メイド道2 その時、メイドが動いた
マドカ・シュリュズベリイとの会談前。
ほぼ真っ暗闇の中、何故かその場所だけ弱々しくライトアップされた巨大なテーブル、その一角にいつものメイド服ではなく、妙なデザインの制服に特徴的なサングラス、そして両手に真っ白な手袋をして、鼻の下辺りに手を組み、妙なポーズで微動だにしていないガラティア。そのガラティアを困惑の表情で、求められたポーズで立つクリスタ。彼女もいつも着ている帝国風軍服ではない、白いスーツのようなモノを着ている。
『これはどんな茶番なんだ? ガラティ――』
「猪狩だ」
『は?』
サウンドオンリーと書かれたモノリスのようなグラフィックに邪魔をされ、なんじゃこりゃという表情のゼフィーナが、これをやっているだろう張本人に聞けば、これまた妙ちきりんな返答をする。
『ガラティアちゃん? これはそもそも元ネタを知らないゼフィーナちゃんには通用しないんじゃないのかしらん?』
「……」
『いやちょっと? そんなガビーンみたいな顔して、気づかなかったのん?』
何となく気づきながらも、ニマニマ笑いながら眺めていたアビゲイルが、ごもっともな助言をすれば、ガラティアは静かに立ち上がると、ぺいっとサングラスを投げ捨て、何事もなかったかのようにホワイトブリムを取り出すと、それを頭に装着してパンパンと両手を叩いた。それで室内の明かりがまともに戻る。
『こんな遊びがやりたいくらいーわたくし達が恋しかったのかしらー?』
「違いますの。ちょっと魔が差しただけですの」
『あれだな、何かタツローに影響さてたやつだな、これは』
『似た者同士ですものねー』
ルナ・フェルムの情報を漁っているうちに、個人的なフォルダの中に元ネタの考察を永遠書いてあるファイルを見つけ、ついついその真似をしたくなったとは、ちょっと言えなかった。心の中でタツローに謝罪しつつ、ガラティアは改めて椅子に座り直す。
「進捗はどうですの?」
こいつあからさまに話題を変えやがった。そんな表情を浮かべながら、ゼフィーナは揃っている側妃達に目配せする。
『順調です。サンライズのコロニストからは諸手を挙げて歓迎されてます。ただ、公社の連中が隠れてゲリラ的な活動をしているのが面倒臭いですが』
『ゲリラ活動も、新しく入ったアプレンティスの子達の訓練に良い感じだとかで、副メイド長の指示で二班位を送ってますね』
「なるほど。こちらの軍に入った子達はどうですの?」
良い指示です。ガラティアは満足そうに頷きながら、軍事関係をゼフィーナに問う。
『そちらも問題ないな。むしろ、あのレベルの練度を誇る傭兵が居たのが驚きだ。帝国では傭兵など邪道と使わないのが通例であるし』
『陛下直属特務部隊アイアン・フィストですねー。張り切って仕事してますよー。宙賊に偽装したおバカさんが群がってくるのを薙ぎ払ってる感じですねー』
「ふむふむですの。ルブリシュ解放軍はどうですの?」
『そっちこそ問題なぞない。あれは傭兵に偽装した立派な軍隊だ。こちらから何かを言う必要などないぞ?』
確認すべき事を一通り確認し、さて本題だとガラティアはアビゲイルに目配せした。
『セラエノ断章、こちらではせっちゃんと呼んでいる可愛らしい子がいますのん』
『ああ、ルナ・フェルムの中枢だったか。それは聞き及んでいるが、それがどうかしたのか?』
『プロフェッサーの近くに置きたいですのん』
『『『『は?』』』』
アビゲイルは常に人を小馬鹿にしたような動きや言動をするタイプで、それを見て楽しんでいる部分が有る事は全員が知っている。そのアビゲイルが深々と頭を下げ、キリリとした引き締まった表情で訥々と語った。
それは孤独なんて言葉では言い表せられい、数億年規模の牢獄。無限地獄なんて言葉では足りない位の絶望。アビゲイルという人格が体験した恐怖と虚無と激しい渇望。一人取り残された宇宙で体験した、兎に角人肌恋しいAIの魂の叫び。
『あたくしが恵まれていたのは、いえ、マヒロちゃんもポンポツちゃんも、ファル君もガラティアちゃんも恵まれていたのは、プロフェッサーが、タツロー・デミウス・ライジグスという人物が、AIの魂を認めている幸運なの。これは帝国人であるお嫁さん達は分かるでしょ?』
『『『『……』』』』
限りなく人間に近い感情を持つAIは、突然変異のように魂、アストラルと呼ばれる某かを獲得する事がある。これはゲームの時には愛情値なんて呼ばれており、多くのプレイヤーが人格とアストラルを持つAIを、一個の人格、一個人であると認めていた。しかし、帝国や共和国、他の多くの国々では未だに道具扱いされるのが通例だ。
『お嫁にしなさい、なんて事は言わないわ。あたくしの望み、それは飢えて餓えてもう嫌だって悲鳴すら出てこないあの子を癒してあげたいの』
「これはガラティアも頭を下げてお願いします」
二人のあまりに真摯な願いに、ゼフィーナ達は叶えたいと思いながらも、それは難しいと考える。
『しかし、それではルナ・フェルムを、バザム通商同盟を属国にするのと同じ事だぞ?』
まさにそこ、ゼフィーナの言葉通りで、ルナ・フェルム中枢を手に入れると言う事は、ルナ・フェルムその物を手に入れるのと同義である。
「レイジ」
『はい。そこは僕から説明させていただきます。皆様はじめまして。この度、陛下直属の部署である宰相部の所属となりましたレイジと申します』
ガラティアに呼ばれ、レイジがモニター越しに現れる。どうやら書類仕事をしていたようで、顔色が悪い。そんなレイジの横では、数人のアプレンティスの少女達が、甲斐甲斐しくお世話をしている。
『だ、大丈夫か?』
『あはははははは、峠は越えました』
死んだ魚の目で笑うレイジ。奥様連合は、この少年は絶対に手放したらダメだ、という直感を覚え、即座に世話をしている少女達と面談をする事を決める。メンタルとフィジカル両方の充実は、やはり大切だからね、とニヤリと笑って企む。
レイジは彼女達の様子に気づかず、コホンと一つ咳払いをしてから説明を開始する。
『パターンは三つあります。ですが、多分あのクソババアだったらこうする、というパターンがあるので、それで推し進めれば大丈夫でしょう』
まるで未来予知のような事を淡々と説明し、せっちゃんゲット作戦の全貌を物凄く分かり易く説明してくれた。
ここからが肝ですが、そう前置きをし、せっちゃんをゲットする最大の理由付けを教えてくれた。
『初代大統領の人格云々は関係なく、これまでの前提があるので、どちらにしても監視機構は必要です。そこでせっちゃんをこちらに引き込み、せっちゃんの中枢から大統領府及び政府を監視します。そこまでやれば、今までのような阿呆丸出しなおちゃらけ政治はしないでしょう。むしろ、聞いている大統領の性格からすれば、むしろ監視してくれ、と懇願すらしそうですけどね』
『『『『採用!』』』』
レイジの株が爆上がりし、絶対囲ってしまおうと、改めて奥様連合は決意する。
『よし、それで行こう。旦那様には秘密でな? 絶対尻込みするから』
『無論です。陛下には極秘で進めます。ただ先にせっちゃんには説明させて下さい』
『それは構わんが……何故に?』
レイジは苦笑を浮かべ、困ったように頭を掻きながら、お兄ちゃんの顔でため息を吐き出し言った。
『いや、時々、ルル様とかと遊んでいる最中に泣いてしまって。ちょっとかなり心苦しいと思ってまして、はい』
『すぐに教えて差し上げて!』
『はっ! 了解しました!』
レイジのモニターが消え、ゼフィーナ達の視線がガラティアをロックする。
「ご心配無用ですの。レイジをお世話している子達の気持ちはちゃんと確認済みですの。今回の功績を加味して、ちゃんと貴族位を与えるようにファラとシェルファからも了承を得てますの」
『『『『よし! こっちも準備を万端に整えておく!』』』』
「よろしくですの。逃がしませんの」
こうしてせっちゃんを救え作戦は実行され、これを補佐し積極的な作戦立案をこなしたレイジは、奥様方の覚えめでたく、大魔王からは逃げられない状態で囲われる未来が決定したのであった。
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