第124話 妖精帝国ル・フェリ
「いやぁ、これ、やっばいわぁ」
「うん、これ、マジでないわー」
ただ単純に既存の装置へ突っ込んだだけの、それこそまだまだ改良改善拡張の余地がダブダブに残りまくっている状態で、トリニティ・カーム内部のありとあらゆる致死を防ぐ、薄緑色のヴェールに感動しまくりだ。
エメリウムバリアブルエネルギー結晶体を使ったシールド発生機改め、バリアフィールド装置は、いやもうすんげぇの一言。
今までは大出力のジェネレータをガンガン回して、どれだけシールドの強度を高められるか、そこが技術者としての腕の見せ所だったのだが、こいつはジェネレータの大出力を食らって結界に近い性質を付与するっていう頭おかしい事をしてくれる。まぁただ、さすがにこの状態で攻撃行動とかは出来ないから、やはりシールドは必要になるが、それでも既存の戦い方はすっかり死んでしまったと感じさせる力だ。
嫁達も冒険したいっ! というお年頃だったらしいので、試してみようそうしようと、ムーンライトのシールド発生機をアップグレードしてみたんだが、いやぁ予想以上である。ローズピンクで調べた時は、拠点のベースの補助的なシールド発生機で試したので、ここまでの能力を獲得するとは思ってなかった。それでも拠点がミミズの体当たりを食らった時、奴らを簡単に弾き飛ばしたのを目撃してるから、破格なのは知っていたが。
「これは皇帝に感謝をしなければならないかな? 旦那様」
「うぇーあれにぃー?」
「うんこうていばんじゃーい!」
「こらこら、ダメよ、そんな汚い言葉を使ったら」
「ファラも何気に酷いですよねぇ」
「止めないーシェルファもー大概ですけどねー」
神経を使って、狂いそうな計器類に頼り、己の腕と度胸で突き進む極地トリニティ・カーム。それがこれである。もうピクニックだねこれ。
「ここをこのフィールド無しで進むとか、アンタとカオスは異常だわ」
「そう? わりと慣れれば簡単簡単」
「慣れるとコースが見えるようになる」
「それが出来るのは、後はアベルとマー君くらいじゃないの?」
「いやいやいやいや! 無理ですって! おれをこの人達と同レベルでカウントしないで下さいよ! おれ! 凡人! こいつら! 天才!」
「そう卑下するもんでもないさ。君も十分に天才サイドの人間だよ。少なくとも、その努力は惜しまない程度には諦めていない」
「う、あ、うー……ありがとうございます、そ、その、お、お義母さん」
「ふふふふふ」
そうそう、輝水晶を発見したのアベル君でね。まぁ、効果はご覧の通りなわけで。こんな偉業はねぇぞって事で、彼も貴族の仲間入りである。正式にはまだだけど、ジゼチェスの名前を冠する事が確定。つまりゼフィーナが彼の義理の母となる。
なんていうかねぇ、これがまた、アベルちゃんには悪いんだがくぁわぁうぃうぃんだわ。ゼフィーナの男前な部分に母性が合わさると、かなり激甘な感じの母親になるんだが、そのストレートな言い方がアベル君には効果バツグンらしく、こうやって顔を真っ赤にしながらも喜ぶという光景が、ちょいちょい日常的になっている。嫁達ばかうけだ。
「そろそろ目的地が見えてきます」
「おう」
オペレーターに注意を促されてモニターに視線を向ければ、何と説明すれば良いか……背景から少し浮いているグラフィックとでも言えば良いか、忍者とかが隠れるときに、背景と同じような絵柄が書かれている布を張っている状態、と言えば良いだろうか。不自然にその場所がモワッているように見える感じの場所が見えてきた。
「光学迷彩か?」
「それもありますが、センサー類も誤魔化されてます。ただ、こっちの観測装置の能力が上のようで、そこに何かがあるのは分かります。フィルターをかけます」
テキパキとコンソールを操作して、モニターの画像にフィルターをかけると、そこには――
「ステーションか?」
「……うぇぃ」
「旦那様?」
迷彩を剥がされた、正体を現したそれは、側面にデカデカとデフォルメされたとあるキャラクターがプリントされている。四つ羽根を持つ小さな女の子がポーズを決め、その背後には漢字とカナで『妖精帝国ル・フェリ』と書かれている。
「アーサー・ペンドラゴン妖精狂」
「え?! ちょっ!? なんでここでその名前が出るのよっ!?」
「ん? どうした?」
「どうしたじゃなくてっ?!」
妖精狂いのアーサー・ペンドラゴン。ゲームのナビゲーターだった妖精ちゃんを愛し、偏愛し、固執した変態プレイヤー。外見が耽美系のそれはそれは見事なイケメンだった事が更に残念さを加速させ、その愛情でゲーム運営まで動かして見せた
「妖精王アーサー・ペンドラゴン・ヴェスタリア。ヴェスタリア王家始祖にして、ルブリシュ騎士団を含む円卓の騎士団を率いていた伝説の王の名前だ」
「は……はあぁっ?!」
ゼフィーナの説明に今度は俺がどうした状態になってしまった。
嫁達の説明によると、アーサーは暗黒時代と呼ばれる混迷期にフラりとレガリアに乗って現れたという。その頃は大きな国という枠組みが無く、地方の豪族的な存在が力を持っていて、常に領土をめぐる紛争が行われていたという。そんな時代に正当なる権利が守られる道理もなく、幸運の象徴とされていた妖精族は、商品として扱われその数を激減させていたとか。これにアーサーがキレた。
彼はすぐに妖精の守護者、円卓の騎士団を設立。志を同じくする同士を集め、妖精を守るために戦ったという。それはやがて大きな時代のうねりとなり、彼は当時最強の一角であった豪族ヴェスタリアの女性当主グィネヴィア(寝取られそう)と結婚、小国ヴェスタリア王国を勃興する。この小国に円卓の騎士団も組み込まれ、その後破竹の勢いで豪族達を下していった。そうして妖精郷ヴェスタリア王国は拡大していき、それはやがて大国ヴェスタリアと呼ばれるまでに成長していく。
……うん、聞いてるとご本人だと分かる。てか、グィネヴィアの下りで確定したわ。あいつ、その名前の女性としか結婚しねぇって断言してたからね。そんなのいるかボケ! って四方八方から総ツッコミ食らってたけど。
あ、俺、アーサーと知り合い。あいつの船は俺が作ったし、あいつんとこのクランも技術提供とかしてたしね。それなりに仲は良かった。何て言っても、あの気持ち悪いと評判だった頃のタツロー君に、そんなの関係ねぇと寄ってきた数少ない勇者の一人でもある。
となれば、あのステーションとも連絡はつけられそうだな。
「ステーションへ通信、内容は、妖精たんはすはす」
「了解、つうし――は、はいぃ?!」
「気持ちは良く分かる。分かるんだが、まぁ、言われた通りにしてみ」
「は、はい」
いやまぁ、本当に
「つ、通信、繋がりました」
「だろ? 回して」
「は、はあ」
あれでもうちょい隠す事を覚えてれば、ちょい残念程度で済んだのになぁ。などとかつての友達を想い浮かべていると、モニターに懐かしい顔が映し出される。某指輪の物語の映画に出てきそうな、ザ魔法使い的な姿をしたAIの姿だ。
『このワードを知っている。何者かの?』
「やあマーリン久しぶり。ちょっと外見が違うが、俺だよ、タツローだ」
『なんと! プロフェッサー殿か! ああ! ああ! なんという僥倖! 助けて下さらぬか?!』
「おいおいただ事じゃないな、どうした?」
『そろそろエネルギーが限界を迎えそうなのです! どうか! どうか! 予備でも構わないのでエネルギー結晶を都合していただけないだろうか?!』
「分かった。港を使わせてくれ、すぐにでもエネルギー結晶を渡す」
『ありがとう! ありがとう! これでマスターの願いを守れそうですぞ!』
「なんじゃいそりゃ?」
ステーションの偽装が解除され、港への誘導が始まる。その間に、マーリンがこれまでの経緯を軽く説明してくれた。
「……なんて事だ」
「マジで? これ、アタシ達が知ったら不味いんじゃ?」
「……」
「これはー機密扱いですねー」
消えたヴェスタリア王家の謎、その答えに嫁達は顔を青くして頭を抱えている。
よくある話。王国の絶頂期アーサーは実子のモードレッド(いや名前変えろや、名前に絶対引っ張られたろこれ)に暗殺されかけ、瀕死の重症を負う。元から超優秀(妖精絡みだと尚更)だった父親に劣等感を持っていた息子は、全てを壊す覚悟で反乱を起こし、ヴェスタリア王国を分断させる。この際、そんな未来もあるだろうと思っていたらしいアーサーにより、ジゼチェス、オスタリディ、ファリアスの大貴族へ王権を分割譲渡してあり、それほど大きな混乱も無くモードレッドの反乱は鎮圧される。しかし、この頃に至っても妖精の権利は保証されず、商品として扱われ続けていた事に不安を感じていたアーサーは、このステーションに保護していた妖精全てを匿い、AIマーリンに全てを託して絶命した。残された円卓の騎士団は、アーサー王が妖精の国へと帰ったという伝説を流布し、やがて王は蘇り我らの元へと帰ってくるという言葉を残して解散。一部の騎士トリスタン卿などは小領地を運営しながら、その伝説の信憑性を高める演出をしたとかなんとか……いやトリスタンさん、それ、あんたの子孫、すげぇガッチガチに信じて守ってますぜ。
んでゼフィーナ達が顔を青くしてる理由が、もっと美談としてこの事が伝わってるらしいのだ。がっつり言えば、自分達の実家へ王権を譲渡して安心して妖精の国へと帰られた、的な。これ、実は宇宙の人々、かなーり信じてるらしい。それだけアーサーの政治が良かったんだろうけど、バリバリのSFでファンタジーが信奉されるって……
『助かりましたぞ』
「それは良いが……よくこの場所で無事だったな?」
『苦労しましたぞ。なんとか壊れないよう、分析と演算をしまくりましたの』
ほっほっほっと笑うマーリンには、AIながら凄みのような何かを感じる。
『それでは中へどうぞ』
「んじゃ、お邪魔するな」
こうして俺は懐かしい友達の物語と、その最後を聞いて、彼が残した遺産へと足を踏み入れるのだった。
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