第129話 ルヴェ・カーナの戦い ②

 富、名声、力。

 かつてこの世の全てを手に入れた男 “英雄王・アーサー・ペンドラゴン・ヴェスタリア”

 彼の死に際に放った一言は全世界の人々を大宇宙へと駆り立てた。

『僕の妖精か? 欲しければ求める事だ。探してごらん、この世の全ての妖精をそこに隠して来たから』

 世はまさに大宇宙時代!


 いやごめん。ちょっとトリップしてました。


『つまりです。妖精と友誼を結ぶと言う事は、旧ヴェスタリア王家の威光を背負うって言う事と同義であるんです。分かってます、そんな顔しても分かってるわっ! そんな気は一寸でも無いって腹の内なのは理解してます! でも、外から見ればこちらの意志と関係無しにそう見られるんですっ!』


 いやね、実際にアーサーがそう言ったかどうかは不明なんだけど、あいつが死んでから数千年規模で、妖精と共に歩む王が現れし時、かつての王国は栄光の歴史を再び刻み出す、みたいな与太話があって、実際結構な数の物好きがあっちこっちで妖精ちゃんを探したらしいんだわ。それくらい妖精という存在は凄いって話を俺は聞かされているんだな。知らんがなって感じなんだが、実際問題……


「ねーねー、この子もタツローさんとこの子?」

「ん? ああ、うちの子だな」

「へー、多分、この子、ランスロットの血縁だね」

「……」


 モニターでグワァーっと吠えているレイジ君を見て、ヴィヴィアンが爆弾を落とし、それを聞いてしまったレイジ君が再び撃沈。妙に嬉しそうな彼の嫁達に介助される光景を見せられる。何だこれ。


「で、こっちの女の子みたいな男の子がトリスタン?」

「そうなんじゃないの? ルブリシュの子だから」

「ふーん、確かにトリスタンとイゾルデを足して良いとこ取りしたような感じだね。うんうん。ねーねー、やっぱりこう、すんごい粘っこい感じで喋るの?」

「なんぞそれ?」

「わぁれぇ、トリスタンぅはぁー、えいーこぅあるぅぅ、あーさーおぉぅのぉー、みたいな感じ?」

「……どこの有名声優さんですかい?」


 何か初代のトリスタンさんが、似てたらしいのだ声質が。それを面白がったアーサーが、喋り方はこれで! と強要したら、それが素になったとか。彼の息子達も、そんな感じの喋り方をしていたらしい。


『私の父は、そんな感じの喋り方をしてましたよ』

「あ、復活した。やっほー」


 フリーズしていたルータニア君が復活し、そんな彼に自由人? 自由妖精? なヴィヴィアンが嬉しそうに手を振る。


『それより宰相閣下がランスロットの血縁とは?』


 自由過ぎるヴィヴィアンの様子に、女の子みたいに可憐な微笑みを向けながら、俺に確認してくる。


「いや、なんつーか……ルナ・フェルム三義兄弟が、ランスロット、ガラハット、パーシヴァルの関係者ってのが判明しまして。レイジ君は今ですが」

『……』


 ルータニア君が額を押さえて項垂れる。それを横にいたユシーさんが甲斐甲斐しく介助……おっと他の嫁達も参戦したぞ。楽しそうだ。


『んでオジキ。ル・フェリを連れ出して何をする気です?』


 微妙な疲労感を漂わせ、ガイツ君が聞いてくるが……何をする気もないんだけども。


「むしろ聞きたいんだが。妖精ちゃんと仲良くなったからって、何かしなきゃあかんのん?」


 キリッとした表情で聞いてみると、ガイツ君は虚を突かれた感じの表情を浮かべ、ついでそれもそうですねと頷く。


『いやいや、ル・フェリと共にある、と言う事は、ヴェスタリアを継承するって事なんですが』


 嫁達にもみくちゃにされて復活したらしいルータニア君が言う。いや継承も何もねぇ?


「継承もなんも、俺の正妃にヴェスタリアの姫君を迎えているのに、継承もクソもなかんべぇや」


 そこだよ。うん。ほぼ俺はヴェスタリアを背負わされた立場の人間だし。自覚はねぇけどなっ! どやっ!


『……今、何と?』


 ルータニア君が死んだ魚の目を俺に向けてくる。怖いよ! 凄い美少女な見た目の君がその目をするとヤバイって!


「いや、だから、ヴェスタリアの姫君を嫁に迎えていると」

『……』


 ルータニア君、再び撃墜。そして彼の嫁達もフリーズ。いやまぁ、何だ……正直すまんかった! ってか言ってなかったっけ?


 いやもうむちゃくちゃだよ。混乱は収まらず、どちらかと言えば広がっていくばかり、そんな様子を心底面白そうに見ている妖精ちゃん達。これ、どうやったら収まるんだろうね?




 ○  ●  ○


 Side:貴族会議


 アベランタラ宙域、勝手にルヴェ・カーナと命名された宙域から平面的に見れば南西に、世間的に三戦士と呼ばれる貴族、その一角であるマナティ子爵が治める、小惑星ダランテをそのまま居住可能コロニーへ改造した、マナティプライムコロニーがある。


 マナティ子爵、コールディ男爵、メディラム永代騎士爵の三名と、その他に同じ志を持つ貴族達は、このマナティプライムコロニーで定例会議、世間からは貴族会議と呼ばれる会合を定期的に開いている。しかし、今回はその時期ではないが、コロニーに多くの貴族が集結して会議を行っていた。


「あの痴れ者、余程の阿呆であると見える」

「しかり、まさかヴェスタリア王家を騙るとは……常識が無さすぎる」

「かの非常識皇帝ですら、ヴェスタリアの扱いは細心の注意を払っているというのにな」


 皇帝は注意を払っているのではなく、その王家が存在していた過去をまるっと知らないだけで、そのように操作したアリアンの勝利ではあるのだが、彼らはそんな事実を知らない。


「だが、阿呆であるが、この戦力差は厳しい」

「うむ」


 彼らが囲むテーブルはモニターにもなっており、そこにはこちらへ進撃してくるルドッセルフの軍勢の光点がびっしり映っている。これは帝国メディアの情報を買って反映した数であり、今も取材班は高度な光学迷彩を使用して付かず離れずの距離で観測しており、その情報もリアルにデータリンクされているので正確な情報だ。


「他の宙域のファリアス派は動けんか?」

「難しいな。アベランタラではルドッセルフが丸め込んで共和国の阿呆どもを引き込んだが、他の宙域では宙賊化して治安を乱しに乱しまくっているらしい。ここで自領を放っていくなどと、うつけの所業だからな」

「……分裂しても迷惑な」


 共和国は軍部のクーデター以降、正統共和国と神聖共和国に分裂し、現在もドンパチしまくっている。正統共和国、軍部のクーデター派の共和国の軍事力が強すぎて勝負になってないかに見えて、神聖共和国のバックには教団がついており、彼らが所有するイリーガルな戦力が投入されて拮抗した状態に持っていってるという情報は流れてくる。周辺国からすれば、そのまま共倒れになって滅びろと願ってしまう程度には迷惑な存在である。


「……帝国本星のファリアス大公はどうするのだろうなぁ」

「ふん、あのような腑抜けに何が出来ようか」


 色々と重苦しい空気の中で呟かれた言葉に、真っ先にコールディ男爵が怒りをぶつけるように切って捨てた。


 ここに集まった貴族達はファリアス派と呼ばれる集団で、つまりはファリアス王家復興を命題としている貴族達だ。


 旧王家の三家、ジゼチェス、オスタリディ、ファリアスの旧臣達には忠誠心が振りきれた家が多く、帝国本星で飼い殺し状態にされている主家に対し、一向に立ち上がろうとしない腑抜けっ振りに苛立ち、帝国本星の目が届かない辺境で、徐々に徐々に勢力を拡大していずれ必ず王家を復興させようと潜伏しているわけだ。


 もしもルドッセルフがヴェスタリアを名乗らずに、ちょいと皇帝不在に勢力を拡大してやろうぜ、とでも誘っていれば、彼らも喜んで参加しただろう。希代の軍師と嘯いて、浅知恵の悪巧みでしかなかった名乗りだが、それはルドッセルフの自称軍師で宰相が知らぬ事である。


「ファリアス派のコロニー居住者の避難を始めよう。メディラム殿のコロニーであれば、住民達の受け入れも可能であるな?」

「はっ、大丈夫であります」

「すまぬな。いざとなれば、我らが所有するコロニーにパルスエンジンでもつけて、あやつらにぶつけてやらねばなるまいて」

「ふん、所詮は烏合の衆よ。噴飯物ではあるが、大同盟とやらで流れてきた訓練法は、有効ではあった。あのやり方ならば五分五分まで持っていけるだろう」


 新興国ライジグスを中心とした同盟により、かの国より流れてきた戦闘教練は、真面目な領地程有効に作用し、ファリアス派のここでもかなりの効果を発揮していた。戦力差は絶望的ではあるものの、それでは戦えないか? と問われれば、やり方次第じゃね? という感じではある。


「まずは我らが領民の避難。それから軍事行動だな」

「「「「おうっ!」」」」


 詐欺師ルドッセルフの内乱もしくは詐称の偽王の戦い。歴史的には北方宙域紛争と呼ばれる戦いの幕開けが近づいていた。

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