第141話 悪夢と悪意と害意と滅びと ⑤

「伏して、伏してお願い申す」

「……」


 お前はどこの時代劇の人間だ? と思わずにはいられない、それはそれは見事な土下座をして声を絞り出す艦隊司令官に、そういやぁ土下座ってお願いとか謝罪する時に使っちゃダメな、一番攻撃性の高い奴だったっけ? などと余計な事を考える。


 どーもー俺です。現在、助けた反乱軍? な艦隊の司令官とお話中である。


 一応、先ほどのミート(そういう種族名に決まった)の例があるから、艦隊全体を徹底的にスキャニングし、疑わしい場所はプラズマフレイム放射器(船体外装などの滅菌、あとは船内部のヤバイ生物を殺す火炎放射器未来版)で徹底的に汚物は消毒だぁ! をしてから面会となり申した。無論、人間もスキャン対象となっているので安心したまえ。


 まぁ、俺の予想だと、そんなにカリカリしなくても問題はなさそうではあるが。


 しかし、問題はこの司令官ではなくて、俺の横で苦虫数量無限大レベルで噛み砕いているような表情を浮かべているファラさんだ。


 ルドッセルフ準男爵領側から見たファリアス派の蛮行、それを司令官は訥々と語ってくれたのだが、まぁ酷い。ルドッセフルさんの政治への内政干渉から始まる侵略戦争みたいなやり方で、準男爵領を追い詰め、その土地を掠め取ろうという方法をしていたようで、あまりに酷いやり口に、秘匿回線でリーンのおっさんに確認すれば、事実ですアイツらクソですから、というなんとも端的な返事があったりした。これ、反乱か? まぁ、ヴェスタリアを名乗ったのはアレだったかもしれないが、普通に堪忍袋の緒が切れた防衛側の正当な反撃じゃねぇの?


『スーサイに確認しているが……私の認識で言えば確実にファリアス派が悪いな』

『そうですねー貴族同士の殴り合いなんて珍しくもありませんがー、ちょっと度が行き過ぎてますねー』


 元帝国軍人の嫁達もギルティと言っているし、完全にアウトなんだろうなぁ。俺も心情的にはルドッセルフさんの方に傾いてるし。


 しっかし、勝手に国境線を指定して、出入りの商人を限定して、更には難癖つけて関税的なモノを導入し、搾取する体制を万全に整えるって。しかも、宙賊に偽装した戦闘艦に、準男爵が懇意にしている商人を襲わせて遠縁にさせるとか、色々とブラックな事までやっていたようで……先に潰しといて良かったかもしれん。つーか、あれらも俺の敵認定確定だな。今宵のエクスカリバーは血に飢えている、みたいな感じで目の前で素振りしてやろうかしら? 嫁のパパさんズよ。


「君らんとこの元派閥も調べといて、ちょっと本気出して潰すかもしれん」


 俺が小声で呟くと、二人は嬉しそうに返事をして通信を切った。まぁ、そこらへんの分析解析はスペシャリストシェルファねきがパパッとやってくれるでしょう。


「話は理解した」

「では!?」


 司令官が輝く表情でこちらを見る。うーむ、でもなぁ、国として動くからにはメリットがなければ動きづらいんだよねぇ。いやまぁ、王様の俺様が助けるって決めたんだ、文句あっか? という感じにしてもいいんだが、今はいいけど後々叩かれそうな要素でもあるし。いや、ワンマン国家なんて陰口言われてるようだから、今更っちゃ今更なんだが。


「ん?」


 ちょっと迷っていると、隣に座っているファラが袖口を引っ張り、力強い瞳で俺を見てくる。


「助けてあげて。ううん、助けて下さい。アタシ、わたくしが必ず補填を払いますから」

「……はあぁっ、おバカ」

「いたっ」


 全くもってこの嫁は。まぁ、ちゃらちゃらした自由人に見えて、かなり気配りな気にしいの真面目さんだから、ファリアス派のやらかしを自分にも責任があるとか思ってるんだろうなぁこの嫁。


「おい旦那、助けろ、アンタ、アタシの旦那だろ、やれ、で良いんだよ馬鹿」

「……ぅん」

「この程度で何でお前が心を痛めなきゃならん。ムカつくからどうにかしろ、ってそれで良いじゃねぇか」

「ぁりがとぉ」

「どーって事ねぇ」


 乙女乙女しているファラさんも貴重っちゃ貴重だが、それは俺がやった事でそういう顔をしてくれるなら嬉しいが、こんなしょーもない事で見せられると、それはそれでイライラしますね? そうですね? 潰しましょうかね? ふはははははは。


「陛下、殺気が漏れてますよ」

「おっと? すまんすまん」


 アベル君に注意されて司令官を見れば、ガタガタ震えつつも、力強い目でこっちを見続けている。うん、こういう忠臣を持っているってだけでもルドッセルフさんはリスペクトに値すると思う。ならばやろうか。


「その願い、聞き届けよう」

「っ?! お、おお、おおおっ! あ、あり、ありがとうございますっ!」


 その後、特務艦隊から護衛部隊を出して、とりあえず彼らはここでお留守番をしてもらう事になった。




 ○  ●  ○


『はあっ?! ライジグス預かりだあ?!』

「ああ、彼らはこちらで保護をし、ライジグスが全責任を持って対処する。問題はあるか?」

『問題しかないだろう。彼らはもう反乱軍なのだからな』

『そうだぞ、帝国法では完全にアベランタラ準男爵は黒だ』

「何を言っている。我々はライジグス国の所属だぞ? なぜ帝国法に従わねばならん」

『……いや、無茶苦茶言ってるぞ? ここは帝国の、皇帝陛下の支配領域だ』

「そうだな、そしてファリアス派が不当に占拠した領宙域でもある。そして我がライジグスは既に帝国へ正式にファリアスの正統な継承者である届け出を出し、それを皇帝と筆頭貴族グランゾルト大公爵にも許可を得ている。これの意味するところは理解できるかな?」

『『……うそーん』』

「理解してくれて嬉しいよ。我々はファリアスを名乗る愚かなる貴族を討伐しなければならぬ義務があり、ここがファリアスの拠点であるというのならば、一方的に軍の派遣が許される訳だ。そして、今、我らはここをライジグスの飛び地として認定している」

『『滅茶苦茶じゃねぇかっ!』』

「はっはっはっはっ、褒め言葉をありがとう」

『『誉めてねぇよっ!』』


 ゼフィーナのりのりである。


 いやまぁ、俺も今回の事をどうするよ? って相談して、そうだなこんなのはどうだろう、って聞かされた方法に目ん玉が飛び出そうなくらい驚いたが、何回聞いてもぶっ飛んでるよなぁこれ。


 レイジ君が先んじて、アリアンちゃんに認可をして貰っていたらしい、旧王家の正統後継証明うんたら、これってもう帝国が正式に認めてるから、帝国内で王家を騙る存在が出現したらぶっ殺していいよ、って許可書でもあるんだって。その時点でもうおかしいんだけど、そもそもこれ、三種の象徴をぶっ壊したなんたらって一派を牽制する目的だったらしく、皇帝が何も考えずに賛同して通った法律らしい。本当、あの馬鹿は……まぁ、今回はこちらが使わせてもらって助かるが。


「それで、一時的にとは言え、ライジグス王国の保護下に入った愛すべき民からの陳情を受けてな。どうやら彼らが助けたいがティセスコロニーに複数存在するようでな、我らはそこへ向かう形となる。ああ、ここにはライジグス特務艦隊の精鋭を一部置いていくが……喧嘩なら買うぞ?」

『やらねぇよっ!? 何だよその自殺行為っ!?』

『ちょっと待てゼフィ、いや正妃殿。ティセスに向かうだと? 反乱軍の本拠地へか?』

「何を言っている。我らが愛すべき民の家族を助けると言っているだろうが」

『『詭弁すぎんだろっ!』』


 いやぁ、ドヤッてるゼフィーナって何であんなに可愛いんだろうか。おっと? こほんこほん。失礼。


 このスーサイ君とロイター君、いいなぁ、この突っ込み。なかなかのキレですぞ。いやまぁ、本人達にとっては嬉しくないだろうけど。


「それとも君達で対処するかね? 先程見せた不気味生物の本体が、確実にティセスにいると思うのだが……君らに処置出来るかね? 大人しく帝国近衛艦隊を差し出した方が懸命だと思うが?」

『『ぐぬぬぬぬぬぅ』』


 レイジ君が方々にアネッサ姉ちゃん率いる諜報活動専門チームを派遣して調べた限り、軍隊で驚異となるレベルなのは帝国の近衛艦隊、神聖国の象徴(近衛と同じ意味)護衛艦隊、お馴染みフォーマルハウト艦隊(ここはウチのテコ入れが一番大きかったからね)、小国家群の混成精鋭艦隊位で、その他の一般的な軍隊は残念ながら練度が低すぎて話にならなかったんだよねぇ。一応、次点で帝国辺境部辺境艦隊が入るけど、近衛艦隊と比較すれば可愛そうなレベルだし。


『じょ、条件がある』

「うむ? 何だろうか?」

『手出しはしない。君らの艦隊の後方で監視をする事を条件に、君達の行動に目をつぶろう。それでいかがか?』

「ふむ、構わないが……それはそれで恥ずかしくないか?」

『『やっかましいわっ?! この非常識新興国家めっ!』』

「ははははははは、ありがとう」

『『誉めてねぇっつってんだるぅうおぉぉぉぉっ!?』』


 両方とも絶好調であぁるぅっ。見てるこっちは楽しいな、この寸劇。しかし、ゼフィーナが本当に生き生きしてるなぁ。


「いやまあー、士官学校時代に色々ありましてー、特にあの二人はとても優秀だったのでー、そのぉー色々と怨念がー」

「この恨み晴らさずしておくべきか」

「まさにーそんな感じですねー。特にゼフィーナはさっぱりした男の子っぽい部分があってー、そこを令嬢らしくないーって言われてた口だったのでー」

「そこがイイんじゃないか。分かってねぇなぁ」

「ふふふふふー、それを言えるからゼフィーナが惚れ込んだんですよー?」

「おうこらリズ! 勝手に私の心を代弁するんじゃない! 後、余計な事を旦那様に吹き込むなっ!」

「あらあらーうふふふー」


 どうやらあちらの話し合いは終わったようだ。これで俺達はルドッセルフさんのとこへ行けるって事だな。


「お留守番、しっかりこなせよ?」

『息子との初めての共同作業ですから、かんのぺきにこなしてみせましょうぞっ!』

『……オヤジ、マジで気持ち悪いからやめれや。後で母さんにチクる』

『うおはあっ?! それだけは、それだけはやめろ下さい!』

『じゃ、真面目にな』

『サーイエッサー』

「通信で親子漫才すんなよ」

『『してませんがっ?!』』


 護衛艦隊にはエウャン親子を残していく。磐石……だよね? 磐石だろうか? マジで磐石か?


「アンタら、下手打ったらどうなるか、分かってるわよね?」

『『っ?! イ、イエスマムッ!』』

「なら、全身全霊でやりなさい。失敗は許されないと思って」

『『アイマムッ!』』

「……ピリピリし過ぎだってぇの……あー、それなりに頑張れ、んでやばかったら知らせろ。戦力の出し惜しみは無しでな」

『はははは、お任せください。天才などと呼ばれていますが、それなりの軍歴はありますので、得意な戦い方でどうにかしますよ』

「それで良い」


 ファムさんが元に戻らない。いやぁ、マジでファラパパの鼻先でエクスカリバー素振りしたろか?


「とっとと終わらせよう。殺る事が多くて困るからな」

「字が違くない? 聞き間違いかな? それとタツローさん、目が怖い」

「生まれつきです。おっしゃ行くぞオラ!」

「「「「はっ!」」」」


 こうして俺達は一路ティセスコロニーに向けて出撃するのであった。

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