第116話 いっぱいアイテムがあるとそっち集めて、目的を忘れる(あるあるあるある)
残念な喜劇、と呼ばれている現象がある。それを説明するには、辺境南西の事情をある程度知らなければならない。
説明するまでもなく、トリニティ・カームという宙域は過酷で恐ろしい。ある意味、不思議でも何でもない超現実のバミューダトライアングルと言っていいだろう。辺境南西の歴史は、このトリニティ・カームとの戦いの歴史でもある。
何が言いたいか、過酷であるという事は、優秀じゃない遺伝子は淘汰される傾向にある、そこが重要になってくる。
優秀な遺伝子が残る、という事は、頭脳明晰、運動抜群、容姿端麗な遺伝子が残って昇華し続ける、という事になっていくわけだ。
で、残念な喜劇に戻るが、これが何を揶揄しているかと言うとだ。辺境南西にいるほとんどの人が美男美女で、その顔で口から飛び出してくるのがいわゆる南西訛りと呼ばれるアレだ。つまり顔が良いだけに残念で笑える、という意味らしい。
なら必要に応じてしゃべり方を替えればいいんじゃねぇ? と思うかもしれない。しかしこれが難しい。
南西訛りであるが、実はこれ、特殊音源言語と呼ばれる独特な発音法のしゃべり方なのだ。通信が不安定であったり、ぶつ切り状態であったとしても、なんとこれ、普通に言葉が通じてしまうという不思議言語なのだ。つまり、この訛り、これすら南西の人々にとって苦労して産み出した戦いの歴史そのものであり、トリニティ・カームの一部に勝ったという証明でもあるわけで、それを恥ずかしいからやめれ、と言わたらそりゃぁ怒るだろう。
他の地域から見たら取るに足らない理由であるが、当人達からすれば歴史そのものな訳で、嘲笑されようと馬鹿にされようと貫き通すのは当たり前となる。これが転じて、残念の喜劇に頑固者が出てきた、とか言われるらしい。
「大変なんですね」
『大したことでは無い。彼らは理解していないのだ。もしも我々南西の貴族が、一斉にトリニティガスの提供を中止したりすれば、この帝国そのものが止まるという事実をな』
「そうですよねぇ。実際に死活問題にならない限り、そういったモノって分からないもんだしなぁ」
『ふふふふ、若いのに分かってるじゃないか』
トリニティ・カーム内部の探索に、南西貴族の採集プラントの近くで作業させてもらっていたんだが、これがまぁ、話が分からん。何となくのニュアンスは理解出来るんだが、ニュアンスだけで会話とか相手に失礼過ぎるってんで困っていた。そんな時に、残念な喜劇と一緒に訛りの事をクルルに説明され、それを聞いたカオス君が、調子をわざとおかしくした通信デバイスを通して聞けば良いんじゃね? という発言から、俺達は仮想デバイスを起動した状態で、南西の方々と会話が成立するようになった。
ごめんよ! クララベル子爵閣下! 会話が成立しない状態で、通らせろ、は確かにダメだわ。
『しっかしライジグスは凄いんだなぁ。最近では中層域にやっとこさ行けるようになったけど、そこで採集だの採掘だの採取だの出来る余裕なんか、こっちには無いってのに』
「帝国とも同盟関係にありますから、ご要望があれば情報の提供はしますよ?」
『いんや、ずっと南西の人間達で進めてきたんだ、ズルはしないで努力し続けるさ』
「でしょうね」
すっかり顔見知りの仲良しになったプラントの責任者、クララベル子爵の弟さん、エルメットさんと会話をしながら、本当はトリニティ・カームの深層域で入手したブツを、アイアンハンマーの倉庫へ搬入している。いや、いきなり深層行ってますてへぺろ、なんて言ったら殴られそうだったので、ちょっと色々配慮してみました。
『突然、見学したいなどと無理を言ってすまなかったね』
「いえいえ、大した事ではありませんよ」
こっちもこっちでプラントを見学させてもらったしね。いやいや、あれを全部ゼロから前提知識無しで作り上げたってのが凄い。犠牲者も多かったろうに、あの情熱と決意と覚悟は勉強になった。
『それでは失礼するよ』
「はい、また食事会でも」
『ははは、君のところの食事は美味しいからね。いくらでも呼ばれるよ』
「是非に」
エルメットさんを見送ると、その瞬間を待っていたようにゾロゾロ白衣の人間が、どこに隠れていたんだというレベルで出現する。
「本来、君達がするべき案件なんだが?」
ちょっと王様モードっぽく言ってみるが、白衣連中は吹けもしない口笛を吹く振りをして、すっとぼけたように明後日の方向を見ている。そうなのだ、本来エルメットさんをエスコートするのはこいつらだったのだ。
「陛下が悪いんです! こんな! こんな! ああぁん! す、素敵っ!」
「いちいち悶えるな」
まぁ原因は俺なんだが。
最近、とみに色々やった事で、ゲーム時代にせっせとストックしていた資材がちょっと凄い勢いで減っていて、その事もあって、目の前にずらぁっと補充できる資源があったら、そりゃぁかき集めるよね? って感じで集めまくっていたら、クルル達研究者が食いついてしまった。
俺がせっせと集めた資源が、既知の未知、存在その物はレガリアに加工された状態であるが、原材料はどこに存在しているか不明、という伝説の金属の原材料を持ってきたもんだから、そりゃぁフィーバーしてしまい、試験運用そっちのけで研究に走ってしまったのだった。
んで、暇さえあれば未加工の岩塊を、愛しい赤ん坊のように抱き締めて頬擦りするクルルが、はぁはぁ興奮している姿を見せられる、というのが最近の日常だ。やっぱこいつ変人だわ。
「とと様はかがみをみた方がいいと、ルルはおもうの」
「そうじゃのぉ、どっちかつーとタツローも確実に変態寄りの変人じゃしのぉ」
「ヘイヘーイ! 言ワレテルズェ! ダゼ!」
「うるさいよ、泣くよ?」
ちょっと最近構ってあげられなかった反動か、ルル達の当たりが強い。お父さん、ちょっと悲しい。
「でも陛下、いいんですか? ずっと資源回収ばっかやってて」
「ん?」
パワードスーツを着て、資源が入った大型のコンテナを運ぶアベル君に言われ、何が? と首を傾げる。
「……あの、まさかとは思いますが、ここに来た目的は?」
「そりゃぁ、最近目減りし始めた必要な資源の調達だろ?」
「……冗談……え?! ガチで言ってます?!」
「いやー助かったよ。最近、加速度的に資材を使ってたから、かなり不安だったんだ。やっぱり倉庫には、溢れんばかりに資材がないと手が震えるよね!」
「あ、良かった。冗談だったんですね」
いや、うん、一瞬、素で忘れてたとは言えない。聞かれた瞬間は、確実に俺、炭坑夫モードだったわ。
「オジキの操縦を間近で見れるし、マニュピュレーターの動かし方とかも勉強になるから、このままでもいい」
「「いやいやいや、グランゾルト様が心労で死んじゃうから!」」
「そ、それに、早く見つけてあげないと、こ、皇帝さんも不安だろうし」
「それは無い」
「無イナーダゼ」
「「ないないないだぜぃ!」」
あれが不安? そんな柔な奴じゃない。あれが不安になる時は、自分のメモリーが消される瞬間だけだ。その瞬間まで、奴はマンマァ! をやり続けるマザコンだ。
「まぁ、採集とかの合間に、ちゃんと調べてはいるんだけどな」
というか、三色恒星で行動する場合、絶対に探知系と感知系、それに自分の船の安全装置は全開にするのが基本中の基本だ。それをしないとさすがに死ぬ。なので、あっちこっちうろうろしているだけで、必ずどこかで何かを受信するはずなのだ。
「とと様? それってこーてーさんしってるぅー?」
これがここでの基本だ、と説明したらルルが恐ろしい事を聞いてくる。
「……えっと、どうだろう?」
え? マジかっ?! あれ?! 結構、基本中の基本だと思っていたけど。
「知ラナイ、ニ全財産賭ケルゼ! 凄イ分ノ良イ賭ケダゼ!」
「うぉ、ちょ、ちょい! え? マジでっ?!」
大慌てでアリアンちゃんに通信を繋げると、どうやら七大公爵達の定例会議中だったらしいが、急ぎならと応じてくれた。
「あ、あのーつかぬ事をお聞きしますが……トリニティ・カームみたいな三連恒星とか三重恒星で、船の探知、感知と安全装置はリミッターギリギリの出力で運用するって、そのぉ、常識ですよね?」
『はい?』
あ、これ、知らないパターンや。まずい!
「一回、トリニティ・カームに突っ込んで、戻ってきたって聞いたけど、その時の状態ってどんな感じだった?」
『は、はぁ、珍しく混乱していましたが』
「……あー、すまん、壊れてたらごめんね」
『ちょっ?! えっ?! 国王陛下っ?!』
アリアンちゃんに謝り、すごすご通信を切る。まじかー、って事は本当に何も考えずに勢いのまま突っ込んだ、って事?
「予想してたより馬鹿だった」
「ウン、知ッテタ、ダゼ」
やべ、前提条件が違ってた。こりゃぁ、本腰入れて探さないと、マジで色々壊れてるかもしれん、主に精神回路関係が。
「参ったねこりゃぁ」
頭をポリポリ掻きながら、さてどうやって探そうか、と頭を悩ませる俺であった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます