第154話 抱き締めた、心の――

 国としての方針を決められず、いやまあ、こちらに火の粉が降りかかればぶちのめすだけなんだけどね? こちらから、何やっとるんじゃワレこらおう! って首を突っ込むのはちょっと、という感じなのよ……だから日和見のコウモリ野郎状態なんだが、状況は確認するべきだよね、という方針は決まったので今からオスタリディぶぁーさす神聖国の戦いでも見ようか、という場面である。


「いやね、確かにイベントっぽいんだけどさ……」

「何よ?」


 俺とレイジ君ら義兄弟に、嫁達とお義母様方、んで何故だか年少組まで会議室に集まり、立体ホロモニターをシアターサイズまで広げて、観戦モードなんだが……目の前にある山盛りのお菓子類は何だろうね? 飲み物も何かアルコールが見えるんだが? メイド隊がじゃんじゃか食い物を運んでくるのは何だろうね? ここはフェス会場か?


「固い事は抜きにして楽しもうじゃないか、息子殿」

「いや、あんたの夫のやんちゃを楽しむんかいな」

「はっはっはっはっ、人生は楽しんでこそだと思わんかね?」

「思うけど、ここで言う言葉じゃないんじゃねぇかと」

「無駄ですよーダーリン。母様はーちょっとズレてますからー」

「はっはっはっ、そう誉めるんじゃない」

「誉めてませんがー」


 どうやらこの男前が企画したらしい。それに乗っかる嫁達も嫁達だが。


『神聖国の防衛拠点を拡大します』

「頼む」


 さすがに開き直って酒を飲む気にもなれず、無難に緑茶をガラティアから受け取り、中継キャスターみたいになってるアネッサさんに返事をする。


「神聖国の防衛きょぶふぅぅっ?!」

「ちょっ?! 汚いっ!」

「えっほっ! げっほっ! ごっほっ!」


 お茶を口に含もうとした瞬間、モニターに神聖国の防衛拠点が映され、俺は思いっきりお茶を吹き出した。


 何で宇宙にパルテノン神殿があるんですか?


「大丈夫ですか?」

「げほごほ、あー、ビックリした」


 いや、大小様々な小惑星帯がぎっちり詰まった場所の、ちょうど開けた場所に拠点を設置するのは理解出来る。俺が防衛側でもそう判断するんだが、何でパルテノン神殿?


「いつ見てもー第一守護宮はー美しいですねー」

「……」


 守護宮……だと……


「あーリズミラさんや」

「はいー?」

「もしかしてその守護宮なる拠点は、十二あったりする?」

「あらー? ご存じでしたかー。神聖国はあの守護宮をー、全十二拠点通り抜けなければー、神聖国首都へはー行けないんですよー」


 おいおい、十二守護宮とか。あれ? もしかして……


『神聖国の戦力を確認』


 映像がアップになり、そこに映り込んだ兵士の姿に、俺は思いっきり頭をテーブルへと叩きつけた。


「ちょっとさっきからどうしたのよ?!」

「思いっきりゴズンって音がしたぞ、大丈夫か旦那様」

「……もしかして、ゲーム時代の何かですか?」


 シェルファの言葉に俺は手で丸印を作る。


 パルテノン神殿に、まんま見た目が神聖闘士……少年漫画雑誌、週刊少年跳躍に連載され、数々の伝説を残せし少年達の聖典。数々の外伝やら派生作品やらを産み続ける化け物コンテンツ。その名は少年闘士伝説。


 まんまそれが映像にあるって事は、だ。


「クラン『女神の御旗に』の遺産かよっ!」

「めがみのみはたに?」


 ゲーム時代、ロマンス派と呼ばれる人々がいた。彼ら彼女らは自分達を形成した漫画、アニメ、ゲームを再現する事に情熱を燃やし、ただひたすらにその事だけを追求したのだ。ちなみにクラン『女神の御旗に』は跳躍ロマンス派と呼ばれる。もっと言えば弾倉系、土日系、八十年九十年代、二十一世紀スーパー系リアル系、宇宙世紀系、更に細分化されてダブルオーなんたらなんてモンも……


 話を戻そう。『女神の御旗に』は少年漫画少年闘士伝説の再現を使命にしていたクランで、戦い方は完全にステゴロ。ある時期まではトップ近接戦闘系クランとして君臨していた。まぁ、強化調整とかで簡単に超人が作れてしまうから、段々と後発に追い抜かれていった感じで、その他大勢の色物クランに紛れて忘れ去られた感じだったなぁ。


「つまり、あの女神様は諦めてなかったってこった?」

「何がよ? それとその女神ってのはどこのどいつよ」

「こっちに居ねぇよ……居ないよな?」

「私に聞かれましても」


 結構ガチに戦闘系のクランだったし、衰退して忘れられる事を良しとせず、ずっと自分達が輝けるステージを作り続けていたと。もちろん、自分達のアイデンティティからぶれずに突き詰めて、十二守護宮なんちゅう防衛装置を用意して、神聖闘士装備で戦える場所まで作り上げたと。自分こそアテナなり、とか言ってたぶっ飛びちゃんねーだったけど、情熱は確かにあったんだね。


『オスタリディの偵察隊と思われる戦闘艦が防衛拠点へ突入するようだ』


 戦闘艦と比較するとよく分かるが、パルテノン神殿でけぇーなっ! つーか、パルテノン神殿へそのまんま突っ込む形なのかよ。


 いやそれは良いだろう……百歩譲ってなんとか納得して良しとするが、それでも大宇宙の舞台で、かの王道漫画の登場人物のような奴らが戦うってのはどうなんだ? いや、モチーフ的には宇宙とか銀河だったからマッチはしてるが。


「神聖国側は艦隊を用意してないのか?」


 パルテノン神殿があるだけで、艦船の姿はどこにも確認できない状況に、ゼフィーナが鳥の唐揚げチックな何かを食べつつ呟く。完全に酒飲みのおっさんやん。


「神聖国はー決闘主義ですからー」


 軟骨チックな何かをつま楊枝で食べつつ、優雅に赤ワインっぽいアルコールを飲むリズミラが、クスクス笑って言う。なんぞい、その決闘主義ってのは?


「専用のパワードスーツに、近接用の武器のみで船を落とすとかっていう主義よね? 最初聞いた時はどんな冗談かと思ったけど」


 ファラがちらりとロドム兄貴を、そして俺を見て溜め息を吐き出す。なるほど確かに決闘主義ってのは納得な言葉だ。でもこっちを見るなって感じなんだが、やろうとするならば結構厳しい条件を揃えば出来なくはないレベルだろうが、それオンリーでやり続けるってのは馬鹿の所業だと思う。あぶねーし。いや、ロドム兄貴は近接特化の化け物だから、安全にやってのけそうな気はすっけど。


「あの戦闘艦、北部動乱の時に見た戦闘艦に似てないか?」

「AKU052カラドリウス。アイトワラスの大分後の後継機だな」

「……面倒臭いなぁ」

「んだなぁ」


 ゼフィーナがガリガリ軟骨っぽい何かを噛りながら吐き捨てるように言い、俺もそれには同感だと返事する。これで北部の蟲野郎系も参加しているの確定、と。


「しっかしどっから持ってく――」


 モニターを見ながら言葉を出そうとして、途中で力尽き頭をテーブルへ強打する俺。


「ちょっと! 本当に何なの?!」


 ファラが心配してんだかキレてんだか分からない声で聞いてくるが、俺はそれどころではなかった。


「そこまで行ったんかいシャオ・リンよ」


 モニターではちょっと黄色が強い塗装をした特徴的パワードスーツを着た兵士達が、明らかに少年闘士伝説の主人公が放つ必殺技アンバーライトナックルを、ぼこすか戦闘艦へぶっぱしている。ゲーム時代、あそこまで再現は出来なかったはずなんだが、出来てるし。クランマスターシャオ・リンに一体どのような電流が走ったんだアレ。


「つーか、一番数が多いのって雑兵モチーフだろ。黄色は琥珀闘士で、キラキラしてるのは水晶闘士、黄金色は黄金闘士……数が多くね? あの漫画だと八十人位じゃなかったっけ?」

「もぉ、何をさっきからブツブツ言ってるの」


 あまりの光景に思考がぶっ飛び、現実逃避気味にかつて熱中した漫画の設定を呼び起こしてしまった。


「女王陛下ー神聖闘士を増やされたんですねー」

「少数精鋭では限界があるとは言っていたな。上級闘士は増えたが最上級闘士は増えず、神闘士もいまだ女王陛下ただ一人であるとか」

「……」


 ええっと……黄金の上とその上がある、と? 主人公達の最強最終形態的あの鎧まで再現して、設定上神々が装備して戦うっちゅう、そっちの鎧も作り上げたと? マジかよシャオ・リン……


「なんて非常識な光景かしら」

「ライジグスの軍事的行動もー非常識なんですがー」

「いや、うちの軍は訓練の賜物だが、こっちのは非常識だろう」

「そうですねー否定は出来ませんねー」


 いやもう、パワードスーツが体の動作をアシストというか、その体勢にわざわざ修正しているのか、絶対早く走れない体勢でのダッシュ、こう両手を大きく翼のように広げて腕を振らずに走る感じ、だったり、超前傾姿勢の走り方で異様に足だけがわしゃわしゃ動く感じ、だったり、もうね見てるだけでお腹一杯である。


 だがそんなでも、謎技術で必殺技を出せるのは強いらしく、気がつけば敵の先見隊は全て落とされていた。


「殲滅、できちゃいましたね」

「まぁ、オスタリディが無策に突っ込んだだけだからね。あれじゃただの的でしょ」

「何がしたかったんだか」

「でもー本番はまだまだですしー?」


 確かにリズミラの言うことは正しい。果たしてあの必殺技で戦艦の、重巡洋艦の、巡洋艦のシールドを飽和する威力はあるのか、それとも漫画と同じく上級の闘士である水晶、黄金達が非常識な必殺技を使えるのか。いやまぁ琥珀闘士の技を再現してるから、そっちも完全再現してるだろうけどさぁ。


「あれ? 何か神聖国の最下級闘士達、苦しんでない?」


 俺がうんざりしていると、映像を酒の肴にしていたリッテラさんが、フォークで映像の一部を指す。おやめなさい、はしたない。


「……これは、シェルファ」

「ファルコン、マヒロ、アビィ、パピヨン」

「わんわん!」

「解析入ります」

『はいはぁーいん』

『お任せください、奥方様』


 何か引っ掛かるモノでもあったのか、ゼフィーナの短い言葉でシェルファが動き、彼女は専用の端末をすぐさま起動させ、AI全員に呼び掛けると、凄い勢いでコンソールを叩き出す。


「カラドリウス爆発時、何か放出しているわん」

「映像だけでは解析に限界がありますが、確認できる粒子のサイズから、何かの金属片でしょうか」

『広がり方なんかちょーっとおかしいわねん。プロープかしらん?』

『推定プロープからも何かを放出しているようですが……さすがにサンプルが無くてはこれ以上は』

「そうですね。推定ナノプロープの放出に謎物質の散布……ただの特攻ではありませんね、これ」


 シェルファがひたすらカタカタコンソールを叩いている間に、雑兵モチーフな兵士達がバタバタと倒れ始める。パワードスーツには有害な物質を除去するガスマスク的な装置が組み込まれてるはずだから、化学兵器的毒ガスは通用しないんだけど。いやまぁ、そんなモノ宇宙空間へ散布したって無意味だけどね。つー事は、パワードスーツに作用するなにがしらをばら蒔いたって感じかな?


「下級と中級、上級の闘士は無事だが、現場は混乱してるな」

「うーむ……何か嫌な感じがしてきたな」

「陛下は動かないでくださいね。すぐに第二艦隊を準備させますから」


 俺が動こうとしたら、すかさずレイジ君がインターセプトをしてくる。出来るようになったな愚息よ。


 でもな、レイジ君が用意してくれる戦力だけじゃ足りない気がしてるんだよなぁ。よっし、ちゃんと伝えようそうしよう。


「妙に気になるんだ、しっかりエリシュオンにも注意喚起をしてくれ」

「……そんなにですか?」

「説明しにくいが、ゾワゾワする」

「分かりました。エリシュオンの艦隊に最高レベルの警報を出します」

「頼む」


 始まりはギャグっぽかったのに、最終的には不気味な感じになってしまった。どうやら今回の騒動は一筋縄には行かない気配がする。俺達も警戒度を引き上げて備えないと、足元を掬われかねないそんな不気味さを感じる観戦となってしまったのだった。

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