第123話 うん皇帝
砂の惑星ローズピンクは、驚異の惑星だった。
まず、使える新素材が三つ発見される。これはとんでもない事だ。いや、新種の金属やら触媒やらは、何だかんだ見つかりはするんだ。ただ、それが使えるかどうかは別問題、というか既存の素材を超える素材ってのはまず見つからない。
その新素材の一つ目。輝水晶ローズエメリウムバリアブルエネルギー結晶体。略称はエメリウム結晶。
バリアブルという名前を冠するだけあり、こいつ一つで、シールドが広範囲のバリアフィールドに化ける、なんて化け物素材だ。
二つ目。デザートローズ触媒結晶。惑星地表の砂だ。これはそのままでは単なる砂なのだが、これをとある物を使って加工する事で触媒結晶へと化ける。
触媒結晶に化けさせるのに必要不可欠なのが、三つ目の超ミミズ粘液だ。つまり、あの馬鹿デカイミミズの体表で滑っているネバネバである。あいつらはあの粘液を纏う事で、砂の中を泳ぐのだ。砂を溶かしながらな。
粘液で溶かして成形し直した触媒結晶は、レーザーの触媒として使え、これがまた最上級の重レーザーを超える威力を出せるという……もうレーザーマグナムとかレーザーバズーカとか、そんな感じだ。恐ろしい事に。
さてはて、何故に新素材の話などしているかというとだ、輝水晶とデザートローズの関係性というか、何というか……輝水晶はミミズのエサなんだわこれが、んでその排泄物ってのが、惑星全体を覆っている砂っていう、ね。
つまり俺達はデカイミミズのうんこの上に立っているわけだ。
「触りたくねぇ」
「同感」
「ささ、陛下、ここは同じ支配者同士って事で」
「おうこらけんかならかうぞおら」
いやね、やっとこさ皇帝のレガリアが墜落した現場を発見して、そっから予想しながら探しまくったんだよ。それで見つけはしたんだけども……
「……汚い」
なんでわざわざミミズのエサの話と、その排泄行為を説明したか、つまりは皇帝はうん皇帝にランクダウンした状態で発見されたわけだ。
いや、鉱石だけを食べた状態ならそこまで汚物感はないんだ。むしろ加工状態のデザートローズ触媒結晶が手に入るから嬉しい、くらいなんだが、あいつらカマドウマも食うんだよ。カマドウマを食べる理由は、あいつらが保有している油が、ミミズ粘液の原料になるらしいんだわ。んでその状態の排泄物が、かなーり汚い。普通に臭い。そしてその中に埋まっている皇帝。触りたくないわな、これ。
どうすんべこれ、と近くでわーきゃー他人に押し付けようとしてたら、奴が泣きそうな顔で立ち上がって近寄ってくるではないか。
「朕は帝国皇帝であるぞ! 高貴なる存在なるぞ! その皇帝を助ける栄誉を何と心得るか!」
いきなりキレた。おいおい、こいつ状況を理解してないわ。
「あんなぁ、そもそもだ。お前、部下の教育から逃げ出すために家出しただろ?」
「うっ?!」
「それだけでも失笑モノなのに、よりにもよってトリニティ・カームに逃げ込む」
「ううっ?!」
「どーせ前に一度入って大丈夫だったから、今回も大丈夫に違いない。ほとぼりが冷めるまでここで隠れてよう、なんて安易に考えたんだろ?」
「うううっ?!」
「その安易さで見事に墜落して、ミミズに食われかけて、排泄されてうん皇帝になったわけだが……少しは情けないとか、恥ずかしいとか感じないか? 高貴なるうんこ野郎が」
「ううううっ?! こ、この的確に抉って来る感じ……ぷ、ぷろふぇっさーですか?」
「おうよ。アリアンちゃんに頼まれて探しに来てやったぞマザコン野郎が」
ひぃっと悲鳴を上げて、再びうんこの中へ飛び込む皇帝。いやマジでこいつ、このままここに捨てていくか? 探査船に乗せるのも嫌なんだが。
「ぷろふぇっさーなのにキモくないって詐欺だっ!」
「うるせえよ、そもそもゲーム時代のアレ
はアバターだっての。地味な感じのアバターだったのに、現実のガリッガリな病気状態をスキャンされて、気持ち悪い融合して出来た事故物件だ」
俺的には勝手に他人が避けてくれるから、むしろ助かってた部分が多かったが。それに、それなりに有名になり始めた頃には、作り直してモプ中のモブ状態にしたしな。
「ほら、帰るぞ。まずはその状態を洗浄して、教育はその後だな」
「きょ、きょういく?」
「おう! 二度目は無い、って言葉は覚えているだろ?」
「ひ、ひいぃぃぃぃっ!?」
両の拳をガンガンぶつけながら言うと、奴はうんこの中に埋まった。いやもう、マジでこれからこいつはうん皇帝と呼ぼう。
○ ● ○
とりあえず、ローズピンクに拠点はそのまま設置状態で置いていき、俺達はアイアンハンマーに戻ってきた。あそこの新素材は今後も定期的に入手しておきたいので、レイジ君と相談して派遣する人員を決めよう。なんて事を考えていると、アリアンちゃんがおずおずと聞いてくる。
「あのぉ……何をしたんですか?」
「あれ? アリアンちゃん、まだ居たの?」
「えっと、はい、私はそれほど仕事はありませんから……それは良いんですが、あの?」
「教育しといた!」
「教育、ですか?」
「うん、教育!」
アリアンちゃんが視線を向ける先、そこには体育座りで部屋の隅っこでブツブツ言っている皇帝の姿が。
「おうこら! 保護者が来てんぞこら!」
「はっはいぃぃぃっ!」
「……」
ちょっとやり過ぎたかもしれないが、こいつの場合、やり過ぎくらいが丁度良いのだ。
「今回と同じような事をした場合、どうなるか理解してるだろうな?」
「はいっ! もうしませんっ!」
「まぁしてもいいよ? 俺は別に痛くも痒くもないから。でもデータは軽くなるかもしれないぞ?」
「もうしません! なのでそれだけはやめてくださいお願いしますっ!」
「お前が同じ事をしなけりゃいいだけの話だ。忘れるなよ?」
「はいっ!」
俺と奴とのやり取りを見ていたアリアンちゃんが、信じられないモノを見る目付きで俺と奴を交互に見る。こいつの教育方法は簡単だ。こいつの場合、弱点が多すぎるから、そこを的確に突けば良い。
そう、例えば、こいつが後生大事にしている母親との記憶、そのマスターデータとか。
数少ない母親からのプレゼントとか。なんならそれらを保管している施設への出入り禁止でも良いかもしれない。そんな感じだ。
酷いと思うかもしれない。けれど、こいつの教育方法を確立したのって、こいつの母親だったりするんだ。つまりは、こいつは昔から懲りていないという話なんだなぁ、これが。
「ほら、連れてって」
「あ、はっはい! どうもありがとうございますっ!」
「こいつのレガリアの回収はちょっと難しいから、ダミーで渡した奴を使ってくれていいよ」
「えっ?! いいんですかっ?!」
「いやだって、それがないとこいつ、ただの馬鹿だよ?」
「ありがとうございますっ!」
いやアリアンちゃんや、馬鹿ってとこ、否定しなかったね、君。
アリアンちゃんは何度も頭を下げて、奴を引きずるようにして連れていった。やれやれ、これで仕事は終わったぜ。
「陛下、あの力場の調査結果ですが」
「おう、待たせたな。聞かせてくれ」
お楽しみはこれからってな。実はローズピンクに着地した時から、奴のレガリアを弾いた力場の調査結果は出ていたんだ。だけど、アリアンちゃんが居座っていたから、大っぴらに聞けず、今までずっと我慢してたんだよ。ふふふのふ、まだまだ冒険は終わらないのだよっ!
「どうやらアレは一種の偽装のようで、我が国の迷彩装置に近いと思われます」
「おおっと?!」
なかなか面白い事が待ってそうだぞ。
次は不思議な力場の正体に迫る、って感じで行こうかっ! わーい、特番特番!
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