第87話 目覚めるお友達
いやー、色々あった。うん、本当に色々あったんだ。レイジ君が発狂寸前で、手伝いに来ていたオリバー君や、一様客人扱いではあるんだけど、まっ身内って事で、と押し通したユシーちゃんとかで、頑張った。
皇帝に殺意を抱く事天元突破。何度、そう何百度、オールドシルバーぶっ飛ばして、帝国本星に突撃しようかと思った事か。あんにゃろう……君臨すれど統治せずやるならやるで、余計な事すんじゃねぇ、マザコン野郎が。
「だ、大丈夫なのか?」
「ああ、大丈夫大丈夫、ちょっと色々あってな。ちょっと暗黒面に堕ちかけただけだ」
「それは大丈夫とは言わないのじゃ」
モニターに映る幼女様がわちゃわちゃしている様子は、何だろう精神ポインツが回復する気がするんだ。微笑ましい、うん。
そもそもの発端はレイジ君が、これ以上仕事を増やさない対策で、一番腐ってる部分から対処しよう、という事を言い出したんだ。
いやね、確かの俺も経験したから分かるし、そういう対策も必要だよね、ってその時は思ったんだよ。うん。
で、いざ側妃を司令とした艦隊を用意して、ライジグスの軍属になったガイツ君達を送り込んで、そりゃいけーとやったところまでは良かったんよ。問題は、取り返したら取り返したで面倒くさかった、というその一点だったんだわ。
いやー出るわ出るわゴミのように腐りきった問題ばかりが、噴火したんじゃね? と思うレベルで噴出。それを皆で仲良く徹夜しながら処理したんだ。うん、タイヘンダタヨー。
「だ、大丈夫か?」
「いやちょっと思い出しちゃって。大丈夫大丈夫」
そろそろせっちゃんが心配で泣きそうだ。気分を切り替えなければな。
「それで? 何か問題でもあったのかい?」
「おお! そうじゃったそうじゃった! あのな! やっと終わったのじゃ!」
バンジャーイバンジャーイと両手をパタパタ挙げる幼女様。うん、圧倒的な加速度で俺の精神ポインツが回復していくな。
「あーせっちゃんはっけん!」
「おお、ルルは元気じゃな」
「娘ちゃんはげんきです!」
モニターに映る幼女様を発見した我が家の幼女様が、同じような動きでバンジャーイをやり始める。なんだろう、ユートピアはここにあったような気がするんだ俺。
「ちょっと他の人間には見せられない顔してるわよ?」
「そこは見ないであげましょう? 今回の事は本当に大変でしたから」
「……そうね、アタシもしばらく書類は見たくないわ」
父性を全開にしているだけなのに、まるで変質者のような言われ方をするのは解せぬ。
「んで? あの賑やかなのは何?」
「ん? いや、せっちゃんが興奮してあの動作をしてるのを見たルルが真似してるだけ?」
「仲良しですからね。あの二人」
何かちょいちょいやり取りしてるらしく、二人はマブダチ、マブッダチマブッダチとかって歌ってるのを見た事はある。それぐらい相思相愛っぽい。
「あのままですと、話が進みませんよ?」
「それもそうだね。せっちゃんやーい、何が終わるって?」
「おお?! これは失礼したのじゃ。我のお友達が目覚めるのじゃ!」
「ほーん、友達……ん? シュリュズベリイさんとこのマドカっち?」
「そうなのじゃ! 長かったのじゃ!」
普通の強化調整ってこんなに時間がかかるんだねぇ。プロセスとかメカニズムとか、そういった部分を調べれば効率化なんて簡単なんだけどなぁ。
「何を考えているか分かるけど、そろそろ自覚しなさい? アンタの普通は皆の異常。アンタの常識は世間の非常識」
「ひどくないか?」
「ひどくないです。本当に自覚して下さい。これ以上はレイジの胃にクレーターが出来ますから」
え? 俺ってそんなにレイジ君に負担かけてんの? マジで?
「え? ウソ! みたいな表情をしてもダメなモノはダメですよ? タツローが鼻歌交じりのやらかしを、レイジがブツブツ言いながら処理してるんですからね?」
「あ、はい。気を付けます」
「自覚が無いのに、どこをどうやって気をつけるんだか」
「あははははは、抜かしよる」
「話を進めても良いかの?」
「「「あ、どうぞどうぞ」」」
幼女様はちょっとプリプリしながら、嬉しそうにとある場所をモニターに映した。そこには医療効果を高める、全身をピッチリ包み込むスーツを着た妙齢の女性が。
「若くねぇか?」
「前に見たときは、確かに老婆でしたが」
「調整と強化で細胞活性させたのかしら? でも何で今になって?」
外見年齢二十歳後半から三十代前半。プロポーションはスーツのせいで分からないが、全体的なフォルムからスタイルは良さそうだ。しっかし、この顔……どっかで……
「覚醒まで後少しなのじゃ。そうしたら同盟を正式に結んで欲しい」
「ん? ああ、それは勿論。その場にはアリシアも呼ぶんだろ?」
「初代ルナ・フェルムの大統領なのじゃから、当然なのじゃ」
信頼する仲間達との相談で、見事に貧乏くじを押し付けられて、彼女は晴れて初代大統領就任と、相成りました。一応、国家元首として俺立ち会いの元に、ルナ・フェルムの管理者であるせっちゃん直々に任命されたのである。ご愁傷さまだ。泣きそうな顔してたけどな。
「これでルナ・フェルムがようやっとまともになるのじゃ!」
せっちゃんも面倒事目白押し状態が長かったから、結構フラストレーションが溜まっていたらしい。それはルルと遊ぶ事で解消できてるらしいが、丸々それらとおさらば出来るのはそりゃぁ嬉しいだろうに。羨ましい。
「そいや、商人達はどうなってんの?」
書類仕事に忙殺されてて、それを確認する余裕すらなかったけど、あいつら今何やっとんじゃろ?
「トイルさんの情報網だと、御三家は結構大騒ぎらしいです」
「ほう?」
「何か、不正とまではいかないけれど、結構黒い方法で稼いでたのがバレたみたいよ?」
「イッタイダレノシワザジャロウナー」
「じゃろーなー!」
「「「……」」」
腹に据えかねてたからなぁ。ごってりやらかしたんだろうなぁ、せっちゃんが。
「ま、いいや。俺、関係ねーし」
「そうね、どうせ苦労するのはアリシアだし」
「こちらに被害がないのなら、問題無いです」
俺達はわっはっはっはと笑って、その事はスルーする事に決めたのであった。
○ ● ○
ライジグスの国旗をペイントされたコロニー。かつてエベルプライマルコロニーという名前だったそこは、かつての名前である『サンライズ』の名を取り戻し、正式にライジグス第二の都市として生まれ変わった。
その程近く、かつて自分達が使っていた巡洋艦を改修し、どこをどうやって改造したのか検討もつかない方法で、レガリア級へと新生したウィプス・ファイアの艦橋にガイツは居た。
「……レガリアってとんでもねぇなぁ」
ガイツのこぼした呟きは、自分の決断を受け入れてライジグスの軍門に入るを良しとした仲間達の苦笑を誘った。
「シールド戦艦並み、迎撃レーザーが前のレールキャノン、主砲並みで、前に主力として使ってたミサイルが牽制用……悪夢だわな」
火器管制を担当するレノが言えば、他のメンツも口々に船の異常性を語る。だが、そこにあるのはマイナスではなく、新しく手に入れたおもちゃを自慢するような気配。何だかんだで嬉しいのだ。
「オジキも豪気だぜ。新入りの信用なんかねぇ、クソガキ集団にポンっとレガリア一隻くれるんだぜ?」
すっかりタツローを親扱いしているガイツに、クルー達は微笑ましいモノを見る視線を向ける。やっと年相応らしい態度に戻ったと言えるし、良い感じに肩から力が抜けたとも言える。
「飯は美味い、綺麗な服を着れる、寝床は暖かくて上等! ライジグス最高だぜ!」
ガイツの叫びに笑いが溢れる。かつての彼らは、こんなに自然に笑えた事はなかった。常に死と隣り合わせ、不安定な状況下で綱渡りのような生活を余儀なくされていた。そこから開放されてやっとらしくなってきたのだ。
「おおっと、俺達の故郷、俺達の家に無粋なクソどもが寄ってくるぜ?」
「そりゃ大変だ。姐さん!」
『誰が姐さんですか全く。もう貴方達を疑問視する人間はいませんよ、好きにやりなさい。ただ、やりすぎないようにね』
側妃イサヤの通信に、ガイツはニヤリと笑う。最初、傭兵出身とあって監視とまではいかないまでも、それに類する部隊を付けられたのだが、そんなん関係ねぇとばかりに最前線で暴れまくった甲斐があったのか、信用されたようだ。
「了解しました! ライジグスの為に行ってきます!」
『全く……張り切りすぎないようにね』
新しい道を見つけた少年達は、かつては金と仲間達の為に振るっていた暴力を、尊敬できる王と故郷と呼べる国の為に使うのであった。
「野郎ども稼ぎ時だ!」
「「「「おおおおおっ!」」」」
ちょっと前までの気質を引きずって、少々荒っぽくてヤンチャではあるが。彼らがその後、ライジグスの剣と呼ばれる日も近いだろう。
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