閑話 レイジ君の入り婿物語
それは権利委譲が終わり、アリシアと愉快な仲間達の地獄合宿が開催された初日の夜。
「ほあっつ?!」
「ですから、君は記念すべきライジグス王国の貴族第一号になりますよ、という」
「えっと?」
「嘘でも冗談でもドッキリでもアウトでもなくて、決定事項よ?」
「なして?」
「あれだけ大活躍して、報奨が給金だけではライジグス王国の沽券に関わりますの」
「……」
正妃、側妃、才妃に包囲されたレイジは、捨てられた子犬のようにぷるぷる震え、うるうるした瞳を義兄弟に向ける。秒で逸らされたが。
『まあ、そう警戒しなくて良い。これは人生の先輩というかな、我らも利用したが、その後の激動を体験した身としても、レイジには受けて欲しいと願っているんだよ』
「貴族様になる事をですか?」
『うふふふふーそれは副次的な事でー本質は別ですよー』
「?」
「レイジ、君はもうウチらの旦那に仲間認定されているわけよ。これは経験則だけど、あの男、これからも大きな騒ぎの中心に立ち続けるわよ? 仲間を大いに巻き込んで。まぁ、アタシ達は喜んで巻き込まれるけど、君だってもう抜け出せないでしょ?」
ファラの言葉にレイジは唾を飲み込む。最初はちょっとした反抗だった。凄い簡単に物事を解決してみせる同性。そんな男にちょっとでも優位に立って見返してやりたいって動機ではあった。
だが、同じ場所、隣に立って知恵を絞る楽しさったら無かったのだ。それこそタツローという遊び友達の中心人物が引き起こす、物凄く楽しい遊びを自分の考えで盛り上げていっているような、そんな祭り状態が楽しくて仕方がなかった。だから、これからも自分は彼から離れるっていう選択肢はないだろう。それは間違いない。
『レイジに貴族になって貰う目的は、建前として二つ。ライジグスでは出自でその者の能力を決めない。どのような出自であろうと功績を挙げた人物は最大限評価を下す』
『それでー本音の部分はー、これからも苦労を背負い込むのが確定している君を支える子達がー、絶対に複数人は必要になるからー、貴族になって複数の嫁を娶りなさいーって事ねー』
「……は、はぁ……孤児院出身の僕のとこに、成り上がり貴族でも嫁ぎたいだなんて女の子いますか?」
「そこは問題ないですの!」
「うわっ?!」
耳元近くで叫んだガラティアが、フラメンコでも踊るようにポーズを決めると、それは見事な音を立てて両手を叩いた。すると、近くの扉が開き、複数人のアプレンティスの少女達が入ってくる。
「ん?」
そのアプレンティスの子達は、レイジがデスマーチをしていると、どこからかやって来て色々と周囲のお世話をしてくれる顔見知りの子達だ。整理整頓があまり得意ではないレイジにとって、今現在、何とか仕事が成り立っているのは彼女達の存在が大きい。
「この子達がレイジの嫁ですの! このガラティアの養女達ですの! しっかり幸せにするんですの!」
「……うえいっ?!」
違法奴隷出身の子達は、その戸籍的な情報を除去されている場合が殆どで、その身を保証するには養子縁組が手っ取り早く、ガラティアやファラ、ゼフィーナなどは積極的に親として養子を取っている。
『まぁ、丁度良いって言うのは失礼ではあるが、側妃のガラティアの娘と婚姻を結ぶというのは貴族への引き上げに持ってこいだ』
「アタシの娘もいるんだけど?」
『名義貸しとか言ってませんでしたかー? お姉様ー』
「うぐっ、そ、それはそれ、これはこれよ」
『正妃の義理の娘も箔としては十分だろ?』
何かどんどん行方が全力で斜め上方向に加速して行くんですが……レイジはあうあうしつつ義兄弟達を見れば、やはり秒で目を逸らされた。せめてこっち見ろやこんちくしょう、と思いつつ諦めている自分が居る事にも気づいてもいる。
囲い込みという意味は勿論あるだろう。だけど、これは囲い込みの中でもかなり優しい、思いやりに溢れた手段だ。
それに、苦労を背負い込む事は確定的明らかなのが決定したようだし、その部分の気遣いでもあるんだろう。
しかし世の中分からないものだ。家族から見捨てられた薄汚い孤児院のクソガキが、貴族で、しかも綺麗なお嫁さんを沢山貰えるなんて、なんかとても不思議な気分だった。
「えーっと……ぼ、僕で良いの?」
痒くもない頭を何となく掻きつつ、少女達に確認すれば、少女達は輝かんばかりの笑顔で頷いた。
「それじゃ、えーと、その、よろしくお願いします」
「「「「はい! 旦那様!」」」」
「よーし、今日からレイジ・コウ・ファリアス・ライジグスね。よろしく、義理の息子」
「よろしくですの! 義理の息子ですの!」
「……あ、ああ、あああああっ! そっか! これって僕、タツローさんが義理のお父さんにっ?!」
すっかり失念してた事を叫べば、脳裏にはニタニタ笑いながら親指を立てる国王様の姿が。いや、彼が父というのも悪くはないが、何となくちょっと心情的に嫌な気分だ。
「はいはいですの! ちゃんと仕込んであげましたの! すっかりしっかり骨抜きにしてくるですの!」
「時間加速はスカーレティアのを使うのよ?」
「「「「はい! お
衝撃を受けて面白い顔をしているレイジを、左右前後から挟んだ嫁達に捕獲されて、レイジはずるずると引きずられて連行されていった。その集団に隠れるよう、巻き込まれないようにアベルとロドムもこそこそ出ていった。
そんな一団を愛おしそうに眺めていたが、キリリとした表情に戻して、為政者らしい事を確認する。
「式は式典後?」
『ああ、大々的にな。我々は存在それ自体がアンタッチャブル過ぎて式どころではなかったが、内外へアピールするには良い手段だしな』
「レイジ・コウ・ファリアス・ライジグスここにありですの。功績を挙げれば王家すら貢献を認め、その娘を差し出すというのはインパクト絶大ですの」
『政治利用はちょーっと可愛そうですがー、まぁ彼は宰相候補ですしー理解してくれるでしょー』
「これでマルト君狙いの子達も、少しは落ち着くと思いますの」
『そっちの方が、外的要因よりも助かるってのがライジグスらしいがな』
違いないと笑い合う奥様連合。これにてレイジ君確保作戦は完了したのであった。
○ ● ○
「ようこそこちら側へ! 歓迎するぞ! 盛大になっ!」
「……」
ちゅーっとプロテイン的なサムシングに、各種豊富なヴァイタミン的な色々がインした飲み物を飲みながら、レイジ君はじっとりとした瞳で俺を睨む。
「いや、なんちゅーか、俺をそんなに睨んでも仕方ねぇぞ? 君の事知ったのついさっきだし」
「ぶっ?! は、はあっ?!」
「お、良いリアクション。まぁ、言い分としては理解できる内容だったから、嫁達からしたら必要だったってのは理解出来た」
「囲い込み?」
「それもある。逃がす気はさらっさら無かったけども、だからといって人間の心はままならない。だからこれはどっちかつーと、ライジグスっちゅう面白国家を自分の故郷、拠り所にしてもらいたいってのと、そして気に入る方法として、面白国家の貴族、国民となったという手っ取り早い手段が結婚という感じだ」
吹き出した飲み物を、せっせせっせと後処理する彼の嫁達は幸せそうだ。いやぁ、女の子でも一線を越えると一気に大人っぽくなるんやねぇ。
「はあ……そこまで僕を買ってくれるのは正直嬉しいですけど……そっち方面の知識皆無の僕を、時間加速一ヶ月はちょっと……」
レイジ君がしみじみ言う言葉に、彼の世話をしている嫁達が、へけ! てへ! えへ! という顔でてへぺろする。
「あー短いなって思ったら一ヶ月だったんだ。俺、時間加速で十年」
「ぶはあっ?! え?! は、はあっ?!」
「いや、人数が人数だったし、時期が時期で大々的な結婚式みたいな事って出来ない状況だったから、ならもうそっち方面で不平不満を満たすしかないよね! って勢いだったからねぇ。まぁあれがあったから、ほぼ強制お見合い結婚的状況でも、恋愛感情は芽生えたし、その後の夫婦関係の良好さは御存知の通りだし、悪くはなかったよ、うん」
新しい飲み物を受け取り、また盛大に液体を吐き出した彼を、妙にギラギラした目で見ながら世話をする嫁子達。あー、いや、うん、この後の展開は予想できる。がんばれ! 我が義理の息子殿! いや、養子縁組つってもルルほどがっつりって感じじゃないから、俺の娘って感じはしないけどなっ!
「多分、嫁は増えるだろうから先に言っておくとだな。全てを受け入れろ、話はそこからだ。としか言えん。頑張れ! マイサン!」
俺が笑顔でサムズアップすると、メッセ目で俺を見るレイジ君。ふっふっふっふっ、君も嫁達に振り回されると良い。男ってのはなぁ、嫁の美麗な美尻に敷かれてる方が幸せなんだぞ? ほぼ嫁中心になるがな、それはそれで充実してるってもんさ。
「パパン、具体的にはどう頑張れば?」
「おう息子よ、そこはじっくり語ってあげようじゃないか」
俺のアドバイスを聞いたレイジ君は、それをそばで聞いていた嫁達によって再び時間加速装置へと連行され、結構な時間戻って来なかった。
変な玉は出てないよな? 身体強化調整もバッチリだし大丈夫だろう。うん。
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