第95話 学術国家フォーマルハウト樹立式典 ②
「各国の皆様、本日はお集まりいただきありがとうございます。わたくしが学術国家フォーマルハウトの初代大統領を賜りましたアリシア・ジョーンズと申します」
綺麗に着飾ったアフガンハウンドねーちゃんは、うちの嫁のガサツ担当的なファラから、徹底的にノーブルマナーを叩き込まれ、それはそれは美しい所作で一礼する。それだけで会場が少しどよめいた。前情報で、アリシアが単なるギルドメンバーであり、物好きな学者みたいな事を周知されていたから、まさかここまで綺麗な貴族的所作をするとは誰も思っていなかっただろう。うん、お姫様お姫様してるファラを見た俺は、衝撃のあまり別人判定してしまい、物凄い痛い一撃を顔面に叩き込まれた。あれは痛かったぜ、ぐふっ。
「こうして我が国が新しく皆様と肩を並べ、健全な交流を持てるのはとてもありがたく、これからもわたくし達は、この状態が続けられるよう努力していく所存でございます」
犬顔でアルカイックスマイルっていう、何とも不思議な物を見せるアリシア。これもファラ指導、レイジ君考案の作戦である。何でも、指導者層って言うのは神秘的な雰囲気の方が偉く見えるらしい。俺ダメじゃんって言ったら、俺の場合は親しみやすいのが逆に裏がありそうで怖く、それを実行出来る武力があるっていうのも恐怖らしい。そんなもんかね?
「さてまず、皆様には共有しなければならない情報がございます。お願いします」
アリシアが微笑みながらレイジ君を見ると、レイジ君はゼフィーナ達に顔を向ける。
「うむ」
ゼフィーナが大仰に頷く。レイジ君はそれを受けて恭しく一礼、もちろんこれもファラに徹底的な監修を受けて練習した物で、やはりどよめきが起こる。こっちは成り上がり集団だと思われているからね、そういう隙は少なければ少ないほどやりやすい、ってのはレイジ君の発案でゼフィーナ達もその通りだと肯定、ファラもノリノリで教えてくれた。会場の様子を見れば、こうかはばつぐんだ。
「皆様初めまして、ライジグス王国宰相を賜っておりますレイジ・コウ・ファリアス・ライジグスと申します」
レイジ君の名乗りは、今日一のどよめきを会場にもたらした。何しろ彼には権威ある名前、ファリアスの巫女の名前があるのだ、そりゃぁどよめくわな。
レイジ君もそれはそれは見事なアルカイックスマイルを浮かべ、すっと片腕を挙げると、それだけでその場にいる全員のざわめきが止まる。
これなぁ、不思議なんだけども。俺も練習しまくって出来るようにはなったんだけど、未だに原理はワケわからん状態だ。
何でも人間の認識能力へ作用させる事により、相手の行動を縛れるとかなんとか。やろうと思えば呼吸すら止められるとか。いや、やらんけどね?
「失礼。ではかなり重要度の高い情報なので、前置きをせず申し上げますが、皆様の国許で異常は起きておりませんでしょうか?」
ゆっくり腕を戻しながら、問いかけるようにレイジ君が聞けば、各国外交官はキョトンとした表情を浮かべる。
「言い換えましょうか、不正や腐敗が問題になっていませんか?」
レイジ君の言葉に、その会場にいた人々が一瞬、表情を固くした。本当に一瞬だったから、気づいたのはライジグスメンバーと、神聖国関係者、意外な事にネットワークギルドの人だけかな。視線からだから、正確性はないけど、多分見てたとは思う。その他の帝国、小国家群の方々は見えてないかな。
「大きな国家であればあるほど、この問題は付きまとう
綺麗な微笑みで、確信したような断言で告げられた言葉に、各国外交官は今度こそはっきり分かるレベルで、体を硬直させた。
「我が国での例ですが、我が国ライジグスの首都アルペジオ、以前はクヴァーストレードコロニーと呼ばれていましたが、違法奴隷の集積地と化し、帝国コロニー公社がこれに関与し腐敗と不正はかなり深刻な状態でした」
浮遊するホロモニターが会場に浮かび、各国外交官の前に概要が提示される。
「先日解放しましたサンライズ、エベルプライマルコロニーでは違法な物品の集積及び公社の腐敗、コロニー駐留軍は機能せず、コロニーの領域内に敵性存在の拠点が極秘裏という名の公然の秘密として建造されていました」
拠点の公然の秘密ってのは、軍事関係者、駐留帝国軍の上層部は知っていたという意味らしい。袖の下大量だったとかで、報告したら帝国へ電撃輸送アンド電撃粛清だったらしい。辺境地域の帝国貴族のアレ加減はマジでお察しである。
「次にバザム時代のルナ・フェルムですが、他国の私が説明するのは越権行為なので、そのような問題があって、その問題は現在是正されている、とだけ申し上げます」
フォーマルハウトのバックにはライジグス有り、って印象付ける作戦らしい。うん、我が義理の息子、生き生きしてるなぁ。しっかり嫁達に尻に敷かれ、ちょっとへにゃっていたが、完全復活だな、あれ。
「ではここから本題。きっと皆様の国許では同じ事が起こっているはずです。我が国では『親愛なる隣人』が、これは帝国でも猛威を振るっています。ルナ・フェルムでは『貧者の守り手』が、多分ルナ・フェルムに近しい国々では同じ組織が元気に活動してるのではありませんかね?」
いやぁ、ルータニア君から聞いた時はびっくりしたんだけど、どうも彼の国が侵略されるきっかけも、そんな妙な慈善団体が関わっていたらしいんだわ。んで、ガイツ君の前任クソ団長という人物も、何やらその手の慈善団体から違法奴隷を仕入れていたとか、カオスちゃんはそこ出身。つまり、問題は結構根深く、割りと洒落にならないレベルで広大なんじゃなかろうか? となった。
新しく入った傭兵出身の、その手の情報収集に長けた人材、主にアネッサさんとかが中心となって作られた諜報部、ダークストーカー部隊による周辺宙域の、周辺国家への徹底的な調査をしてもらった結果。いやーすげえの。大中小様々な慈善団体が、そりゃぁ病原菌のように国家へ侵略を行っていて、かなりしっちゃかめっちゃか問題だらけだった。
レイジ君の言葉に、外交官達の表情が完全に変わった。これは目出度い国家樹立を宣言するだけの、緩い式典なんかでは無く、各国外交官による問題対処を決めるサミット。式典はカモフラージュに過ぎず、本題はむしろこっちが目的。いやー、優秀だねぇ。俺なんかこの場に居たとして、レイジ君の言葉を聞いて、ああ本番はこっちね、なんて察せられないわ。
「さて皆様、今日この時から、我々の反撃は始まるのです。さあさあ、楽しい楽しい悪巧みの始まりですよ」
ニタァと笑うレイジ君の言葉に、外交官達もニヤリと面白そうに笑った。なにこれこわいひとばかりじゃないかやだー。
○ ● ○
Side:アトリ大商会
「ごきげんじゃねぇか!」
「たまらねぇなこりゃぁ!」
コティ・カツンに乗り込むレッドネーム部隊の隊員達を、凍えそうな程冷たい瞳で見つめるゴバウ。
レッドネーム部隊。色々致命的な程腐り落ちる寸前の共和国で、それでも問題有りと捕縛された重犯罪者で構成された処罰部隊。使い捨ての命であり、生き残れば恩赦を与えられるが、その恩赦ですら彼らの量刑は微々たる減少しか与えない。共和国軍部の恥部だ。
「しかも今回、ルナ・フェルムに乗り込んだら自由に動いていいらしいじゃねぇか!」
「うひょー! 久しぶりに色々楽しめるぜ!」
「今回の仕事は大当たりだぜっ!」
聞くに耐えない言葉の数々を無視し、ゴバウは側に控える人物へ合図を送れば、その人物は面倒くさそうに立ち去った。
「……拠点を破壊して、相手はきっと安心し油断してるだって? スミス、だからお前はあの化け物に手玉に取られるのだ」
一応の同盟関係にある共和国軍の重鎮からのメッセージに、ゴバウは苦々しい表情を浮かべる。
「まあ、こちらの懐は痛まない。全部、共和国軍からの持ち出しになって楽にはなったが……一応の義理は果たさねばなるまいなぁ」
ゴバウが向ける視線の先には、評判の悪い、ほとんど傭兵というより宙賊とされる集団に向けられる。そちらもレッドネーム以上に言動が下品だ。だが、欲望に忠実であるというのは、ある程度操りやすい。彼らなら報奨に釣られて、喜び修羅場に飛び込んでくれるだろう。例えそこが死に場所であろうとも。
「そろそろ時間だな」
アトリ大商会拠点の誇る大きなモニターに、共和国軍の艦隊の威容が映し出される。
「ぐふふふふふ、頑張って引き付けてくれよ。その間にマドカを手に入れ、このゴバウがルナ・フェルムの王となるのだ」
ガマ蛙の鳴き声に似た笑い声を漏らし、ゴバウは虹色の未来を夢想するのであった。
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