第112話 日輪大同盟 皆、仲良くね。
「いや、うん、何ちゅうか……さすがに怖いわ君」
「褒め言葉ですか?」
「まぁそうなんだけども。どこから描いたよ、今回のあれこれ」
ナノのムーンライトは女子会用戦艦、というコンセプトであり、女子会の要素を全て兼ね備えた戦艦なのだ。意味が分からん? 大丈夫、俺も分からん。そんな戦艦なので、女の子(ここ重要。年齢は気にしない)達がきゃっきゃうふふするべき要素が完備されている。なので、こいつには天然(本当は合成されたモノだけど)の温泉があったりするのだ。
大した武装を積んでいないのに、やたらと超強力で容量のデカいジェネレータを積み込んでるなぁとは思っていたが、空間拡張機能を使うための代物だったらしい。お陰で温泉は亜空間に固定された拡張空間にあり、ガイツ君達の艦隊隊員全員が入っても大丈夫な広さであった。つか広いを通り越して広大だな、こりゃぁ。温泉が湖に見えるし。
「オジキの指示で考案したんじゃないんですかい?」
「俺がそこまで賢く見えるか? 俺は行き当たりばったりのドタバタよ。少しは考えるけど、そこはほら、適材適所って素晴らしき言葉があるし」
「考えてくれてもいいんですよ?」
「HAHAHAHAHA、キミオモシロイネー」
色々あって疲れただろうから、という事で関係者全員で風呂でも入んべ、ん? 温泉、お誂え向きじゃねぇかぃ、っていう感じである。今ここって感じだ。
俺はレイジ君とガイツ君、それにアベルちゃんにロドム兄貴、マルト君にカオスちゃんっていう集団で固まり、その近くにはルブリシュのルータニア君がいるんだが……ほら、彼、すんごい女顔だから絵面がやっべぇんだわ。なので俺らがカーテンの役割をしている。腹筋バッキバキの細マッチョなんだけど、温泉補正か妙な色気があり、ピュアな男達の精神がヤバイので。男でも良いとか言いかねない雰囲気があったし。
「でも良かったんですかい? あのアトリの野郎の拠点、フォーマルハウトの奴らにくれてやって」
「こ、こっちまで引っ張って曳航して、そ、そこまでサービスしましたもんね」
「あー、共和国の艦船も押し付けたんでしたっけ?」
ガイツ君にロドム兄貴、それにアベルちゃんの言葉に、俺はレイジ君と顔を見あせて苦笑を浮かべる。
「君ら忘れてるだろ? ルナ・フェルムの所有権、パパンが持ってるんだよ? パパンがその気になれば、今からだって住民を追い出せるんだ。保険に別の拠点を確保しといた方が安心できるだろ?」
「パパンやめい」
レイジ君の説明にガイツ君らが納得する。
「い、いや! いやいやいやいや! え?! ちょっと待ってくれ宰相殿! 今凄くさらりと斜め上エクストリームな感じで、聞いてはいけないナニかを聞いてしまったのだが?!」
我関せずを貫いていたルータニア君が、思わずと言った感じにレイジ君に詰め寄る。レイジ君はその色気に押されたように、うっとした表情を浮かべ、何やら口の中でブツブツ嫁達の名前を呟き正気を保つ。うん、本当、男の娘に見えるからなぁ、彼。俺は大丈夫かだって? ははははは、そんな半殺しでは済まなそうな危険物に反応するような度胸は無い! ドヤ。
「タ、タツローさんにルナ・フェルムの、ちゅ、中枢AIが懐いたんです」
「んで、姿形とかが幼い女の子で、モニターの中での触れ合いじゃ可愛そうだからってんで、アバターをタツロー兄貴が用意したら」
「オジキの日常、いつもの」
「まさにそれな。オジキらしいっちゃらしいんだが。その内、せっちゃんもオジキの嫁になるんかねぇ」
「おいばかやめろふらぐをたてるな」
俺達の説明に、ルータニア君が頭が痛いとばかりに頭を押さえる。
「それに、日輪大同盟を結ぶにあたり、ルナ・フェルムだけ防衛隊しか無いってのも格好がつかないでしょ? うちの国じゃ使い道の無い艦船で、その体裁が整うのなら、捨て値で売った方がお得じゃないか。これでますますフォーマルハウトは我が国への恩義で雁字搦め、いくらでも無茶振り可能。ふはははは、待ってろアリシア・ジョーンズ! 貴様も胃痛仲間に引き込んでくれるわっ!」
「やっぱおめぇ、性格悪くなったよ、兄弟」
「ぬ、抜け目が無くなった感じだよね」
「こちとら嫁が大勢いるんじゃっ! 旦那としては稼がにゃなんねぇんだ! 性格などいくらでも捨ててやる!」
「捨てるな捨てるな。お父さんとの約束だ」
「アッハイ」
いやぁ、レイジ君に色々押し付けてる自覚はあったけど、これは早めに文官を揃えてあげないとヤバそうだな。このキャラクターは俺的には有りなんだが、その内、彼の嫁達から刺されそう。うん、早急に対処しよう。助けてゼフィえもん!
「まぁこれで共和国への包囲網が完成したわけだが……カオス、どう感じるよ?」
「……んー、嫌な気配がする」
「マジか、素直に弱体化とは行かないか」
「ん? 何それ?」
ガイツ君がカオスちゃんとそんな会話をしているのを聞いて、俺が顔を突っ込むと、ガイツ君は苦笑を浮かべる。
「いや、なんつーかカオスの第六感? 勘? みたいな部分が鋭くて、結構当たるんすよ。これのお陰で何度かヤバイ戦場を切り抜けた事もあって」
「……ああ、時々、的外れな行動をしたかと思ったら、結果的に切り抜けられたっていう場面。あれはカオス殿のそれだったのか」
「そうそう。助かったろ?」
「確かにな」
ルータニア君にも心当たりがあるのか、ガイツ君の説明に納得されている。マジで? いやまぁ、シェルファの危機察知能力と同じって考えれば納得出来るか。あの嫁のアレも、大概人外レベルだし。
「でも……なんか、共和国ってのより、もっと奥っ側って言うか……嫌、というか気持ち悪いっていうか……」
「ちょっと待とうか。色々、立ててはいけない旗を乱立するのはやめろください」
「オジキがそう言うなら」
彼の感覚がどこまで正確かは分からんが、つまりはまだまだ色々あるって事だろうか。そういう意味では日輪大同盟は大正解だった、という事になるんだろうなぁ。
「シェルファさんが喜びそうですよ? とと様」
「やかましいやめろくださいしんでしまいます。てかよ、君も道連れっちゅうか渦中にいるって考えられない?」
「……あっ?! いやいやいや! え?! これ以上はいけない!」
「HAHAHAHAHA! ナカーマ!」
「おうこら兄弟! てめぇら笑ってるけどな! もうすぐてめぇらも結婚だかんな! こっち側だかんな! 笑ってられるのも今の内だかんなっ!」
「「げっ?! マジでっ!?」」
これ、息抜きになっているんだろうか? 慰労会ならぬ心労会になってはいないだろうか。特に俺とかレイジ君とか。
「ま、安心してくれって断言は出来ませんが、うちらが支えますんで、オジキはでっかく構えていてくれれば良いです」
「うん、任せて」
「あ、僕も頑張ります! 今度はアベル君に習熟度で負けないくらいに訓練します!」
「ありがとう。マルト君はほどほどにね」
君の嫁(予定)に殺されかねないからね。
「私の方も急がなければいけないと思ってます。ルブリシュが解放出来れば、ライジグスの防衛圏が大分安定するはずですし」
「そっちは手伝うよ。対等な同盟関係だしね。主に息子が」
「仕事を増やすな! いや、やりますけども! あんたもやれや!」
「HAHAHAHAHA! あいあむきんぐ! 仕事は投げるもの!」
「投げるなやっ!」
「……大丈夫だろうか」
「むしろこの状態の方が、この人達の性能は上がっから安心しろ」
「はあ……ガイツ殿が来てくれると嬉しいのだが」
「命令されればな」
俺達のバカ騒ぎは終わらない。どこまでも続くのさ! きりっ!
○ ● ○
「それで温泉ではしゃぎすぎて湯中りしたと? 馬鹿ですか?」
ムーライト、おいでやす大宴会場に横たわる死屍累々。あの後も何だかんだと楽しくて、バカ騒ぎをしまくったら、全員でのぼせました。やめてシェルファさん、その冷たい目付きは、体を冷やす前に心が逝く。
「まぁまぁ、これだけ下から慕われるトップってのも貴重なんだから、少し大目に見ましょうよ」
「そうだな。士気とか一体感とか連携とか、そう言った見えない部分での向上も望めるし、何より仲良き事は良い事だ。うん」
「でもーこれからー会議があるんですよねー? 使い物になってませんよー? 我が国の宰相閣下ー」
「「あ……」」
「馬鹿ですか? そうですか。そうなんですね」
「「ごめんなさい」」
いや、何かもう色々すまんかった!
その後、レイジ君の嫁達がペコペコ頭を下げながら回収に訪れ、彼を医療ポットに連れていったが、彼女達の視線が痛かった。すまんね。
「これで残すは、大同盟の締結の儀式的な奴と、内外への発表と。やっと帰れそうね」
「仕事は山積みだがな」
「まぁー宰相っていうー人材が確保できましたしー万々歳ですよー」
「帰ったら帰ったで、他の側妃と才妃から責められる予想図が安易に見えますが」
「「「シェルファ、だからごめんって」」」
空気感を変えようとする三人に、シェルファが冷たい目付きで言い返している。気安い関係になったようでよろしい(逃避)。
こうしてルナ・フェルムでの一連の騒動は幕を閉じ、俺達は大きな成果と人材を確保してアルペジオへ帰還するのであった。そして、待っていた書類のエベレストに絶叫をあげながら立ち向かうのであった。やめろっ! それ以上の仕事はできぬぇーっ!
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