第146話 反逆者に花束を ②
悪役なんたら。悪名高い奴らが引き起こした事件というのは、あの何でもありなゲームの歴史的に見ても、何考えてこれを引き起こしたんだろう、というモノが多い。
カウンセリングを仕事にしている知人曰く、ミュンヒハウゼン症候群やら虚偽性障害とかじゃなかろうか、と言っていた。まぁ、俺たちからしたら、超承認欲求の激烈な、超悪質クレーマーにして心底面倒臭いかまってちゃん、という感じではあったが。
大概迷惑しか引き起こさない奴らは、自分達が所属しているクランですら利用するモノ、という認識でしかなく、何をしにゲームに来てるの? と思わずにはいられないくらいボッチであった。いや、初期の俺も同じような感じだったけどね? でも俺はボッチではあったけど、ゲームは楽しんでいたから奴らとは違うと思う、多分。
んで奴らはボッチで協調性が無く、所属クランの実績すら利用するから、万年人手不足な訳なのだ。
人手不足だと何が問題か? 色々あるんだよこれがね。
ウチのクランの場合。ハチャメチャが押し寄せて来る、をやっていた俺達だけど、かなり横の繋がりは広くて、俺らのクランと他のクランの技術職と共同で研究開発、なんて事は普通にやっていたし、実際、この開発っていう作業は頭数がいないとかなりキツい。キツいんだよマジで。
で、当たり前だけど悪役なんたらは誰も協力してくれるわけがなく、結果として自分達のやりたい開発が出来ない、という感じになる。
普通ならそこで諦めてくれればいいんだが、諦めてくれなかったんだよアイツら。
そこで考えた訳だ。
どうすればいいだろうか? NPCを雇って手伝わせる? いや、運営から睨まれてその機能は使えない。課金してお手伝いを? その機能も凍結されている。だったらどうすれば? ああ! 死体を使えば良いじゃないか! という発想に至った馬鹿野郎がいたのだ。
スペースインフィニティオーケストラの世界には、多くの惑星があり、その中にプレイヤーから蛇蝎の如く嫌われていた星があった。それは寄生虫の星と呼ばれ、文字通り、なんでこんな惑星を産み出したのだろうか、と思うレベルで、蟲、蟲、蟲、蟲に埋め尽くされた惑星が存在していた。そこにそいつは目をつけて研究を開始する。っていうか、そんなん研究するなら、素直に運営に謝罪してクランの連中と縁を切ってやり直せば良かったんじゃね? と思わなくもない。
もとからの素養があったのか、それとも寄生虫と相性が良かったのか、そいつは産み出してしまった。死亡した人型生命体の脳みそに寄生し、全身の神経を乗っ取り、死肉を使って増殖し、死体を動かして繁殖活動を行うネクロイーターという寄生虫を。
だが問題もあって、多くのゾンビモノの矛盾、死体に寄生する以上、代謝を行えないだろうという点。つまり死体というガワを維持するエネルギーを自分から補給出来ない、そうネクロイーターはびっくりするくらい短命であったのだ。
だが何でかそいつは諦めなかった。いやてめぇ阿呆だろ? という突っ込みを禁じ得ないのだが、そいつはその問題も解決してしまった。ネクロイーターがエネルギーを自分から補給できないのなら、外部から無理矢理補給してやればいいじゃない、という発想。それがフレッシュミートと呼ばれる外付けバッテリー。そう、肉肉しいミート、あれだ。
あの肉その物に意志が介在するか知らんが、ネクロイーターはフレッシュミートという外部バッテリーを手に入れて完成体になってしまった。なっちゃったんだよ。これがネクロイーター事件の始まりだ。
自由を手に入れたネクロイーターは、その時に行われていたレイドイベントで大量に死亡した敵NPCや、時期の悪い事に新規プレイヤー歓迎イベントでもあって、多くの新人プレイヤー達もその餌食となった。というか、ネクロイーターを作ったヤツが、完全にこれを目的としてネクロイーターを解き放ったらしい。バカな事をしてくれたもんだよマジで。
本当にあれ、マジで酷かった。特に新人プレイヤーのほとんどがアレで引退したし、あの事件を解決する為に、大規模クランが大同盟を組んでネクロイーターを駆逐したっけなぁ。普段、菩薩か仏かって感じのプレイヤーが、ガチギレしてたから、その酷さも分かるだろう。
しばらく夢に見たなぁ……
大同盟を組み、技術職のアプローチという事でその時に、俺が開発したのがフレッシュミートを分解するナノマシンだ。
フレッシュミートの気持ち悪いサンプルを分析して、そこからフレッシュミートだけを分解する酵素を出すナノマシンを作って……あの時の鉄火場はヤバかった……
良かったよ。まだ効果があって……あの時の苦労も無駄じゃなかったって思うわ。
「蟲の野郎に意志があるのはビックリだったけど、この生肉は前のままだな」
なんて事をつらつら説明しつつ進む。あの気色悪い研究成果は、研究レポートから何から全てプラズマ分解したはずなんだがなぁ。
「こいつ、マジ嫌い」
「ヴィヴィはこれらを知っているので?」
徹底的に敵がい心むき出しのヴィヴィアンに、ティターニアがきょとんと首を傾げて聞くと、ヴィヴィアンがガーッと捲し立てる。
「知ってるも何も、こいつらのせいで沢山の妖精が悲しんだのよ! こいつらのせいで折角パートナーになった子達と別れたって泣いた子達が沢山いたの!」
「それは許せませんね」
新人、ほとんど辞めたからね。裏で妖精ちゃん達が悲しんだと。はじめて聞く裏話だなぁそりゃ。タニアさんや、ちょっとお顔が般若ちっくですぞ?
「陛下、少しお待ちを」
「お?」
そんなティターニアに少し引いていると、ロドム兄貴に止められる。すかさず近衛の皆が通路にうにょうにょと取り残された蟲をプラズマフレイム放射器で焼き払っていく。うへぇ、何度見ても気色悪い。
うげって顔しているだけじゃダメだな。気になる事もしっかり確認せねば。
「して、生存者はどんくらい?」
「死者は今のところ出てないです。ミートにちょっかい受けてただけで、寄生されるまでは行かなかった人がほとんどですね」
「やっぱ死体じゃないとダメなんかね。それとも何か別の条件でもあるんだろうかね」
「特務機甲猟兵隊と機甲歩兵騎士隊にサンプル採集をしてもらってます。それをラボに持っていけば、色々な事が判明するんではないでしょうか?」
「それもそうだね」
本当、頼りになりますなぁロドム兄貴。うんうん、成長著しいねぇ。
それはそれとしてだ。しっかしまぁ、荒らされたコロニー内部を見るって言うのも、こう色々むかっ腹が立つんだよね。コロニー作るのにどんなに苦労すると思ってるんだって気持ちだ。大変なんだぞ、コロニー一基作り上げるって。リアル時間で一ヶ月とか必要なんだぞ! 分かってんのか!
ムカムカしていると、ロドム兄貴の通信機が立ち上がり、別動隊からの報告が入った。
『ロドム隊長、戦闘音が聞こえる区画を発見しました。指示をお願いします』
「少し待て」
通信を聞いたロドム兄貴が、確認するように俺を見る。分かってらっしゃる。
「場所は?」
「場所はどこだ?」
『執政区画、手渡されたマップデータによれば緊急避難シェルター付近です』
自分の端末を立ち上げて、助けてくれとお願いされた艦隊司令官から渡されたマップデータを確認する。
「ふむ、近いね。よし、後の事もあるし、俺達で向かうか」
俺の返事に、ロドム兄貴がテキパキと指示を飛ばす。
「近衛機甲猟兵隊で対処する。両隊はそのまま人命救助を続行せよ」
『了解、特務機甲猟兵隊はこのままプラント区画を進む』
『了解、機甲歩兵騎士隊はこのまま住宅区の探索を続行する』
さて、反逆者の顔でも見に行きますか。
○ ● ○
Side:ルドッセルフ
「イグン」
「お迎えに参りました、陛下」
多くの不気味な肉の腫瘍みたいなモノにとり憑かれた兵士に囲まれ、かつての宰相は薄気味悪い微笑みを浮かべて自分を呼ぶ。
「これ以上何を望むというのだ?」
何とか肉に寄生されてはいないが、気を張り続けて疲弊している部下を背に庇い、ルドッセルフは疲労が滲む表情で聞く。
「少々兵隊が足りませんので、是非に陛下はこちら側へ引き込みたいのです」
「……ふん、ご自慢の艦隊は全滅か?」
鼻で笑って挑発すると、かつての宰相は、口からシュルリとナニかを出現させる。
「ひっ?!」
赤黒いその縄状のナニかは、ギザギザの乱食い歯を持つ女性の腕程の太さを持った蟲であった。それがうねうね動きながら、ガチガチ威嚇するように歯を鳴らす。
「さぁ、その体を明け渡せ。我らはこんな場所で終わるわけにはいかないのだよ」
なんだこれは……ルドッセルフは言葉を失いながらも、決して銃口を外さず、不退転の決意で部下を守る事だけを意識し続ける。
「陛下、どっちにしても貴方は死ぬのです。ならば最後の善行に、我々の糧となりなさい。この素晴らしい我が種族の、栄光の未来への礎となるのです!」
「貴様は何を言っている? 馬鹿なのか?」
「なんだと?」
背に感じる部下達の息吹に、ルドッセルフは心を落ち着け、心底憐れんだ表情でそれを睨む。
「そのような醜い姿の種族に、輝かしい未来などあるか。せいぜいデデド(宇宙ゴキブリ)と同じ、不快害虫指定を受けて、どこまでも駆逐されるのがオチだ」
「……」
それの表情が抜け落ち、周囲の兵士達も妙な動きでにじり寄ってくる。ここから勝負だ。なるべくこいつらを引き付けて、何とかして部下を逃がさなければならない。死ぬのは自分一人で十分なのだから。
「どうした? もう既に害虫指定を受けていたか? 栄光の種族とやら」
「……気が変わった。簡単に死ねると思うなよ? 愚かなる偽王よ」
「お前こそ、簡単に私を殺せると思うなよ」
ジリジリと高まる緊張感に、ルドッセルフが大きく喉を鳴らす。
「食らえっ!」
「っ!?」
それが口から出した蟲で噛みついてくる。ルドッセルフはそれを間一髪レーザーライフルで受けてた。だが、蟲はがっちりライフルに噛みつき、物凄い力でライフルを奪い取った。
「もらったっ!」
「っ!?」
再び蟲が噛みついてくる。今度は防ぐ方法がない。ルドッセルフは来るであろう衝撃と痛みに備えて体を固くする。
「うえ、ばっちぃ」
「「っ?!」」
突然だった。
いつの間にその場にいたのか、美しい装飾が施された軽装甲スーツを着た黒髪の青年が、それの口から伸びる蟲を左手で掴み取っていた。
「救助のデリバリーでございます」
ニヤリと笑ったその青年は、すさまじい存在感を放ちながらそう言ったのだった。
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