第147話 反逆者に花束を ③
「貴様っ!? しっ!」
「おっと」
何か盛り上がってる感じだったけど、助けてくれって頼まれていた相手が殺されそうだったから、つい反射的に動いてしまった。お陰で思いっきり触手っぽいナニかを掴んでしもうた。しかも別の触手を生やして攻撃してくるし。こいつだけ何か別の世界線にいないかい?
「陛下、先行しないでください」
触手を避けたら、ロドム兄貴が颯爽と俺の前に。やだ、イケメン。ポッ。
「馬鹿な事して邪魔しないの!」
「アッハイ」
何て遊んでいたら、ファラに頭をひっぱたかれて連れてかれる俺。いや、あんな遅い攻撃に当たらんって。
「そうじゃない、そうじゃないのよ。ここはロドムの仕事場なの」
「あー、おー、ん?」
今一理解出来ないんだが?
「アンタ、王様。ロドム、近衛。アタシ達の護衛。OK?」
「おーおーおーそういやそうだったね」
あはははは、自分が王様とかすぐ忘れるわ。自分的には普通のおっさんのつもりなんだが。
「はぁ、とにかく動くな」
「わっかりました!」
嫁達の視線がすごく生ぬるいです。いいじゃない、王様らしくない王様がいたって。
「ロドム、やっちゃって!」
「はっ! ありがとうございます!」
○ ● ○
ロドムはちょっと怒っていた。誰に? タツローに? そうじゃない。相手に? それはある。なら何だ? 無論、自分に。
近衛機甲猟兵という組織に所属し、尚且つ自分は隊長という責任ある役職まで賜った。愚鈍で、言葉すらまともに喋れず、生まれも育ちもよろしくない、そんな自分をタツローは認めてくれた。もちろん、タツローだけじゃなく、妃様方もそうであるし、義理の兄弟達だって認めてくれた。嬉しかったのだとても。
もっと嬉しかった事は、自分が目指す兄のような存在になれるチャンスをもらえた事だった。
超常の存在っぽいタツローはいつだって最前線で戦う。どんな危険に晒されても、何事も無かったかのようにするりと駆け抜けてしまう。だからそんなちょっと危なっかしいタツローを守って欲しいと、自分にしか出来ないから頼むと、そう願われた事がとても嬉しくて、何よりも誇りになった。
だから許せない。お前は一体、何を油断していた? と。
自分は何者だ? 今一度自分に問いかける。自分は近衛機甲猟兵隊の隊長だ。ならばその使命とは何だ? ライジグス王家を守護する盾だ。ならば何故、お前は国王の盾となれていない? 陛下は自由人だからという言い訳で誤魔化すのか?
「……断じて否」
認識を改めろ、常に見据えろ、それすなわち近衛の仕事也。近衛になりましたと報告をした時に、クローニングAIの師匠から言われた言葉を今一度魂に刻み込む。それを噛み締めるようにロドムは大きく息を吸い込むと、じっくり魂に行き渡るよう静かに息を吐き出した。
「近衛、
「「「「はっ!」」」」
さあ、仕事だ。目の前のこれらはライジグスに仇成す敵。これを放置するはすなわち、王家の危険。危険は排除しなければならない。それがどんなに弱々しい羽虫であろうとも、それがやがて大きな災厄となる事だってあるのだから。
「逃すな、擂り潰せ」
「「「「おうっ!」」」」
王家の守りに数人が残り、部下達が一斉に肉の腫瘍を纏う化け物へと拳を振り抜く。
「しゃっ! らぁっ!」
全体重が乗っかったストレートが化け物を粉砕。肉に触れた瞬間、超電圧が相手を貫き、そいつらは一瞬で黒こげの死体になっていく。
「なっ?! ば、馬鹿なっ! 何でそいつらに電気が通じる?!」
口から肩から触手を生やすように蟲をさらけ出している男が喚くが、ロドムは知った事ではないと無視を決め込む。それは部下達も同じだ。抜拳と指示をしたのなら、それが意味する事は殲滅なのだから。
「ふっ! はっ!」
「せいっ! やあっ!」
「おらっ! おらっ! おらっ!」
拳と足が振り抜かれる度に、肉の兵士がバタバタ倒されていく。触手男にとっては悪夢であり、窮地を救われたルドッセルフには非現実、そしてタツロー達からしたら予定調和な光景が続く。
「おのれぇっ! ならば! お前達を取り込めばいいだけの事だ!」
触手男の叫び声と同時に、肉の兵士から触手が生え、それらが一斉に近衛兵達へ殺到する。
「馬鹿だねぇ。どこぞの映画じゃねぇんだ。たかだか蟲ごときが、ウチ特製の合金を貫ける訳ねぇだろうに」
背後から聞こえるタツローの呟きに、ロドムは微笑む。この王様が、自分の身内判定を下した人間が使う道具に妥協をするはずがない。何よりも身内が傷つく事を嫌う人だから、その執拗なまでの備えで自分達は守られている。彼が産み出す技術を疑う、という事をロドム達はしない。
「な! そんな馬鹿な!」
タツローの言葉通り、蟲達の力では重機甲スーツを食い破るどころか、小さな傷をつける事も出来なかった。
「ウルタナイト合金すら食い破れるのだぞ?! 何だその鎧は?! 何だ貴様らは?! 何なんだっ?!」
しらんがな、タツローの呟きが聞こえた。しかし、ウルタナイト合金と言えば、現在の各国が使用している軍用艦の外部装甲に用いられる合金だったはず……自分達はそんな凄い金属よりも上のナニかの鎧で守られてるんだなぁ、等と思わず感心してしまった。
「隊長! 制圧完了!」
「ご苦労。陛下達の守りを固めろ」
「「「「はっ!」」」」
タツロー達の守りを部下に任せ、一人百面相をしている触手男へ、ロドムは近づいていく。
「この化け物めっ!」
それ、お前に言われたくないわ。ロドムは内心でそう思いながら、触手男の攻撃を、ハエでも叩くように片手で払う。
「馬鹿なっ! 音速は出てるはずだぞ!」
いや遅いけど? 音どころか光すら置き去りにして、拳を振り抜く師匠を知っている身としては、音速レベルで勝ち誇られてもちょっと、という感じだ。実際ロドムは、宇宙空間で、レールガンやらミサイルやらを、今の重機甲スーツより劣るパワードスーツで弾いていたりするので、そこを誇られてもと思ってしまう。
「覚悟しろ」
「ま、待て! 我を殺せば、何も情報は得られないぞ!」
「質問しても答えてはくれないだろうに、何を今さら」
「ぐっ?!」
触手男は激しく周囲へ視線を走らせ、何とか逃げようと画策する。だが、彼が逃走経路を見出だすより早く、ロドムの拳と蹴りが打ち込まれた。
「あびゃあっ?!」
頭が粉砕し、胴体に風穴が空き、体が縦一文字に引き裂かれる。そこへ真っ青な電気が駆け抜け、触手男は黒こげの物体Xになった。
「ふー」
近衛機甲猟兵隊が武器を持たない理由。それは体が全て武器だから。下手な武器を使うよりも、その身一つで十分に戦えるから。それを一番体現する男は、勝っても気を緩めず、しっかり残心をしてゆっくりと構えを解いたのだった。
○ ● ○
Side:ルドッセルフ
助かった。そう思った瞬間、体から力が抜け落ち、座り込んで動けなくなってしまった。
「領主様……」
「大丈夫だ……大丈夫だ」
部下達が自分を逃がそうと引っ張ってくれているが、それを止めさせるように手を挙げる。彼らからしたら、唐突に現れたこの一団も、警戒対象なのだろう。だが、先ほどの化け物とは違い、こちらの一団は話が通じる。ならば交渉はできるだろうとルドッセルフは考えた。
「どなたかは存じませんが、部下を助けていただき感謝します」
体に上手く力が入らず、よぼよぼのじい様みたいに不格好な形でしか頭を下げられなかったが、気持ちを込めて感謝を告げる。
「貴方達は私を討伐に来たのですか? それならばお願いがあります」
何とか体を動かし、胡座のような形で座り、床に額を擦り付けるように頭を下げる。
「私の首は差し上げましょう。なのでどうか部下達は許してはもらえないでしょうか?」
「領主様っ! 我々も反乱軍ですよ! いくらなんでも無理です! 我々も既に覚悟は出来ております!」
「そうです! どこまでもお付き合いします!」
「お前達……」
ルドッセルフはポロポロ涙を流しながら、部下達を見回し、それでもと頭を下げ続ける。
「お願いします! どうか! どうか!」
○ ● ○
「いやあの、人に頼まれて助けに来ただけなんだけどね?」
「お願いしますっ! 部下達は助けてください!」
「俺達はどうなってもいいです! だから領主様を助けて下さいっ!」
ダメだこりゃ、話が通じねぇ。どうすべ、これ。
『こちら特務機甲猟兵隊、全ての区画の安全を確認した』
『こちら機甲歩兵騎士隊、こちらも同様。問題ありません』
「ご苦労。要救助者を連れてそれぞれの船で待機」
『『了解』』
コロニー内部の状況は落ち着いたようだ。だけどこっちは土下座祭りなんだけど。俺が困惑していると、ゼフィーナが両手を大きく叩いて、結構な音を出す。その音で正気にでも戻ったのか、謝罪命乞い土下座祭りが止まった。
「まぁ、話を聞け。我々はライジグスだ。帝国では無い」
「ライジグス……最近話題の?」
「それだ。まぁ色々とあって、成り行きでお前達を助ける事になってな」
ゼフィーナが簡単に説明すると、土下座祭りよりも酷い顔色で、多分、この人がルドッセルフさんなんだろうけど、俺の腰にぶら下がる剣を見上げる。
「も、申し訳ございませんでした!」
「いやもう良いって。話が進まんから」
なんちゅうか、助けはしたけど問題は終わってないっていう状況だぁねぇこれ。これはあれだ、俺達がそもそもこっちに向かう理由になった彼に丸投げするか? そう思って早速、ルータニア君に通信を入れる。
「おーい、ルータニア君やーい」
『は、陛下。いかがしましたか?』
「ほれ、君が天誅下そうとした男がおるぞ。君はこの人をどうしたい?」
ルータニア君は、青白い顔で小さくなっているルドッセルフさんを見て、溜め息を吐き出す。
『私もリーン殿から色々と聞きまして』
「うん?」
『彼がどうして今回の事件を引き起こしたのか、そもそもどうしてそこまで追い込まれたのか、同じ領主という立場からすると……暴挙である、と断言出来ないんです』
「ほう?」
『陛下、差し出がましく、何より分を弁えぬ意見ではありますが……ルドッセルフ殿を助けてもらえませんか?』
結構、いやかなり怒ってたのに、その怒りよりも知らされた事が酷かったって同情しちゃったのかしら?
「まずはあれだな、情報を精査しよう。それからルドッセルフさんの事は決めようか」
総合的な判断をするには情報が足らない、何つってな。心情的には助ける気持ちでいるけど、それはちゃんと情報を詳しく知ってからでも遅くはない。
俺はシェルファと母艦に残っているオペレーターに指示を出し、ティセスコロニーメインフレームを調べる指示を出すのであった。
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