第174話 フェイカー、残り火 ④

「だぁーくっそっ! 鬱陶しいっ!」

「みぎー! みぎー!」

「どぅはぁっそぉっ!?」

「どんだけ出てくるのよっ!」

「知らんがなっ!」

「あたまっ!」

「うわっちぁっ?!」


 希望は見えた。けど現状は変化無し。ただひたすらにわき出る敵を倒し続けている現状に、段々と嫌気ががががっ!


 唐突に嫌らしく、粘着質なやり方に切り替えてきたが、それすら繰り返し再生をしている感じでパターン化し、そっちはゼフィーナが動かす艦隊で処理を任せている。任せているのだが、面倒臭い事に数が一定から減らないのだ。これがもう面倒臭い。


 そして俺達戦闘艦乗りはもっと面倒臭くて、数が減らない戦闘艦と駆逐艦の特攻アタックを、何とかオペレーターの技術に頼って逃げながら戦っているという状態だ。単座状態のエッグコア隊のメンバーは、危なすぎて帰艦命令を出すレベルなんだなこれが。


『ドライブアウト、というよりは唐突に現れている、って感じですね』

「冷静な分析ありがとーっ! くわっ!」

「今のを避けるって、もらい!」

「もう勘だ勘!」


 フレクサトーンって楽器があってな? あれだあれ、頭に白い稲妻っぽいエフェクト走る時に鳴る音出す楽器じゃ。もうね、ずっとそいつが鳴りっぱなしだぜぃ。


「ここかっ!」

「すごいすごい! とと様つおい!」

「どやぁ」

「本当に避けてるし……それもらい!」


 外から見てたら、絶対気持ち悪い機動をしてるだろうねっと!


 稲妻のようにジグザグに動いて、ありえない急加速と急停止と、全部のバーニアを駆使して直角に移動してみたりとやりたい放題をかましつつ、そんな状況でも体を保護してくれるAMSさいきょーとか思っていると、ずっとカタカタコンソールを叩いていたシェルファがうんうんと頷く。


『……なるほど……たぶんですが、そろそろ増殖が止まります』

「本当なら朗報、とっとっとっ!」

『妙なエネルギーがあったのですが、それが減少していきます。たぶん、これがこの現象のキモなんじゃなかろうかと』


 妙なエネルギーってなんがしょ?


『確かに計測出来るモノではあるんですが……こうフワッとした感じなんです。科学的な事象というより、自分で言っててありえないとは思うんですが……オカルト的といいますか』


 なるほど分からん。それも後で要確認だな。


「まあいいさ。カオスは生きてるな」

『この程度は修羅場ですらない』

『十分修羅場ですの! 完全に鉄火場ですの!』

『ひぃぃぃん! コンソールの叩きすぎで指がつりそうだよぉ!』

「がんば! あきらめんなよー! やればできるって! あきらめんなよー!」

「……マジでどっからネタを拾ってくるんだろう、俺の娘は……」


 まだまだ余裕はありそうだ。だけど、そろそろ戦い続けて三十分以上はドックファイトしてるから、どこかで一息入れたいのも確かなのよ。特にルルを休ませたいのだが……


「へるぷ! メイドちゃん!」


 はやくきて~はやくきて~、マジではやくきて~っと言って来るのは伝説の人物ぐらいか、もうちょい頑張ろう。


「ルル、辛かったら休んで大丈夫だからな。疑似マヒロシステムもあるし、シェルファもフォローしてくれっから」

「あい! とと様とおふろ! がんばる! むふー!」

「いや、休めって言ってんだけどね?」


 余力があると思っとこう。突然電池が切れない事を願うけどな……




 ○  ●  ○


 極彩色の空間。ハイパードライブを行うと突入するハイパードライブ空間とも呼ばれているそこを、大量の帆船が飛翔していた。


 王国の最大の工廠はエリシュオンである。しかしアルペジオに国王直轄の工房があるように、その二つ以外にも船を生産する能力を持つコロニーは存在する。


 コロニー・セレナーデ。かなり最後の方に解放したコロニーであり、セキュリティが鉄壁過ぎて侵入者を全く許さなかったコロニーだ。タツローの仲間であるルミ・ステアが中心となって製作された、実に女性的であり、多種多様な曲線によってデザインされたそれは、宇宙空間に咲き誇る一輪の華の如き、とても芸術的な美しさを誇るコロニーでもある。ここにも船を製造する能力があった。


 ガラティアはこのコロニーを密かにヴィクトリアと改名し、ルミ・ステアが残した色々な資料を発掘して、莫大な国費を投入、メイド達の特注装備と艦船を製作した。さらにこのコロニーにはクルル・メルル・フルルに匹敵する天才ヤザリ・カーキもいた事も影響し、ノンストップ状態で暴走してしまった。タツローが気づいた時には、すでに色々と計画が動いている最中で、止めるに止められない状況であったとか。


『どうかしらどうかしら? ちゃあんと作れたと思うのだけれど、問題はないかしら?』


 先頭を駆ける帆船、ヴィクトリア級シップの艦橋のモニターに、実に濃い人物が映し出される。滅茶苦茶に染めたのだろう七色どころじゃない派手派手なロングパーマの髪に、どこまでも胡散臭い紫色の丸いフレームのサングラスをかけ、やたら体をクネクネ動かして女性のような口調でしゃべる彼こそが、もう一人の天才ヤザリ・カーキその人である。


「問題なく。急な出撃に対応いただき感謝します」


 一人前のメイドである事を示す、地味に見えるが実は刺繍が豪華なホワイトブリムを揺らし、優雅にお辞儀をする少女に、彼は嬉しそうに微笑む。


『だってだぁってぇ、国王ちゃんのピンチよ? ここであたくし達が動かないでどうするって話じゃなぁい? これで間に合いませんでしたなんて話になったら、それこそ馬鹿って奴よねぇ?』


 クネクネし、ちょっと気色悪いが、彼はちゃんとした妻帯者(五人)であり、息子が五人に娘が三人と、ドノーマルなお方である。タツローも最初はオネイさんかと思ったが、何でも女系家族で唯一の男だったとかで、子供の頃からずっとこんな感じのしゃべり方だったとか、実に紛らわしいが。


「きっと助けてみせます」

『そこは心配してないの。ちゃぁんと無事に帰ってくるのよ? 貴女達はもうライジグスに無くてはならない存在なんだから、ね?』

「肝に銘じます」

『うんうん、じゃ、またね? ちゃお』


 バチコンとウィンクをかまし、モニターからヤザリの姿が消える。


「面白い方ですね」

「とても尊敬できる方ですよ。間違いなく人格者です」

「人は見かけに寄りませんよね」

「そうですね、全くです」


 見た目に騙されて、違法奴隷落ちした過去をもつ彼女は、過去の事を重ねながら苦い苦い笑みを浮かべ、すぐに気持ちを切り替えるように息を吐き出す。


「ドライブアウトまでどれくらい?」

「もうすぐです。新型のジェネレータとエンジンのお陰で、かなり時間を短縮できてます」

「これもメイド長に報告して、ヤザリ様のお給金に反映してもらわないといけないわね」

「全くもってその通りですね」


 本来ならば、いかなハイパードライブと言えど瞬間移動などは出来ない。どうしても移動に時間が必要だ。それでも莫大なエネルギーを効率良く使えるエンジンさえあれば、かなりの短縮に繋がる。それが正に今役立っている訳だ。


「そろそろ一番近い子達が到着する頃合いですね」

「焦れるわね」

「はい。ちゃんとゴミが残ってると良いのですが」

「そうね、メイド長もだけど、是非、是非に! ご主人様に日頃の成果を見せなければ!」

「はい!」


 ライジグスの白黒、もしくは天使と悪魔が同居する少女達と呼ばれるようになる一団が到着する時間が迫っていた。




 ○  ●  ○


 Side:????


(何だこれは! 何でアイツが戦えている! どういう事だ!)


 虚無の空間がビシリビシリと悲鳴を上げ、何もない場所に赤紫の亀裂が無数に走り始める。


(何故だ?! 奴は戦う力を持たない存在のはずだ。他の境界人もその縛りから逃れる方法を持たなかった。奴は生産しか能のないクズだったはず……何故だ?)


 ビキビキと不吉な音を立て、どんどん空間が裂けていく。


(待て、落ち着け……これ以上の力の流出は不味い……ええい、忌々しい! どこまでこちらの邪魔をすれば気が済むのだ!)


 ビキビキ、メキメキと不気味に音を出していた空間が突如静まり返り、裂けていた空間も何事も無かったように消えてしまった。


(あの無能共に頼らなければならないのが実に苛々するが、あの愚か者ども位しか有能な部下はいない……早く、早くこいつを動かせるようにならねば……)


 虚無の空間に赤黒い光が瞬き、瞬間一隻の戦闘艦のシルエットが浮かんだ。しかし、そのシルエットが何かを確認する間も無く、虚無の空間は静寂に支配されるのであった。




 ○  ●  ○


 第二艦隊と第五艦隊は、唐突に戦術を変化させた黒紫の艦隊に手こずっていた。


「随分とまぁ動きが良くなった事」

「言ってる場合か!」


 シールド飽和を狙った特攻アタックに、無数に仕掛けられた爆雷。戦闘艦は引っ込めたが、駆逐艦サイズの味方にはもれなく特攻アタックの集中攻撃が行われ、気を休める暇がない。


「ジェネレータは大丈夫?」

「まだ余裕はあります。ですが、第二艦隊が厳しいかもしれません」

「まぁ、あっちはウチと同じのは積んでないもんねぇ。第二艦隊へモールス、こちらを盾に使えと」

「サーイエッサー」


 負ける気はしないが、じり貧なのは事実。ここらで何かちょっとでも好転する事でも起きなければ、ひっくり返すのに苦労しそうだ。ジークは実に面倒臭そうに、小鼻を引っ掻く。


「ん? これは……後方にドライブアウト反応! 識別が来てる? 味方です! 全然知らないコードですが!」

「何だそれは? モニター映せ!」

「サーイエッサー!」


 オペレーターの報告にハイジが吠えると、直ぐ様モニターにドライブアウトしてくる艦船の姿が映し出された。


「なんじゃありゃ?」


 そこには帆船の姿があった。もちろんジークやハイジ、この場にいる全ての軍人には見慣れぬ姿である。


『こちらガラティアメイド長直属ライジグスメイド部隊です。お手伝いは必要でしょうか? 皆さま方』


 モニターがポップアップし、そこにシックなメイド服を来た茶髪の女性が映る。彼女は優雅にゆったりとした仕草で一礼をしつつ、実に蠱惑的な魅力溢れる微笑みを浮かべて問いかけてくる。


「通信が回復してたのか?」

『はい、一時間と二十五分三十五秒前から。正妃シェルファ様が状況を打破されました』

「ひゅー! さすが国王陛下の四人だね。んじゃまぁ、助けてくれるなら助けてくれるかな? うちは大丈夫だけど、第二艦隊がそろそろ厳しいからね」

『かしこまりました。すぐにお掃除いたします』


 そこからは圧巻の一言であった。ラクシュミ級戦艦よりも絶対に高性能だろう火力でもって敵艦隊を撃滅。増殖しても構わず撃滅。包囲殲滅のお手本のような陣形で、相手に何もさせず一方的に叩き続け、五度目位の殲滅によってついに敵は出現しなくなった。


「……なんちゅうか、凄いの見せられたね」

「ああ……あんな隠し球、持ってたんだな陛下」


 さすがのジークも唖然とし、そんな第五、第二艦隊を捨て置いて、メイドさん達は突き進む。


『こちらのお掃除は完了いたしました。それでは皆様、我々はご主人様のもとへ行かなければなりませんので、ごきげんよう』


 優雅にカーテシーを決め、メイドさん達は行ってしまった。残された第二、第五艦隊は、しばらくの間動けなかったが、直ぐ様第五艦隊が所有する緊急メンテナンスボットを起動し、第二艦隊の応急処理を行い、慌ててメイドさん達を追いかけるのであった。

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