦闘艦を見上げる。


「アベル殿の船と、攻撃を食らった船が戻ったか……あの大型の駆逐艦は……スカーレティア?」


 メイド長ガラティアの戦艦スカーレティアに、確かあのような形の駆逐艦が一隻ドッキングしてたような? リュカがそんな事を考えていると通信が入る。


『無事なようだね』

「ゼ、ゼフィーナ様!?」


 何してますのん?! と突っ込みたくなったが、自分達の国のトップが、わりかしホイホイとフットワーク軽めに、あっちこっちへ飛び回るなんて事は今さらか、そう考え直し、リュカは顔をキリリと引き締めた。それに、確実に自分達よりも何もかんも能力が上の相手に心配するなど、お前がもっと強くなれよ、と突っ込まれそうなのでぐっと心配する気持ちを飲み込んだ。


『これから君達の方へ援護を回す。こき使ってやれ』

「はっ! ありがとうございます! 存分に使い回します!」

『ふふふ、そうしてやってくれ。こちらは問題の解決へ向かう。まぁ、すぐに義理の息子がすっ飛んでくるだろうし、そちらに任せても良いんだが、あまり時間をかけるのも可哀想だからな』

「……はい? 可哀想?」

『ふむ。あの化け物の事だよ。敵対しているとは言え、じわじわなぶるように痛めつけるというのは好まんからね』

「は、はあ?」

『気にするな。ではな』

「はっ!」


 ゼフィーナとの通信が切れ、その間に三隻の戦闘艦が近づいてきた。


「ま、こっちはこっちの仕事をしましょうか。こちら装甲騎兵イヌイ隊のリュカ――」


 とりあえず周辺の安全確保に、きっちりこの三隻を使いまくろう、リュカはそう決めて、本当に彼らを使い回すのであった。

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