第165話 デッドリースクリーム
Side:????
「全く忌々しい。毎度毎度こちらの邪魔ばかりをして」
『境界人なんて存在はそんなモノだって。何度も何度もやられて来たもんね。アイツらさえ居なければ、もっと早く目的を達成出来たものを……』
「ああっ! 本当に忌々しいっ!」
『でも、さすがにこれは防げない』
「はぁ、はぁ、はぁ……そうね、これは絶対に防ぐ事は出来ないわ」
何も存在しないような闇の中で光が差し込み、そこに闇の鎖で雁字搦めにされた、まだまだ幼げで美しい女の子が浮かび上がる。
「やっとここまで仕上げられたわ」
『厄介な防壁に守られて、さぞ大切にされていたみたいだけど、アレの本質は破壊と滅亡の衝動に支配されている』
「ええ、どうやったって、アレはそこから逃げ出せやしないし、本質を変える事も出来やしない」
『全く、素晴らしく良いモノを遺してくれたもんだよ。こればかりはアレを封じた境界人に感謝を捧げても良い』
「そうね。そして、最後にコレを埋め込めば――」
ぐったりして動かない女の子の胸へ、鋭く尖った闇のドリルのような物が、高速で回転しながら近づく。それは女の子の胸に届く前、輝く光の壁に邪魔をされたが、その壁も闇のドリルには勝てず、ささやかな抵抗の後にひび割れて消えてしまった。
「さぁ、目覚めなさい。ほら、貴女が壊したくて壊したくて仕方のない世界が、すぐそこに広がっているわよ」
ついに闇のドリルが女の子の胸を貫き、それはガリガリ皮膚を削って、彼女の胸に隠されていた輝く宝石のようなモノを露出させる。そこへ容赦無くドリルが迫り、薄く桜色に輝いていたソレが、ひび割れて砕けた。
「きいいぃぃぃいぃぃぃやあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
ぐったりしていた女の子が、くわっと瞳を開き、全身を激しく痙攣させながら金切り声で絶叫した。
「うふ、うふふふふふふふ、あは、あははははははは、はーははははははははっ! 良い声出すじゃないの」
『ああ、これこそ破滅の声だ』
「実に良い、とても良いわ……さぁ、その身に蓄えた病原菌を全て吐き出しなさい!」
悪意と害意が具現化したウィルスという悪魔が、人々の生活を脅かす絶望と化して襲いかかろうとしていた――
○ ● ○
「やっぱ、君のところのクランは、人材の厚さがダンチだね。参ったよ」
あれ? なんでステフさんが目の前にいるんだ? 俺、何してたっけ……
「そりゃーそうだにぃ。何より、タチュローきゅんがいるにゃ? 負ける訳にぃ!」
デミウス……回りにもクラメンが……ああ、これ夢か? これは……そうだ、拠点強襲タイプのイベントで、優勝争いした時の記憶か?
「まさかソフトのアドバンテージをハードのごり押しで解決するとか、本当、君の発想には脱帽する」
「ステフさんのプログラミングは凄くて真似できないですから、自分的にはこれしか強みがなくて」
「ははははは、良く言うよ。それは君一人だけで、って状況でだろ? 僕と同じ位のプログラマーなんて腐る程いるじゃないか」
そうだ。この時はステフさん、『メイドーズの林檎』と他のクランが連合組んで勝負に来て、それでも俺達が勝ったから、打ち上げみたいな事したんだったっけ……夢で見ても、ステフさんのアバター攻めてるよなぁ……どこぞの起業家とほぼ同じ外見だもんなぁ……この外見で、プログラムが神級って絶対狙ってやったよなぁ……
「つくづくあの時、君がいてくれたらって何度も考えてしまうよ」
「はい?」
「とてもかわいそうな一人の女の子を、結局は先送りにして助けられなかったって話でね」
「は、はあ?」
「君のその自由な発想力があったら、彼女は今でも笑っていられたのかな、って思っちゃってね」
「そ、そうですか……全く話は見えませんが」
「ははははは、ごめんごめん、こっちの話だよ。でもそうだな……もしもその女の子と出会ったら」
「出会ったら?」
ん? こんな会話したっけ? おん?
「今度こそ、助けてやって欲しい。彼女の笑顔を取り戻して欲しいんだ」
「ええっと? 良く分かりませんが、もしもその時が来たら、微力を尽くします」
「そこは全力だろうに、全く、君は自己評価が低いんだから」
バシバシと背中を叩くステフさん。こんなキャラだったっけ? いや、何か本当に背中が痛いんですが……つか、なんじゃい?! マジで痛いっつうのっ!
「痛いってのっ!」
「ああ、やっと起きた! 大変な事になってるから起きて!」
「あん?」
どうやら叩き起こされたようだ。何か凄い意味深な夢を見たなぁ……起き抜けの頭であまり考えが回らないが、周囲を見回せば半裸の嫁達が慌てて支度をしている。いや何事よ。
「何があったん?」
「無差別ウィルス攻撃!」
「はい?」
「旧王家がばら蒔いてたウィルスより強力なのが無差別に送信されているのっ!」
一気に目が覚めましたっ! 脱ぎっぱなしだった服を手早く着て、ダッシュで部屋から外へ飛び出す。
「陛下っ! こちらです!」
「おう!」
どうやら事態は深刻であるらしく、いつもならぴっしり隙の無いロドム兄貴すら、頭がぼっさぼさで目が据わった状態だった。俺はそんなロドム君に連れられて、会議室へと走り込んだ。
「状況は!」
「幸いな事にライジグスはアビィの監視があって早期に発見できましたので大事には至っていません。現在、夜番だったオペレーター総出で防壁を構築出来てます」
レイジ君が説明してくれるが、どうやら向こうも起きぬけらしく、色々アウトなのが顔とか首とか鎖骨辺りに見えるが……うん、スルーだなスルー……まさかこんな事態になるとは思って無かったろうし。
「他の国の様子は?」
「フォーマルハウトは攻撃が開始された直後に、せっちゃんが強制的に隔離状態へ持っていったので無事です。神聖国はシェルファ様のワクチンプログラムをアップロード中でしたので防壁とシャットダウンをしてもらえました。帝国の方は元々システムその物がスタンドアローンだったらしく、大きな被害は受けておりません。問題は小国家群とコロニー・ステーションへの影響です。このままですと生命維持装置関係が落とされる危険があります。こっちの命を断つ系の命令をガンガンしてくるウィルスのようで」
「ちっ、やってくれる」
「まぁウチは、先日から支給が始まったエグゾスーツのアシスト機能が見事にハマったお陰で、バッチリ対応出来てる感じですね」
「作って良かったなぁ!」
「暴走したのも無駄じゃなかったっすねパパン」
「うるさいよ」
どうやら深刻ではあるが、絶望的ではないようだ。それとエグゾスーツのアシスト機能がオペレーターの能力を底上げ出来ているようで、それもかなりプラスに働いたようだ。
「よし、うちのコロニーとステーションもスタンドアローン状態へ移行しよう。そこから外部との接触をシャットアウトしちまおう」
「そうですね。いや、本当、こんな事もあろうかと、で準備していて良かったです。ここまでやるか? って思ってさーせん」
「いやまぁ、あの時は完全にノリと勢いだったけどね」
AMSやらRVFやらを作って、エグゾスーツとか着手して生産意欲が止まらなくて、そもそもウィルスで攻撃してくるなら完全にシャットアウトできちゃう仕組みも作っちゃえ、えいっ☆ とばかりにスタンドアローン状態で動けるように自国のコロニーとステーションを改築したんだよね。仕組みその物は二・三時間で変更できるからって。いや、まさかこんなところで大活躍するとは……
「レイジ様、他のコロニー、ステーションもスタンドアローン状態へ移行しました。通信も超空間を経由するように指示を出しました」
「ありがとう。北部と南部はどうか?」
「ティセスコロニーにはまだ届いて無いようなので、すぐにスタンドアローン状態へ移行するよう指示しました。南部、クララベル子爵はトリニティ・カーム寄りに移動してやり過ごすようです」
「それはまた……力業だ事。北部の指示は助かる、ありがとう。このまま監視を密に」
「畏まりました」
前のジーク君の時に判明したんだが、どうやらウィルス関係は、超空間を通過出来ないらしくて、超空間リンクだとウィルスを完全無効化できてしまう。これを利用して、アビィとかのAI組は超空間内に避難している状態だ。一応、大事を取ってせっちゃんもそちらへ行ってもらっている。女子会を毎日やってるとかで、せっちゃんが嬉しそうにファラママに話してたな。ファルコンとポンポツは一応男寄りの性格付けだが……
「ライジグス全コロニー・ステーションの対ウィルスモードへの移行を確認。敵のウィルス攻撃を完全にシャットアウトしました。続いて、ライジグスの艦船のシステムも対ウィルス用へと移行させます」
「はいよー。さすがレイジ嫁、有能」
「恐縮ですパパン」
「君までそれ言うの? ちょっと息子よ、嫁までお前の色に染まってんぞ」
「そりゃアンタの息子だから当たり前じゃないっすか」
「どう言う意味だい」
「「「「そのまんまの意味ですが何か?」」」」
いつもの調子に戻って来て軽口も叩ける空気感になる。いやしかし、俺の息子だから当たり前ってどういう事なんだ?
「状況はどうか?! ってあら?」
「あららー空気が軽いー? 問題解決ですかー?」
「シェルファがミュゼ・ティンダロスへ走って行ったけど、止めた方が良かった?」
「問題の先送りは出来たってだけだ。それより君ら、ちゃんと服着れ」
かなり急いで来たらしく、会議室へ走り込んできた嫁達の姿は、何だ、何度もお目にかかっているが、うん、やっぱりこう着エロって偉大だと思う。色んなところが元気になりそうな破壊力だ。レイジは思いっきり顔を背けてるし、彼の嫁達なんか同性なのに興奮している様子だし、色々と教育に悪い。
「おっとすまん」
「前だったらー、きゃあーとか言ってたんですけどねー」
「いや、羞恥心は捨てちゃダメでしょう。確かにこの程度で恥ずかしがるってのもね」
「あんなぁ、いくらここにいるのがほぼ家族みたいな間柄だって言っても、ちゃんとしようぜマジで。王妃が半裸で歩いてるってどんな醜聞よ?」
「「「「いやぁ、ごめんごめん」」」」
完全に空気が元通りになってしまった。いやまぁ、緊張してガッチガチなのも問題ではあるが、一気にゆるっゆるに緩むのもいかがなモノかと。
「さて、あまり時間をかけちゃ不味い感じなんだよな?」
顔を背けてるレイジ君に聞けば、レイジ君はその状態で激しく首を縦に振る。いやまぁ、ここで俺の嫁達をガン見しようモノならば、彼の嫁達にどんな扱いを受けるか分かるけども、必死やね。
「やっぱり、直に叩くのが一番かね」
「シェルファが説明していたやつだな?」
ぴっちり完全に服を着たゼフィーナが、俺の服を手直ししながら言う。
「AMSもRVFもあるし、色々と最新の状態にしたからな、ここらで試すのもいいんじゃないかなぁっと」
「良いんじゃないですかー? こっちの安眠を妨害した罪はーきっちり払ってもらってー」
ボサボサだった髪をリズミラが手櫛で整えてくれる。
「売られた喧嘩はきっちり買いましょう」
ファラが何やら頬とか首筋とかをゴシゴシと擦――ってうおおいっ?!
「え? 俺もレイジ状態?!」
「むしろ息子より多いわよ」
「うえぇぃっ?! 歩く有害図書やん!」
俺の言葉で会議室に笑い声が響く。いやまぁ良いんだけども。
さてさて、とっとと動いてちゃっちゃと片しちゃおう。悪いウィルスを吐き出す子はしまっちゃおうねーって感じで。
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