第78話 クリスタさんが来た! ただし作戦宙域待機だ!

 ルナ・フェルムから少し離れた宙域。大小様々な石っころが点在する小惑星帯。普通の宇宙船ならば避けて通るような、いわゆる難所に彼女達はやって来た。つか、堂々とドッキングベイを使用する気満々だったのを、直前に説得してこっちへ来てもらった。


「これではデートが出来ないですわ?!」

「いや、君ら何をしにやって来たと思っているんだい? え? ファラさんとシェルファさんや、ちゃんと説明は――」

「しております」

「したわよ」

「だよな。何でそれでデートって言葉に結びつくんだ? 殺し合い宇宙をデートと呼ぶ古の風習でも――」

「あるわけないじゃない」

「そんなモノあってたまりますか」

「ですよねー」


 あからさまにショックを受け、俺もリアルで初めて見たが、マジでOTL状態で愕然としているクリスタに視線を送るが動かない。


 困ってモニターを見れば、他の追加支援要員全員が似たり寄ったりの反応。どういう事よ、これ俺にどうしろと?


「はあ、ったく……」


 気持ちは分かるけどね、ファラはそんな事を小さく呟きながらパンパンと手を鳴らした。


「全てがまるっと上手く終われば、いくらでも時間は作れるわ。更に時間を作りたいなら、今の時点で確実にライジグスにやってくる事が決まっている子供達がいるんだけど、その子達を仕込みなさい。その子達が優秀な文官として活躍してくれれば、旦那様の時間は大幅に増える事になるのよ。つまり――」

「マヒロ! ファルコンでも良いわ! 子供達のデータをこちらへ!」


 ファラの言葉が終わらない内に、まるで両足にバネでも仕込んでいたのかと思わせる動きで立ち上がり、クワッと真剣な表情でモニターに向かって叫ぶクリスタ。なんちゅうか、最初に出会った君は、もっとこう深窓の令嬢って感じの、ちょっと神秘的すらあった女性だったのに……逞しく大きくなって(ホロリ)。


 ファルコンから送られて来たデータを見て、それぞれの適性検査の結果を加味し、まるでドラフト会議の様相でそれぞれが仕込む子供達をトレードし始める嫁達。


「良かったですね。優秀な人材が即育成されますよ」

「いやまあ、ありがたいんだけどね。結局、さっきのは何?」

「作戦前の空き時間を利用して、しばらくぶりに会う愛しいダーリンと、ラブラブデート、うふふラッキーやったー的な思考だったのではないですか?」

「はあ、愛されて嬉しいですが……内容と顔が一致してませんよ? シェルファさん」


 真顔で淡々と説明されると、妙に怒られているような気分になるんですが。


「仲間同士なんだから妬かない妬かない」

「妬いてません」

「この男相手に独占欲拗らせても無駄よ? きっと勝手に増えるわよ、ライバル」

「……否定できないっ!」

「いや! 否定しろよ!」


 さすがにこれ以上嫁貰っても、フォローしきれんわ。つか今時点でも多いっちゅうのに。これでも一夫一妻の世界からやって来た一般人代表だぞ。ハーレム状態やっほーって出来る人間じゃねぇんだぞ、こら。


「……大変ですね、タツローさん」

「正直、もげろって思ってたけど、大変なんだなぁ。ガンバ! タツロー兄貴」

「だ、大丈夫? つ、辛い?」

「ああ、大丈夫大丈夫」


 時間加速で一気に駆け抜けてきた三人、レイジ君達も連れてきている。何せ彼らにとって、ルナ・フェルムは一応故郷だ。出身は知らんけど、ルナ・フェルムで育ったのは確かだからね。彼らにも働いて貰う事にした。


「で、どう配置するんだい?」

「薄々そんな気はしてましたが、そこはタツローさんが決めるんじゃ?」

「いや、何の為にキオピスおじいちゃんと戦わせたと思ってるんだい」

「……はあ、予感はしてましたけど」


 ギャラクシーを感じさせる透明な瞳で、それこそギャラクシーな背景を背負って遠くを見つめるレイジ君。大変だったようだ。


 それでも俺のちょっとしたサプライズアップデートすら乗り越えて、回数を重ねる事にポツポツ勝てるようになり、最終的には負けそうになると引き分けへ持っていけるレベルまで育ったのだ。そんな彼が作戦を決めずして誰が決めるというのか。俺にそんな頭良い事を求められても困るんだな、ふはははははは。


「ほらほら育成は暇な時間にでも頼む。今から配備先を決めるから静かに!」


 白熱したドラフト会議を止めて、嫁達の視線を集める。そんな嫁達の視線の前へ、レイジ君を押し出すと、嫁達が誰じゃいといった表情を浮かべる。レイジ君は一瞬だけ体を固くしたが、小さく息を吐き出すと口を開いた。


「タツローさんからスカウトを受け、加速装置の中で訓練を完了しましたレイジです。タツローさんからの指示で、皆様の配備を自分が決める事となりました」


 ペコリと頭を下げるレイジ君。その様子に嫁達(ファラ、シェルファ除く)の視線が俺に突き刺さる。


「良いから聞けって」


 俺がそう言うと、嫁達は渋々といった雰囲気を全く隠さずにレイジ君を見る。君達、良い大人がなんて大人げない……


「始めます。まず、セラエノ断章――」

「我はせっちゃんじゃ!」

「あーはい、せっちゃんから提供されたデータから予想される敵対組織の内情予測を――」


 レイジ君が、君、それ、いつ、用意したん? というレベルのデータを怒涛の如く、モニターへポンポン表示させていく。そして何よりこの子の説明が恐ろしく分かりやすい。話し方も妙に耳に入る感じで、彼は淡々と説明をしているだけなのに、凄く頭に内容が残る。すげぇな、大当たり引いたじゃん。


「過去の、せっちゃんが補足していた商売の実績から見て、持っている資産から用意出来る傭兵の数はこちらです。しかし、これは理想値で、実際にはこちらの数値に近いと思われます」

「ふむ。それはどうのような理由でかしら?」

「はい、この理想値に含まれている傭兵団には、規模が大きい二つの傭兵団の数値が入っているからです。この大きな二つの傭兵団ですが、かなり正規軍に近い規律を持っています。つまり団長の統制が働いている傭兵らしくない傭兵です。過去の実績から見ても、かなり周到に情報を収集し、必ず勝ち馬に乗れる陣営になれるよう動いているのが分かっています」

「なるほど……でもそれは推論ですわよね? 確実ではない以上、やはり備えは必要なのではないのかしら?」

「必要ありません。すでにライジグス王がルナ・フェルムの支配者と親友だという情報を、小売り商中心に流しました。今ごろ、酒場で格好の話題になっているでしょう」


 いや、マジでいつの間に? あれか、クリスタ達がドッキングベイを使う使わないの、ドタバタしている時に何か動いているのは横目に見ていたけど。


「それでも不安に感じるのでしたら、その二つの傭兵団と先に契約するのも手段の一つですね。傭兵にとって、契約不履行はその後の活動に関わりますから」

「なるほど。はあ、素晴らしいですわ。先程の失礼な態度を謝罪します」

「あ、いえ、それはお気になさらず。とりあえず馬の骨にはなれたと、教師役に言われたばかりの身ですので」


 いやーすげぇわ。これはあれっすわ。三国志とかの世界で、英雄達が優秀な軍師をゲットしようと右往左往するのが良く分かりますわ。これはマジヤバイ。こんな頼もしいのが味方とか、いいっすわぁ。


「それでは配備の場所ですが――」


 頼もしいレイジ君の説明を聞きながら、俺は彼を見事に引き込んだ二人の嫁の頭を、ただひたすらに撫で続けるのであった。他の嫁達の真顔が怖かったけどねぇ……ホラーゲームじゃないんだから、微動だにせずにまばたきすらせず見続けるのはやめようよ。

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