第163話 何故に俺はそれに気づかなかった!(慟哭

 ゲームの話をしよう。


 スペースインフィニティオーケストラにおける生産、クラフトというのは大きく三つに分類される。


 シップ。言わずもがなの宇宙船。大雑把に説明するなら、船の基本となる竜骨、フレームにエネルギー供給源であるジェネレータ、宇宙空間と船内を隔てる壁、そして船を動かすエンジンの四つさえ揃っていれば船と呼ばれる。


 装備品。武器やら宇宙服、パイロットスーツ、それとエグゾスーツ……これはパイロットスーツの上位なんだけど、俺はその存在を最近まですっぱりと忘れていて普通の服で戦闘とかしてました。最近になって突っ込まれ、その存在を思い出しました。あはははははは! ごめんよ! みんなっ!


 話を戻して三つ目。アイテム関係。いわゆる消耗品のような奴。食事関係であったり回復関係であったり、結構大きなカテゴリーのモノだ。


 さて、なぜこんな説明をしたかと言うとだね。パワードスーツってゲームのカテゴリー的にはアイテム枠だったのだよ実は。


 例えばシップ。宇宙船を作る場合だけども、フレーム、外壁、エンジン、この三つが必要であり、それらに色々とやれる工夫が多岐に存在し、更には形状の変更であったりのカスタマイズが本当に無限に存在し、ほぼゴールなど存在しないようなモノだった。シップは本当に沼で、いくらでも時間と資材と金がとろけるコンテンツだった……今考えると、あの頃の俺って凄かったんだなぁって思う。


 例えば装備。光線銃だと、光線を制御するユニット、光線を産み出すエネルギー源、銃の形をしたフレーム、ユニットとエネルギー源を守るガワと四つの製作行程がある。これも沼であり、永遠と捏ねくり回せてしまう超エンドコンテンツだった。


 そして問題のアイテム枠だが……これ、どこぞの錬金術のゲームみたいに、素材を用意しました。その素材を選択しました。作れるアイテムを選択します。はい、出来ました。という感じなのだ。つまり、素材の厳選は可能であるが、シップや装備のように自分でやれる要素がほぼ存在しない。


 どうもゲームではパワードスーツの扱いが、RPGゲームとかの『のりもの』系に分類していたようで、その手のゲームでも『どうぐ』のカテゴリーにある『のりもの』を呼び出す何かしらを使用すると『のりもの』がやって来るよね? パワードスーツもそんな感じで使用すると装着する感じだったのだ。


 なので、我が国で所有しているパワードスーツとは、当時のゲーム内で最高レアリティの合金と最上位のエネルギー結晶体を用いた最上位モデルであった訳だけど、このパワードスーツで戦艦を一撃で落とせ、と言われたら、無理としか言えない。だって、どんなに頑張ったって、素材でしか勝負出来ないのだから、どうしようも無い。


 さて問題です。ならどうしてゲーム時代の遺産である神聖フェリオ連邦国のパワードスーツ、女王が装備していた神闘士用のそれは、一撃で戦艦を貫く、なんちゅう力業が出来たのでしょうか?


 アンサー、あれはパワードスーツの姿をしたガッチガチの戦闘艦であるから。


「ぬおおおおおおおおおおっ!」


 悔しぃっ! すんげぇ悔しいっ! これってつまりは、俺が聖剣エクスカリバーをでっち上げた方法と同じなんだよ。


 何故! 俺は! そこに! 気づかなかったのかっ! もっと応用出来たじゃん! 阿呆かっ!


「うおおおおおおおおおおっ!」


 思わず床でグリングリン暴れていると、嫁達の白い視線が――


「あーこほんこほん」


 いかんいかん、あまりにショックで変なテンションになってしまった。落ち着かねば。


 さてはて、神聖フェリオ連邦国のパワードスーツであるが、シップ関連の技術を使用し性能を上げていたのは理解できた。これを現実になったこの世界でやるとなると、もっと面白い……げふんげふん、素晴らしい事が可能となる。何しろここではゲームの仕様という壁が存在せず、ありとあらゆるインスピレーションや技術が使いたい放題なのだ。いやーありがとう! 君のお陰で色々思い出せたよ! ここはゲームの世界じゃないってのも再確認出来たしね!


「うし、一丁、やってみっか」


 ならばやるべき事は一つである。


 楽しく作ろう! 楽しく遊ぼう! バクバクさんの工作がはーじーまーるーよー!


 むふふふ、つまりはシップと同じであるわけだ。ならばいっちゃん重要なのはフレーム一択。なぜならば、フレームの良し悪しでその後に詰め込めるジェネレータ及びエンジンの質が決まると言っても過言ではない。


 フレームには強度というステータスがあり、このステータスが高ければ高い程、高性能なジェネレータとエンジンを積めるのだ。それは現実になった現在でも変化無く、まずフレームの品質をガンガン上げなければ話にならない。


「北部の極地産新金属の合金とか使っちゃうぞ♪」


 今やっているのはCADだ。コンピュータで設計するアレである。ゲームで使っていたシステムと全く同じ奴で、かなり使いやすく、直感的に色々できるから確実に沼る奴だ。


「神聖国の奴をサンプルにして、俺ならどうするかを入れれば」


 うむ。いいねぇ。実に良い。ゲーム時代の味気なさは一体なんだったんだ、っていうくらいにイイゾーコレ。


 うちは神聖国みたいに近接最強を目指すのではなく、汎用性を高めたモノを作ろうと思っている。ただ、当たり前だけどロマンは盛るよ? ぐへへへへへっ。


「トリニティ・カームで新しくゲットしたエネルギー結晶体を使った新型ジェネレータを積んで、最近北部でちらほら見つかり出したこれとそれを使って回路を組んで……エンジンはコイツを小型化して、外装はやっぱりスタイリッシュに格好良くだな」


 うーふーふーふーふー! 楽しーぞー!


「あれ、止めなくて良いの? なんか聞いてるだけで不安になる言葉が一杯聞こえてくるんだけど?」

「いや、戦力が充実するのは良い事だ。それにこれから拠点制圧するんだし、機甲猟兵達の装備が向上するなら、それだけ命の危険が遠ざかるという事だし」

「ぶっちゃけー止まりませんよー?」

「「「「はあ……」」」」


 何か後ろで聞こえるが無視だ無視! 俺の楽しみは何人も止められやしないぜっ!




 ○  ●  ○


 Side:ライジグス技術工廠部門


 ライジグス技術上級職員であるクルル・メルル・フルルは、数日前にタツローがノリノリで設計した新型パワードスーツの設計図を見て落ち込んでいた。それはもう、背後に暗雲を背負うレベルで、ずっしりと落ち込んでいたのだった。


「局長、そろそろ復活してくださいよ」


 彼女と同じ時期に上級職員となり、クルルと双璧を成す天才と呼ばれるテリー・ガボスが、作業モニターとコンソールに体を固定したまま呼び掛ける。


「だってぇー」


 ヘロヘロなクルルに、テリーは困った人だと溜め息を吐き出した。


「あれは神、こっちは所詮凡人」

「戦ってこその頂きじゃない」

「戦えるレベルになるには、時間加速込みで千年は必要だと思いますよ」

「きいぃぃぃぃぃぃぃっ! 悔しくないのっ!」


 悔しい悔しくないというならば、当たり前に悔しい。


 以前、自信満々で提出したライジグス艦船統一計画での艦船設計図を提出した時、返却された設計図には、びっしり赤文字が記入されており、そのダメ出しがあまりに的確過ぎて二ヶ月程部屋に引き籠った位だ、そういう感情も意識もちゃんとある。


 だけど、上には上がいるのだ。どうやっても届かないような上な存在が。


 別に諦めた訳ではない。挫けた訳でもない。彼は意識を切り替えた。相手はこっちの事などお構い無しに好き勝手超常の技術を披露してくれるのだ、ならばこっちはそれを盗んで自分の技術にしちゃえばいいや、彼はそう思うようになった。


 どれくらい時間が必要か、想像するだけで目眩がするが、挑戦する価値は非常に高い。彼はそのように考えている。だから、今すぐにでも真っ向勝負で相手の上に行ってやる、という気概を持って感情剥き出しに走り続けるクルルという同僚を凄く尊敬している。自分にはとても出来ない挑戦を行っているのだから。


「うー、こことここの仕組みをさ、ブリジット級のこことここに入れるとさ、出力が三倍に伸びるんだよ……なあーんでこんな簡単な事、見落としたんだろう」

「……けっ、これだから天才共は……」

「何か言った?」

「空耳じゃないですかね?」


 そして、彼女は掛け値無しの天才であり、タツローが見せた技術をすぐに自分の技術へと組み込む。多分、自分が同じ事をしようとすれば、睡眠時間を削ってひたすら設計図を睨み、あーでもないこーでもないと唸って、やっとこさ一年後位に応用できるかも? レベルになるだろう。彼女が一番トップで、自分が二番手なのを何度も何度も見せつけられる。タツローにやられるよりも、彼女にやられる事の方が圧倒的に多いテリーだった。


「でもこのパワードスーツ、新しい名前はアーマードモジュールスーツだっけ? いいや略しちゃえAMSって画期的よねぇ」

「自分では設計図を見ただけで、どこが画期的か理解出来かねます」

「うんとねー、これまでのパワードスーツってただの運動をアシストするだけのモノで、防御力って意味では確かに上がるんだけど、身体能力という意味ではかなり頭打ちだったんだ」

「……それ、マジですか?」

「うん。だってパワードスーツよりも、もっと効率的に身体能力を向上させる技術あるよね?」

「……っ?! 身体強化と調整!」

「正解」


 ぱちぱちぱちと気の抜けた拍手を送られ、テリーは頭を抱える。パワードスーツはもっと高性能な物という意識があり、自分達が当たり前に使用している技術が重要だったなんて、上級技術職員として阿呆すぎる間抜けっぷりだ。


「上位の人達レベルになると、パワードスーツってむしろ逆に邪魔になるんだよ。でもこの新しいAMSは凄く使用者の能力を高める仕組みが沢山組み込まれている。ぐぬぬぬぬっ、やっぱりやりよるわ陛下め」


 だから上位の、それこそ王族達はその手のアシストするスーツを着用しないのか、そうテリーは納得した。実際は、タツローが大ポカで忘れていて、嫁達もてっきりそれがライジグス王家の新しい伝統で、兵士達の士気高揚の為なんだと思い込んでいるだけなのだが、テリーはその事を知らない。


「ちくしょーっ! 絶対! ノルン級の新しい仕組みに文句を言わせないぞっ!」

「……はぁ」


 重巡洋艦ノルン級は彼女の設計で、これまでバージョンアップが二十以上行われている。その度に色々な性能が向上し、最新の改修だと現在の戦艦ラクシュミ級の性能を越える水準まで来ていた。ちなみにラクシュミ級の設計はテリーである。本当に色々と萎える事実だ。


「ま、復活出来て良かったです」

「おう! 復活したら燃えてきた! 絶対にギャフンと言わしちゃる!」


 そうして復活を果たした上司を生暖かい目で見守るテリー。しかし、勢いだけで書いた設計図はこれまで以上のダメ出しをされ、あえなく撃沈し、再び鬱陶しい感じになるのだが、テリーはそれを知らずに、コツコツとラクシュミ級のバージョンアップを練り続けるのであった。男の子なので、負け続ける訳にはいかないのだ。

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