第94話 学術国家フォーマルハウト樹立式典 ①

 神聖ダグラ・ムイ級戦艦七番艦、神聖フェリオ連邦国で外交目的で使用される、戦艦とは名ばかりのきらびやかな大型船。これはもちろんフェリオ連邦の外交使節団を運んでいる船だ。周囲にはしっかりと偽装はしているが武装を隠し持つ、妙に中二病を刺激されそうな姿の船が護衛している。なんちゅうか、銀河で英雄しちゃうような帝国の船っぽく見えるね。似てるけど、もうちょいゴテゴテしい。


 帝国は来るのが軍事卿、つまりは七大公爵の一角だから、当然のようにその専用戦艦であるルモ・サバル級が、多くの護衛艦隊に囲まれるように航行している。前にも一度見たけど、こうデザインが武骨でロマンを感じさせる。いや銀河な英雄的な神聖国の船もええんやけども、何となくドイツ味を感じさせるっちゅうか、そんな感じ。


 んで、どこぞで見た事ある船が一隻。


「あの中型の巡洋艦っぽい船って、どこの船?」

「え? ええっと……ネットワークギルド所有のフレスベルグですね」

「ほっほー」


 見た目は帝国の巡洋艦に寄せた外装をつけて偽装してるけど、シルエットと船の根幹である竜骨の感じからすると、多分、クラン『国家斉唱』っていう組織に所属してた、イッサっていう職人が作った船だ。たしか――


「ニーベルンゲンだったか、皆あの頃、何故か中二病大量発症してたからなぁ」

「?」

「ああ、いや、昔話よ」

「そうですか」


 そして、我が国からはプラチナギャラクティカを……って案があったんだけど、却下しました。いや、ルナ・フェルムと同質量の戦艦とか、頭おかしいレベルどころか、絶対他の国への威圧どころか宣戦布告になりかねんからね。なので、側妃ナノ所有重巡洋艦ムーンライトに白羽の矢が立ちました。


 ムーンライトはクランの女性達が、女子会をする目的で製作された、凄く女性的な船だ。その美しさからプリンセス・セレナーデなんちゅう異名をゲットした船でもある。まぁ、俺らのクランの船だから武装はしっかり、大量に隠して装備されてるから戦闘艦という意味でも過不足無しだ。


「あ、ナノ来ましたね」

「ん?」


 あざとい感じでパタパタ走ってくるゆるふわガール。リズミラさんがゆるふわに見せかけた腹黒ってのがバレてからは、彼女がライジグスのゆるふわガールズ筆頭になりました。


「来ました!」

「いらっしゃい」


 にへらと笑う彼女の頭を撫でれば、猫のように目を細める。ふわふわな感じにセットされたピンク色の髪の毛が気持ち良い。


「やあ、旦那様」

「来ましたよー」

「おう、頼むわ」


 式典のメイン部分、当初俺が出ようか? と言っていたんだが、国主がホイホイ出るなとのお叱りを受けまして、正妃としてもうすでに露出激しい二人がよろしかろうという事で、ゼフィーナとリズミラに出席してもらう事とあいなりました。


「ほぉーぅ、ティナが軍事卿か」

「血統的にそこが最適解ですよねー」

「それに巻き込まれるスーサイな」

「苦労人ですねー」


 帝国のルモ・サバルから降りてきた人物を見たゼフィーナとリズミラが、何やら訳知り顔で呟く。


「プラティナム・ケットス・ダンガダム。我々は士官学校に入学という手段を選んで、何とか望まぬ政略結婚を回避できたが、彼女は権力をフルに使用して回避しまくった我が儘令嬢だ」

「あれを見るとースーサンはお眼鏡に叶ったようですねー」


 知り合いか? と聞けば、そのような説明が返ってくる。どうやら有名人らしい。


「スーサイ・ベルウォーカー。ベルウォーカー家の出涸らしとか言われてる苦労人だが、物凄い有能な軍人だ。実際、前回のクヴァースでは笑えるくらい不利な状況下で、かなりの戦果を出していたからな」

「お馬鹿な男の子って言う感じですがー部下想いの優秀な軍人ですよー」

「へー」


 ティナと呼ばれたクルクルドリルヘアーの小柄な女性に、がっちり腕をホールドされた状態で、ぎこちない笑顔を浮かべて歩く男。ありゃ、一方的に女性が惚れているパターンかな? グイグイ来られて男が引く感じ?


「おっ! 初めましてなのじゃ!」

「ん? お、君がせっちゃんか。初めまして、ゼフィリアナ・ボルフィナ・ジゼチェス・ライジグス。ゼフィーナと呼んでくれると嬉しい」

「リジリアラ・オッツマス・オスタリディ・ライジグスですー。リズミラとでもリズとでもミラとでもお好きにー」

「セラエノ・ルナ・フェルム・ライジグスなのじゃ! せっちゃんじゃぞ、ゼフィーナ、リズ」


 猫みたいな顔して二人に抱きつくせっちゃん。いや、その名前、初耳なんですが? え? 君、セラエノ断章じゃなくなったの?


「まるで物みたいな名前じゃ、ちょっとどころじゃなくて可哀想ですから。僕の方で、今の名前を彼女に提案させてもらいました」


 どこから生えたのか、レイジ君が俺の横で説明してくれた。最近、頭だけだとその内足元掬われそうだから、という理由で嫁達に体術関係を指導されるようになり、妙に忍者ちっくな技術を身に付け出した我が国宰相。この子はどこに向かっているんだろうか?


「パパン程常識外れにはなりませんよ?」

「俺のどこが常識外れじゃい」

「「「「……」」」」


 すっごい白けた瞳で見つめられるんですけど。いやん。


「あらあら、随分と楽しそうで。ごきげんよう、ゼフィーナ様、リズミラ様、ナノさん」


 いつの間にか、スーサイ氏を引きずるようにやって来たドリル嬢が、にこやかに、しかして妙に高圧的な気配を感じる登場をかます。ゼフィーナとリズミラ、ナノの気配が一転、臨戦態勢の状態へ、その状態で素晴らしく美しい笑顔を浮かべてみせた。


「相変わらずなようだ。これでもわたしはライジグス王国正妃なのだがな、そこは理解しての挑発か? プラティナム」

「正式に抗議しましょうかしら? ねぇ、帝国軍事卿ダンガダム大公」

「自分も今はライジグス王国側妃ナノとしてここにいます。それは正式に我が国への、帝国からの宣戦布告と受け取っても?」


 いやまぁ、立場とかの無関係な時代の、それこそ少女時代みたいな頃のノリでやったんだろうけども、一応ここ、外交の場であるって理解はあるんだろうか? このドリル。不穏な気配を感じ取った他の外交関係者が、ずわっと見事に逃げていく。まぁ、巻き込まれたくないだろう。


「失礼した! 妻が大変な失礼を、申し訳ありません! ライジグスのお妃様方」


 ゼフィーナとドリルの間に素早くスーサイ氏が割り込み、見事な謝罪をかました。うん、彼、これからも苦労しそうだなぁ。同じ男として同情してしまう。がんばって嫁を教育してくれ、もしくは彼女を押さえ込める別な嫁を用意するんだ! スーサイ君!


 俺が小さく咳払いをすれば、ゼフィーナ達が渋々攻撃的な気配を霧散させた。


「スーサイ殿。申し訳ないが、もうすでに外交は始まっている。ここはルナ・フェルム、新国家フォーマルハウトであるが、この場は各国外交の前哨戦だ。我が国ライジグスはこの後、正式に王国国王の名前で貴国へ警告を発する事となる。そこは了承していただきたい」

「っ?! っ、は、はい。こちらの不手際です」


 ふてぶてしい態度で、しかし反論を許さない口調でレイジ君が言えば、スーサイ氏は顔色を悪くしながら頭を下げる。なるほどなぁー、これが国と国とのやり取りなんだね。うん、俺が直接参加しちゃダメな奴だね。うん。


「ダンガダム卿。今回は穏便に済ませよう。しかし、今後も同じような愚行をするのであれば、どうなるかお分かりだろう?」

「っ?! は、はい! も、申し訳ありませんでしたわ」

「では失礼する。さあ、正妃様、側妃様参りましょうか。護衛の方々、よろしいか?」

「はっ! 大丈夫であります閣下!」

「はい」


 本日の俺とシェルファは護衛の人である。一応変装しております。そんな俺の様子に、レイジは笑うのを堪えながら歩き出す。嫁達の表情も笑いを思いっきり堪えた感じだ。何よ? 変なのかい?


 歩き出し、チラリとスーサイ氏の方を確認すれば、スーサイ氏が穏やかに嫁子へ語りかけている様子がうかがえた。まぁ、あの手の感じだとガミガミ言われるより、ああやって静かな感じに言った方が効果ありそうだし、なるほど何だかんだで夫婦はしてるんだね。


「流石苦労人、苦労を呼び込むね、彼」

「そうですねーわたくし達も注意しませんとー、あんな地雷嫁になったらイヤですからねー」

「学校の時のノリでしたから。まぁ、浮かれていたんじゃないのでしょうか、これ私の彼氏的な?」

「ああ、そっちか。なるほど、確かに自慢ムーブだったな」

「わたくし達のご主人様に勝てるって思っているところがーダメダメですねー」


 リズミラがバチコンと流し目を寄越す。やめろ、バレる。


「たっちゃんも大変じゃな」

「そうでもねぇけどな」


 護衛のたっちゃんとして俺はここにいる。そんな俺にせっちゃんがしみじみ言う。まぁ、大変というより個性的が近いだろうね、俺の嫁達は。


 それからしばらく、他の国の外交使節団と無難な会話をしつつ時間を潰していると、見た事ある政府関係者が入室して来た。


「各国の皆様方、会場へご案内します。案内役が案内しますので、こちらへお集まり下さい」


 そろそろ始まるようだ。さて、どんな事が起こるやら。

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