第168話 作戦前の一時
「やって来ました! エリュシオン!」
「きたー!」
何故かいる我が娘。っかしーな、しっかりお義母様方にお願いして預けてきたはずなんですが……
「物資搬入ルートの、コンテナの中に紛れて入り込んでたようだぞ」
ゼフィーナが苦笑を浮かべてルルの頭をグリグリ強く撫でる。いやなんか、蛇か? 君は蛇なのか? 専用のダンボールとか持ってたりするのか?
「娘ちゃんをおいてったら、めっなのっ!」
私、激おこです、とばかりにプンプンと怒る我が娘。そう毎度毎度ね、戦場へ連れ出すのもいかがなもんかと、お父さんは思うんですが……
「考えようによっては、宇宙で一番安全な場所だもんねぇ、アンタのそこって」
ファラがぷっくぷくーと膨れてるルルの頬を優しくつつきながら、チラリとルルが乗ってる俺の膝を見る。
「はあ~……仕方がない」
「やったー!」
お父さん陥落。いやまあ、今から誰かにお願いして連れ帰って、というのも手間やしね。それこそ全力で抵抗しそうだし、この子ったら……
「あははははー、結構な騒ぎになってましたー。母様があそこまでー取り乱してる姿はー見た事無いかもー」
アルペジオに連絡をお願いしておいたリズミラが、苦笑を浮かべて言ってくる。ニコニコーと笑っているルルをじっと見るが……駄目だこりゃ、これ分かってねぇや。俺はお仕置きとばかりにその褐色肌のホッペをむにゅんと挟む。
「ああー、後で謝らないと」
超ご機嫌なルルの頬をグリグリ捏ね繰り回しながら、俺は深い深い溜め息を吐き出すのであった。全くもお、困った娘ちゃんだ事。
「陛下、第二艦隊の準備が整いました」
「おっ、終わったか」
オペレーターからの報告に、俺はモニターを見る。そこでは複数の工作艦が連結合体し、巨大なメンテナンス施設のような形になっていた。うむうむ、結構重要なポジションになるだろうなぁっと思っていた工作艦が、しっかり役目をこなしてるようで満足満足。
「どどだば~じだじ~」
なんて思っていたら、ぐにぐにが効いてきたのか、ルルがてしてし俺の手を叩く。やれやれ。
「痛くしてるんだよ全く……次はやったら駄目だかんな?」
「ううぅ~おいてくの、めっなのぉ~」
「しょうがねぇな」
頬をむにむに撫でながらルルが唸ってくる。アルペジオにはお友達もいるだろうに、全く困った娘ちゃんだ。
「ルルには勝てないわね」
「ああ、勝てないな」
「無理でしたねー」
「うるさいよ? むしろ君らも止めろよ」
「「「それこそ無理」」」
「はあ~」
まあ、ここが安全だってのは確かだし、子供用のエグゾスーツも作ったから大丈夫っちゃ大丈夫だけど、心理的にはちょっと、ね。
「そういや、レナスはどうしたよ?」
「つれてきたー、ルルがはいるはこ、ヴィヴィアンがこれっていってくれたからー、はこにはいってすぐヴィヴィアンといっしょにいっちゃったー」
「ほぉう?」
なるほど、あいつもグルだったか。面白い事してくれるじゃねぇか、おおん?
「陛下、第二艦隊総司令リューネと第五艦隊総司令ジークより通信が入ってます」
「必ずシメてやる……こほん、つなげてくれ」
「ほどほどに……つなげます」
モニターに、ピンク色した長い髪をポニーテールでまとめたバインバイン(命の危険があるので、具体的にナニが? とは言及を避けるぞ)なタレ目の美女と、毎度お馴染みマッドイエローってのかな、鈍い感じの黄色っぽい短髪の、眠そうなタレ目な、まさしく見た目小学生男子なナイスジーク君が映し出される。美女がリューネさんだな。
『第二艦隊総司令リューネ・エリルールです。準備に手間取り申し訳ありません』
「いやいや、今回はタイミングが悪すぎたからね。むしろエリュシオンの技術者には無理をさせ過ぎたと思っている。君の責任じゃないさ」
『はっ、ありがとうございます』
『それで陛下、自分達は具体的にどのような行動をすればよろしいのでしょうか? 作戦概要には露払い、としか書かれておりませんでしたが』
「それは、ゼフィーナ」
「はい。私から説明しよう」
『はっ、お願いします』
今回の作戦目標は、ユストマ・ナハトに出現した惑星ミスティ(命名シェルファ)にあるだろうウィルス攻撃を発信してる施設の制圧が目的だ。
だが、惑星ミスティへとたどり着く途中に、こちらを阻む目的だろう防衛拠点が複数確認されており、更には神聖国へ攻め込む用の拠点だったろうポイント・ユルヤのステーションから、オスタリディの艦隊がユストマ・ナハトへ向かっているという情報もあるから、そちらとも戦わなければならないだろう。なので第二と第五艦隊は、オスタリディの艦隊の対処を頼む予定である。
そんな感じの事をゼフィーナが説明すると、二人の総司令は了解と返事をし、通信が切れると同時くらいに第二と第五艦隊が、素早く動き出す。
「相手の防衛拠点はどうするんだ? 特務?」
「いや、今回ガイツはライジグス領宙域の徹底監視をさせているから動かせない。なのでチームクリスタとチームアベルに動いてもらう予定だ」
「おお、ドリルと万能」
俺の嫁であるクリスタなんだが、こうたたずまいというか何と言うか、そこはかとなく滲み出る悪役令嬢ぽさがね。なので、絶対似合うって、すっごくいいよ、ほら君はこんなにイケてるじゃないか、と言葉巧みに誘導して、ドリルヘアーにしてもらったんだが、これがまた超マッチして、フリフリのパーティードレスみたいなエグゾスーツを着てると、まさに悪役令嬢って感じになる。そういう悪役令嬢っぽい嫁達で固めたのが、チームクリスタだ。
チームアベルはアベル君の艦隊だ。彼のようにオールラウンダーな人材を集めた何でも屋集団であるのだが、全員が高い水準の技能を有しているから、はっきり言ってここがライジグス最強の部隊だと思っている。総司令がアベル君で、彼の下にミィちゃんらアベルの嫁達が固めている。うん、先日ついにご結婚されましてね、実に幸せそうだったよ。彼の妖精ちゃんがハンカチをキーって噛んでたけど……
「それなら安心だね」
「何が起こるか分からないからな、やり過ぎなくらいがちょうど良いと言うし」
「その意見には全力で頷いておく」
第二と第五艦隊が先行するように進撃を開始し、俺達は俺達でシェルファのミュゼ・ティンダロスを守る陣形を組む。シェルファのウィルス処理が無いと、さすがに面倒くさい状況になるからね、しっかり守っていかないと。
そんなこんなで準備が整い、オペレーターもその事を報告する。
「チームクリスタ、チームアベル所定の位置に配置。マリオンの工作隊も本隊後方に陣取りました」
うむと頷いたゼフィーナが、全艦の通信を開いて激を飛ばす。
「今回はあらゆるリンクシステムは使用出来ないと思え。日々の訓練の内容が問われるぞ。下手を打った奴はどうなるか分かってるな?」
「「「「アイマム」」」」
通信から聞こえてくる返事に頷き、ゼフィーナがバッと右手を突き出した。
「目標ユストマ・ナハト、ライジグス出るぞ!」
「「「「アイマム」」」」
俺達はユストマ・ナハト、謎の惑星ミスティへ向けて出撃するのであった。
○ ● ○
Side:パテマド・ザビア・オスタリディ
常に他者を見下し、自分こそが王であると自信満々に振る舞い、いつかは自分の王国を手に入れる事を夢想していた男は、げっそり痩せ細り、囚われの牢獄でぼんやり錆が浮いた天井を見上げていた。
あの、自分の娘が嫁いだ新興国の王が、自分達の祖先が駄目にした神聖なる象徴を提示したあの日。全てが無駄になったと嘆いたあの日から、何もかもがおかしくなり、やがて完璧に狂った。
始まりは不気味な女だ。浅黒い肌に、全く精気を感じさせない奈落のような瞳、それ以外は何重にも布を重ねて巻き付けるように身に付けていたから分からないが、全てが全て不気味で気色の悪い、その女からの申し出を受けてからおかしくなった。
「王になりたくありませんか?」
女はそう言うと、船と金と兵士を作る薬とやらを渡してきた。初めは全く信用していなかったが、受け取った船は全部レガリア級であったし、振り込まれた金の額も信じられない金額であったから、利用するだけ利用して、そのうち始末してしまえばいいかと割り切る事にして行動へ移した。
前々から目をつけていたコロニーへ出向き、女が兵士を作る薬と言っていた薬品を、付属されていた説明の通りに生命維持装置へ突っ込むと、コロニーの住人全てが廃人になってしまった。女から渡された薬が帝国で禁止されている魔薬だと分かった時には既に手遅れで、女の仲間だろう者達に拘束されて、ずっと牢屋の住人状態だ。
「王になろうだなんて……」
ポツリと呟いた言葉に、パテマドは苦笑を浮かべる。パテマドがオスタリディの血統ではない、パテマドの妻、リッテラこそがオスタリディの血統なのだ。彼女を迎え入れ、大手を振って自分こそがオスタリディだと威張っていた事が、こんなにも虚しい事だったとは今になってやっと気づけた事だ。そしてなによりも、どこまでも抜けた自分の阿呆さ加減にも気づいてしまった。
「愚かだな……」
もうここでいくら反省し、心を入れ換えて改心しようにも全てが手遅れだ。何より、ここから出られる気がしない。
「ん?」
心にビュービューと虚しい乾いた風が吹き荒れているのを静かに受け止めていると、何やら騒がしい声が聞こえてくる。
「分かっているのか! このジャミハム・ゲーブル・ファリアスをこのように扱うとは! 必ず貴様の一族郎党、惨たらしい目に会わせてくれるわっ!」
「ええいっ! 外郎がっ! 私に触れるなっ! 私はバスド・ロンド・ジゼチェスであるぞっ! 離せっ! 離せえぇぃっ!」
「……ぷふっ、くくくっ、ふふ、ははははははははっ!」
自分と全く同じ末路を辿るだろう、全く自分そっくりな夢想家二人も追加されたようだ。ここへ放り込まれる台詞まで似ているのも笑える。
「いつまであの元気がもつだろうか」
パテマドは一度も手をつけていない、食事と呼ぶにはおぞましい何かが盛られたトレーを一瞥し、ドタバタと暴れている御同輩がやってくるのを待ち受けるのであった。
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