第106話 性能の差が全てではない
Side:ルナ・フェルム監視警戒室
サミット開催中に襲撃を受け、その緊張感が残っていたのは幸いであった。自分達の倍はあろう戦力差を覆し、快勝したら弛緩しそうではあるが、上層部からの注意喚起もあって、彼らは真面目に職務へと取り組んでいた。だからこそ、その極微弱な反応に気づけたのだった。
「班長! ブランク宙域方面に微弱なエネルギー反応検知! エネルギー波形から推測するに船の反応、戦闘艦に似た感じがします!」
「うむ……そうだな、これは戦闘用のジェネレータの波形に近い。良くやった!」
「はっ! 上層部へ通達を行います!」
「速やかに、簡潔にな」
「はっ!」
きびきびと動く部下達の様子に、班長と呼ばれた女性は満足そうに頷く。それからモニターを睨み付け、うんざりした口調で呟いた。
「しつこい奴は嫌われるっての、理解しろって感じなんだけども」
共和国が嫌われる最大級の本質をついた呟きは、その場にいる全ての職員達が頷く同意を得られたモノであった。
○ ● ○
「また来たって?」
「来ちゃった♪」
「いや、男に言われてもくっそ気持ち悪い」
レイジ君がきゃぴりって感じで言うが、うん、君がやっても気持ち悪い。いや、絶賛、君の嫁達は悶えているが。
「こほん。それがですね、ちょっと危険度が跳ね上がったっぽいんですよ、パパ」
「とと様はとと様!」
「あーはいはい、ごめんね妹ちゃん」
「むふー!」
「むふーなのじゃ!」
「「「「むふー!」」」」
「何この可愛い空間……」
「いや、話を進めろや宰相」
いや確かに可愛いが。本日はずっと放置気味だった娘ちゃんが、大層ご機嫌斜め状態だったので、全力で構っているのだが、それに釣られて他の年少組達にもむしゃぶりくかれているという状況。つまり全身に幼児幼女を団子のようにくっつけた状態なのだ。はーはっはっはっはっはっ! お父さんは大変なのだよ! いやマジで!
「先んじてガイツ艦長に防宙監視網を作って警戒をしてもらっていたんですが。別件で本国の方から昔馴染みの傭兵仲間からの情報リークがあり、それを踏まえた上での警戒だったそうで」
「ほうほう」
「「「「ほほうほう」」」」
「か、可愛い――」
「天丼はいらんねん、進めて」
「こほん、失礼。何でも気になる情報があって、それをこちらに共有していただいたんですよ。これです」
レイジ君からデータパレットを渡され、それを眺める。俺の様子を見て真似をする年少組達。それを見て悶えるレイジ君。その彼を見て悶絶する彼の嫁達。さぁさぁ、混沌として参りましたっ! いやいやそうじゃなくてだな。何々?
「ラサオイ・キューレ傭兵団の団長ジョルジュ。通称、リターンマン。もしくはレガリアクラッシャー?」
「はい。結構有名な話であるらしく、調べたら詳細まで出てきました」
これです、と渡されたデータをデータパレットで受信し、その詳細とやらを眺める。
「……」
「パパじゃなかった、とと様?」
「わざわざその呼び方にこだわらなくていいんだが?」
「さーせん。で、どうかしましたか?」
「うーん、確証はないんだけどな?」
「はい」
「君らがレガリアって呼ぶ感じの技術体系ってのは、つまるところ俺とかを代表する一部突出した技術者、もしくはそれに追従する技術者達が、ほぼワンオフで生産した製品であるわけなんだよ」
「知っております」
「んで、このワンオフって言う部分がネックでもあって、つまり超高級品」
「……ちなみにおいくらです?」
「今現在のライジグスの国庫が四つあれば、なんとかエッグコアレベルの戦闘艦が作れっかなぁって程度。それも材料を相手が持ち込んで」
「……」
ゲームから現実になって、システム的な部分での金を要求する部分が消え去ったから、こっちでは材料さえあればどうとでもなるようになったけれどね。それでも、その材料が希少だから、こっちでも超高級品なのは間違いないけれど。
「んで、そんな金をホイホイ稼げるってのは、つまりは最上位の奴らだけで、ちまちま楽しみながら遊んでいるタイプには、高嶺の華だったわけよ」
「そうでしょうねぇ」
「そうすると、最上位には勝てないって図式になるんだけれど、ならなかったんだわ」
「はい?」
「店売りの戦闘艦で、熱意と根気と工夫でもって、俺たちのワンオフハイスペック戦闘艦と戦っちゃった人々がいたんだよ」
「はあいぃ?!」
クラン『凡人ですが何か?』って集団がおってな。お前らのどこが凡人やねん、と突っ込みたくなるような実績の数々を打ち立てた戦闘検証系攻略クラン。彼らのゲームの楽しみ方は、現状で生産職に頼らず、店売り、ミッション報酬、NPCエネミードロップ等々のパーツを利用したカスタマイズ戦闘艦で、廃人生産職人の超戦闘艦と戦う方法、という奴だったんだよ。
「結論から言えば、ノーマル戦闘艦でもレガリア戦闘艦を倒せる」
「マジですか」
「マジです。このリターンマンって人の戦い方は、その戦えちゃった人達の技術だな」
「……」
だがしかし、凡人の集団でも絶対勝てなかった層ってのは居て、それはプレイヤースキルをメインに戦っている戦闘艦の性能は添え物的な奴ら。その当時のデミウスとかデミウスとかデミウスとか。ゲーム終盤ではさすがに性能にこだわるようになったけどね。
しかしそうなるとだ、うちの新参組は訓練が十分じゃないからちょっと危険かもしれない。エッグコア隊とアベル君、カオスちゃんは問題無しかな。あとロップイヤーのチームも大丈夫だな。正妃、側妃、才妃は問題などあろうはずがないしね。
「牧師に逃げ腰な。こっちも同じ感じか……どっかにあのクランのステーションが起動状態で放置でもされてたんだろうかね」
「それ、大丈夫なんですか?」
「訓練をしっかりやって、常に一定以上の操縦技術を保っていれば問題はない。もしくは複座式のバディ系の戦闘艦を増やすのも手だね」
ふっふっふっ、負けた層も負けない努力と工夫をするものだよ。そこで凡人達に対抗する手段として有効だったのが、プレイヤースキルと複座式。
ゲームの歴史的にも、結構大きな転換期だった。それで多くのソロプレイヤーが戦闘系のクランへ仮入門して技術を磨いたり、懇意にしている生産職に泣きついて対策を考えたりした結果、産み出された対抗策だったんだよね。
まぁ、完全にイタチ君を追っかける状態になりましたが。全体的な戦闘技術の向上に繋がったから、運営的にはうっはうっは、実況系で稼ぐ人間が増えて動画サイトもうっはうっは、VRの製品がバカ売れして業界がうっはうっは、っていう好景気には繋がったから良しとしましょうってなったね、あの頃。いやー懐かしい。
「それならアプレンティスの子達に希望を聞いて、オペレーター関係を増やしますか?」
話を聞いていたマリオンに言われ、それもそうだねと頷いておく。
「メイド長に通達しておきます」
「頼むよ。ついでに傭兵上がりの方達の適正も調べて、訓練の割り振りとかの見直しも伝えといて」
「かしこまりました」
マリオンに笑いかけながら、レイジ君に指示を出す。
「今までで一番の難敵になるだろうから、ガイツ君には最大限の注意を伝えてくれるかい? それと、保険でホワイトブリムを呼んどいて。もしかするとマルト君が必要になるかもしれないから」
「そこまでですか?」
「これで相手が正統派な傭兵団だったら心配しないんだけど、外道派ってやばいんでしょ?」
俺がデータパレットを見せると、レイジ君の顔から緩みと甘さが消え、完全な宰相モードになる。それを見た彼の嫁達が悶えているが……いやはや、惚れられているねぇ。
「すぐに指示を出します。アルペジオとサンライズの方も警戒レベルを引き上げます」
「そうだね。その方が安心だな」
「はい。すぐ動きます」
「よろしくー」
「では、失礼します」
不確定要素があるとすれば、彼らが準レガリア戦闘艦を調整した場合だ。カタログを見た感じだと、コティ・カツンはハスターより凄い劣っているんだけども、ここに凡人の技術が入ると勝っちゃう可能性が。しかも、データ参照した限りでは、腕も悪くないって感じなのが……
「まぁ、そこをどうにかするのが、国としてのお仕事ではあるんだけれども」
アリシアはどうやって乗り切るのかね? と思いながら、幼児幼女と遊ぶ国王であった。いやー、お父さんは辛いよ。可愛いけれどもなっ!
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