第164話 正直、すまんかった

 再びのゲーム時代の話だが、シップのクラフトに必要な要素はフレーム、ジェネレータ、外壁、エンジンの四つだと説明したね?


 具体的には、フレームの強度が十あったら、そこに合計十までの物が詰め込める。ジェネレータが五、外壁が一、エンジンが四、合計十でぴったり、という感じだ。


 んで、フレームの強度を上げるというのも重要な要素なんだけど、それだって限界というのが存在する。何しろ、ネットゲームの宿命として、運営さんが動かなければ新しい素材なんて物は増えないし、レアリティだって上限が存在する以上、ゲーム的な枠組みから逸脱したモノは産み出せない。そこで重要になってくるのが、小型高性能化である。


 特にジェネレータの小型化、高性能化というのは生産職にとっては必須事項であった。いやまあ、俺がブレイクスルー的な技術を見つけちゃったのが原因なんだけど。


 それはどうやるかというと、フレームはどうやったって限界があり、外壁も同じような感じだったから限界がある。だけどジェネレータを小型にして高性能にしたら複数個積み込めるよね? その出力に耐えられるエンジンを作ってしまえばいいじゃんね? なら有り余る余剰エネルギーでシールドを強化しちゃえばええやんね? あれ? 外壁の強度って必須か? 削れちゃうよね? あれれもっとジェネレータが積めちゃうぞ、強力な武装を積んでしまえ……というブレイクスルーを俺が見つけました、はい。


 運営もまさか、本来なら五十のコストが必要なジェネレータを十まで小型化して、性能を更に向上させて、それを複数積み込んでゲーム会社が想定していた限界を突破してくるとは予想外だったらしく、そこまで情熱を注いでくれたのならばと弱体化とかしないでくれたんだよね。まぁ、お陰で人外魔境度が更に加速したけど……


 話を現実に戻そう。


 ここはゲームの世界ではない。システム的な品質の上限などは無いし、アイテムナンバーやらそれらの希少性を示すレアリティなんかも存在しない。それぞれの惑星、それぞれの宙域、それぞれの場所に無尽蔵とも言える素材が溢れまくっている。探せば探しただけ、こちらが知らない有象無象、使える使えないは別として、膨大な素材が見つかる訳だ。


 例えばトリニティ・カーム。あそこは重力関係がおかしくなっている都合上、重金属系の宝庫であり、実際に開拓を開始して有用な金属を数十発見した場所だ。


 例えば北部の極地、ドミニクさんが夢見た楽園から名前を取ってルヴェ・カーナと命名した宙域では、莫大な数の触媒、中間素材として使える有機物やら菌類、全く未知の繊維やら何やらガンガン発見されている。正直言って把握するだけで一苦労するくらいに、毎日何かしらの発見がある場所だ。


 何が言いたいかというとだね、ゲームのサ終時期よりも、すんごく良い素材が多くてだ、これまで以上に小型高性能化が出来るようになり、システムを組む為の回路とかも、ちっさくて高性能なのが作れるんだわ、それこそナノミクロンサイズ位なら余裕で……んでね? 金属関係も充実していてだね、サ終時期で製造出来たフレームの強度が百だとするとだね、今の段階で千くらいの強度のもんが作れちゃうんだこれが。


 うん、正直すまんかったっ!


「誰がここまでやれと?」


 いやもう、だってさ。これまで色々と制約がある状態で、泣く泣く機能をカットしていたりしたモノがだよ? 余裕を持つどころか発展すら出来る状態だったら、迷わずそれを突っ込むよな? 男の子だったら俺tueeee目指すじゃんね? 


 早い! 強い! 鋭い! それすなわち男の勝利だよな! 俺は悪くねー! 俺は悪くねー!


「クルルちゃんがーアーマードモジュールスーツは長いからーAMSって言ってるようよー」

「良いわね、言いやすい」

「おうこらそこ、私にだけ押し付けて現実逃避をしてくれるな」

「「……」」


 嫁達の見るモニターでは、ロドム兄貴がAMSを着て空中戦をしている。そうです、今度のスーツは空を飛べるんです。


 いやさー、ジェネレータが思った以上に小型に出来ちゃってね、巡洋艦レベルのを積めちゃったんだよ。なら背中のバックパックにパルスジェットを付けたら飛べんじゃね? ついでだから姿勢制御系も付けちゃえ、高速移動時の抵抗値的な事から少し変形機能も追加して……と気づいた時には、特殊装備を使えば大気圏突入すら可能なスーツが出来上がってました。あはははははははは! いやーわりぃわりぃ、つい、やっちったっ! あはー。


『なるほど、空中移動時には制御系を妖精へ任せると、こんなに自由に動けるんですね。これは戦術の幅が広がります』

『何よりも、妖精ちゃんの危険度が減ったのがいいっすよ。こんな俺と契約してくれた妖精ちゃんの危険が減ったんっすから』

『そもそも連れてかないって選択肢が出来ないからなぁ。お留守番してくれってお願いすると泣かれるし』

『だな、これはありがたい』


 機甲猟兵改め強襲装甲騎兵というのを新設する事になりました。はっきり言って、これまでのパワードスーツと比較するだけ馬鹿じゃね? というレベルで別物になってしまったので、それ専門の部署を作っちゃおうという事になり、近衛機甲猟兵隊に混じって彼らも訓練中だ。


 それで彼らが口々に言っている妖精ちゃんの危険度減少だが、どういうわけかパイロットよりも機甲猟兵のような歩兵系の人間と妖精ちゃん達は契約したがる傾向にあり、彼らは今まで無理矢理でっち上げた妖精ちゃん専用シートに座らせて活動していたのだが、妖精ちゃん用のAMS、作っちゃいました! パチパチパチ! やったぜ!


「だから、誰がそこまでやれと言ったのか」

「えー? 好評ですがー?」

「くっ、ムカつくっ!」


 その名も、装甲妖精騎、ル・フェリヴァルキリーフレームだ。普段はAMSの一番装甲が厚くて堅い部位である胸部に格納され、そこから契約者と顔を見合わせるモニターでそれぞれの様子が確認出来る。契約者が飛行する際には妖精がその制御を受け持つ事で、安定した飛行が可能となり、勿論外へ分離して個別に戦う事も可能となっている。有人ならぬ友人ファ○ネルと言っても過言ではない。


「まま、そう目くじらを立てずに。是非、こちらをお納め下さればと思いましてな」

「「「「ohーソウキタカー」」」」


 いやぁ、楽しくて楽しくて、ついつい嫁達にも専用のAMSの上位スーツ作りましたよ。今まで普通の服であっちこっち行ってたからね、これからは安全第一でごわす。もちろん、今回の製作データから、軍の皆のエグゾスーツ的な物も随時支給していきますぞ。


「ヴィヴィアンとかの専用のRVS(ル・フェリヴァルキリーフレーム)も作ったぞ!」

「わー、私のスッゴい青い」

「私はドレスっぽいんですね」

「このような立派な甲冑、ありがたく。必ずやルル様を守り抜く事を改めて誓います」

「♪~♪~」


 うん、妖精ちゃん達も喜んでくれたようだ。作った甲斐ってのがあるってもんだ。やっぱり生産活動って良いよね! どぅふふ。




 ○  ●  ○


 Side:エリシュオン王国工廠開発部


「こりゃまた……すっげぇの来たな」

「これ、ぺーぺー用らしいっすよ」

「これでかっ!? 上の奴らはこれ以上って事かよ?!」

「仕様書によると……その通りっす」

「相変わらず、うちの王様は太っ腹っつうか、どこかに常識を置き忘れているっつうか」

「ここまでされると、絶対の忠誠とか誓いたくなるっすよね」

「まぁ、下の下まで、ここまで厚く守られてるって国、ぜってー他にねーもんなー」

「っすよね」


 至急製造要請が来た新型エグゾスーツの完成品を見た下っ端技術者が、そのあまりの高性能なスペックに驚愕し、これが順次自分達へと支給される事を知って更に驚愕する。


「それだけじゃねぇんだぜ、これ。ほれ、ここ」

「ん? ……はっ?!」

「どうしたっすか? ええっと……緊急時には仮死状態へと移行し、最長で十年の延命処置が……うちの王様はどこを目差してるっすかね?」

「安全第一なんじゃね? 生きるか死ぬかの状況になって、こちらの技術を要求されたら、技術を渡して生きろ、位の事言うような王様だしなぁ」

「ありがたいっすけど……絶対その状況になったら技術を渡さないっすよねぇ、うちの技術部の人間なら」

「だよな。でもこのスーツがありゃぁ、少しは戦えるようになるみたいだし、ありがたい事には違いないわ」


 少しどころか、近接特化の神聖国上位闘士程度ならあしらえるレベルに強化される事を彼らは知らない。


「なんか優先的に俺ら技術部スタッフに回されるらしいぞ」

「あー、このスーツの力を使って働けって事じゃねぇの?」

「ははは、そりゃいいや。何か問題あったら報告して、俺ら技術部で使いやすいツールとか内蔵してもらおうぜ」

「おっ、お前、頭良いな!」


 彼らの要請により、メカニックツール、パイロットツール、ファイターツールという拡張パックが開発され、本当に実装される事になるのだが、幸せな事に彼らはそれを知らない。知った時はあまりの衝撃に呆然自失となってしまうのだが、それはまだ今ではない。


「おらてめぇら! 陛下からの差し入れだ! とっとと着替えて仕事をしやがれ! これが終わったら上の連中のスーツも着手しなけりゃなんねぇんだ、無駄口叩く暇があるなら動けやこら!」

「「「「すんません親方っ!」」」」

「親方じゃねぇ! 俺はただの上司じゃボケ!」


 支給されたスーツの力は凄く、かなりの短期間で数を用意出来た。このエグゾスーツが後に、ライジグス軍人の戦装束として、敵対者の最強最悪な恐怖の代名詞となるのだが、それはまだ未来のお話。

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