第103話 新国家フォーマルハウト樹立宣言 ②
Side:?????
「くくくくくくく、ふふふふふふ、ははははははははっ! 何とも素晴らしい! 何て素敵なショーかっ! 素晴らしい! 素晴らしい!」
巨大な、映画館のスクリーンよりも巨大なモニターに映し出される報道の様子に、男は酷く興奮した様子で悶えるように叫んでいる。その叫び声にはうっとりした恍惚と、激しい怒り、怨念渦巻く憎しみ、全てがごっちゃに混ぜ込められた、不思議な声色で、デタラメに叫んでいる。
「ああ! ああ! あああっ! 何て事だっ! 朕よりも破壊の権化ではないかっ! ああっ! 何て素晴らしくて何て妬ましい事だろうかっ! この憎しみと怒りはどこへ持っていけばいいのかっ?! ああああっ!」
全身を激しく掻きむしり始めた人物に、涼やかなシャランシャランという音が届く。
「猊下、本日もご機嫌よろしゅう」
恋する乙女のような表情で、うっとりした声色で、その場に侵入してきた女性が言えば、悶えていた人物が、まるでスイッチで切り替えたように冷静な表情へ戻り、肩をピクピク震わせながら、ずんずんとその女性に近づく。
「君は何度言えば理解するのだろうか?」
ムバァウゾレの種族特徴である巨大な黒目に、細い穴のような鼻孔、かなり小さな口。地球人が見たら、ほぼ全ての人間が宇宙人、グレイなどと呼ぶだろう人物がそこにいる。
そんな人物が女性の細い首を絞め付けながら、その巨大な瞳を女性に近づける。
「いくら大司教と言えど、この教皇のプライベートエリアに入る事は許されない、と」
「理解しております。なので是非に猊下に殺していただきたく」
首を絞められているのに、女性は嬉しそうに笑いながら、苦しさとは別の紅潮を浮かべ、夢見る少女のように絞めている相手を見つめる。絞め付けられる両手に、自分の両手を重ねて、ねっとりじっとり味合うように愛撫する。
「はあ……大司教ホーリーベル。あまりにしつこいようならば、下級神官に戻るか?」
「それだけはお許しを猊下」
皮膚というにはぺっとりしすぎた、灰色の肌に舌先を這わせて、ホーリーベルと呼ばれた女性は嬉しそうに微笑む。
「わたくしは猊下に殺されたいのです。その為には大司教の地位に居続けなければ」
猊下と呼ばれる人物は、溜め息を吐き出しながら両手を離し、その両手でぐぃっとホーリベルの腰を引き寄せる。彼女は慣れた様子で、自分の両足で相手の片足を挟み込む。
「まだ、その時ではない。それまで存分に破滅を産み出せ。破壊を蔓延させよ。秩序と法を壊し、破滅と破壊と混沌を」
「御意に。愛しい猊下」
ホーリベルの荒い息を顔面に浴びながら、そのままもつれ合うように寝室へと消えていく。巨大なモニターには、粉々に砕かれた小惑星の様子が映し出されていた。
○ ● ○
フォーマルハウトの樹立が国内外へ宣言される式典。その会場にゼフィーナとリズミラが正装で待機し、ライジグス代表という顔で澄ましている様子は、なんちゅうか、うん、ちょいと可愛いと思う旦那目線。
して、その旦那様が何をしているかと言えば、ブルーエターナルの艦橋の、大型工作機械を操作する操縦席にいる。
何をしてるかって? いやね? スカーレティア三番艦が無理をしまくった影響で、ちょっと本格的なメンテが必要となりまして、こうしてメンテしているところです。んで、今回頑張ったオリビー、オリビアのご褒美という名目もあって、ちょっとした追加装備と変形機構をもう少しバージョンアップしているんですわ。それと本人へのご褒美もあるので、現在、彼女は膝枕中である。お疲れ様。
『お待たせしました。新国家フォーマルハウト樹立宣言式典を開催いたします』
「おっ?」
ギルドの報道を垂れ流し状態にしてたけど、どうやらこれから式典が始まるらしい。何か執拗にゼフィーナとリズミラが映るんだが……まぁ、こういう式典で外交官じゃなくて王族が直接参加、というのが珍しいらしいから、その関係だろうけども。
「ゼフィーナ様達、綺麗ですね」
「俺的には、こっちの世界の人間は美男美女過ぎて、ただの美人、綺麗ってのは飽食気味だがね。だからか、嫁達は個性的で飽きないが」
「ふふふふふ」
ここで、そうだね、とでも言おうモノなら、後々全方位から凄い圧を食らうハメになる。逆に君も素敵だよ、的な事をいったとしてもどっかから情報が漏れて同じ轍を踏む。なので、全員を平等に誉めるような形での落とし処さんがベター。夫婦であってもベストは求めてはいかんのだよ。ビバ! 曖昧!
俺、タツロー、頑張て、勉強して、少し賢くなた。
「ですが陛下? 件の商人はもう諦めたのでしょうか?」
「あー、そうだなぁ、どうなんだべ」
横目でモニターを見れば、アリシアが演説をしている壇上の後方に、ルナ・フェルム防衛隊の正規パイロットスーツに、総隊長用の装飾が施されたヘルメットを小脇に抱えたマドカの姿が見える。
「ここまで来たら、さすがに諦めるか?」
いやどうだろう。マドカの口振りからすると、凄い往生際が悪い男らしいし、アトリの血族ってそういう側面が激烈だとか。
「なら仮にですけど、陛下でしたら、どうやって崩そうとしますか?」
「今の状況でか?」
「はい。戦力は相手に合わせてで」
「うーむ」
資金は潤沢で、船の数は分からんが、準レガリアって船を持っている。奴の戦力は未知数だけど、傭兵という手段を考えると、外からの戦力に依存する、か。
「金と準レガリアってのをダシにして、有象無象の宙賊をかき集めて囮化、ルナ・フェルムの監視網をそっちに逸らしつつ侵入、出来るだけ混乱を引き起こしながら、マドカを拐う、かな? もしくは、その囮を使ってマドカを外に引っ張りだし、そこでどうにかして捕獲かな? まぁ、全く分の悪い手段だからやらんが」
そもそも、何でそこまでマドカに固執するのか理解不能なんだよなぁ。何となく、シュリュズベリイだから、その関係でルナ・フェルムをどうにか出来るとでも思ってるんだろうか? 女性的な部分での需要もあるんだろうけど、俺はあの手の野獣な女性って苦手な部類だから、そこんとこは理解出来んしな。
「一応、警戒しておいた方がいいかもしれませんね」
「来ると?」
「少なくとも、宰相閣下は警戒されてましたよ?」
「マジで?」
聞いてないよ? ならとっととこれ終わらしておくか。レイジ君が警戒するなら、何か起こるだろうし。
「追加ブースターと、循環系、武装関係も大丈夫。消耗関係もオールクリア、と」
何か、政治的な事より生産関係をしてる時間が多いと思うんですが。え? 生産の王に俺はなるっ! とか言っとけばええのん?
「こんな感じになった」
「はいはい」
スペックの詳細が書かれたデータパレットを渡し、オリビーに確認してもらう。
「あのー、何だかこれ、駆逐艦というより駆逐艦の姿をしたナニかになってますが」
「普通普通」
駆逐艦を専門に製作していたプレイヤーは言いました、対象を駆逐するなら火力がご立派ぁっ! と。大艦巨砲主義みたいな、火力ジャスティスのプレイヤーが多いゲームだったから、駆逐艦って戦艦とかを駆逐するのが役目だよね? っていうのが常識だったんだよ。だから普通普通。
オリビーは今更ですねと苦笑して、上半身を持ち上げる。
「満足しました。ありがとうございます」
「これぐらいならいつでもどうぞ」
「ふふふふふ、ではまた後程」
オリビーは可憐な微笑みを残し、アプレンティスの女の子達と艦橋を出ていった。俺は三番艦から作業アームを外したりの後片付けをし、近くで作業していたオペレーターの女の子に声をかける。
「何か報告はあるかい?」
「は、はひっ! うぇぴゅしゅ・ふぁいあがしゃいしょうきゃっきゃにょ――」
「噛みすぎ噛みすぎ。落ち着け。リラックスリラックス。ほらほら深呼吸」
「は、はひっ!」
どうも新しく入ったアプレンティスの子達には、こう緊張されてしまう。いや、王様らしい事なんざ、しちゃいないんだけど。どこに緊張する要素があるんじゃろ?
「宰相閣下の要請を受けたウィプス・ファイアが、閣下指定の宙域にて、特務艦隊を展開中です。アルペジオ周辺宙域、サンライズ周辺宙域でも側妃様、才妃様方が警戒体制を展開中。陛下には当艦で待機との指示が宰相閣下から来てます」
「なるほど、何かある、と踏んだか」
報告をしてくれた少女の頭を撫でながら、俺は待機場所へと戻る。
『今ここに、新国家フォーマルハウト樹立を宣言致しますっ!』
ふと見たモニターには、両手を大きく広げ、堂々とした演説をぶちかましたアリシアの姿があった。
「このまま、めでたしめでたし、でいいじゃないの? アトリ商会とやら」
そんな呟きが自然と出る。いや、そろそろ実家に帰りたいんですよ。ちゃんとした区切りがね、欲しいなぁ。そんな詮無き事を考えながら、嫁達の元へと戻るのであった。
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