第145話 反逆者に花束を ①

「圧倒的じゃないか、我が軍は」

「言ってみたかったの?」

「うむ」


 いやぁ、凄いね。さすが、あの脳みそ変態のキオ・ピスとか、何やってくるか分からない天災デミウスと艦隊戦勝負で勝ち越すだけはあるよガイツ提督君は。つーか、誰だっけ? なんとかっていう商人。よくもまぁ、こんな人材を使い捨てにしようとするわ。馬鹿だねぇ~マジで。


「陛下、敵の旗艦がティセスコロニーへ逃げたようですが」

「あいよ、ロドム君」

「はっ! いつでも行けます!」

「うむ、んじゃ行きますかい」


 吃音気味だったロドム兄貴だけど、部隊長を任せてから自信がついたようで吃音が治りました。本人は凄く気にしてたんだけど、俺的にはあれはあれで個性的、とか思ってたから、治ってちょっと寂しい。いやまぁ、治ったって喜んでる彼に失礼だから、面と向かっては言わんけどね。でも、良かった良かった。最近、ハキハキと朗らかに喋ってる彼もまた可愛いからね。


『オジキ、こっちの機甲猟兵達も準備完了した。ルー、そっちはどうだ?』

『こちらの機甲歩兵騎士隊も完了。陛下、いつでもご下命を』

「よし、アベル君、残敵掃討と周辺宙域への監視は任せるね」

『うぃっす。カオスまでつけてもらって有り難いです』

『ガイツ、ズルい。俺も行きたかった』

『お前ぇ、普段からオジキにべったりじゃねぇか。そろそろ、周囲に目を向けた方がいいぞ、マジで』


 ガイツ君の、あの二人が不憫でならない、っていう小声も聞こえてるはずだろうけど、カオス君はきょるんって顔して不思議そう。いやもうさあ、ミクちゃんとリアちゃんや、YOU~襲っちゃいなYO~お父さん許可すっからさって気分なんだが……確実にそんぐらいしないと気付かないと思うぞ、絶対。


 なんちゅうか、ガイツ君とかの青年組は、さっくり折り合いってか、わりと簡単に満たされた感じで、親離れって表現が的確かは分からんけどそんな感じだった。でも少年からまだ抜け出せない感じの子達って、結構べったりなんだよねぇ。いやまぁ、彼らが身を置いていた背景がアレ過ぎんだろ、っていうのもあるんだけどさ。だから俺も彼らの好きにさせているって感じだし。女の子達はまた違った感じで、嫁達にべったりだったりするし……こればっかりは正解なんて無いしなぁ。子育ては難しいんですよ。


「……ねぇ、アタシ、いつまでこの状態なの?」


 そんなお父さんの苦悩、みたいな事を考えていると、多くの妖精ちゃんに埋もれた、それこそ妖精雪だるま、みたいな姿のファラがジト目でこっちを見てくる。


「おう、ちょっとはマシな顔になったじゃないか」

「……そこはっ!? ううぅっ、ごめんなさい」

「うむ」


 まぁ、変なところで変な責任を感じて、アホみたいに落ち込んで、ドツボにハマる、ってのは俺も良くやる。つか、多分、俺の得意技のような気がしないでもゲフンゲフン! だからまぁ、そこは責めないが、そこから引っ張る役目ってのは連れ合いの仕事かなって思っているんだ。伴侶、片翼の片方、病める時も辛い時もってヤツでね。


「よーしこの際だ、嫁達良ぉく聞けぃ! 今後、実家絡みで色々あるとも思うが、気にするな!」


 どこぞの鬼帝なレトロアニメの魔王様を意識して言う。あの魔王様、魔王って名前なのにかなり部下に優しい、ホワイト上司だったなぁ。


「いいか嫁どもよ。それをひっくるめて俺は受け入れた。だから君達の問題は俺の問題。俺の問題も君達の問題――は心苦しいんだが、そうやって家族で解決していこう。いいね?」

「「「「はいっ!」」」」


 これでいいだろう。一部、納得しなさそうな正妃っていう四人がいるが、そこはガラティアを筆頭にしたクリスタさんとかの世話焼き連中がいるし、うん! 大丈夫! だと! 良いなっ! ……大丈夫だよね?


『イチャイチャすんなー。そろそろですぜ、オジキ』

『イチャイチャ良いですね陛下。そろそろです』

「二人してイチャイチャ言うなし」


 ティセスコロニーが見えてきて、無様に横付けされたフィファニールも見えてくる。そんなに慌てたのかね? まぁ、ガイツ君なら嬉々として殲滅するだろうけど。


「ロドム隊長、装備品のチェックは?」

「完了しております。試作噴霧装置の試験も滞り無く」

「作戦の目的は?」

「救助を前提とした動きです。自分達、近衛機甲猟兵隊がまず先行し噴霧装置を設置。装置の起動を実行してから特務機甲猟兵隊、機甲歩兵騎士隊の両隊に人命救助を行ってもらいます。この際に多くのサンプルを、特殊シールド容器に回収する事も任務に含ませました」


 立て板に水の説明だ。いや本当、滑舌滑らかになって……マジで、子供の成長って早い、ほろり。


「聞いていた通りだ。君らの隊の指揮権は一時ロドム隊長に移る。いいね?」

『『了解』』

「よろしくお願いします」

『噂の陛下の快刀のお手並み拝見させてもらいますね、ロドム殿』

『俺は全く心配もしないけどな。ま、いつも通りに頼むぜ』


 本当、頼りになるなぁ。


「んで、ついてくるの?」

「……本音を言えば、凄く行きたくないんですけど……一応、ヴェスタリアを名乗る事を選んだ身なので、これはケジメかなって」


 ロドム兄貴の横で、スタイリッシュな軽機甲スーツを着込んだシェルファが、凄く嫌な表情を浮かべて頷く。


 お貴族様ってのは面倒臭いらしくて、こういう断罪的な事を疎かにすると、馬鹿にされる傾向にあるんだと。なのでどんなに危険な場所だろうと、いの一番に動いて、この紋所が目には入らぬか! 的イベントをしないといけないんだとか。入るかボケェッ! って突っ込みは無しでお願いします。


「んで、君らもついてくると?」

「「「「もちろん!」」」」


 一部船を管理するオペ子を留守番に、ほぼ全ての嫁達がついてくる事態に……さっき、ミートとか蟲とか見てきゃーきゃーゆうてたやん! あれらがでろんでろんな場所に行くとか、君ら正気かいな。


『陛下、ご安心下さい。妃様方は我々がしっかり護衛いたしますので』

「いやまぁ、そこはありがたいんだけどね?」


 違う違う、そうじゃそうじゃなぁい~なんだよ。護衛うんぬんの前に、ついてくんなって話なんだよ。一部俺より白兵戦が強い嫁とかおっけど、そうじゃないんだよ!


「ティセスコロニーシステム掌握、港の機能使用、問題なく行けます」

「よし、この船とフレイム・ストーム、ファントム・ルミナウスを着艦」


 ぶすっとしている俺に代わって、ゼフイーナがテキパキ指示を飛ばす。どうあっても来るんだなこりゃ。


「リクエスト了解、コロニーへ指示を出します」


 諦めの溜め息などを吐いていると、リズミラがニコニコーと笑いながら聞いてくる。


「ほらほらー旦那様ー? 俺の問題はー?」

「……君達の問題」

「良く出来ましたー」


 ちくせう、何でこう頭の回転が早い人が、俺の周囲には多いんだろうか。もうあれだね、嫁達に口では勝てねぇわ。


「コロニーからの誘導来ました。コロニーへの着艦作業を開始します」

「ほらほら、アンタも準備しなさい」

「へいへい」


 諦めましょう。そして気持ちをしっかり持ちましょう。あのコロニー内部はどんな魔境になっているやら……嫌ですねぇー全く。


「……んで? 今さらだけど、君らも来ると?」

「「契約者が行く場所が私達の居場所!」」

「さいですか」


 ちゃっかり妖精用にカスタマイズしたノーマルスーツを着込む妖精ちゃん達。うん、もう考えるのはやめよう。これは流れに身を任せろってこった。イクゾー!




 ○  ●  ○


「隊長、装置の設置完了しました」

「ありがとう。起動はテンカウント後だ。カウント終了後は陛下達の護衛が任務となる」

「はっ! ……しかし、これはクるモノがありますなぁ」

「……そうだね、あまり気持ちの良いモノじゃない」


 目の前に広がる脈打つ肉塊。金属は侵食できないようで表層の有機物質に寄生している形のようだが、それでもおぞましい光景だ。


 ガッチガチの金属の鎧に身を包み、一切合切、生身の露出部分が無いという状態であっても、ちょっとこの中へ突撃する度胸は無い。


「陛下は自信ありげでしたが……あの装置、有効なんでしょうか?」

「そこは心配していないかな」

「そうなんですか?」


 副官はきっぱり断言する年下の上司を見上げ、首をかしげる。陛下の四人と呼ばれているレイジ、ロドム、アベル、マルト(カオスは陛下の狂犬)には強固な信頼関係が存在しているのは周知の事実だが、それでもきっぱり断言するのは珍しい。


「タツローさんは、出来ない事は出来ないってぶっちゃける人だからね」


 肩を竦めて、おちゃらけた様子で言うロドム。わりと珍しい姿だが、副官は思わず声を出す。


「……あー」


 近衛機甲猟兵。トリニティ・カームにてタツローと苦楽を共にした同釜飯仲間。なので、タツローのキャラクターというか、彼の言動などをしっかり理解しているが為に、上司の言葉に納得してしまった。


「隊長! 装置起動しました!」

「経過観察っ!」

「了解!」


 どうやらカウントは終わり、装置は問題無く起動したようで、他の部下から報告が飛んで来る。ロドムはそれに指示を返し、腕を組んで目の前の肉塊を見やる。その肩でロドムの妖精ロベルタが、アンニュイな表情を浮かべて足を組んでいた。


「装置! ミートに効果あり! 侵食域が縮小していきます!」

「だろうね。特務機甲猟兵隊、機甲歩兵騎士隊へ通達、任務を遂行せよ」

「了解! 通達します!」


 装置を設置した方向から薄い霧のような煙が漂い、その煙に触れた肉塊が、ふるふる振動すると面白いように縮小していく。その様子にロドムは満足そうに頷いた。


「近衛機甲猟兵隊、次は護衛任務だ。気を引き締めて望むぞ!」

「「「「はっ!」」」」


 てきぱき部下に指示を飛ばすロドムに、肩のロベルタは妖艶な微笑みを向けていた。今日はちょっと仕事に疲れた、出来る女イメージの日らしい。



 ○  ●  ○


「「「「ぎゃーす!」」」」

「……」


 どぅざっまっすぅるぅな光景に、嫁達が黄色くないガチな悲鳴をあげる。いや、こうなるの分かってただろうに。


「面白い嫁達だ、気に入った、始末するのは最後にしてやる」

「筋肉つながり?」

「AIも円滑なコミュニケーションを取る為の学習をするんですよ。特にサブカル方面の話題は多いからねぇ」

「大変だねぇ」

「データ一括でドンだったから大変ではなかったかな」

「そんな記憶も残ってるんだねぇ」

「良い思い出ってヤツなのさ」


 ヴィヴィアンがふんすふんすと鼻息荒く、そんな裏事情を教えてくれる。


「でもタツローさん、これどうするの? 掻き分けるの?」

「さすがに俺でもイヤだわ、それ」

「じゃあ、どうするの? 燃やす?」

「それで美味しそうな匂いがしたら、ちょっと焼き肉食べられなくなるじゃん?」

「どうするの?」

「ロドム君達がやってるよ」


 馬鹿な話をしていると、やがてあちらこちらから薄い白い煙が漂って来て、それに触れた肉達が、塩をかけられたナメクジのように縮んでいく。


「ざっとこんな感じ」


 どやって顔でヴィヴィアンを見ると、物凄く苦い薬を飲んだ子供みたいな表情で肉塊を指差し聞いてきた。


「……ねぇタツローさん、もしかしてこれって、ネクロイーター事件の?」

「ご名答」


 その通りと返答すれば、お前はどこの漫画のキャラクターだい、というリアクションで頭を抱えて天を仰ぐ。


「まーたアイツらの遺産かっ! うげげのげっ!」

「しゅっしゅっしゅっ!」


 ヴィヴィアンがうげっという表情を浮かべ、サクナちゃんが俺の肩の上でシャドーボクシングをする。つーか動きがキレッキレのアウトボックスしてるんだが、芸が細かい。


「安心した?」

「滅殺! 撃滅! 抹殺!」

「うん、気持ちは良く分かる」


 ヴィヴィアンの反応も理解できる。俺も正直、あの奇妙なうにょうにょが姿を見せなかったら記憶からひっぱり出せなかった自信があるからな。うかつで助かるよ。


「陛下、近衛機甲猟兵隊、護衛に回ります」

「頼む。あの祭りの再現だけはやめて欲しいが……多分、焼き直しになるんだろうなぁ絶対」

「「「「???」」」」


 俺と一部の妖精ちゃんの様子に首を傾げる一同。これはもう見た方が早いから、先へと進めようそうしよう。


 ネクロ、始まります。ご期待ください。

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