第142話 悪夢と悪意と害意と滅びと ⑥
Side:???????
「頼りないわ。全く頼りない」
『姉さんはいつでも完璧主義だからね』
「そうかしら?」
『うん、そうだよ。だからこちらも苦労するんだ』
「やあねぇ、愛しい男には奮起してもらいたいと思うのは当たり前じゃない」
『姉さんは理想が高いから』
「うふふふふふ、貴方が頑張ればいいだけの事でしょう?」
『簡単に言ってくれるよ』
「まあ、でも、このまま北部辺境が混乱し続けてくれれば」
『僕達の新世界に一歩近づくだろうね』
「他の場所はどうかしら?」
『あまり芳しくない。何か突然奴らの動きが鈍化したんだよねぇ。帝国本星で何かあったのかも』
「忌々しい、あの馬鹿皇帝?」
『いや、皇帝は本星に戻ってから動いてない。今の帝国を動かしているのは、あのクソ女のグランゾルトだ』
「お口が悪くてよ?」
『おっと、ついね』
「でも皇帝ではない……じゃぁ何って話になるんだけど」
『……ライジグスだろうなぁ』
「ちっ、忌々しい。大人しく消滅しておけば良いのに、境界人め」
『まぁまぁ、こちらも手駒が増えたんだし、これからだよ姉さん』
「……そうね、ふぅー……これも全て」
『僕達が新世界の二人になる為に必要な事だ』
「我が儘な主を持つと苦労するわ」
『まぁまぁ、そのお陰で楽しい未来が見えるんだ、我慢しよう』
「そうね。はあ、そうね」
『頑張ろう姉さん。じゃ、また定期連絡はするから』
「ええ、愛してるわ」
『もちろん、僕も愛してるよ』
○ ● ○
Side:宰相の皮を被ったナニか
ティセスコロニーを包囲する形で展開する自分の軍勢を、それは嬉しそうに見ている。
「近くに宙賊の中継拠点があったのは幸運であった。お陰で数は十分に増えた」
ルドッセルフ直属の艦隊を逃がしてしまったのは痛手であったが、それを上回る数を用意する事が出来たので、とりあえず不満は飲み込んでおく。
「だが、気になるのは、あの言葉だが……」
それは少し思案して、すぐに考えるのを放棄した。
「ふん、どうせ負け惜しみに違いない。我らは完璧なる存在。我らこそ主に創造されし覇権種族。ライジグスなど恐れる価値もない」
それはニヤニヤ笑いながら揃えた艦隊を見る。協力関係にあるが、どこか油断出来ないあの女に頼るのは業腹ではあるが、そんな意地やプライドよりも、いち早く主の理想を叶えるのが重要と割り切り、あれに用意させた艦船はさすがに壮観であった。
「お前だけがレガリアを持っていると思っているだろうが、こちらとてこの程度の技術はあるのだよ」
ぐふふふふと笑うそれは、うっとりとした表情を浮かべる。
「さあ、ご照覧あれ我が主。ここで境界人を仕留め、必ずや我らが悲願を達成しましょうぞ!」
それの決意に水を差すように、艦橋に警報が鳴り響いた。
○ ● ○
「おやまぁ、どこかで見た事のある船が沢山」
「うへぇ、あいつらの船じゃん、滅菌焼却したんじゃないの?」
「したはずなんだけどなぁ、何であるんだろうねぇ?」
「こっちが教えて欲しいんだけど」
「みーとぅー」
ルドッセルフさんの本拠地ティセスコロニーが見える場所まで来たんだが、そのコロニーを囲むように展開する艦隊に、俺とヴィヴィアンは思いっきりしょっぱい顔をする。肩に乗っかってるサクナちゃんは、スゴいキレッキレなシャドーボクシングを……そんな芸、いつ覚えたの?
「見た事のないシルエットだが……もしかしてレガリアか?」
ゼフィーナが少しひきつった顔で聞いてくる。いやまぁ、そんな怯える程じゃないんだけどねぇ。
「君らの定義だとそうなるね。AKU002って型番のフィファニールって名前の戦艦に、ヴァリトラっていう重巡洋艦、ヒドラ巡洋艦、バリジスク駆逐艦、展開する戦闘艦は十中八九アイトワラスだろうなぁ」
「うえぇ」
「こらこら、乙女がはしたないぞ」
神話の邪竜大集結なネーミングの船達。まぁ、これを作った奴らは中二を拗らせたと定義するには少々頭悪すぎたけどな。
「まぁ、あそこらへんのミサイル艦とかフリゲート艦とかは知らない子だけどな。ヴィヴィアンは見た事あるか?」
「知らないわよ。うちのクラン、タツローさんの所と違って平和主義だったもん。あんな、毎日どっかのクランと戦争してるような人達と同じ知識量を求められても困る」
「毎日ではない。三日に一度だ」
「そんなキリッてした顔で言われても、ほとんど同じじゃない」
ちょーうけるー、みたいな会話をしてると、リズミラが青い顔で手を挙げる。
「大丈夫なんですかー?」
そんなに怖いか? いやまぁ、レガリア伝説(皇帝のやらかし)を聞いて育った人達からしたら、恐怖の象徴だろうけど、こっちもレガリアだって忘れてません?
ここは冷静であろう人物を引き合いに出そう。ポチッとな。
「ガイツ提督」
『はっ! なんですかい?』
「相手はレガリアだけど、怖いかい?」
『はっ、有象無象じゃないですかい』
「だよな」
俺とガイツ君の問答に、艦橋の嫁達がぽかーんとした表情でこちらを見る。そろそろゼフィーナくらいは気づいて欲しいんだが。ダメか、恐怖で頭が鈍ってるな。
「対レガリア訓練」
ぽそっと呟いてみた。
「っ!? ああっ! ああああああああっ! 私の馬鹿っ!」
「「「「うわあああっ?!」」」」
嫁達悶絶。こんな事もあろうかと、ちゃんと艦隊を運用する司令官クラスには、とある訓練を叩き込んでいる。それが対レガリア訓練。いやまあ、ただただひたすらにデミウスとかキオ・ピスとかと模擬戦をするだけの事なんだけどね。あの頭の中どうなってるの? っていう化け物連中と戦ってきたのに、この程度に恐怖を感じて貰っては困るのだよ。
それにレガリアったって完全無欠の機械じゃない。それぞれに一長一短の何かがあって、完全に無敵状態なんて船は存在しない。ようは中の人によるんだよ、ぶっちゃけてしまえば。強い奴が使えば、初期に貰える船だって一級品に化けるし、弱い奴が使えば最新鋭の船が初期の船にだって負けるんだ。
「大丈夫かい?」
「うぅぅ、恥ずかしい」
「まま、そんな事もあるさ」
もじもじしているゼフィーナってのもレアな光景だな。うむ、ゴチになりました!
「それでーあの船ですけどー、旦那様とヴィヴィちゃんは御存知のようですがー」
「まぁ、あれを作った奴らのお陰で、アーサーの嘆願が通ったからな」
「嫌な事件だったよね」
毎度お馴染みの悪役志望かんたらのクランが引き起こした大きな事件の一つ、ゲームの攻略ウィキには妖精事変と命名されまとめてられて記事にされていた事件。
俺があのゲームで一躍有名にされちゃった事件でもあり、あれのお陰でデミウスのクランに本格的に参入する事になった。
簡単に説明するなら、チュートリアル妖精を他人から奪って、妖精を生体兵器に改造しようと企み、その渦中で少なくない妖精が魔の手に掛かり、奪われたプレイヤーがマジギレして奴らの殲滅を行った、っていう流れだったな。本当にアイツらはろくな事をしない。でもお陰で、妖精ちゃんが完全無敵に設定され直して、アーサーの陳情と妖精を失ったプレイヤーとの陳情が合わさって、課金要素として妖精ちゃんを迎える事が出来るようになった。アーサーは実装初日に上限一杯まで課金しやがったが……
ままそれは置いておいて、追い詰められたアイツらがプレイヤーを迎え撃つのに使用したのが、目の前の船である。全てまるっと粒子すら残さずにレーザーで分解したはずなんだがなぁ、何であるんだろうマジで。
「ふむ、性能はどんな感じか?」
「え? 三級品以下だけど?」
「……ちなみに二級品は?」
「うーん、この前回収した皇帝のレガリア、あれがギリ二級品かな? 製作した俺からしたら三級品以下だけど」
「……あああああ、長年染み付いた常識というのは恐ろしい」
「ははははは、まぁ慣れろ」
ゼフィーナ再びの悶絶。いやなにこの可愛いナマモノ、頭を撫でてあげよう。
「ううぅぅぅー」
「そういうのはー全員平等にーお願いしますねー?」
「アッハイ」
顔が笑って目が笑ってませんリズミラさん。後でフォローせねば。
『んだばオジキ、先鋒は俺らがしますかい?』
おっと、ガイツ君と通信繋げっぱなしだった。
「うーん……」
俺はチラリとモニターを睨み付けるような目で見ているファラを見てから、首を横に振る。
「ルータニア君を先鋒で、そのかわり指揮はガイツ君がやって」
『了解です。殲滅しますか?』
「んにゃ、ある程度の数は残して泳がそう。あれをどこから持ち出したか、出来ればそれを知りたい」
『なるほど、了解しました。作戦に入ります』
「お願いね」
『はっ!』
ガイツ君との通信が切れ、モニターに映る特務艦隊とルータニア君のルブリシュ艦隊が動き出す。
「ヴィヴィアン、サクナちゃん、他の妖精ちゃん達も誘ってファラを頼む」
「ん? ああ、そうね。らしく無いわね。任せて」
「これがコロニーだったら強引にデートにでも連れ出して、強引に気分転換させられるんだけど」
「お嫁さんが多いと大変ね?」
「ま、その分以上の幸せを貰ってるからね」
「おーアツいアツい」
「まぁねぇ」
クスクス笑ったヴィヴィアンとサクナちゃんが、自由に動き回ってる妖精達をひきつれてファラに突撃。ファラが妖精達にもみくちゃにされる。
「ちょっ?! な、なにっ?! あ、こらっ! どこを触って、ひゃんっ?!」
「あれはあれで良しと」
「良いのか?」
「良いんじゃないでしょうかー、ずっとムスってされてるのもイヤじゃないですかー」
「案外、責任感が強いですよね、ファラって」
「そこが良いところだ。そろそろ始まるぞ! 各員、警戒体制っ!」
「「「「はっ!」」」」
俺の言葉が合図になった訳じゃないだろうけど、勢い良く突出したルブリシュ艦隊が小手調べのレーザー一斉掃射を開始し、それを相手がシールドで受け止めて、カウンターのミサイルを降らせる。
「戦い方までアイツらと同じねぇ」
どうにもイヤな感じを覚えながら、俺は優秀な右腕の活躍を見守るのであった。
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