第170話 闇の囁き
Side:????
「何故っ?! 今回の事でほとんどのコロニーは終わりを迎え、それで主が復活するって計算だったはずよっ?!」
『……ライジグスだ』
「はあぁっ?! 何が出来たっていうの?! 一度、感染してフラフラになって逃げ帰ったってスキュプ・ワームから報告があったわよ?!」
『全く効果を発揮してなかったようだ。感染したように見せて、その状態でこちらのウィルスを解析されたようだ。それとこちらのウィルスへの対抗策もきっちり打たれた』
「何よそれっ?! こっちは神がバックにいるのよっ?!」
『姉さんっ!』
「っ?!」
『落ち着いて。主は狭量で短気で浅慮だ。それを口に出してはいけない』
「……ごめんなさい」
(フン、無能共が己の無能を棚に上げて、我を口汚く罵るか?)
「『っ?!』」
(過ぎたる力を授け、過ぎたる技術を渡し、過ぎたる知恵までくれてやってこれか? そして主たる我を口汚く罵る……それでも我を狭量と、短気と、浅慮と言うか? 我が親愛なる愚か者達よ)
「申し訳ありません」
『失礼しました』
(ふん、心にも無い事を……まあ良い。相手が相手だからな、お前達如きでどうにかなるとも思っておらん。今回は我が力を使おう。貴様らは唯一上手く進められている事を進めるが良い)
「『はっ!』」
(ここでも邪魔をするか日下部 達郎よ。だが、所詮は人間、我の敵とはなれない……今度こそ死ね、きっちりとな……くっくっくっくっ、ははははははははは、はあーはっはっはっはっはっはっはっ!)
○ ● ○
第二と第五艦隊がオスタリディ艦隊と会敵し、交戦状態へと突入したと報告が来るのと同時くらいに、こちらもチームクリスタとチームアベルが敵の防衛拠点へ向けて進撃を開始した。
『勝利を旦那様に捧げてみせますわ!』
ピンクブロンドの長い髪をドリル状に何房も頭からぶら下げ、それを大きな扇子でぶわさぁっと広げるように払い、パールピンクな瞳の片方でバチコンとウィンクを決めた、ゴスゴスロリロリタイプエグゾスーツのクリスタさんが、おーほほほほほと笑う。この嫁、ノリノリである。そして笑うと大きなお胸様が揺れる揺れる。エグゾスーツに使った新素材、リュザラ・リ繊維の仕立ては上手く機能しているようだ。
ぬふふ、私の仕事っぷりを見ていただければお分かりいただけるかと思うが、美しいお胸様がより美しく、更には優しくフィットして保護するのに我が儘バディーを束縛しない奔放さも兼ね備える、実に素晴らしい繊維である。これで下手な合金よりも防御力があるってんだから凄い。ナイスバスト!
「どこ見てるのよ?」
「嫁の胸を見て喜んで何が悪い? 俺は彼女の夫じゃぞ?」
「いやそう堂々と言われると……つかこっちも見るの? いやまぁ、良いんだけど」
付き合いの中で、こういう場合は言いきってしまった方が勝ちである。俺はそう嫁達から教わったので、半目のファラに言いきって、彼女のたわわな胸もガン見する。
「うん! 俺の仕事は良いよね!」
ナイスバスト!
「この繊維で下着作ってくれないか? 凄い楽なんだ、これ」
「身体調整でーある程度ー体のサイズはいじれますけどー、自然とこうなったからにはーちゃんとお付き合いしたいですしねー」
「おうよ! すんげぇデザインのを作ってやろうじゃねぇかっ!」
ほら貴族って優れた人材のハイブリットじゃない? だから嫁達のプロポーションって凄いんだわ。既製品だとほぼ確実に使い物にならない程度には凄い。ほとんど下着は特注品の一点物になるらしく、軍属時代はそっちの出費が凄く痛いって嘆いてたとか。ふっふっふっふっ、よろしい、俺がこの繊維でばっちこい! な下着を色々量産してやろうじゃないか! もちろん自動サイズ調整機能を付けてっ!
「……タツローさん、ルルちゃん居るの忘れてない?」
「うにゅ?」
「……こほん」
ちょっと暴走してしまったな。反省反省。だからルルちゃんや、そんな透明な瞳でお父さんを見るんじゃありません。それは色々とお父さんにこうかばつぐんだ。
『あー、こっちもそろそろ』
ダックブルーな短髪の頭をぽりぽり掻きながら、オリーブグリーンの瞳に困った光を宿した美少年アベルちゃんが、この空気感どうすんべという雰囲気で切り出してきた。
「ごめんごめん、気にせずやっちゃって」
『はあ……了解』
ダークヒーローっぽい漆黒の未来プロテクタースーツっぽいエグゾスーツで、きっちり敬礼をしアベル君の通信が切れる。いやぁ、悪い事しちゃったね。
『ではワタクシも参ります』
「おう、命大事に」
『勿論ですわ。まだまだダーリンとの逢瀬を楽しみたいですもの』
「ははははは」
いや完璧に悪役令嬢っぽいキャラを掴んでらっしゃる。いやまぁ、悪役ってか元から普通にご令嬢なんですが。やっぱりただのお上品なご令嬢より、ちょっと抜けて色々隙のあるご令嬢って萌えるやん? そこを理解してくれているからクリスタさんはさすがやで。
「そろそろ戻って来て?」
「はいはい」
ファラに半目で言われて、俺はキャプンシートの斜め後方へとゲストシートを移動させる。
「防衛拠点、見えました。モニターへ出します」
嫁オペ子の的確な仕事で、モニターに何やらごっつい小惑星が映される。
「ただの小惑星にしか見えないな」
ゼフィーナが形の良い顎先に指を当てながら、まじまじとモニターを見て呟く。
「エネルギーフィルターセット」
「うげっ」
ゼフィーナの言葉に嫁オペ子がすかさずフィルタリングをかけると、エネルギーの動きが見えるようになり、その様子にファラが淑女にあるまじき声を出す。フィルターで判明したのは、複数のジェネレータを設置してある事、それが何かしらの装置へ直接繋がれている事が見える。エネルギーが充填されている様子を見るに、超大型のレールキャノンかビームキャノンと言った感じか。
「両艦隊への報告は?」
「既に完了」
「ないすぅー」
「恐悦至極」
チームクリスタとチームアベルの動きが変化し、防衛拠点の狙いを絞らせない動き方へ移行し、まるで巨大な魚の群れのように動く姿はさすがの練度だと感心する。
「さすがはアベルだな。我が自慢の義理の息子よ」
先日、ライジグスの貴族としてデビューしたアベル君はジゼチェスの名を冠しておりまして、めでたくゼフィーナの義理の息子へとクラスチェンジ。レイジ君が妙に嬉しそうに彼の肩を叩いていたのが印象的だったなぁ。仲間が増えたって喜んでたのかね、あれ。
「クリスタはー誉めないんですー?」
「あの程度出来て当たり前だろうに」
「まあーそうなんですけどねー」
何気にクリスタさんの手腕って高レベルだからね。
「敵、防衛拠点のエネルギー急上昇! 攻撃来ますっ!」
「フィールドへ切り替え、ジェネレータも準戦闘レベルまで引き上げ」
「それでーお願いしますねー」
「了解!」
こちらの艦隊がフィールドを張り巡らせたのと同時に、敵の拠点からビームが放たれた。
「おいおいおいっ?!」
そのビームは回転しながら進み、運が悪い事に、こちらと射線が一致してしまい、凄い速度でフィールドの端っこを掠めていった。
「っ?! ゼフィーナ! ファラ!」
「「きゃっ?!」」
フィールドを掠めただけなのに、船体が揺れる程の衝撃を受け、立っていたゼフィーナとファラがバランスを崩したのを見て、慌てて抱き寄せる。
「被害報告っ!」
「フィールド損耗率六十!」
「船体にダメージありません!」
「艦内クルーに負傷者無し!」
「本隊にも損害無しっ!」
「なんちゅうモン持ち出してくるんじゃい」
とあるアニメで、ビームを回転させて貫通力高めたら強くなるんじゃね? という兵器があって、それをまるっとパクって作ったのがライフリングビーム砲。ゲーム時代最強の攻撃力を誇った武器だけど、ビームを砲身で回転させるという荒業をさせる都合上、連発するどころか数発ぶっぱしただけで砲身がイカれ、その都度砲身を丸々交換しなければならない最悪なコスパなせいで全く浸透しなかった兵器だ。
「エネルギー急上昇っ!」
「回避行動っ! 的を絞らせるなっ! 回避が間に合わないようだったら、角度を見て反射させるように受け流せ!」
「りょ、了解!」
全く浸透しなかった理由のその二。貫通力が、直進する力が強すぎて、角度を付けてパリングするように弾くと、すんごく簡単に受け流しが出来てしまうポンコツ性能だった。普通のレーザーなりビームなりは、ぎりっぎりの角度を求められ、弾く、受け流すは熟練の技術を必要とするから、まだそっちの方が使いやすいとまで言われていた。
「むぅー二人共ズルいですよー」
「ん?」
緊迫した空気の中でもマイペースなリズミラに言われ、俺は視線を下に下げる。そこには満面の笑顔を浮かべているファラとゼフィーナとルルの姿が。
「忘れてたわ。ほいほい、立って立って」
「「ちっ」」
嫁二人は舌打ちしながら立ち上がり、イラッとした瞳でリズミラを睨む。明らかに余計な事をと言っているね、あの目は。
「戦闘中だっちゅうの」
俺が呆れたように言うと、二人はブスーと頬を膨らませ、不貞腐れてしまった。いやだから、戦闘中だって言うの。
「あれ……何これ……」
「ドライブアウト? いやでも、それにしては数値が大きい……」
いつも通りに緩くなりそうな空気感の中、数人の嫁オペ子が困惑の声を出す。
「どうした?」
「えっと……敵の防衛拠点の間の空間が……揺らいでる?」
「反応的には、ハイパードライブのドライブアウトに似てます。ですが、それにしては発生しているエネルギーの数値が異常に高いです」
「その地点をモニターへ」
「はい」
何が起こっているのか理解出来ないといった感じの説明に、とりあえずそこを確認しようと提案すれば、素早くモニターにその現象が映し出された。
「なんじゃこりゃ……」
何もない空間に渦が巻き、その渦の速度が増すと黒い電気のような光がスパークし、どんどんどんどんその速度が加速していく。
「エネルギー、観測不能……数値が振り切れました……」
「ドライブアウトに近い反応……計測不能! 数が多いっ!」
「何が起きるってんだよ」
スパークが激しくなり、バチバチと渦から直接スパークが吐き出されるようになる。どうやらそれが臨界だったらしく、渦から紫の水晶のような色をした船がドンドン吐き出されていくではないか。
「……『百英雄』か?」
独特な船のシルエットから、俺はかつてゲームで戦った事のあるクランの名前を呟く。だが、そのクランのパーソナルカラーはシャイニングレッド、輝かんばかりの深紅がクランのカラーだった。決してこんな毒々しい紫のカラーリングは使っていない。
「どうなってやがんだ」
俺の呟きに、誰も正解を答えてくれない。その紫の大艦隊は、ゆっくりと陣形を整えながら、俺達と対峙するのであった。
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