第156話 女王、出陣。
Side:神闘士ミリュ・エル・ファリオ
第一守護宮の襲撃を受けて、神聖フェリオ連邦国はすぐさま防衛体勢を整えた。レガリア級の艦船、それこそライジグスの非常識な性能を持つ艦船であったとしても一朝一夕には通り抜けられない小惑星密集地帯を有する神聖国は、専守防衛にかけては宇宙一の能力を持っている。ましてや唯一通り抜けられる場所には十二の守護宮、防衛拠点が存在しているし、迂回しようにも過酷な極地、トリニティ・カーム程ではないが、入ったら無事ではすまない宙域に囲まれているので、必ず守護宮を抜けなけれ本星へたどり着けないし、神聖国を叩けないのだ。
だが、その第一守護宮に問題が発生しており、神聖国は上に下にの大騒ぎ状態であった。
「原因は判明せぬのか?」
通常時政務を行っている白亜の城のような場所から、非常事態の時に女王を配置する神殿、ファリオ星天宮と呼ばれる場所にて、神々しいかなりゴツいパワードスーツを装着した女王が、苛々した様子を隠さずに部下へ問いかければ、部下は直立不動で直角に頭を下げる。
「申し訳ございません! 最下級闘士のパワードスーツに何らかの不具合が発生したのは分かっているのですが」
「そんなモノ、見れば分かる。その原因は何かと問うておる」
「システムの不調だと思われるのですが、システムにバグなどは発生しておらず、また下級、中級、上級闘士の方々のパワードスーツには全く影響が無かった事から、最下級闘士のスーツのみの脆弱性が関係しているのではないだろうかとは思うのですが」
「それも分かっておる」
報告する部下はどんどん顔色を悪くしていく。彼が無能という訳ではない。そもそもの話、最近になってやっと自分達が使用している技術の一部を理解し、実用化出来るようになった神聖国の技術者へ、それ以上の技術を詳らかに説明しろ、と無茶振りに過ぎる命令を下しているような女王が無体過ぎるのだ。
「陛下。それではただの八つ当たりでございます」
「ちっ」
やはりギンギラなそれでいて神聖な感じがするパワードスーツを着た筆頭侍女長が、部下をかばうように言えば、普段の女王らしくない態度で舌打ちを返してくる。
「パワードスーツだけの問題ではない。第一守護宮の防衛装置にも影響が出ているではないか。早く解明せねば、第二第三と軽々に抜けられかねん」
女王の言葉に、技術者は唇を噛み締める。
女王の苛立ちも無理からぬ事だ。圧倒的な防御力を誇る神聖国の守護宮であるが、これは裏を返せば攻略できてしまえば単なる通路でしかない。決闘主義などとうそぶいてはいるが、現実はその主義を貫かなければならない脆弱な技術不足が背景にあるのだ。そして、守護宮を抜けてしまえば、敵を迎え撃つのは脆弱な少数の艦隊である。
「第十二守護宮に最上級闘士を配置しております。それにわたくしもこの後、第十二守護宮にて待機しますので、陛下が心を痛めるような状況にはなりませんよ」
「そんな安い相手ではなさそうなのじゃがな」
「「……」」
少なくとも、確実に自分達よりは技術力は上である。そしてその技術は、こちらの分析も解析も通用しない高みにある。これでノンキに構えていられる程、彼女の女王人生は楽ではなかったのだ。実に不気味であるし、相当にまずい状況だと彼女の本能が警告を出している。
このまま座して待っているだけでは駄目だろう。そう決意した女王は、ゆっくりと玉座から立ち上がって告げた。
「妾が第二守護宮へおもむこう」
「陛下っ!」
「相手の策が分からぬ以上、こちらは強力な暴力で対応しなければならぬ。神聖フェリオ連邦国最高戦力である妾が出向かずしてどうする? 妾の真なる役割は、神聖フェリオ連邦国の愛と正義と平和を守護する事なるぞ」
「……はっ、おっしゃる通りにございます」
「ならば良いな?」
「我ら八十八席の最上級闘士もお供致します」
「うむ」
神聖フェリオ連邦国史上初、神闘士ミリュ・エル・ファリオと全最上級闘士の出撃は、巨大な宇宙の脅威に守られてきた国民達に大きすぎる恐怖と不安を与える事になるのであった。
○ ● ○
Side:第五艦隊総司令ジーク・リッタート
「だ、第五艦隊総司令ジーク・リッタート四等大翼士長であります!」
「同じく副司令ハイジ・メルクルス三等大翼士です。第五艦隊配置につきました」
どう見ても頼りない弟とそれに付き添うしっかり者な姉的光景を見て、ベルクトスは必死に笑いを堪える苦労を強いられる。
ジーク・リッタート。サンライズ解放戦の最中、多くの子供達を指揮し、コロニー内部から撹乱、外の特務艦隊との足並みを揃えるという連携をしてみせた神童。レイジにロックオンされるも、ガイツにとっとと軍部へ連行され、最速で艦隊司令へと上り詰めた艦隊戦版マルトと呼ばれる少年。身長が伸びず、ちんちくりんな外見もあって子供っぽいのが悩みの種である。
ハイジ・メルクルス。ジークのストリートチルドレン時代からの相棒で、見た目完全なる超絶美少女な男。過酷な幼少期をジークの機転によって救われ続けた為、ジークの全てを許容する女房役。中身は普通に男で、現在婚約中の彼女がちゃんといる。だが、彼女と揃って並んでいると姉妹にしか見えない事が目下の悩み。
『そんなに緊張せずとも良い。ジーク殿は相手の布陣を見て、どう感じるかね? 私と司令は二正面作戦ではないかと睨んでおるのだが』
司令が使い物にならない事に早々気づき、シュタインが代打で問いかける。
「は、はい! に、二正面は無いんじゃないかと!」
『……理由は説明できるだろうか?』
鋭い目付きでジークを見れば、ジークはその眼力にビビってしまい、あうあうと口をパクパクさせるだけで説明できず、そんなジークの代打でハイジが一歩前へと進み出る。
「こちらへ配置につく前、第五艦隊高速艦にて偵察を実行しました。どうやら奴らはユルヤにある廃棄ステーションを拠点化しているようです。二正面ならば時間をかけられません。しかし、拠点を作っていると言う事は――」
『なるほど、長期間の軍事行動を見据えていると言う事か』
「肯定であります。ただ――」
『うむ? ただ?』
「ただ、そうなるとなぜ、あの段階で神聖国の第一守護宮へちょっかいを出したのか、その意味を理解しかねるのです」
『……』
淡々としたハイジの説明に、シュタインは嫌な何かを感じていた。確かに国王が嫌な予感がすると言うだけの不気味さがそこに存在している。
「も、もうすぐ、第二艦隊が来ます! そ、それでエリシュオンは大丈夫です! な、なので第五艦隊は本来の任務へ移行します!」
『ふむ……独立遊撃艦隊の任務かね?』
「は、はいっ! へ、陛下の実験場も兼ねている第五艦隊は、へ、陛下の技術を積み込んでます! わ、我々であればいかなる状況でも生還できる能力があると愚考致します!」
『なるほど、あえて囮になるのだね?』
「は、はいっ!」
頼りない少年の考える事じゃない。確実に情報を持ち帰り、なおかつ陛下が嫌う人死にを出さない作戦をしっかり考えるのだから、ライジグスの子供達は本当に恐ろしい。
もしもうっかりにでも老け込んで、もう年だからあははは、なんて事でも言おうモノならば、速攻蹴り落とされる未来しか見えないのも恐ろしい。
シュタインはやれやれと苦笑を浮かべて頷く。
『それで当座は進めよう』
「は、はいっ! 頑張りますっ!」
『ふふ、頼むよ。第五艦隊総司令ジーク殿』
「はっ!」
通信が切れ、緊張感から解放されたジークは、よろよろとキャプテンシートに座り込む。
「疲れた~」
「そのまま休んでていいぞ」
「ありがとう、ハイジちゃん」
「ちゃん付けはやめろ」
ぐてぇっとゆるキャラのようになっている相棒の姿に苦笑を浮かべ、ハイジは高速艦からもたらされた情報と、それの解析結果をモニターに表示させる。
「良い予感は絶対にしねぇよなぁ、これ」
見た目とは裏腹に、とても男らしいハイジが乱暴な口調で呟く。モニターに映されているのは拠点化が進む廃棄ステーションの改造風景。それは既存の技術体系とは隔絶した異様な風体で、例えるならば――
「どこの魔王城だ」
こちらの世界にも娯楽は存在し、もちろんゲームなども存在している。ハイジはレトロなゲームを好んでプレイするゲーマーで、そんな彼の目から見たソレは、完全にファンタジーRPGに登場する魔王の城であった。
「見た目もそうだけど、完全に技術体系は不明だよ。自分的にはそこが恐ろしい」
ぐでりながらもわりと的確な事を言う相棒に、ハイジも頷く。
「旧王家の独立宣言と聞いて、頭おかしくなって自殺でもするのかよ、って思ったけど」
「確実に後ろで暗躍している奴らがいる」
「だよな、面倒臭ぇ」
美少女フェイスでうえぇという表情をするハイジに、艦橋の一部クルーが妙な反応を示すが、いつもの事とハイジは気にせず、ボケラァーとし始めた相棒を見る。
「まずは、第一守護宮でやった事、それの内容を見極めて、その情報を正妃様へ。出来れば敵が釣られてこっちにちょっかいを出してくれればベターだけど……」
ぶつぶつと呟き出した相棒の姿に、ハイジはニヒルにフッと笑う。これで完全に心配事は消えた。ジークという男がこの状態に入れば、何も心配する事は起こらない。それは長年付き合ってきたハイジが一番良く知っている事実だ。
「女神様達の艦隊が来る前に全ての準備を完了させるぞ! どのような事態に遭遇したとしても切り抜けられるよう準備は怠るな!」
「「「「サーイエッサー!」」」」
自分の仕事は、ジークの集中状態を維持し続ける事だ。それを理解しているハイジは、細々とした全ての雑事を引き受け、その指示を出し、これから始まる厄介事に全力で備えるのであった。
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