第122話 あっちこっちでどっかんどっかん
ずごごごごごぉぉぉぉおおぉぉぉっっ!
「走れぇぇぇぇぇぇぇっ!」
「「「「おおぉぉおおぉぉっ!」」」」
どうもタツローです。お元気ですか? わたしは今、絶賛かけっこ中です。
「やばいやばいやばいやばいっ!」
「オジキィ! さっきのよりでかいって!」
「いいから走れっ!」
酷暑と呼ぶには温度がバグっている砂の惑星ローズピンクに着陸してから半日。惑星地表上の部分スキャンをしながらの探索を続けていた俺達であるが、その歩みは遅々として進まない。その原因がアレだ。
きぃぃぃいいぃぃしゃあぁぁああぁぁっ!
「うひぃっ?! み、耳がぁぁっ!?」
「だからあれほど遮音しとけと」
「タツローさん! バグが落ちてくるっ!」
「総員散開っ!」
「「「「うおぉぉおぉぉぉっ!」」」」
ローズピンクには、それはそれはでっかいミミズがおるんやで。全長三百メートルオーバーの個体がゴロゴロいる。そいつらが、俺達の振動を感知して、地中からどっかんどっかん飛び出してくるんだわこれが。んで、その理由が、同じく巨大昆虫のジャンピングバグと呼称している巨大カマドウマ、全長三メートルオーバーの気色悪い奴を食べようと襲ってくるらしい。
なんで半日程度でそんなに詳しく知っているかって? ははははは、着地するのと同時に襲われたからさ! そして、とっさの判断で動いてくれたロドム兄貴の鉄壁防御でなんとかいなし、隙だらけの胴体へ俺とアベルちゃんとカオスちゃんで突っ込んで、レーザーブレイドで輪切りにしてやった。その死骸をマヒロに調べてもらって、それなりの生態が判明した、というのが種明かしだ。
「こっちへ! こっちは岩場だから大丈夫だっ!」
「ナイスゥー! 走れ走れっ!」
地面から少なくない数のミミズが、にょきにょき生えている状態は気持ち悪いの一言。その光景を尻目に、俺達はなんとか頑丈そうな岩場地帯へと駆け込んだ。
「主食は鉱石だって話だったのに、なんでバグを襲うんだ?」
「知らねぇよ、俺に聞くなよ。こちとら傭兵上がりの学無しなんだ。そんな事、答えられるわけねぇだろ」
「そりゃそうか」
同じ苦難を乗り越えまくっているからか、かなり班としての練度というか距離感は近い。うん、良い事だよ。
「す、少し作戦を練る。き、決まるまで小休止で」
「「「「イエッサーッ!」」」」
三十分近く全力疾走したからね、強化と調整をしているとはいっても、それなりに体力と精神力は持っていかれる。こうやって休める状況ならガンガン休ませる、良い感じに班の管理が出来ているな。さすがロドム兄貴。
「陛下、アンテナの設置完了しました」
「お、ありがとう。やるねぇ、こっちの指示が無くても動いてくれるなんて」
「いえ、これが仕事ですので」
ロドム兄貴の班に在籍している工作兵志望の人に、技術的なあれやこれを頼んでいた。こうやってベースキャンプと直で繋がるアンテナを設置するのも彼の仕事だ。
「こちらタツロー、ベースキャンプ聞こえるか?」
『こちらベースキャンプ、通信良好。端末のデータを送信してください』
「あいよー。頼む」
「はい、これまでの行動のデータとスキャンしたデータを送ります」
こうやって活動域を拡大しながら、ベースキャンプにこちらのデータを送って、地図の製作をしつつ解析も行うっていう感じで進んでいる。本来ならば、とりあえず目標とする方向へ走りながらスキャンをかまし、時々アンテナを設置してデータを送る、という予定だったんだが、あの巨大ミミズのお陰でそれどころじゃないっていう。表示されている地図の迷走ってか、ジグザグ具合が俺達の苦労を物語っているぜぃ、ちくしょーめっ!
「ど、どうします?」
「うーん、帰りは楽に戻れそうだから、もうちょい進むかね? 大丈夫そうか?」
「へい、まぁ、うちらは元が元ですから、これぐらいなら問題ないですぜ」
「行けますぜ! 大将!」
「ちょっと楽しくなってきたしな」
「だな」
タフな奴らである。まぁ、こいつらは特にガイツ君が推薦してきた人材だけあって、戦闘という一点では信用できる。しっかりタスクもこなして二等翼士長まで昇格してるからね。問題などあろうはずもない。
「ベースキャンプ、とりま後二時間程進んで、何もなければ引き返す感じで行動する。次の通信は多分二時間後だ」
『了解しました。こちらはアベルさんがしっかり護衛してくれているので問題はありません。お気を付けて』
「あいよー」
休息をしっかりとり、水分とカロリーもスーツの内部機能で補給し、俺達はそれじゃぁ行くかと立ち上がる。
「陛下っ! 上っ! 上っ!」
「バグが飛んで来んなよっ! 走れ走れ走れっ! ハリハリハリハリハリー!」
「「「「うおぉぉおおおぉぉぉっ!」」」」
行くって瞬間に落としてくる。さすが未開の惑星、油断出来ないぜ。
「冒険って感じだなぁっ!」
「陛下……なんてのんきな」
「いやいや、俺は楽しいぜ!」
「俺も俺も!」
「ま、まあ、節度を守ればね」
「皆、オジキ色に染まっていく」
「あ、あははははは」
さーって、とっとと手がかりが見つかると良いんだけどな。それなりに時間は必要かね。やれやれだわ。
○ ● ○
「聞き間違いだろうか? 今、何と申されたのか、確認してもよろしいか?」
『何度でも申し上げますよ。この度、ルドッセルフ・エンブラ・ヴェスタリア陛下が、悪政に苦しむ民の為に立ち上がり挙兵されました。つきましてはヴェスタリアの円卓を守護する騎士の一角であらせられる、トリスタン卿ルブリシュの血統であられるルータニア殿も、栄光ある陛下の尖兵として参加いただけたらと』
凍えるような、背筋がパリンパリンに凍りつきそうな程の、零度以下の殺気を放出しながらも、月が霞みそうなくらいに妖艶な微笑みを浮かべているルータニア。その姿に、ブリッジクルー達はなるべく視線を合わせないよう努力していた。
「我々への宣戦布告と受け取っても?」
『これはこれは手厳しい。ルドッセルフ陛下の鑑定結果はお見せしたはずですが?』
「話にならないな」
ルータニアが王国宰相を騙る男の台詞をバッサリ切った。その断言に、王と宰相の表情が引きつる。
「ル・フェリはどうしたのだ? 偽物」
『ル・フェリ? はははは、これはこれは、何を申されるかと思えば、お伽噺の妖精を持ち出すとは滑稽な』
「滑稽? 貴様こそ滑稽だ。我々円卓の騎士団は、別名妖精の守護者と呼ばれている。さらに言えば、初代国王陛下、妖精王アーサー・ペンドラゴン・ヴェスタリアは、数百の妖精と契約をしていたという事実がある。貴様こそヴェスタリア王家に連なる血筋の者なのであろう? どうしてそんな事を知らぬのだ?」
酷薄に冷徹に冷酷に、絶対零度にまで凍えた瞳で、妖艶に微笑むルータニアの存在に、王族を詐称する者と、その補佐役を勤めているらしい小物が冷や汗を流す。
「それから、その田舎コロニーの土産物屋にでも売ってそうな勲章。これ見よがしに見せつけていると恥をかくぞ?」
『ぶ、無礼なっ! これは王家の象徴、金剛赤鉱――』
「本物はな、このように美しいのだ」
自分のアイデンティティを馬鹿にされ、顔を真っ赤に染め上げて反論しようとしたルドッセルフに、ルータニアはそれを手に持ってヒラヒラと振って見せる。ルドッセルフの胸にある赤黒い、小汚ない金属の勲章と、光の反射でその煌めきの色を七つに変化させる、美しい真っ赤なメダル、どちらが本物か鑑定するまでもなく分かるだろう。
『後悔する事になるぞ、小僧』
「ほぉ、それが本性か。存外、小物よな」
『貴様ぁっ!』
「後悔な、我々にその味を思い知らせられると良いな? 偽王よ」
『貴様は敵だっ! 覚悟しろルブリシュの敗残兵どもがっ!』
通信が一方的に切られ、艦橋はしばらく無音のまま沈黙する。やがて、ルータニアはおもむろに立ち上がると、ブリッジクルーに問いかけた。
「奴らは我らが王か?」
「「「「否っ! 否っ! 否っ!」」」」
「我らが従うべき王は奴らか?」
「「「「否っ! 否っ! 否っ!」」」」
「この戦いに異議ある者はいるか?」
「「「「……」」」」
愛すべき忠臣達の返答に、ルータニアは満足そうに頷いた。
「我らが王を詐称する愚か者を、我らが手によって討つ。これはトリスタンの名を継ぐ、我らルブリシュ騎士団の責務である。ファントム・ルミナウス抜錨!」
「「「「おおおおぉぉぉぉっ!」」」」
忠誠心が天元突破している騎士団は、わざわざ粉をかけてきた詐欺師へ、全勢力ですり潰しに向かう事が決定した瞬間であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます