第107話 正統派の外道 ①
Side:ラサオイ・キューレ傭兵団団長ジョルジュ
「おらっ! てめぇっ! 何勝手な行動してやがるっ! 陣形乱すんじゃねぇっ! ぶち殺すぞっ!」
驚く程に練度が低い共和国軍の艦船に、ちょくちょく軽レーザーを打ち込み、陣形の調整をやりながら、ジョルジュの機嫌は急転直下で悪化していく。
「これで軍隊つぅんだから、共和国も腐ってるわなぁ」
「ちっ! ムカつくぜっ!」
「まぁまぁ、そうピリピリすんなって。お陰でこの巡洋艦もパクれたんだしよ」
「調整はしたんだろうなぁ?」
「もちろんでさ。それが俺らの生命線だしよ」
「なら良い。牧師と逃げ腰はどうだ?」
「隠れながらついて来てるぜ。あっちは放っといても良いから楽だぜ」
「ふん」
烏合の衆を引き連れる事が、ここまでストレスフルだとは思わなかったジョルジュの機嫌は落ちていくばかり。理由がとても分かる状況だから、誰も何も言えない。
『そこから先はフォーマルハウトの領宙域になります。そのまま進めば我が国への侵略行為とみなし、即時迎撃行動へと移行します。すぐに引き返し、領宙域からの撤退行動に移って下さい。フォーマルハウトへ入国するのであれば正規の手続きを行うようにしてください』
アラートと共に機械音声で警告文が読み上げられる。ちかちか赤色に明滅するモニターに、ジョルジュは口が裂けたと錯覚する笑い顔を浮かべる。
「クソ雑魚共を先行させろ! いつもの手順だっ!」
「了解。牧師と逃げ腰にも一応言っとくか?」
「奴らなら勝手にやる。放っておけ」
「あいよー」
ジョルジュは舌舐めずりをしながら、モニターを睨み付ける。
「今回は何匹食えるかなぁ」
○ ● ○
Side:ルナ・フェルム防衛隊
緊急スクランブルのアラートが鳴り響く格納庫を、揃いのパイロットスーツを着た隊員達が駆け抜けていく。
「ハスターの調整は終わってるから、気を付けて行くんだぞ!」
「サンキューおやっさん!」
防衛隊を効率的に機能させる為に、メンテナンスボットとは別枠で雇い入れたメカニックの男性が声掛けすれば、パイロットの若者達は自信に満ちた笑顔で返事をする。
「いやはや、この年でまさかレガリアを扱えるようになるとはなぁ」
ルナ・フェルムで小さな機械屋を営み、地域ではそれなりに認知度の高い修理屋だった男性は、出撃カタパルトへと移動していくハスターを眺めながら呟く。
「まぁ、ハスターしか分からないってのが残念だけど」
「いやそれだけの機密だしなぁ」
「それでもワクワクはするじゃないか」
「同感だ」
他にもルナ・フェルムで修理関係の仕事をしていた職人が雇用されており、彼らは苦笑を浮かべながら出撃していくハスター達に向かって帽子を振る。
「今回も無事に帰って来て欲しいものだ」
「うむ。我々も空き時間には勉強会だな」
「そうですね班長。やはり自分が弄った船は五体満足で帰って来て欲しいですから」
「こらこら、そこはパイロットだろうに」
「違いない」
メカニック達の笑い声を背に、防衛隊はカタパルトから射出され宇宙へと飛び出す。
「イクタァリーダーより各船へ、状況知らせ」
『イクタァ2、問題無し』
『3、問題無し』
『4、問題無し』
「了解、クトゥグアリーダーへ。イクタァアルファ隊問題無し」
『こちらクトゥグアリーダー、クトゥグアベータ隊も問題無し』
「了解。問題宙域へ急行する」
『クトゥグア了解』
先の戦いで勝った記憶は新しいが、総隊長からは最大限の注意を呼び掛けられている。イクタァリーダーの男性は深呼吸を数回繰り返し、油断も慢心も全部呼吸と共に吐き出して操縦桿を握る手に力を込める。
「さぁ、故郷を守りに行こうか」
『『『了解!』』』
宇宙空間での速度の感じ方は独特で、見える星の動きでしか感じ取れない。それでも目に見えて星が動いていくのだから、ハスターの速度は凄い。その速度でもって現場に急行すれば、食傷気味な気分にさせられる毎度お馴染みの奴らの船が集結していた。
「やはり共和国軍か」
『リーダー、本国からの警告は無視されていると判断。交戦命令が来ました』
「了解。訓練通りで行くぞ。クトゥグアリーダーもよろしいか」
『了解。支援行動に専念する』
「頼む。各船交戦開始!」
『『『了解!』』』
ハスターが散開して共和国軍の艦船へ襲いかかる。ハスターはゲームの分類で言うと、ジェネレータガン積みライザー寄りの速度勝負なスピーダータイプ。近距離と中間距離を交えた戦闘を主軸とする戦闘艦だ。防衛隊はそれを理解した上で、自分達が最も得意としている距離で戦う
「戦艦は無し。重巡洋艦は少数。全体の数だけは多い……なんだかチグハグな」
練度も何も無い、ほとんどヤケクソめいた攻撃を繰り返す敵に、イクタァリーダーは不穏な気配を感じる。敵が弱いのならば喜ぶべき事ではあるのだが、先の戦いでは下手を打ってばかりはいたが、一応の作戦行動はしていたのだ。その時よりも多い数で、ただそこに集まって攻撃を繰り返してくるだけというのは不気味だ。
「通信部、聞こえるか?」
『こちらルナ・フェルム通信部。どうかしましたか? イクタァリーダー』
「敵対行動をしている共和国軍の動きに違和感を感じている。防衛隊にもう一段上の警戒をするように通達してくれ」
「了解しました。直ちに通達します」
懸念は全て報告するよう義務付けられている彼は、その職務をきっちり守る。その間にも共和国軍の船はガンガン航行不能か行動不能へと追いやられていく。これは自分の心配のしすぎだろうか? そう思い始めていた。
『ぐあっ?! 伏兵っ! 伏兵だっ! 共和国の準レガリア船がいるっ!』
「っ?! 各船警戒っ!」
クトゥグアリーダーからの通信に緊張が走る。伏兵は自分達の背後から襲いかかってきた。
「艦隊を囮にしたのかっ!」
すぐさま迎撃態勢を整え、相手へと向き直る。するとそこにはコティ・カツンのシルエットをしている別物が飛んでいた。
「新型っ?!」
防衛隊の人間が驚くのも無理はない。余計な装備を排除して、コティ・カツン本来のポテンシャルを引き出すカスタマイズをすれば、目の前の船の姿になるのだ。先の戦いで相対した貧相なサボテンはそこにはいない。
『くっ!? 注意っ! 敵はレガリアの扱いに慣れているっ! カオス教官と同等の力量だと判断せよっ! クソッ! 強いっ!』
「マジかよ……各船っ! 警戒度最大っ! 状況が悪化したら撤退も視野に入れるぞっ!」
『まずいっ?! リーダーァ! 巡洋艦と駆逐艦、計三隻に突破されたっ!』
「このクソ忙しいところにっ、通信部っ!」
自分達が最も得意とする中間距離での撃ち合いで、逆にこちらが押され気味な状況に陥る。散開したのも悪かった。相手はスリーマンセルを守り、必ず多対一の堅実な戦い方を実行していた。
「ちっ、各船へ! まずは合流だっ! 技能制限の解除を許可する!」
『『『『了解っ!』』』』
「本国にはまだ主力が残っている! 落ち着けよ! こちらはこちらの仕事をきっちり果たせっ!」
ハスターとコティ・カツンの物騒なワルツは始まったばかり。これまでのレガリアの威光、レガリアの価値がこの一戦で揺らぐなどと、誰も理解していなかった戦いが続く。
○ ● ○
Side:外交官のお茶会
各国外交官と談笑をしながら行われていたお茶会の席で、唐突に警戒警報が鳴り響き、帝国側、神聖国側、ギルド側、小国家側の護衛が臨戦態勢を整える。だが、ライジグス陣営はまるで気にしないように、優雅な仕草でお茶を楽しみ続けている。その様子に、すぐさま帝国、神聖国、ギルドはライジグスが情報を持っている事に気づいた。
「何事であるか、もう知っているのですか?」
神聖国のカラカスの疑問に、お茶を飲んでいるゼフィーナに代わってレイジが微笑む。
「ええ。どうにも往生際が悪い国がありまして」
その一言で、どこの誰が騒動の主か理解した外交官達。全員が渋い表情を浮かべる。
「それは大丈夫なのかい? フォーマルハウトは樹立したばかりの新国家じゃないか。防衛戦力に過不足があるんじゃないのかな? って思うんだけど」
グランドギルドマスターの言葉に、今度はアリシアが優雅に微笑む。
「ご安心下さい。確かに以前のバザム時代は不安しかありませんでしたが、現在ではしっかりと防衛隊を組織しております。それに、ライジグス王国と軍事同盟も結んでおりますから」
アリシアの言葉にライジグスを除く外交官が頭を抱える。レガリアを持つ国と国が軍事同盟を結ぶ、こんなに恐ろしい事はない。しかも片方は、完全にレガリアの仕組みを理解している国なのだから。
「ああそうですねっ! アリシア大統領どうでしょう? フォーマルハウトの防衛隊の勇姿をお見せするチャンスです。これから観戦と洒落込みませんか?」
「「「「っ?!」」」」
レイジがさも今思い付きました的、どう見ても絶対それ用意してただろうわざとらしい口調で言えば、各国外交官の絶句を無視して、アリシアが微笑む。
「それもよろしいかもしれませんね。どうでしょう皆様方? 安全はもちろん保証しますが」
お前ら見るよな? と言われているような断言に近い提案に、外交官達は頷くしかなかった。
「ふむ、我が国の宰相が申し出た事であるし、ライジグスの船を使うとしようか。側妃ナノが所有のムーンライトへ招待しよう」
ゼフィーナが優雅に微笑む。これでライジグスが完全に事態を把握していた事が確定したのであった。
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