第114話 ばっか野郎! 人助けだ!(瞳が水泳しまくり)
「あんた、僕が寝てる間に何を勝手に」
「ヒトダスケダヨー?」
「……その場の勢いだったと?」
「ヒ、ヒトダスケダヨー?」
「後先考えてなかったと?」
「ヒ、ヒトダスケダッテバヨー?」
「「「「はぁ……」」」」
レイジ君の追求に返事をすれば、彼と共に溜め息を吐き出す嫁達。いやうん、正直すまんかった!
「ま、まぁ、聞いてくれ!」
「あ?」
「聞いて下さいお願いします!」
いやちょっと、義理の息子が怖いんだけど。何あれ反抗期? 反抗期なの? やだぁんこわぁーい。
「クネクネしてねぇで説明」
「アッハイ」
ちょっとした場を和ませるジョークだというのに、怖い事怖い事。
「三色恒星系って知ってる?」
俺がゼフィーナ達に聞けば、彼女達は首を横に振り、レイジ君に視線を向ければ、彼は非常に渋い表情を浮かべている。どうやらレイジ君は知っているようだ。
「三連恒星とか、三重恒星とかって呼ばれている星系と言えば、お義母様達でもご理解いただけるかと」
「「「「ああー!」」」」
レイジ君の補足でゼフィーナ達が納得の声を上げる。どうやらこちらではそのように呼ばれているらしい。
「そこに皇帝が逃げ込んだ。いや、家出した」
「「「「はあっ?!」」」」
さっきは逃げた皇帝を連れ戻す的な説明しかしてなかったから、俺の言葉にゼフィーナ達は悲鳴に近い声を上げ、レイジ君は胃の上を押さえながら顔をしかめた。すまん、君の胃痛、どうにかせんとあかんね。
「旦那様。三連って異常な重力やら磁力やら電磁パルサーやらで、レガリアの船でも危険な地帯だと聞かされているのですが」
「皇帝の船なら入れはする。ただ、あそこでまともに操縦できるかは疑問。かなり特殊な技量が必要だからなぁ、あそこって」
「……ちょっと待ちなさい。アンタ、その口振りだと、行った事ある?」
「特殊な金属だとかガス、それにかなり使い勝手の良い触媒なんかゴロゴロしてる楽園だし、生産関係の人間ならむしろ行かない人間は皆無でしたが何か?」
「何かじゃないわよ何かじゃ……」
むしろ生産職の人間の操縦技術が、下手な戦闘職よりも上だったりする最大級の要因だったりしたんだよ。戦闘系の操縦技術に転用できるモノじゃなかったけどね。
それに戦闘職の持ち込み素材なんてたかが知れてるし、分かってる戦闘職の人なんかは、そこの素材回収込みの値段を含んだオーダーメイドをしたもんだ。生産職を炭坑夫なんて呼ぶ人もいたけど、それが浸透して、ちょっくら炭坑夫してくらぁ、なんてセリフも生まれたしなぁ。いやぁ、懐かしい。
「まぁ、あいつは放っておいても死にはしないだろうし、遭難していたとしても、そこで反省しなさいと放置しても良いんだけども」
「どんなに馬鹿で阿呆な象徴であっても、帝国にとって、皇帝不在は色々と問題が多い、ですか?」
「そうなんだよ」
自分とこの嫁にお腹をさすられ、嫁達の補助を受けながら胃薬系の薬を飲みつつ、レイジ君が青い顔で言う。いや、ごめん。君のその心労、俺の責任ではないけど、一応、あんな馬鹿でもギリ身内だし、なんかもうすまんかった!
「状況は理解した。そして旦那様が直接出向かなければならない事態なのも納得した。それで?」
「ん? それでとは?」
「誰を連れて行くのだ?」
何か嫁達が凄い圧を込めた視線でこちらを見てくるんですがヤダー。
「ええっと?」
俺が言い淀んでレイジ君を見ると、多少顔色が復活した彼は、ざまぁとでも言いたげな表情で笑ってやがる。いや君、本当に反抗期じゃないか? いやまぁ、酷使してる自覚がある分、反抗するのも分かるけども。せめて愛情ある態度で反抗して!
まぁ、冷静に考えよう。うん。
あそこはソロでも行けるんだけども、今回は探索とついでにちょっと不足しそうな物資も採取採掘採集しておきたいから……
「まず三連? 三重?」
「もう三色でいいんじゃないの?」
「んじゃ三色恒星系の影響を受けない外側に、拠点として整備と居住性に優れた船を一隻待機させて、その護衛も含めて一分隊を置いて。俺の方には、ルルは絶対来るだろ? となればせっちゃんも来るだろ? そうなるとポンポツも必要だし、せっちゃんの為にマヒロも必須。今回、火器関係は必要ないから、オペレーターも戦闘寄りかは補助特化が望ましい。あ、マニュピュレーター操作が必要になるからカオス君と彼の嫁達で大丈夫かな?」
ライジグスの一分隊規模の艦隊は、旗艦一隻、重巡洋艦一隻、巡洋艦二隻、補給艦一隻というのがゼフィーナによって定められている。状況によっては色々変わるらしいけど、これがライジグス軍部での常識だ。そんなん考えて発言すれば、ファラとシェルファら正妃達がどんよりし、その他の側妃と才妃陣営が何やら盛り上がっている。
「クリスタ達は前回行けたんだから、今回は遠慮しなさいよ!」
「はぁ?! お馬鹿ですの? 前回はずっと待機状態でスイートでラブリーな展開なんてありませんでしたわ! ノーカンですノーカン!」
「その理屈で言えば、メイド長とかも遠慮するべきですよね?」
「あらあらおほほほほ、ケンカなら最低価格で買取しますの」
「あ、あの! ケンカはダメですケンカは」
「マリオンは遠慮するって言ってるのに、大人気ないですよねぇー」
「ああああん? 小娘表出な!」
いや、これ、何だろう?
「具体的にはどの分隊を連れていくので?」
「え? あ、ああ、そうだな。アベル君とロドム兄貴は連れて行こうか。マルト君はもうしばらく時間が必要だけど、あの二人はそろそろ秒読みだし。となると必然的にあの二人の所属している部隊を運営できるとこかなぁ」
「それはそれは、ええ! それは良いですね!」
ニヤニヤ笑ってたレイジ君が、俺の言葉に大きく口が裂けるような笑顔で頷く。そして俺の言葉に一気に静まる嫁達。
「あ、あのー陛下?」
「どうしたい?」
「分隊って軍部の?」
「え? 何を当たり前の事を」
「陛下が行くなら、近衛艦隊では?」
「なんでわざわざ俺の存在を喧伝するような部隊運用せにゃあかんねん。しかも目的が皇帝の家出捜索だぞ?」
「そ、そりゃぁそうだ。あ、あははははは」
ちなみに、俺の嫁達の軍部での扱いは近衛で、もうそれだけでどんな状況でもひっくり返せるという分類。こんな阿呆な案件で連れていく存在では、もちろんない。
ふっふっふっ、ルナ・フェルム事変の頃とは違うのだ。いやー本当、人手が足りなくて嫁達には苦労をかけまくったからね。文官はまだまだ人手不足だけども、武官はガンガン増えたから、そっち関係で苦労を強いる事はないのだよ。うん。
「パパンって変なところでお子ちゃまですよね?」
「いきなりディスる?! つかパパンやめい」
「いや、僕も結構鈍いって怒られますが、目の前で自分よりも凄い人を見ると、いやさすがにそりゃねぇだろ、ってなるもんだなぁって」
「はい?」
俺がキョトンとした表情で周囲を見回せば、何やらレイジ嫁軍団が俺の嫁達を慰めている光景が。え? 何これ? 何?
「となれば、アベルの所属する第五分隊のアッシュ二等大翼士のところが良さそうですね。それと新造の工作艦の試験運用にも良さ気です」
俺の困惑など無視し、レイジ君が淡々と決めていく。
「アベルとロドムにはすぐ通達して、そうですね、あの二人の世話係もつけましょうか。ああ、何て僕って友達想いなんだ」
「その友達って同類に聞こえんだけど」
「HAHAHAHAHA、ナカヨキコトハウツクシイーデスネー」
「レイジ様、最近、とてもお父様に激似してきましたよ?」
「うぐぅっ?!」
「おぉぅいぃ! そこの夫婦! 失礼だな! それと夫の方! ショックを受けるなショックを! 泣くよ?!」
凄い混沌とした様相の現場。全く収拾は付かず、子供達が腹を空かせて呼びに来るまでずっとワチャワチャしてました。そして溜まる仕事と。何をやってるんだか。
こうして家出皇帝探索という、心底しょうもない案件に、俺達は全力を尽くすのであった。いや、本命は採取採掘採集だけどな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます