第121話 砂の惑星ローズピンク
苦労したフルスキャンのお陰で、トリニティ・カーム内には三つの恒星以外に、五つの惑星がある事が判明した。
目視で確認できんじゃん? って思うじゃん? うん、それには空間の歪みってのが邪魔をするのだよ。超重力に超磁力に電磁パルサーも邪魔をする。何せトリニティ・カーム全体が常に歪んで見えるし、オーロラが舞っているように見えるし、可視不可視な光線が常に乱舞している状態。直近の物体ならば目視出来るが、それ以外は半径二十メートル位が限界のセンサーを頼りに動くしかない、と説明すれば分かっていただけるだろうか?
だもんで、惑星があったという情報は、かなりの驚きをもって迎えられた。主に帝国要人三人には。
「三つの恒星を便宜上、アイン、ツヴァイ、ドライと呼称しますが、アインとツヴァイの間、比較的浅層にあるクララベル男爵のプラント近くを、皇帝のレガリアが通り抜けた、という情報があります」
モニターに表示されるトリニティ・カーム全体図を指し示し、マヒロが淡々と説明する。ちなみにアインとツヴァイがある方面はアルペジオ方面と呼称されていた。平面的に見れば真東だからって理由らしいけど。
「比較的浅層にある惑星、この崩壊した月にはいません。こちらはフルスキャンで惑星全体をスキャン出来ましたので、それは確定しております」
アイン、ツヴァイの真ん中に挟まれるように存在する惑星。便宜上月と呼称して説明しているが、ゲーム時代、崩壊している惑星がほとんど○○ムーンとか壊れた月とかって名称だったので、ついつい俺がそんな事を呟いた瞬間に、こいつの名称が確定した。
「その次の惑星、凍えた惑星もスキャン出来ましたので、こちらも候補から外れます」
崩壊した月を直線的に抜けると、その先には凍えた恒星ツヴァイの影響から、惑星全体が凍った星があり、そこもスキャンが完了。さらっと説明して流しているが、この惑星の地下には大量のヴェダルグス鉱脈が埋まっており、ここの開発は決定している。ぐふふふふ、ミディラナイトばっかり集まって使い道に困っていたから、凄い渡りに船である。
「そのまま直進したと仮定しますと、ちょうどその進行方向上に、少し奇妙な力場が発生しており、これに弾かれたと仮定すれば……皇帝陛下がいるのは、ここです」
ツヴァイとドライの間より、かなりドライよりの惑星。灼熱の砂の惑星。そこをマヒロは確信をもって指し示した。まぁ、せっちゃんと愉快な仲間達総出で、集中して演算しまくったら、八割方ここだろうと出たので、ほぼ確だろうって感じだ。
しかし問題は、妙な力場って場所だ。どうにもトリニティ・カーム的なメカニズムから外れた存在に感じられる。この違和感はせっちゃんを筆頭とした生きる演算装置一同も感じており、現在目下調査中である。もちろん帝国側には教えてません。
「失踪してから随分と時間が経過してますが、大丈夫でしょうか?」
「ははははは、アイツがその程度で死ねるなら、君らはもっと楽に帝国を運営出来てたと思うけど?」
「いやまぁ、それはそうなんですが」
皇帝トゥエイン・エフェリア・トゥリオ永遠帝。馬鹿丸出しで、オツムがあっぱらぱーで、ありとあらゆる面で残念な、帝国という国家全体を掻き回すクソガキなのに、これ程本国及び周辺諸国の恐怖として君臨している理由、それは彼の不死性にある。
それもそのはず、あれは俺を除外したマッド共に改造手術を施された完全機械生命体だからだ。墜落した程度では壊れもしないし、放置されたからといって故障などしない。アレを所望した女性に、壊れず死なず変わらず、というオーダーを愚直に組み込んだマザコン機械仕掛け人形だ。だからこそ、ずっと迷惑をかけ続けていたんだろうけどさ。
「さてじゃぁ拾ってくっかね」
俺はそう言って、後ろで待っていたアベル君とロドム兄貴に視線を送る。二人はすでにガッチガチにパワードスースを着込み、完全装備で待機していた。
「「「よろしくお願いします」」」
深々と頭を下げる帝国重鎮三人に、軽く手を振りながら、俺達はその場から立ち去った。
○ ● ○
探査船に追加装備をくっ付けて、アベル君が率いる班とロドム兄貴が率いる班を乗せ、俺達は砂の惑星、ローズピンクへと向かっている。
「何故にローズピンクなんですか?」
今回は未知の惑星へ乗り込むとあって、ミクちゃんとリアちゃんも非戦闘タイプのパワードスーツを装着している。まぁ、ナイト役のカオスちゃんがバリバリの戦闘型パワードスーツ着てるから、何かあっても大丈夫だろう。彼も何だかんだ白兵戦とか近接戦闘の訓練はクリアーしてるしね。
「一番最初に観測したアビィが、綺麗なローズピンクだ、って言ったのが命名の理由だな。実際に本当に真ピンクだし、ほれ」
「うわぁーっ!」
「何て綺麗な……」
比較的楽なルートを採集せずに一直線で進んだから、すぐに目の前にその惑星は姿を表した。
「目が痛くなる」
「ま、実際のところは、地表部分の砂がケイ素系の砂、多分水晶っぽい鉱石が削れた奴がドライの太陽光を乱反射して、ああいう色に見えているんだろうけど……」
「何か問題でも?」
「サーモ関係の数値、確認してみ」
「「……うわっ?!」」
惑星地表の温度を確認した二人が、女性にあるまじき声を上げて顔を引きつらせる。さすがに恒星レベルとまではいかないが、超高温なんてレベルを超えた温度は確認できる。あいつ、服なんて燃えて、真っ裸で生活してんじゃねぇの、これ。
「ジェネレータを積んだ拠点装置なんて持ってきてどうするんだろうって思ってましたが……」
「必要だろ?」
「はい」
そう、追加装備とは、持ち運び出来る拠点、基地といっても良いレベルの装備を持ってきたのだ。何しろ、ゲームでも砂の惑星は開発環境最低最悪な感じだったし、基地が無いと長時間活動なんて自殺しに行くようなものだ。安心安全、絶対必要。
「さてはて、突入するから予想できる範囲で侵入角度を計算してくれるかい?」
「失礼しました! すぐに出します!」
「ゆっくりで良いよ。ベストじゃなくてベターぐらいで良いから」
「こちらでも補助します。マヒロさん、一部の計算をお願いしてもよろしくて?」
「承ります」
地表での活動とあって、そのフォローとしてマヒロも連れてきている。せっちゃんとルルが盛大に駄々をこねたのだが、さすがに嫁達に止められて現在は不貞腐れて寝ている。ま、ガチで危険だから仕方ないね。
「マイロード、算出完了」
「あいよー。おう野郎共、覚悟は良いか? これから惑星に突入する、きゃーきゃー悲鳴を上げるんじゃねぇぞ!」
『『『『おうっ!』』』』
カーゴ内に通信を入れ、マヒロ達が計算してくれた数値を確認しながら突入角度を調整する。細かい部分はマヒロ達がフォローしてくれるから、そんなにガチガチにならなくても大丈夫なのは助かる。
「よし、行くぞっ!」
惑星の大気圏に突入すると、船の外側が燃える。凶悪な音を立てて船が、ガタガタ揺れる。普通ならこの状況は恐怖の対象なんだが、俺はかなり大好きだ。
「ふははははははー、これぞ大気圏突入イベントの醍醐味だっ!」
やー、きっと昔のアニメとかの影響だとは思うんだが、どうにも大気圏突入ってのは何回やっても燃える。
「熱圏を抜けます」
「おう」
ボーボー音を立てて燃えていた外側が静かになり、ガタガタ揺れていた船が安定する。そして目の前に、砂の惑星の地面が見えてきた。目が痛いくらいにピンクの光が乱反射し、距離感を狂わせる。
「オートバランサー作動」
「オートバランサー正常に作動しました」
地表との距離をセンサーが測り、適切な距離で、地表と水平になるように船を動かす装置を作動させる。これで突入した速度で地表にドボンは回避、と。
「スキャン開始……拠点を設置できそうな場所をピックアップします」
「モニターへ」
「了解、モニターに設置可能ポイントを表示」
「マヒロ、おすすめは?」
「……適切なポイントは、今色を変えた場所になります、マイロード」
「よし、そこへ向かうぞ」
はぁ、やっぱり宇宙って言えば未知の惑星での冒険よなぁ! でもなぁ、冒険してる暇がねぇってのがなぁ。あいつを探すのがついででもいいかな?
「見つかるといいですね」
「ソダネー」
心配そうなミクちゃんの言葉が痛い。
さっくり見つかるといいんだろうけど、あいつの事だから、絶対アホな事して余計な手間を増やしてる予感がするんだよなぁ。はー面倒。
面倒事の予感をひしひし感じながら、おすすめされたポイントに到着し、積んでいた装置を設置して、俺達はいよいよ馬鹿の捜索に乗り出すのであった。
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