第183話 装甲騎兵隊 VS 女帝インセクトロン(二十歳) ②

 近衛AMSレッドライン専用に、タツローが丹精込めて作ったグレートソード。その武器は英雄譚に登場する神剣カラドボルグの名を冠している。硬い稲妻という意味を持つ神話武器で、一説にはエクスカリバーの元ネタなどとも言われている。


 かつてのでっち上げ技術を、こちらの世界で正式な方法へ改造し、更にAMSの製作でノウハウが溜まり、完全新技術によって製造された実体剣。トリニティ・カームで採掘されたオルハニウム、ヒヒロカウナム、アダマラナイム、アルガマウムなどの希少金属を基本に、ルヴェ・カーナで発見された触媒を大量に投入された今現在人類最高最硬強度を誇る超合金。そしてタツローの悪ノリが詰め込まれた一品でもある。


 何かと役に立つ、ハイパーでスーパーなロボットが対戦しちゃうようなシミュレーションゲームの知識。『天空を切っちゃうあの剣って刀身を包むように超電磁フィールドってのが発生していて、分子構造からぶった切っているって設定だっけっか? ほうほうふむふむ(素材を確認)、ほぉふぉお! 出来ちゃうな! やっちゃえーやっちゃえー! ついでに普段は柄だけの状態にして、こうシャキーンと刀身が、え? どこにそんなのが入ってたの?! って感じに伸びて展開するようにしてぇ! ギミックも大量に突っ込んで――』と、ある意味禁断の知識を躊躇う事無く、わりと平然と手を出して超技術を盛り込むどこぞの国王。


 こうして完成したカラドボルグは、使用した当人が大変困惑するレベルで切れ味が良すぎた。


 本当は振り下ろされた女帝の腕を、カラドボルグで受け止めようしたのだが、それはもう見事にスパーンと斬れた。ただ刃を立てるように置いて、ちょっとでも自爆ダメージが入ればいいなぁ、程度だったのが、まさかの切断である。格好をつけてみたが、内心かなり心臓バクバクなロドム。そんなロドムの行動を読んでいた部下達も、自分達が持つ剣をこわごわ見ていたりした。


『……うん、タツローさんだしな、うん……結果オーライ! 装甲騎兵部隊は全員イヌイ隊の補助へ! こいつは近衛が受け持つ!』


 色々と深く考えるのは無駄だと割り切り、ロドムが指示を出せば、サリューナが指示を出してイヌイ隊への合流に動き出す。それを確認してロドムは、手に持つグレートソードの機能を解放した。


 とある国王曰く『ほらほら、魔改造大好きなんだよNIPPON人ってのは。神話武器が原典そのままじゃなくても良いじゃん精神ってのがあってさ? 神話では確かに剣だったのが、ゲームとかだと銃器になってたりすんじゃん? その精神って技術者にとって重要なポインツだと個人的に思うんだよ! だからね、変形は浪漫で合体は青春、そして魔改造こそ技術者の本望!』らしい。そしてそれはこのカラドボルグにも適用されている。


 ロドムの操作によってカラドボルグが変形し、それが両腕に装着されてごっついガントレットになってしまった。近衛の戦闘スタイルはステゴロ(無手による格闘というか喧嘩というか、つまりは殴り合い)なので、バカでかい剣を巧みに扱う技術は無い。


『使うのが怖いっていうか、これ、大丈夫なんだろうか?』


 ガントレットをマジマジ見ながらロドムが不安そうに呟く。そんなロドムの不安など全く気にするはずもなく、腕を斬り飛ばされた恨みを晴らすべく女帝が残された腕を振り下ろす。


『いきなりは困るんだけどっ!』


 振り下ろされた腕に合わせるよう、受け流すように自分の腕を女帝の巨大な腕にちょんと当てた瞬間、相手の腕が爆ぜた。


『はいぃ?!』

「ぎゅぃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 ロドムの困惑の声と、女帝の悲鳴が同時に混ざる。両腕に装着されたガントレットは、常に超電磁フィールドを発生させ、触れた瞬間から分子構造を破壊するという、とんでもなく物騒な装置だったのだ。ロドムや装甲騎兵部隊、ライジグスのAMSには識別装置が組み込まれ影響を受けない仕組みではあるが、ついつい両腕を自分から遠ざけようとするロドムや近衛の気持ちは無理からぬ部分があろう。というかその手の説明を一切投げ捨てて忘れた開発者タツローが悪い。


『タツローさん……はあ……近衛! 吶喊!』

『『『『はっ?! お、おおおおおっ!』』』』


 あまりの事態に思考がフリーズしていた近衛機甲猟兵隊だったが、ロドムの声に我に返ると一斉に女帝へと殺到する。


 拳を叩き込めば、綺麗に丸く肉が抉られ、裏拳を放てば、綺麗に一直線に肉が裂け、掌底を叩き込めば女帝の体が液状化する。


『『『『陛下っ! やりやがったぁ!』』』』


 ロドムに倣い全員がカラドボルグをガントレットへ変形させて装着し、戦っているのだが、そのあまりの惨状に揃って叫ぶ。


「ぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃぎゃっ!」


 狂ったように絶叫を吠え、痛みに身もだえする女帝の姿は、もはや一方的なイジメのような光景になりつつあった。




 ○  ●  ○


「くらえっ! レッドパルサーパンチ! こしゃくなっ! この程度でこの大魔虫王を倒せると思うなっ! レッド、このままだとこちらが不味いぞ! よし! あの武器を使おう! おう!」

「きゃっきゃっきゃっきゃっきゃっ!」


 完全に止め時を失った俺は、もう鼻息荒くしすぎて顔が真っ赤に染まった娘ちゃんがぴょんぴょん跳ねるのを支えながら、かなぁーり必死にアフレコを続けていた。


 いやもうね、相当過去の話で、すっかり戦隊モノの知識なんてぶっ飛んでるから、無理くりやり続けているんですが……辛いっす。


 戦隊モノってさ、なんだろ、こうさ、最初に日常風景とかが入って問題提起の導入、そこにその問題をすっごい煽るよう怪人が現れて暴れて、それを戦隊の人達が倒したら、怪人が巨大化してロボットを呼んで倒す、んでなんやかんやで問題が解決して終わり、ってのが流れなんだっけ? 即興でそんなん作れっかっ! つーか武器ってあいつら剣と短銃だっけ? んで必殺技がバカでかいバズーカとか合体武器だよな。んなもん持たせてねぇっ! さすがにペンギンから分離変形させた鈍器を、ヒーロー武器にするにはちょっと……ぎりロドム君達のカラドボルグがそれっぽいが、あれは派手さなんて無い地味武器だしなぁ。


 だがしかし、こんだけ娘さんが盛り上がっている現状、お父さん疲れちゃったよぉ、とは絶対に言えない。それはお父さんの信頼を失う一番やってはいけない悪手! ここは踏ん張らねば……父親としての沽券が危ない!


「本当、自分の子供が生まれたら親バカ確定だな」

「良いじゃないですかー、わたくし達の父親みたいになられたらー困りますよー?」

「そこの心配はしていないのだがな。特に娘だった場合がなぁ、嫁になどやらん! っていう伝説のビジュアルディスクドラマの父親みたいな事になりかねないと」

「はっはっはっはっはー、もう手遅れですよー? ルルちゃんを手放すと思いますー?」

「……無理だな、それは無理だ。というかルルの理想が高すぎて、逆に男が寄り付かんだろう」

「パパ大好きっ娘、ですものねー」

「「「「旦那様と比較される未来の義理の息子が不憫でならない……」」」」

「どっちかっていうと、あの旦那様を父親に持った実の息子がやさぐれそうで不安って思うのは私だけですかね?」

「「「「そっちもあったっ?!」」」」」


 なんか嫁達がごちゃごちゃ言ってるが、助けてくれてもいいんじゃよ? って感じにチラチラ視線を送ってるのだが、曖昧に笑って助けてくれないし。いやまぁ、彼女達に戦隊モノの知識なんてないだろうから無理なのはわかってるけど、ルルちゃんを抱っこしてくれてもいいんんじゃよ? こっちは結構ダルいので全力でぴょんぴょんするんじゃぁっ! っていうルルちゃんを支えるの辛いんだけども。


「ぐわぁはっはっはっはっはっ! どうしたそろそろ限界か? くっ!? 俺たちの正義はこんな場所で死なない! そうだろう皆っ! おうっ!」

「うふぅっむふぅっ! きゃっきゃっきゃっきゃっきゃ!」


 おうふ、動きが激しくなった。そろそろマジで腕がプルプルしてきましたぞーっ!


 こうなればロドム君達がさっくり終わらせてくれる事を祈ろう。せめて俺のネタがつきる前にっ! 俺の腕の筋肉が死ぬ前にっ!




 ○  ●  ○


『装置の取り付け完了』

「よし、フィールドを張ってくれ」

『了解』


 ユニットに装置を取り付け、艦船に装備さられているのと同等のシールド発生装置、それの完全にフィールドタイプに特化した装置を動かすと、ユニットにへばりついていた女帝の芋虫のような、突起物に見える足を押し退けてフィールドが展開した。


 これで一仕事終わるという感じに、少しだけ気を休めた一同が、ドッカンドッカンやっている近衛達の戦いへ視線を向ける。


『しっかし、また凄いのを作りましたね……陛下』

「AMSだけじゃなかったな」

『ヴァイスのバトルライフルだっておかしい性能なのよ?』

『それを言ったらペンギンから何から全部おかしい性能だってぇの。ライジグスの国民になってからこっち、常識的な事ってほとんどなかったけどなっ!』

『ははははは、全くそうですよねぇ。自分はAMS装着を手助けする専用のエグゾスーツの機能って部分だけでも、引くぐらい異常だったのに驚き疲れましたけども』

『『『『すんげぇ分かる』』』』


 改めてライジグスの国民になった時点からを思い返してみれば、何もかんもが異常だったよね、今更だったよねぇとしかならない事に気づく一同。


 ちらりと戦闘フィールドへ目を向ければ、レールガンすら弾いてみせた化け物が、体のあちらこちらを抉られ、切り取られ満身創痍になっている様子に、部隊員達はもはや乾いた笑いしか浮かばない。


『キャリアーとのリンク接続。自動操縦での砲撃を開始』


 こちらの会話に参加してなかった学者肌の隊員の報告に、リュカは失笑というか苦笑というか、確実に乾いてはいる笑いを引っ込め、ガンガンと振動をする天井を見上げる。


「よし、これでこいつを回収すればミッションコンプリートだな」


 肩を回しながらやれやれと呟くリュカに、近衛と女帝の戦いを眺めていた部下がへへへと笑う。


『ま、その陛下の非常識があったからこそ、俺らは全員五体満足無事生還が出来るんですし、そこはやっぱり感謝ですわ』

「まあ、そうなんだが……何せ陛下、過保護だからなぁ」

『それこそがライジグスに参加しようって決めた最大の理由だったじゃない。こんな手厚い職業軍人なんて居ないわよ。ホワイト過ぎるわ』

「いやまぁ、確かにそうなんだけどさ」


 開拓惑星時代の領主の無理難題を色々見せられているリュカとしては、サリューナの言葉に納得出来るのだが、だからといって常識を捨てられる訳じゃなく、曖昧な笑みを浮かべるのにとどめた。


『総員、ユニットへ集合。そろそろ上の岩盤をキャリアーが抜きます。隊長』

「ロドム殿! 天井が抜けます!」

『近衛! ユニットに集結!』


 リュカの注意喚起にロドムが素早く対応し、近衛全員がさっさとフィールドの中へと逃げ込むのと同時に、これまでで一番大きな振動が天井を貫いた。


 一泊置いて、一際耳を激しく揺らすような巨大な轟音を立てて天井が抜け落ち、まるでスコールのような大量の土砂が降り注ぐ。だが、フィールドに守られたライジグス一行は問題なく守られ、逆に女帝は巨大な質量に押し潰されるようにして土砂に埋まった。


 フィールドに守られているから無事だが、フィールドの外はみっちりと土砂に埋まっている。あまりここにいたくはない状態に、リュカが部下に確認する。


「ビーコンは?」

『既に設置完了。回収部隊が動いてます』

「ならこのまま待機だな。お疲れさまですロドム殿」

『そちらもお疲れさま……今回は本当に精神的に疲れた……』

「はははははは」


 腕のガントレットを外し、元のグレートソードから柄の状態まで戻したロドムが、いつもなら精悍な生き生きとした表情が、年相応に幼い表情で、ふへぇと気の抜けた顔を見せる。本当に疲れたようだ。


「帰還したら陛下にクレームですな」

『苦情はないんだけど、せめて前もって説明は欲しかったかな』


 ロドムとリュカは笑い合いながら、任務の完了を実感するのであった。

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